41.新たな自分、キラキラした私を見つけたわ
ファンタジーお馴染みドラゴンさんの咆哮に慄いている場合ではない!
私は慌ててその場で識眼ホッピングを発動。戦闘前にステータスチェックはお約束ゥ!
名前:『竜化』ウルド
レベル:11
種族:グレイト・アースドラゴン(進化条件 レベル20)
ステージ:5
体量値:B* 魔量値:E* 力:A* 速度:E*
魔力:C* 守備:S* 魔抵:A* 技量:D* 運:D*
総合ランク:B+
げ、こいつ前に戦ったクリスタル・ゴーレムと似たランク詐欺みたいな能力してる!
総合ランクこそグラファンより二段階落ちるけど、ステータスの揃い方はAランクでもおかしくないレベルだわ。
嫌でも目に付くのが守備S魔抵Aの鉄壁能力値。グラファンが速度型アタッカーならこいつはタンク型アタッカーかしら。
「敵のランクはB+! 力と守備、魔抵に優れた鈍足アタッカーよ!」
「見た目通りの能力ね。ただ、グラファンと違って的は大きいから狙い撃ちしやすそうではあるけれど」
エルザの言う通り、大きさだけなら最初の頃に戦った巨大樹並だから当てやすそうではあるのよね。
さて、グラファンに負けず劣らずの強敵、気を引き締めていきまっしょい!
私はヒレと背中の羽をパタパタさせて上空へ舞い上がりつつ皆に指示を出す。
「ルリカはキャスを連れて後退! エルザは援護射撃! ミュラは臨機応変に遊撃! クレアは私と一緒に来て! 切り込むわよ!」
「承知! 失礼いたします!」
私の指示を受け、クレアは剣を構えたまま私の上に飛び乗った。他のみんなも私の指示に従い、戦闘の布陣を整えていく。
クレアを乗せ、私は空を大きく旋回してオレンジ・ドラゴンの頭上へ。
私たちの接近に気づいたドラゴンは、右腕を振り上げて私たちを叩き潰そうとするけれど、当たってやるわけにはいかないのよね。そおい!
「踏み込みが足りぬう! さあクレア、突っ込むわ!」
「はっ!」
シャチ特有の殺人的な加速を伴い、ドラゴンの横腹目がけてダイブ。
私の全力体当たりによって、激しい衝突音が響き渡るものの、ドラゴンはびくともしない。うわあ……ドラゴンの装甲、めっちゃ堅いナリ……だけどっ! 本命は私じゃなくてクレアよ!
「はあああっ!」
突撃する前に、私から跳躍していたクレアが、大空から舞い降りながら剣を頭部へと突き立てる。
私に意識を奪われていたドラゴンは、クレアの攻撃に対応できるはずもなく。クレアの剣がドラゴンの脳天に直撃してゲームセット――とはいかなかった。
頭に突き刺さる筈だったクレアの剣が、なんと皮膚も切り裂くことも出来ずに弾かれてしまった。うそーん!?
『蝿どもが何かしたか? まさか今ので私を殺そうとした訳ではあるまいな?』
やべえ、物の見事にノーダメージじゃん……守備Sってこんなに堅牢なの?
く、駄目よ。弱気になっちゃ付け込まれるわ。どんな時でも強気な私を演じるの! オル子さんは強い、オル子さんは強い……むっふー! 私ってば最強よ!
「たった一撃防いだだけで勝ち誇っているのかしら? トカゲとは随分と単純な頭をしているようね、人生が楽しくて仕方ないのではなくて?」
『口先だけは一人前の様だ。さて、殺し尽してやろう』
私に狙いを定め、ドラゴンは口をがばっと開く。あ、これ嫌な予感。ぬおおお! 避けろおおおお!
次の瞬間、私に向かってドラゴンの口から大きな火球が放たれた。
速っ! 避けっ……あ、追尾弾ですかそうですか……ぴぎいいい! 熱いいいいい!
尻尾に直撃し、私はゴロゴロと地面を転がって火消をする。焼き魚、焼き魚になっちゃう! 美味しそうな匂いが漂っちゃううう!
しかし、私もただで転ぶ女じゃないわ。転がった方向にルリカがいるのは計算済み。
既にスキルを待機させていたルリカが、私にヒーリングと水のヴェールを発動。回復と壁張りは助かるわね!
「ありがとうルリカ! 助かるわ! あの糸目野郎、ただじゃおかないから!」
「常に回復を待機させておきます。オル子様、どうかご武運を」
「任せて頂戴! 私、勘違い見下しナルシズム野郎は大嫌いなの! でも私だけには優しいところを見せてくれたりするなら考え直してあげてもいいわ!」
補給完了。オル子艦いつでも出られます!
そんな私たちの横でキャスの視線は戦いに釘付け中。
ドラゴンの周りを高速で動き回って斬りつけるクレア、それを援護するエルザとミュラ。クレアを踏みつぶそうと暴れまわるドラゴン。この魔物大戦争、キャスが見入るのも仕方ないね。
「これが魔物同士の戦い……なんと恐ろしく、しかし美しきことか。これまでに芸術と呼ばれ賞賛される品々を眺めてきたが、オル子たちの戦う姿の前には霞んでしまうの」
え、マジで?
オル子さん火達磨になって地面を無様に転がってたんだけど、そこに芸術点が加算される要素あったの? ううむ、貴族の芸術って難しい。社交界では焼き魚がブームなのかな?
まあ喜んでくれてるならいいや。キャスをもっと喜ばせるためにも、格好いいところを見せないとね。こう見えて私、結構見栄っ張りだものね!
再び空を飛び、ドラゴンに体当たりをぶちかましてクレアを援護。
「戻ったわ! クレア、ダメージは!?」
「私は問題ありません。ですが、私の剣ではどうやら竜鱗を貫けぬようです……くっ、情けない……」
いや、うん、仕方ないよ。だって剣、熊おこ剣だもん……流石にそれじゃあね。
剣は通じなくても、クレアが前衛として動き回ってくれてるだけで十分過ぎる価値があるわ。
グラファンの時は前衛が私だけで、タゲ取りばかりに尽力して苦労したけれど……クレアがいる今、私も積極的に攻撃に回れるってこと!
「クレア、私が攻めるわ! あなたは引き続きこいつのかく乱をお願いね!」
「はっ!」
大きく振り回された尻尾アタックを回避して、私は再び大空へ舞い上がる。
ううむ、エルザのサンダー・ブラスターやミュラのビームがちょこちょこ敵に当たってるんだけど、ダメージは軽微って感じ。
自分の守りに絶大な信頼をおいているのか、避けることすらしていない。
どうやら、攻撃をあえて避けず、ダメージゼロを見せつけ、敵の絶望を眺めるのが趣味みたいだけど……その傲慢、後悔させてやるわ!
「グラファン戦とは違い、此度の戦場は大空が見えている……つまり! オル子さんの最強最大の一撃が解き放てる戦場だということよ! 喰らうがいいわ! 乙女の愛と夢とカロリーの詰まった渾身の一撃ィ! 必殺! ブリーチング・クラッシュッ! へあっ!」
久々の大技スキル発動。
更に大空に身を躍らせ、流星さながらドラゴンに向けてメテオ・ダイブ!
急速に近づく私に気づいたみたいだけど、のろまなトカゲにこれが避けられるかあ! 私のジャンプ攻撃は見事にドラゴンの背中に直撃。やったか!?
私はチラリと視線を上げると、そこには私を睨みつける二つの瞳がこんにちは。げええ! 堪えてない!?
『下賤な魔物風情が……私に痛みを覚えさせるなど許さん!』
おわあ! 全力で噛み付いてきた!
や、やばい! スキル発動後に硬直あるから逃げられぬ! 助けてえええ! 食べられるううう!
だけど、そんな私を助けるように、ドラゴンの顎に火球が直撃し、間一髪で噛み付き攻撃は空を切る。
今のはエルザのライトニング・フレア! た、助かったわエルザ! 命の恩人、愛してる!
硬直が解けた私は、慌てて一度後退、クレアとミュラに時間を稼いでもらっている間に、エルザと合流して緊急の作戦タイム。
「エルザ、エルザ! あいつやばい! 攻撃がまともに通じないんですけど! あいつダメージ無効化チートでも持ってるに違いないわ! もう駄目よ、おしまいだあ!」
「そのアホ丸出しの素を奴の前で晒さない努力は認めてあげる。けれど、敵に攻撃が通じていないというのは間違いね。あなたの先ほどの攻撃もだけど、私の攻撃も通っているのよね」
「そうなの? 確かにブリーチング・クラッシュには痛そうに反応してたけど……」
「クレアやミュラの攻撃は厳しいけど、あなたのブリーチング・クラッシュと私のライトニング・フレアを無効化するほど敵の守りは完璧じゃない。ならば、確実に削っていきましょう。私の魔法が貫通する意味でも、グラファン程の強敵ではないもの」
た、確かに。グラファンの奴、動きは速いわダメージはヤバいわ、挙句の果てにエルザの魔法をぶん殴って逸らすわ……勝てたのが未だ奇跡ってくらい強敵だったもんね。
それに比べれば、いくらドラゴンでもそれほど恐れることはないのかも。
「ステータス的にも、強化されたゴーレムだと思えばいいわ。少なくとも、B+の敵に押し込まれるようでは、この先の私たちに未来はないの。この程度、勝って当然の相手でなければならない。違うかしら?」
「違いませぬ! うぬ、エルザの言葉を聞くとなんだか楽勝な気がしてきたわ! むふー! エルザってば私をその気にさせるのがうまいんだから!」
私がバタバタとヒレを振って興奮していると、エルザは息を吐き出して笑う。
そして、軽く私の額を撫でて、アドバイスをくれた。
「さあ、竜族にあなたの新たな力を見せてあげなさいな。グラファンを倒し、受け継いだ『海王』の力――あなたという魔物の恐怖をあの思い上がった竜族に知らしめて頂戴」
「ぬ……? おおう、そうだった! 私、新しいスキルを手に入れてるんだったわ! よーし、いってきまふ!」
そうだった、そうだった。
グラファンを倒して『海王』になったことで、私は新スキルを得たのだったわ。今まで完全にその存在を忘れていたけども!
私は新スキル『海王降臨』を選択する。
このスキルは10分間だけ一部のステータスを上昇させるという、グラファンが使ってたバフスキル。その強さはグラファンとの戦闘で経験済みよ。何度死ぬかと思ったか!
このシャチートボディ、さらにバフで能力を向上させれば鬼に金棒、オル子さんに婚約者! ぬうおお! スキル発動ドーン!
『海王降臨』を発動させた瞬間、私の体が青い光に包まれる。おお! これぞまさしくグラファンが使ってた能力だわ!
そして、自分のステータスチェック! どれどれ、どんな能力になったのかしら!
名前:『海王』オル子
レベル:17
種族:セイント・オルカ(進化条件 レベル20)
ステージ:2
体量値:S* 魔量値:D 力:S 速度:A*
魔力:C 守備:S* 魔抵:B* 技量:D* 運:E
総合ランク:A+
ほわあああ! すごいいいい! どこに出しても恥ずかしくないチート主人公になってるううう!
並び立つステータスS、S、S! そして総合ランクは跳ね上がってA+! ひえええ! 海王ってこんなにヤバいの!?
ぬふう! 興奮が抑えられないわ! 言ってやりたい! 守備Sで自慢げにしているあの糸目に『守備S? ふーん、凄いね? 私は体量値も力もSだけどね?』って上から語ってあげたい! ぷぎゃーしたい! よし、やろう!
おっと、この喜びをエルザに伝えねば! エルザならばこの興奮を理解してくれるに違いないわ!
「エルザ、エルザ! やばいわ、ステータスがとんでもないことになってる! 体の調子もいいし、まるで自分が自分じゃないみたい! これほどキラキラした美少女、芸能界が放っておくはずもないわ! 私もとうとうアイドルとしてシンデレラ・デビューする可能性が!」
「既にスキルを使用して四十秒くらい経過しているけれど、残り時間は?」
「あ、すみませんすみません、今すぐ敵を倒しに向かいます。そーれ、びゅびゅーん!」
エルザに促され、私は再びドラゴンの元へ。
動き回ってドラゴンを牽制するクレアが、青色の輝きに包まれた私を見てビックリしてる。だよねー。
「主殿!? その力強い輝きはいったい……」
「ふふっ、クレア、私の新たな力、しかと見届けなさいな! さあオオトカゲ! 遊びの時間は終わりだよ!」
『ふん、何度きても同じことだ。骨ごと燃やし尽してくれる!』
ドラゴンは口を開き、追尾型のファイヤーボールを解き放つ。
むむ、これは命中率百パーセントな上に喰らうと大ダメージな厄介なスキルだけど……でも、今の私は『海王』よ!
グラファンの奴が使えた以上、私に出来ない訳がない! という訳で、レッツチャレンジ!
私は火球をひきつけ、青い光に包まれた尻尾を振り回し、全力で叩き落とした。
『なっ!?』
くはは、成功! 私の尻尾アタックによって、火球は綺麗さっぱり霧散した。
私がやったのは、グラファンと全く同じ技。あいつ、青い光に包まれた拳でエルザの魔法をガンガン無効化してたからね。
スキルには表記されていなかったから、いけるかどうか微妙だったけど、どうやら使用可能なようね! 『海王降臨』中なら、飛び道具は殴って無効化できる!
ありがとう、グラファン! もといポチ丸! この力、存分に役立たせてもらうわ!
「おや、どうした? 随分と驚いているようだけど、自慢のブレスが呆気なく叩き落とされて言葉も出ないかい?」
『貴様っ……』
おお、狼狽えてる狼狽えてる! むっふー! 気持ちいいい!
私は空からドラゴンを見下ろしながら、更に過酷な現実を突きつけてやることにする。
「多少守りが堅いようで調子に乗っているようだけど、優しい私が素敵なことを教えてあげるわ。あなたの守備はSのようだけど……奇遇ね? 私の守備もSなのよ?」
『なんだと……貴様、なぜ私の能力を……いや、それよりも、貴様の守備がSだと? 竜でもない魔物如きがそのようなこと、ありえるものか!』
「さらに付け加えるなら、私は体量値と力もSを超えているわ。総合ランクはA+と言ったところかしら」
『な……あ、ありえぬ! 総合ランクA+など、聖竜でもなければ……がああっ!』
会話の最中ですがチャンスだったので体当たりドーン!
馬鹿め! 隙だらけよ! 会話の最中に攻撃してはいけないなんてルールはなかった!
ふははは! 速度がワンランク上がっているからね、体当たりの威力も向上しているわ! 通常攻撃でも削れるのは大き過ぎる、海王降臨万歳!
私の攻撃を皮切りに、エルザとミュラのライトニング・フレアが次々にドラゴンに着弾する。
なるほど、確かにライトニング・フレアならば多少貫通しているみたいね。
右に左に弾けるドラゴンの巨体に、私はタックルタックル!
海王降臨のおかげで体の調子がすこぶるいいわ! 速度A力Sによるヘッドバッドを竜の顎に直撃、返す刃でボディプレスを後頭部に炸裂!
ドラゴンもただでは終わらない。
殴られながらも腕を振り回したり噛み付こうとするけれど、速度Aになった私を捕まえるのは容易じゃない。
空振りに終わる攻撃にしびれを切らし、ブレスに切り替えたところで私には『海王降臨』による遠距離攻撃無効化がある。襲いくるファイヤーボールをヒレでビンタして終わり。そして再びタックル連打!
『馬鹿な、馬鹿な馬鹿な馬鹿な!? 私が、竜である私が魔物ごときに圧倒されるだと!? そんな、そんな馬鹿な――ぐああ!』
現実逃避し始めてるところ悪いけど、ボディがお留守ですよ! ドーン!
私の攻撃に耐えられず、よろめいたところでエルザのライトニング・フレアの追い打ち。倒れることも許さないなんてエルザってば鬼ね! 私も人のこと言えないけど!
私たちの攻撃に合わせて、クレアも竜の足へ斬撃を加えてくれているから、敵もなかなか体勢を立て直せない。クレア、良い仕事してくれるわ。影のMVPはあなたよ!
おっと、チャンス到来。せーの、必殺ブリーチング・クラッシュ! うはは! 相手はピヨピヨ状態だから硬直も怖くないわ! 守ったら負けよ、ここは強気に連打連打で!
ミュラも私に変身してプレス攻撃に切り替えてるわね! よーし、お母さん負けないわよー! そーれー!
こうなったらあとはサンドバッグ状態。
いくら守備がSだろうと、これだけ怒涛の火力に押し切られてしまえばお手上げよね。
なるほど、一発が通らないからってエルザの言う通り怖がる必要なんて何もなかったのね。ダメージは確実に蓄積するんだから、こうやって一方的に殴り続ければよかったんだわ。
やがて、ドラゴンは激しい音とともに大地に倒れ伏した。
むふー、勝っちー! アーイムウィナー! そんなドラゴンに私は勝ち誇って勝利宣言。
「どうした? たかが下賤な魔物ごときに蹂躙され、恐怖のあまり声も出ないか? 堅さ自慢のトカゲが随分と調子に乗っていたようだけど、その最期は随分と惨めなものね」
私たちのことを下賤だの汚らわしいだの好き勝手言ってくれたドラゴン君。
死にゆくあなたに、優しいオル子さんから最後のアドバイス!
シャチの本当の怖さとは、その個体能力もさることながら群れることにあり、よ! みんなと力を合わせているだもの、私たちが負けるものかー!
来世で私たちのようなシャチ率いる美少女集団に会ったときは、同じ轍を踏まないよう重々言葉と態度に気を付けてくださいまし! おほほのほー!




