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38.どんな過去でも黒歴史でも強く誇れる私でありたいの

 



 速度Bを全力で活かして村の中央広場まで辿り着くと、そこには一か所に集められた村人たちと、三十人くらいの『人間』がいた。

 ううん、どいつもこいつも山賊オーラ爆発してるわね……ボロな服装に、しっかり剣やら斧やら短剣やらで武装。いかにも『私犯罪者です』って感じのスタイル。イケメンの王子様? そんなものはない。くそう。

 その中でも一番体格の良さそうな奴が、ササラを脇に抱え、ナイフを突きつけて怒鳴りつけている。


「いいか手前ら! 妙な真似を起こそうとするんじゃねえぞ! 少しでも反抗したら、このガキの命はないと思え! お前ら、さっさと金目の物と女子ども纏めちまえ! 終わったら残りを全員始末するんだから急げよ!」

「ちきしょお! 離せ、離せよ! ぐっ!」


 頬を殴られ、ササラは抵抗できなくなる。

 ふーん。殴るんだ。ササラの顔、殴っちゃうんだ。ササラを怖がらせちゃうんだ。

 とりあえず、状況はだいたい分かったわ。これはいけない。うむ、いけないわ。

 にゅー、残念ね。異世界生活、初めての人間との遭遇がこれだなんて本当に残念。


「ミュラ、ちょっとお母さんから降りててね。乗ったままだと危ないからね」


 私のお願いに、ミュラはすぐに飛び降りてくれた。うむ! よい子!

 ミュラを下ろし、私は建物の陰からいつでも飛び込める体勢を取る。

 オル子機準備中、統制官お願いしまーす。はーい、オールグリーン、いつでもいけますー。っと、その前に、転ばぬ杖の識眼ホッピング!




名前:ガバラ

レベル:11

ジョブ:山賊(進化条件 レベル20)

ステージ:2

体量値:E 魔量値:G 力:E 速度:F

魔力:G 守備:E 魔抵:G 技量:F 運:G


総合ランク:F+



 ほへえ、人間のステータスは種族じゃなくてジョブになるんだ。新発見。

 能力を視たところ、その辺の雑魚魔物以下ね。恐れるに値せず。さくっといきますか。


「くそっ、お前らなんかオル子の奴が帰ってくれば終わりだからなっ」

「あー、もういい。お前はもう死ねよ。人質に出来るガキなんざ他に何匹でもいるんだ。一匹ぐらい見せしめに死んどけ? な?」

「ひっ……」


 山賊風の男がササラにナイフを振りかぶろうとした瞬間、私は一気に加速。

 ササラを捕まえている男の眼前まで飛び出し、その勢いのまま目標の頭に『喰らいついた』。


「――え……あ?」


 空中でブレーキをかけ、私はその場でペッと口の中の『モノ』を吐き出した。あらまあ、恐怖に凍り付いた最期の顔がとても素敵。

 二つに別れ、血飛沫を噴き出して倒れる人だったナニか。

 解放され、尻餅をついたササラ。恐怖から解放されたせいか、目に涙をいっぱいに浮かべて私の名を叫んだ。


「オル子っ!」


 ササラの涙声にヒレを振って応えつつ、私は彼女を守るように前に出る。

 私の視線の先には、リーダー格を殺された現状がまだうまく呑み込めていない様子のヒューマンたち。


「な、なんだこの化け物は!? ここには人間の成り損ないどもしかいないんじゃなかったのか!?」

「こいつら魔物と結託してやがったのか! くそ、裏切り者どもが! 魔物と手を結んで人間様の土地を侵略するつもりに違いねえ!」

「ど、どうする!? こんなでけえ得体の知れない魔物なんて見たことねえぞ」

「どうするもこうするもねえ! ぶっ殺すしかねえだろうが!」


 ほむ。村の子どもたちを攫おうとして、ササラを殺そうとして、あげくの果てにこの自分勝手な台詞。ギルティ過ぎるでしょう!

 仕方ない、せっかく異世界で人間に出会えたのに残念だけど、やっちゃましょう。そうしましょう……っと、追いついたみたい。

 私は男たちに襲い掛かろうとして、その動きを止めた。そして、空に話しかけるように言葉を紡ぐ。


「――そうね、一人だけは残して頂戴。あとは全て皆殺しよ。私のモノに手を出すような愚か者どもに慈悲なんていらないでしょう?」

「な、こいつ喋れるのか!? お、おい! 化物、手前いったい誰と話を……ぎひっ」

「さあ、魔物らしく残虐に、傲慢に、派手やかに――思い上がった愚かな人間たちをどこまでも残酷に蹂躙してあげるとしましょう」


 警戒し、私に刃を向けようとするけれど――少し遅いわね。

 男たちが武器を構えるより早く、彼らの体を奔るは紅の輝き。

 華麗にして流麗。目にも止まらぬ戦女神の剣舞によって、一気に四人もの人間がただの肉塊へと変わった。


 続いて訪れるは激しい稲光。

 リフレクタ・プリズムによって天から降り注ぐように屈折して放たれた雷撃の嵐が山賊たちを包み込み。

 悲鳴と肉の焼ける匂いを充満させ、何人もの人間たちが黒い屍へ変貌した。

 私の傍に姿を現した神速の侍と轟雷の女神――そのあまりの強さに後ずさる男たちへ、私は嗤って告げる。


「怖い? 逃げだしたい? 許されたい? 駄目よ、私がお前たちを殺すと宣言したのだもの――ここで死ぬんだよ、お前たちは。愚かな行為を悔いながら、強者に蹂躙される恐怖を抱いて冥府へと消えなさいな」



















「ほーら! 泣かないでー! いないいないばー! べろべろばー! かーらーのっ、私の名はじょっく・ばうあー! おおっと、ここで更なる物真似ムービーが! オル子さん物真似十八番、浜辺に打ち上げられたクジラの真似です! み、水……」

「な、泣いてない! 意味わかんねえよ! クジラって何だよ! ただ横になってるだけじゃねえか!」


 人間たちをさっくりと一人残しで殺し尽し、私は現在ササラや子どもたちをあやし中。

 むふー! 怖い目にあったからね、子どもたちのハートをケアするのはオル子さんの役目だわ! ミュラが歓喜のあまり盛大に拍手を送ってくれているわ!


村人たちも何人か殴られたり斬りつけられたりしてた人がいたから、ルリカが治療に当たってくれてる。死人が出てなくて本当によかったわ。何人か本当に危ない状態の人もいたみたいだからね。

 私が子どもたちの前で、次なる隠し奥義『波に流されるラッコの真似』をやろうとしていると、村長さんがやってきた。


「オル子様、この度は誠にありがとうございました。前回に引き続き、またもや我らを救って頂き……」

「にゅんにゅん、いいのいいの。私も村に間借りさせてもらってるし、村の一員みたいなものでしょ? 村を守るために役立てたなら嬉しいわ! むしろ私こそ人間たちの死体の処理任せちゃってごめんね! とりあえず手あたり次第ぶっ殺しまくっちゃった! てへ!」

「構いません。奴らは悪名高いラーバ盗賊団の一員です。死体を領主様に突き出す必要がありますので」


 ほむ、やっぱり盗賊団とか窃盗団とか山賊団の一員だったのね。

 一人残しておいて良かったわあ。あいつらが末端なら、根元から叩き潰さないとまた村が襲われかねないし。

 大本を叩くためにも、拠点を吐かせようと一人残しをエルザとクレアにお願いした甲斐があったわ。

 生き延びた一人は、現在、離れた場所でエルザとクレアの二人による情報吐き出させ中。時々この世の物とは思えない悲鳴が聞こえるけど、気にしない。


「でも、村に帰ったら人間たちに襲われてたからびっくりしちゃった」

「あいつらは他国からやってきた犯罪者どもだよ。俺たちラグ・アースの国『ラーマ・アリエ』は隣にある『サンクレナ』の属国だからな。ここなら人間たちの騎士団も存在しないから、根城を作って盗賊団もやりたい放題だ。領主様も奴らに頭を痛めているけど、討伐するだけの兵力も金もないんだよ」

「ふむう、ここの領主も苦労してるのねえ。連中に襲われたのは初めてのことなの?」

「マトルンの村は初めてのことですが、領地内の他のラグ・アースの集落のいくつかは奴らに襲われ、滅んでしまったところもあるとは聞いておりました。まさかこの村にまでやってくるとは……」


 ササラと村長さんの話からして、やっぱり連中は放っておけないわねえ。

 三十人くらい殺したけど、これで終わりだなんて思えないし。仲間が戻らないとなったら、もっと数を揃えて村を襲撃するかもしれないし。

 ミュラと村の子どもたちを背に乗せ、ぽよんぽよんと跳ねてあやしていると、村の奥からエルザとクレアが戻ってきた。まあ、返り血が素敵。


「吐いたわよ。人間たちはどうやら北西の山上にある古砦をアジトとして使ってるらしいわ。数も200弱ほど」

「情報引き出しありがとーう! 200弱か、エルザ、問題ある?」

「あるはずがないでしょう? すべてはあなたの命令一つだわ」

「ご命令を。このクレア、主殿の命じるままに、全てを一太刀にて切り伏せましょう」


 静かに笑ってみせるエルザとクレア。やだ、格好いい。私もこういう笑い方が似合う美少女になりとうございます。

 うむ、二人もこう言ってるし、それではちゃちゃっと終わらせるとするかにゃあ。

 私はササラと村長さんに向き直り、むいむいとヒレを振ってお話。


「それじゃ、私たちは出かけるから、申し訳ないけど後片付けと村のみんなのことよろしくね。治療とかもあるし、館とアクア・ラトゥルネのみんなは滞在させておくから」

「お、おい、出かけるってまさか」


 ササラの問いかけに、私はむふんと胸を張って答える。


「二度とこんなことが起きないよう、残る連中もみんな纏めて片付けてくるわ! ササラの可愛い美少女顔を傷つけた罪の重さを連中に刻み込んできてあげる!」


 そう言ったら、顔がトマトみたいに真っ赤になったササラに蹴られた。おふ、横腹は止めて、横腹は! なぜみんな私の横腹を狙うのか!


 しかし、とうとう私も人殺しちゃったかー。殺しても全然なんとも思わなかったあたり、私も立派に魔物として異世界に馴染んじゃってるんだね。

 ササラや村を守れたしね、ならばよし! 領主様もあいつらに困ってるみたいだし、褒められこそすれ責められる謂れもないでしょう。よし、正当化完了!

 殺人の過去も優しく受け入れてくれる寛大な旦那様、お待ちしてます!



 

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