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35.強く強くぎゅっとして。何度でも「ぐえっ」って叫ぶから

 



 オル子ハウスを展開し、正体不明の金髪ナイスバデーなオーガさんを緊急搬送。

 流石に素性も分からない、敵か味方も分からない魔物をいきなり村まで連れていくわけにはいかないもんね。

 館内で治療して、意識取り戻して話を聞いて、どうするかはそれから。

 念のため、他のアクア・ラトゥルネたちには連れ込んだ部屋には近づかないように言っておいた。いきなり暴れたりしたら危ないし、私たちで始末する時に巻き込まれたらいけないし。


 ベッドに寝かせた状態で、ルリカの治癒スキルを発動。

 かなりの大ダメージを受けてるらしく、何度もかけ直しているんだけど……ルリカが一度で回復しきれないほどの重傷って、もう少し遅かったら本気で死んでたんじゃないかしら。

 そんなことを考えながらオーガさんの治療を見守ってると、私の横にちょこんと座ったポチ丸も治療風景をじっと見つめてる。ポチ丸が私たち以外に興味を示すなんて珍しいわね。


「どしたの、そんなオーガさん見つめて。オーガさんに興味津々なお年頃?」

「こいつ、なかなか強え魔物だなと思ってよ」

「ほえ、どしてそんなことが分かるの? ポチ丸って識眼ホッピングみたいな能力使えたっけ?」

「そんなもん少し観察すりゃ分かる。見ろよ、こいつ、相当な数の斬撃を受けてるが、ギリギリのところで致命傷だけは避けてやがる。しかもこれは敵に怯えて逃げ回ってできた傷じゃねえ。正面からの殺し合いで、致命傷を避けながら敵の首を取ろうとする戦い方でしか出来ねえ傷だ」

「お、おおお……凄い、なんだかポチ丸が歴戦の戦士みたい!」

「みたいじゃなくて実際そうだったでしょうに」


 エルザの突込みに、そうでしたと納得。ポチ丸、今は白ポメだけど元はグラファンだった。

 でも、ポチ丸を以ってして強いって、相当な魔物なんじゃないのこの美人さん。

 いや、でも言われてみれば確かにそういう雰囲気があるわね。女騎士というか、女武士というか……そういうキリッとした磨き抜かれた刀剣のような気品、オーラが眠っている状態ですら漂ってる気がするわ。


「ねえ、エルザ。識眼ホッピングで確認しよっか。この娘のこと覗いておけば不慮の事態に対応しやすいでしょうし」

「ええ、お願いするわ。分かったことは全て教えて頂戴」

「むいむい。ぬぬうーん! 識眼ホッピングゥ!」


 オーガさんへ向けて識別発動! サーチあーんどデストロイっ!




名前:クレア・グーランド

レベル:6

種族:ソード・オーガ(進化条件 レベル20)

ステージ:3

体量値:C 魔量値:D 力:C 速度:A

魔力:G 守備:D 魔抵:F 技量:A 運:C


総合ランク:C+




 ほうほうほう。クレアさんというのね。

 ステージは3、私たちより格上。オルカ化なしでC+って相当な部類じゃないかしら。

 能力もかなり良いわね。理想的な高速前衛アタッカーって感じ。流石はエルザ曰く戦闘民族オーガ。ソードっていうくらいだから、剣を使うのかしら。

 知り得た情報をみんなに伝えると、ポチ丸は嬉しそう。対照的にエルザは微妙な表情。


「いいねえいいねえ! 強そうで何よりじゃねえか! こういう奴との殺し合いはたまらねえんだよな!」

「予想よりも強いわね……それほどの魔物がこんな辺境の場所で、どうして大怪我をしていたのかしら。最悪を仮定して、この娘が私たちを狙う魔王軍の追手だとするなら、いったい誰に襲われたというの?」

「さあてな。見たところ、こいつを瀕死までおいやった奴は相当な剣の使い手みたいだぜ? これだけの実力者となると、ランクはAを超えてやがるか?」

「……つまり、それほどの使い手がまだこの近隣にいるかもしれないということね。さて、この娘が魔王軍の追手なのか、はたまたこの娘を倒した化け物が追手なのか、どちらも無関係なのか……何にせよ、可能ならば早く村まで逃げ込んだほうがいいわね」

「おいおい、勿体ねえな。せっかくの化け物だってのに、戦わねえのかよ?」

「Aランクの脅威は先日、誰かさんに嫌というほど教えてもらったもの。何の準備もなしに戦いたくないのよ。とにかく、そのオーガが目覚めたら情報を引き出しましょう」


 エルザの意見に私はもふもふと頷く。

 うむ、難しい話はよく分からんぽんだけど、とにかくこの娘が目覚めなきゃ始まらないってことだけは分かったわ。

 とりあえず、治療をルリカに託して、私たちは目が覚めるまで室内で待機することに。目覚めていきなりルリカを襲われたりしないようにしないとね。


「むう……これで三十八連敗。我が娘の剛運に恐れ入るわ。ミュラは幸運の女神に愛されているのかもしれないわ」


 目覚めを待つ間、愛するミュラとコミュニケーション。

 じゃんけんして遊んでいるんだけど、ずっとミュラが勝ち続けてるのよね。ミュラごいすー。

 ミュラのチョキには神が宿っているわ。私はヒレを頑張って突き出してるんだけど、ミュラの神チョキの前に全戦全敗よ。

 もっと頑張って、私のヒレちゃん。パーしか出せないけど、気合いと根性でなんとか勝利を掴むのよ。


「っ、どうやら目覚めるようです、オル子様」

「ほいさっさ!」


 ルリカの呼び声に、私はミュラを背に乗せてぼむぼむと飛び跳ねて移動する。

 そして、みんなを守るように前に出て、にゅっとオーガさんを覗き込む。一番頑丈だから、暴れられても即座に押さえつけられるからね。メイン盾だよ! 頑丈で乙女な可愛い奴だよ!


 みんなに危険が及ばないように、もうちょっと近づこうかしら。

 うんしょ、うんしょ、うむ! かなり近づいちゃったから、これなら視界に私以外入らないから襲われる心配なし! そして何より、美少女のお顔で爽やかな目覚めを提供できるに違いないわ!

 さあ、オーガさん、いつでもお目覚めあそばせ! 目を開けばそこには可憐な美少女のドアップがお出迎えよ!


「ん……」

「にゅにゅーん」

「――うわあああああああああ!」

「ほ、ほわああああああああああ!? ぐえっ!?」


 目を覚ました途端、オーガさんがなぜか悲鳴を上げて起き上がろうとする。

 急に顔を上げるものだから尖った額の角が私の顔にブスリんちょ。ぎゃああ! 角が、角がああああ!

 床を転がりまわって痛みに悶える私に、オーガさんは肩で呼吸をしながらも、申し訳なさそうに声をかけてくる。


「す、すまない。突然、目の前に巨大な魔物が現れて、動揺してしまった」

「うぎぎ……こ、殺す気かあああ! 死ぬかと思ったわよ!」

「いや、今のはオル子が悪いと思うのだけど。寝起き一番にあなたの顔を至近距離って、驚くなという方が無理だわ。いったい何を考えてるのよ」

「可愛いオル子ちゃんのぷりちーフェイスでリラクゼーション的な効果があるかと思って……」


 癒し効果をあげるつもりが、まさか悲鳴を上げられるとは思わなんだ。

 ようやく落ち着いてきたらしく、オーガさんは私たちや室内を見渡しながら、確認するように問いかけてくる。


「あの、あなたたちは誰だ? それにここは……」

「待って。それを問うのは私たちが先よ。あなたは誰?」


 名前を既に把握しているはずなのに、エルザは敢えてその質問を投げかけている。

 あれね、ここで素性を隠したり、虚偽のことを話したりするとダウトって奴ね。なんという取り調べの駆け引きの妙。


「ああ、それは失礼した。私は――」


 そこまで口にして、オーガさんは言葉を止める。

 むむ! 名前を名乗らないと言うのは、つまり黒ってことかしら! 名探偵オルコサンはいつでも飛びかかって抑える準備はできていてよ!

 エルザも警戒の色を見せて杖を構えるなか、オーガさんはポツリと続きを呟いた。


「――私の名は、何だ……? 私は、いったい誰だ? 嘘だ……思い出せない、何も……」

「……ほえ?」


 視点の合わない瞳で宙を見上げるオーガさんの言葉に、私たちは唖然とするしかできなかった。

 いや、ちょっと待って、その……この事態は割と本気で想定外なんですけど。


 震える手を見つめ、呆然としているオーガさん……い、いかん! なんかとてつもなく精神的に追い込まれていらっしゃる! 危険が危ない!

ぬおおお! 必殺、シャチヒレ伸ばし! 説明しよう! シャチヒレ伸ばしとは、ヒレを必死に伸ばすだけの技である! 終わり!

 手の上にヒレを無理矢理置かれ、びっくりするオーガさんに、オル子さんのワンポイント・アドバイス!


「いきなり落ち着けってのも無理な話でしょうから、とりあえずギュッと握ってみて! 誰かの手を握ると、なぜか心が落ち着くものよ! これ、オル子さんのお得情報ね! さあ、騙されたと思って力強く握ってみるヨロシ!」


 最初はびっくりしていたけれど、やがてオーガさんは縋るように私のヒレをぎゅっと強く握り返してくれた。ふー、ちょっと一安心。

 昔、妹が不安になってはこうやって手を握ってきたものよ。泣き虫だった妹にお姉ちゃん元気パワーをわけてあげれば元気バンバンよ!

 今? あ、大丈夫っす……手を握ろうとしたら『お姉ちゃん止めて』なんて言われたりしてないっす……げふん。


 とりあえず、話を再開するのはオーガさんがもうちょっと落ち着いてからにしましょう。今、無理矢理聞き出そうとしても絶対無理だと思うものね。

 素性とか、敵かもしれないとか、そういうのは今だけポイして、ぎゅっぎゅっぎゅー。

 ああほら、泣かない泣かない。ぎゅっぎゅっぎゅー。




 

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