42.変わりたいという気持ちがあなたを綺麗にしてくれるの
横たわった巨竜を前にハイポーズ! デジカメ! 誰かデジカメプリーズ!
私はヒレでベチベチと竜の死体を叩きながら自慢げにヒロインインタビュー。
「いやあアースドラゴンは強敵でしたね。勝因ですか? やはりチームプレイではないでしょうか! ウイニング死体はそうですね、村のササラにプレゼントしようかと思います!」
「オル子、楽しそうなところ申し訳ないけれど、まだそいつは死んでないわよ」
「え、マジで?」
「まだレベルが上がっていないでしょう。ランクB+を倒してレベルアップせずに終わる訳がないもの」
エルザの指摘に、私は慌てて距離を取る。
返事のないただの屍だと思ってやりたい放題やってたじゃないの! もう少し早く教えて下さいな!
私が離れた瞬間、ドラゴンは白い光に包まれて、元の竜族の姿に戻る。
見る影もないほどボロボロになって横たわる糸目男。いや、これは酷い。本当に虫の息ね。いったい誰がこんな酷いことを。
「認めぬ……大竜たる私が、穢れた魔物ごときに負けたなど……」
わお、こいつまだそんなこと言ってるんだ。なんて男らしくないのかしら!
少しはグラファンの奴を見習ってほしいわ。あいつ、腹部破裂しながら笑って私たちの勝利を讃えてたのよ……いや、やっぱりあいつがおかしいわね。
私たち、よくもまああんなバトルジャンキーに勝てたなあ、序盤に出る敵じゃないわマジで。
うーん、どうしたものかな。こいつ、こんな有様だけど情報抜きとれるのかな。なんでキャスを攫おうとしたのか、できれば知っておきたいんだけど。
私は視線をエルザへと向けると、エルザは首を横に振る。まあ、無理よね。この手のタイプが相手では。しゃーない。
私はぴょこぴょこと飛び跳ね、糸目男に近づいて問いかける。
「ここまで醜態を晒してもまだ負けを認められないなんて、あまりに惨めで笑えるわね。一応訊いておいてあげるけど、そこの人間を攫おうとした情報を吐くつもりはあるかい? 下賤な魔物とやらに命乞いをし、素直に話すというのなら命だけは助けてやってあげてもいいわよ?」
「下等生物が……大老たちの竜炎に巻かれてその身を焼き尽くされるがいい……貴様など、所詮は我らの……」
「あっそ。ならいいわ――永遠にさようなら」
それ以上はいけない。お断りされた以上、優しいオル子さんが介錯つかまつる!
プチプチっと潰して頭無し死体が一丁上がり。過程はどうあれ、私がみんなのリーダーだもんね。こういう『始末』はきっちり私が付けないと。
下手に見逃して竜族の仲間連れて村まで報復に来られても困りますし。こいつ、めっちゃ根に持ちそうな性格してるし。
魔王軍だけでもお腹いっぱいなのに、竜族なんて相手にしてられませぬ。見逃してあげると言ったわね? あれは嘘よ!
竜族を殺したことで今度こそ戦闘終了。
ミュラが私の頭の上に乗り、ひしりと抱き付く。うむ! いつも通り!
「では改めて、みんなお疲れ様! 糸目野郎に負けずによく頑張った! 感動した! チームワークの勝利ですよ!」
「はい、お疲れ様です、オル子様。皆さんにヒーリングをかけますね」
「ありがとうルリカ! むふー! 戦闘後のヒーリングは格別ね!」
お風呂上がりのフルーツ牛乳を嗜むかの如く! やはりヒーリングはルリカに限るわ!
戦闘後の余韻に浸っていると、キャスがしみじみと戦闘の感想を漏らす。
「いや、凄かったのう。竜族と言えば、人とも魔とも交わろうとせぬ孤高にして強靭な種族。それをオル子たちはああも簡単に退けるのとは……そなたら、本当に桁違いの強さなんじゃな」
「ええー! そんなことあるけどー! いやん、もっと褒めてもいいのよ! 強くて家庭的で将来は良い奥さんになりそうなオル子さんが何だってー!?」
「いや、そこまでは言うとらんが……しかし、なぜ竜族が妾を攫おうとしたのか、それが少し気にかかるの。竜族が人間の国の王位争いに関与するなど、考えられぬことじゃが……」
首を捻るキャス。ううむ、気にならないと言えば嘘になるけど、知る方法はもうないからどうしようもないですな。あいつ、喋る気配ゼロだったし。
唯一情報から推測できるとすれば、頭脳担当のエルザに頼るしかないんだけど。
「人間と竜族のことなんてどうでもいいわ。それよりも、竜との戦闘を経験できたのは大きいわね。巨体を相手にどういう立ち回りで戦えるか、試しておきたかったから。クレアを加えた連携も確認できたし」
エルザさん、人間の王族と竜族の背後関係に興味なっしんぐみたいだもんね。
まあ魔王軍と違って優先順位は低いし、私たちは降りかかる粉を払っただけだし。
キャスには申し訳ないけれど、背後を知るのは諦めてもらうしかないわね。そーれーよーりーもっ。
「そろそろくるんじゃない!? B+を倒したもんね! 頑張ったもんね!」
「くる? くるとは何がじゃ?」
「むふー! お楽しみの時間、レベルアップに決まってるじゃない!」
今の私とエルザのレベルが17、これまでの経験からしてB+相手なら3つは上がる可能性大!
つまり、私たちがレベル20に到達して進化できるかもしれない! うおお! 楽しみいいい! 人化! 人化こい!
必死に祈っていると、脳内に間抜けなファンファーレと通知きたー!
『レベルが17から20に上がりました。条件を満たしたので、ステージ3に進化可能です』
うおおおお! きたーーー! レベルアップ、そして20到達きたー!
祭りじゃ、祭りじゃあああ! この瞬間を、この日が来るのを信じて毎日コツコツレベルを上げてきたのです!
さあ、進化先カモン! オルカ・ヒューマンとかオルカ・レディとかコウシャク・レイジョウとかこい! ゲラウドヒア!
ヒレを合わせて祈っていると、続けて進化先のメッセージが。
『進化先はエンジェル・オルカ、またはデビル・オルカとなります』
……え?
あれ、何か今、進化先が二つあったような……え、マジで?
まさかの進化先の分岐、それも正反対っぽい名前。どっちも人化ではなさそうなんだけど……考え込んでいると、エルザが問いかけてくる。
「どうしたのよ、変な顔をして。レベルアップして20に到達したんでしょう? 私がそうだから、オル子も同じだと思うのだけど」
「そうなのか? おめでとうございます、主殿。おめでとう、エルザ」
「おめでとうございます、オル子様、エルザ。私は18ですので、あと少し届きませんでした……私も早くオルカ化したいですわ」
そっか、ルリカは私たちよりレベルが2つ下だから届かなかったのね。
ということは、さらに一つ下だったミュラは17まで上がったかな?
私はみんなに進化先のことについて相談する。
「えっとね、なんか進化先が二つあるの」
「二つ? 私みたいに、通常進化とオルカ進化ってこと?」
「いや、どっちもオルカって名前がついてるわ。エンジェル・オルカとデビル・オルカ。というか、エルザ、また進化先が二つあるの?」
「ええ。アーク・ウィッチとオルカ・ソーサラーの二つね。当然、私はオルカ・ソーサラーを選ぶけど」
おおお! オルカ・ソーサラーとな!? なんか響きが強そうじゃないの!
エルザは迷う余地はないわよね。ここで通常進化のアーク・ウィッチになっちゃうとオルカ化による超強化がなくなる可能性が高いしね。
さて、問題は私よ。
天使のシャチと悪魔のシャチ。光属性と闇属性ってことかな? もしくは、ステータスに差があったり?
ううん、全く分からぬ! どちらを選べばいいのか、その方針が何も見えないから選びようがありませぬう! なんて不親切な進化なの、説明書もってきて! どっちが人化に近いんですか! 美少女になれるのはどっち!?
「悩んでいるわね。オルカである以上、どちらを選んでも良い気がするけれど」
「そんな簡単に選べないわ! この選択に私の人化が掛かっているかもしれないのよ! エンジェルのほうを進めれば天使さんみたいになれる可能性が……いや、デビル方面で小悪魔ちっくなオル子さんというのもそれはそれで!」
「主殿、その進化先とやらは『識眼ホッピング』で調べることはできないのですか? 記憶がないので、進化というものがいまいちよく分かりませんので、見当違いの意見だったら申し訳ないのですが」
「ほむ?」
クレアの言葉に、私は思考する。
そういえば、識眼ホッピングのおかげでスキルの説明とか出てきたのよね。
もしかして、クレアの言う通り、この力を使えば進化先の詳細が知れたりする?
うむ、ちょっとやってみましょう。ぬぬぬぬううーん! 識眼ホッピングううう! 対象はエンジェル・オルカ、そしてデビル・オルカよ! おなしゃす!
・エンジェル・オルカ(ステージ3)
体量値:A→A 魔量値:D→C 力:S→S 速度:B→B
魔力:C→B 守備:A→A 魔抵:C→B 技量:E→D 運:E→E
総合ランク:A
聖なる力を手に入れたオルカ。
光の魔力を使いこなし、慈悲を以って獲物を仕留める。
獲得スキル:聖光球戯(単体:遠:ダメージ1.0倍:魔力依存、魔量値消費(小):CT5)
・デビル・オルカ(ステージ3)
体量値:A→S 魔量値:D→D 力:S→S 速度:B→A
魔力:C→C 守備:A→A 魔抵:C→C 技量:E→E 運:E→D
総合ランク:A
闇の力を手に入れたオルカ。
闇の波動を身に纏い、無慈悲に獲物を仕留める。
獲得スキル:冥府の宴(単体:近:ダメージ0.5倍×2~10回:力依存:CT20)
で、できた! 識眼ホッピングで進化先の情報が読み取れた!
でも、これ、もっと悩む結果になるやつじゃないの! え、何これ、どっちがいいの!? どっちも強いのは分かるんだけど、本当に能力が正反対じゃないのよ!
エンジェル・オルカは魔量値や魔力といった苦手項目が補強される進化よね。
そして、獲得できる新スキルは魔力による遠距離攻撃スキル。
接近して殴ることしかできない私にとって、この能力は非常に大きいわ。
エルザたちみたいに外から攻撃できるだけで、これまでと違った戦いができるわね。
ダメージ倍率は少し控えめだけど、CTが破格の5! リチャージすぐだからガンガン砲撃できちゃうわね。まあ、魔力もBまで底上げされるから、倍率はそれほど気にならないかな?
近距離、遠距離を交えて戦える意味でも魔力に強くなる意味でも悪くないわ。まさにバランス型進化。
対して、デビル・オルカは私の長所を伸ばす進化。
体量値や速度を増強させ、より肉弾戦に特化させている。つまり、この進化後に海王降臨を使った日には、体量値Sオーバー、速度Sなんて危険領域に突入するのよね。やばば。
新獲得スキルは連撃系の必殺技ね。クレアが持っているものと似ているかしら?
ダメージはランダムで幅が大きいけど、最大火力でブリーチング・クラッシュを超えられるのは大きいかも。スキル発動後の硬直もないから、ガンガン使っていけそうね。
ステータスを均等に寄せるのではなく、爆発力に魅力を見出した、まさしく特化型進化ね。
「ということなんですけど、私はどちらを選べばいいのでせうか」
「自分で決めなさい。どちらを選んでもあなたの強さは変わらないもの」
「あああーん! 悩むうううう! ぬがああああ! 駄目なのよ、私こういうの選ぶの本当に駄目なのよおお! 自販機でジュースどっち買うのか悩み抜いて選んでも、あとで『逆の方が良かったかも』って思っちゃうタイプなんだもん!」
エルザに一蹴され、私はその場でゴロゴロしながら悩む。ああ、こういうときに優柔不断な自分が恨めしい!
進化先の説明文ではどっちが人化できるかなんて書いてないし! 大事なのはそこなのよ! 進化フローチャート書いてくれないと困るうう!
「うう、どうしよう、ミュラ。お母さん、困っちゃうわ……」
お腹の上でキャッキャと楽しんでいるミュラを見ながら思う。
もうあれよ、いっそのことミュラに決めてもらうってのもありかもしれない。ミュラ、あなたは天使と悪魔、どっちのお母さんが好みかな?
……いや、待った。ミュラの種族って確か何とかデモンじゃなかった? つまり、悪魔になればミュラとお揃い?
「オル子さん、小悪魔系美少女になります! 決めました!」
「やけに唐突に決断したわね。まあいいけど」
もしミュラの授業参観とかあって『やーい、お前のかーちゃん天使―!』なんて言われることがあってはならないものね。
ミュラ、あなたの立派なお母さんになるためにも、頑張って悪魔っ子になるからね!
それに、ほら、悪魔系ってスタイル抜群になりそうな気がしない? 天使系は控えめな感じがするけど、悪魔系はぼぼーん!って感じで!
妖艶な色香を身に纏い、殿方の視線を独り占めする私……むっふー! 全然ありだわ! 男の子の純情を弄ぶ悪い女でごめんねえええ!
・ステータス更新(レベルアップ一覧)
オル子:レベル17→20 (ステージ2)
エルザ:レベル17→20 (ステージ2)
ミュラ:レベル14→17 (ステージ2)
ルリカ:レベル15→18 (ステージ2)
クレア:レベル7→9 (ステージ3)




