4.待って そのポジション(窮地のヒロイン)は 私じゃないの?
ある日、森の中、虫さんに、出会った。
青々とした森の中に入ったら、三匹のカブトムシがこんにちは。
いや、でかいから。なんでカブトムシが小学生くらいの大きさがあるのよ。
上空に現れた私を警戒してるのか、カチカチカチと嫌な音を鳴らしながら角をブンブン振り回してる。まあ、届かないんだけどね。私、空飛んでるからね!
「さて、魔物を見つけたはいいけれど、あいつらは強いのかしら。むー、体格的には負けるとは思えないんだけど……よし、直感を信じましょう。あいつらになら勝てる! ビーム発射!」
空からカブトムシたちに向かってコンフュ・エコロケーション射出。
混乱耐性ゼロらしく、虫たちは面白いくらいに混乱してくれた。むふふ、まるでトンボ取りでもしているようね! こちらの安全を確保したうえで、せーの、どーん!
「ビギュイ!?」
「ギギギッ!」
ブリーチング・クラッシュによって固まっていた二匹を圧殺完了。
カブトムシだけあって、なかなかに装甲が堅かったんでしょうけれど、私の三トンプレスの敵じゃあないわ……人型になれたとき、体重も三トンのままだったらどうしよう、乙女として死ねる。
残る一匹は……あれ、混乱が解けてる。
角をブンブンと振り回して、今にもこっちに襲い掛かってきそうだわ。
うーん、個体によって効果時間が変わるのかな? とりあえずもう一回エコロケーションいっとこう。
混乱ビームをもう一度カブトムシにぶつけてみたんだけど、不発。耐性ついたのかな。
クラッシュした体勢のままだったので、地面に転がっていた私に、カブトムシは加速をつけて私の腹部に角を突き立ててきた。だ、け、ど。
「その程度じゃ乙女の柔肌を傷つけられないのよね。残念!」
「ギギィ!」
カウンターとばかりに側転をして、最後の一匹も圧殺。
戦闘終了、森の中に平面カブトムシが三匹も生まれてしまったわ。
「カブトムシもシャチの敵にならないのね。もしかして、この天使にもらったシャチボディ、モンスターとしては破格のスペックなんじゃないのかしら……そんな良い物くれるなら美少女ボディくれてもいいじゃないのよ! くそうくそう! あのポンコツ天使、無駄なところで有能さを発揮して!」
ビタンビタンと跳ねまわってお空に向かって無駄な抗議をしてみたり。
何度も繰り返して文句を言えば、天使が気まぐれで美少女に変更してくれたり……しないか。甘い考えを持つのは止めよう、むなしくなるだけだし……おっと、レベルアップきたー。
『レベルが4から5に上がりました』
ふむう、三匹倒してレベル1アップ。
流石に一匹倒したくらいじゃ上がらなくなったけど、それでも十分過ぎるわね。
よし、とりあえずレベル10を目指してモンスターを乱獲してみましょうか。
ゲームメタな感じだと、同じ地域に生息するモンスターの強さって同じくらいなのが集まるものだし、カブトムシクラスがいくらでても怖くもなんともないわ。
「さあ、レッツ魔物退治……の、前に。ちょっとお腹が空いたわね」
クーと小さく響くお腹の音。
こんな大きな図体しておいて、お腹の音はやけに可愛いわね。
腹が減っては戦ができないもの、とにかくまずは食べ物と飲み物を確保しましょう。
私は視線をカブトムシに向け、首を全力で横に振る。
「ないわ。絶対ないわ。いくらこんな体になったからって、魔物の死骸を食べるなんて絶対にNG」
将来、人になる身として、虫の死骸を食べるのは絶対に無理。というか、生理的に無理。
という訳で、森を泳いで食べ物探し。その辺に生えてないかな、果物とか。
私の好み的にはリンゴとか、イチゴとか全然おっけー。ミカンとかもありよ。
そんなことを考えながら、森をのんびり泳ぐこと一時間。
探せども探せども果物なんてありゃしない。ぐぬう、少し甘く考えすぎてたわ……魔物たちが跋扈する森だもの、食べられる果物なんて早々に食い荒らされて当然。
食べ物は見つからず、カブトムシやら狼やらカマキリやらに襲われて返り討ちにして進むの繰り返し。あ、またレベル上がった。
『レベルが7から8に上がりました』
レベルが上がるのは嬉しいんだけど、戦の前に腹ごしらえがね?
シャチなんかにされても、めげずにやる気になってるのに、飢え死にでゲームオーバーなんてシャレにならないわ。
とにかく何か食べるもの……人として口に入れても問題なさそうなもの……人の尊厳を守れる食べ物……ぬ!
「なんだろう。何か凄く甘い香りがする……これは! リンゴの匂い!」
ふよふよと森を泳ぎながら必死に探していると、少し離れた場所からリンゴの匂いが漂ってきた。
きた、きちゃったわ。とうとう私の探し求めた甘い甘い果物ちゃん!
むふー! こうしてはいられないわ! 木々に実るリンゴちゃんを拝借させてもらい、貴重な栄養源とさせてもらいましょう!
宙を泳ぐ速度を上げ、私は全力ダッシュで匂いのもとへと飛び出した。
「こんにちわー! 白雪姫がリンゴを食べに来ましたよー! 森の魔女さん、おひとつリンゴをくーださーいな!」
「フシュルルルル」
匂いの元に飛び出すと、そこには巨大な大木が蠢いていた。
木々にリンゴを実らせた、一つ目の巨大樹モンスターが、ウェルカムとばかりに私をロックオンしていた。どう見ても規格外、ボス級モンスターです。本当にありがとうございました。
「まあね、なんとなくそんなことだろうと思ったわよ。異世界なんて嫌いよ、ちくしょう……ひゃああ!」
巨大樹が蔓の鞭を放ってきたのを必死に避ける。ぬう、私を狩る気満々じゃないの!
ええい、ボスモンスターがどうしたっていうのよ! 私はリンゴを食べるのよ! 植物ごときがオルカ舐めんな! 海の悪魔は伊達じゃない、アンタなんてシャッチシャチにしてくれるわー!
いざ鎌倉とばかりに、スーパーシャチヘッドバッドをぶちかまそうと構えたんだけど、ふと視界に何かが映った。
「……あれ? 蔓の先端に人が捕まってる?」
巨大樹が伸ばしている蔓、その先になにやら人間らしき少女が捕まってるじゃない。
桃色髪のロングヘア―、古風RPGにでもありそうな魔法使い装備一式、地面に落っこちてる杖らしきもの……ぬぬぬ、もしや人間の魔法使いさん? 冗談で言ってたら本当に魔女がいましたよ。
完全に気を失ってるみたいだけど、もしかしてこの化け物と戦って負けた感じかしら。
しかし、遠目でもわかるくらい可愛い顔してるわね。ちょっと勝気そうな感じのする、まさしく目の覚めるような美少女……ぬおお! 私だってそうなりたかったのに! 不公平過ぎるわよ!
「とにかく、早く助けてあげないと……」
人命救助、そして私の食糧確保のためにも、このウッディウッドモンスターをフルボッコにしてくれる!
ボスっぽいオーラ出てるし、さぞやたんまり経験値を持ってるでしょうしね! さあ、お前の経験値を私によこせー! 美少女に生まれ変わらせろー!




