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34.内政も開発も領地経営もやれるわ。そう、令嬢ならね

 



 人間と魔物の混血、ラグ・アースの集落であるマトルンの村に滞在し始めて十日。


 カリスマに溢れた私は、命を救ってあげた村人たちに心酔され、神として崇められる毎日よ。

 『オル子様のために人間に反乱を!』と息巻く村人たちを愉悦交じりで眺めながら、いつ人間たちの支配地域に攻め入ってやろうかと胸躍らせているわ。

 ククッ、ごらんなさい。今日もラグ・アースたちが私のために心からの奉仕を行っているわ。

 異世界にオル子帝国を築き上げ、いずれ世界を支配するために――今日も私は建国活動に勤しむのよ!


「おーい、オル子! 形はこんなもんでいいのかよ」

「ちょっと待ってね。ほむう……うむ! 良い感じ! もう少し深くしてもいいかも! 岩肌がところどころ尖っているのは駄目よ! 滑らかにしてね!」

「注文の多い奴だな……ミッテ! ロココ! 表面を『リファラ』で研磨するぞ!」


 私のお願いに、俺っ娘ことササラはテキパキと他の子どもたちに指示を出す。

 そして、子どもたちが掌に土気色の光球を生み出し、岩盤に当てることで、ガリガリと表面が削られていく。実に見事ね!

 その作業を眺めながら、私は満足げにヒレでペチペチと横腹を叩く。拍手である! 頭の上のミュラも拍手で祝ってくれているわ!


「むっふっふ。この調子でいけば、オル子帝国の礎である『お風呂』の完成も遠くないわね! とうとう異世界でもお風呂のある生活が! 一番風呂は私のものよ!」

「心配しなくても誰もこんな変なモンに入らねえよ。熱湯なんかに入りたがるなんて、海の魔物は変わってるよな」

「ふふん、そんなことを言ってられるのも今のうちよ、ササラ。あなたは近い未来に掌を盛大に返すことになるわ。お風呂が嫌いな女の子なんて存在しません!」

「ポプリ、そりゃ削り過ぎだわ。俺が手直しするからお前は外側を頼む」


 私の話をスルーして作業に勤しむササラ。ああん、冷たい。相手してくださいませ。

 そんな訳で、村に厄介になって十日。私たちはマトルンの村に無事滞在できることになったわ。

 食料を分けて、村の人たちの病気とかをスキルで治療する代わりに、村の一角の敷地を使わせてもらい、館を展開させてもらってる。


 村長さんには深く感謝され、快く滞在許可を出してもらえた。

 どうしてわざわざこんな村に滞在するのか最後まで不思議がっていたけれど、人化後のことを見据えた私の百年の計なのよ! 人化するまでに村人たちと仲良くなっておけば、すんなりと新生活をスタートできるって寸法よ。

 村を拠点にして、レベル上げの際には境界線の外に出て魔物を狩り、作業が終わったら村に戻ってというのが最近のサイクルね。


 そんなレベル上げと並行して、最近は空き時間を利用して開発作業に乗り出していたりするのよ。むふふ、異世界開発よ! KAIHATSU!

 村で生活し始めて知ったことだけど、ラグ・アースという種族は物を加工するスキルを初期スキルとして習得しているらしいの。


 人間たちはこの能力に目をつけ、遥か昔に彼らの祖先であるアースディナの民を引き込んだのだそうよ。

 似たような魔法を生み出したので、ラグ・アースは用済みとして捨てられたそうなのだけど、こんな能力を持つ彼らを捨てるだなんてとんでもない!


 彼らの能力があれば、私の求める物を作り出すことが可能なのではないかと思いついた私は、物は試しにと雇用してみたのよ。

 あくまでも私事なので、雇ったのはササラをはじめとした村の子どもたちだけなのだけどね。大人はほら、お仕事いっぱいあるみたいだし、そこに頼むのはちょっとね。

 報酬はその辺の魔物を適当に仕留めてそのままポイ。

 なんか魔物の骨とか毛皮とか肉とか色々使えるみたいで、大喜びしてもらえるみたい。宝石とか黄金とか用意してたけど、それは受け取ろうとしないのよね。まあいっか。


 ライドオン事件以来、何かと私に懐いてくれたササラは二つ返事で了承してくれたわ。ササラが村の子どものまとめ役みたいで、子どもたちに指示を出しながら頑張ってくれている。頼りになるわ、俺っ娘ちゃん!

 この娘たちの頑張りによって、私の夢見る異世界お風呂生活、オル子帝国が生み出されるのよ! 世界を支配? 人間への反乱? あれは嘘よ! そんな怖いこと嫌でござる!


「でも、子どもたちも私を怖がらなくなってきて助かったわ。お願いした初日なんか、大勢の子がビービー泣いちゃったし」

「そりゃそうだろ。こんなにデカくて強そうな魔物なんだ、怖がらねえ訳がねえよ。しかも『海王』なんだろ? 魔王に仕える六王の一角なんて、人間たちですら恐れる怪物だぜ?」

「ぬー、また人間に恐れられる理由ができてしまったわ……人化するときには称号捨てられればいいんだけど。でも、一日経ったら子供たちは泣かなくなったわよね。それどころか嬉々として私に触ったり乗ったりするようになったし。やはりこれも私の体からあふれ出る愛されオーラによる力かしら? むふー! 可愛くてごめんね!」

「だってお前、中身それなんだもん。全然怖くねえよ、何よりアホだし。最初の時の偉そうな姿はなんだったんだっていう」

「アホではない! 知識チートでKAIHATSUを行う私に何てこというの! 最近の令嬢は商売や領地経営もできて当然みたいな風潮があるし、まあ、これくらいはね? お風呂を異世界に広めて入浴ブームを巻き起こすしか! そしてお風呂利権でガッポリよー!」

「お前には無理だろ。やるならエルザやルリカに投げろよ、破滅するから」


 いやん、ササラってば辛辣。ある意味エルザ以上に容赦がないわ。

 でも、この村に来たおかげで、色々とやる気が漲ってきたわ。人化失敗してダウンな気持ちが続いていたけど、夢のお風呂生活が目前に迫っているものね。落ち込んでる暇なんてなくてよ!


 村だって今は寂れて余力ゼロだけど、村人みんな元気になったし、時間が経てばショッピングが出来るくらい発展するかもしれないわ。

 この世界の人間が想像以上に排他的で魔物・即・殺ってことが分かった以上、ここ以外の人里に行こうなんて思える筈もなく。

 私にできるのは、この村を発展させて、人間と魔物の混血の地位向上を狙うしかないわ! でも反乱とかそういうのは簡便ね! こっそり隠れてレジスタンス! うむ、実にいい! シャチの騎士団と名付けましょう!


「よし、これくらいでいいだろ。どうだ、入れそうか?」

「むふー! 良い感じ!」


 綺麗に研磨された岩風呂に、私は早速入ってみる。

 うむ! 形状としては完璧ね! あとはお湯を入れるだけで完成! マイお風呂、マイお風呂、異世界でもマイお風呂―!


「みんな素晴らしいわ! グッジョブ、素晴らしい出来よ! これであと三千年は戦えるわ!」

「へへっ、当然だろ。俺たちは誇り高きアースディナの末裔だからな。スキルのやり方こそ人間に盗まれちまったけど、物作りに関しては誰にも負けないっての」

「幼いながらにして、この職人気質。気に入ったわ! あなたたちを今日から私専属のお抱え職人として正式に雇用するわ! 私の頭脳とあなたたちの技術で異世界に革命を巻き起こすのよ! 血で血を洗う戦闘なんてやってる場合じゃないわ! 時代は今、知識チートよおおお! 領地経営令嬢オル子さんの奮闘物語わっはー!」

「約束していた魔物討伐の時間はとうに過ぎているのだけど。約束を放り出して子どもたちと遊びふける、足りないあなたの頭脳がなんだって?」

「げえ、エルザ!」


 岩風呂で歓喜の舞を踊っていると、館からエルザとルリカが登場。

 ぬおお! エルザ超怖い! いつの間に約束の時間を超過していたの!? 夢中で全然気づかなかった!


「全く……ラグ・アースの子どもたちを集めて何を遊んでいるかと思えば」

「遊びじゃないもん! これは世界の常識を覆す私の秘密兵器なのよ! 人化した後、異世界に文明開化の音を響かせる成り上がり令嬢……そんな私の智慧の素晴らしさを発見した素敵な人が私を公爵家へと嫁がせてくれる予定です!」

「ないものを発見しろだなんて無茶を言われる相手が不憫でしょう」

「それって私に智慧がないってこと!? あるよね!? ちょっとくらいはあるわよね!?」


 ぴいぴいと土下座しつつ反論する私に、エルザは杖をコツンと当てながら促す。


「境界線の外へ向かうわよ。一日に一つでもレベルを上げて停滞だけはしないこと。次にグラファンクラスの魔物と戦った時に苦戦しました、負けましたなんて話にならないわよ」

「あい……それじゃみんな、私は魔物討伐に行ってくるから、帰ったら今日の分の報酬を渡すわね。今日も一日お疲れ様!」

「あいよ。エルザやルリカに迷惑かけんじゃねえぞ。オル子はアホだから無理かもしれないけど」

「失礼な! ちょっとエルザさん、この小娘にガツンと言ってあげて頂戴! ほら、この前みんなの前で言ってくれた名言! オル子はどこまでも自分らしく、在りのままに自由気ままに生きなさいみたいなやつを! おなしゃーす!」

「オル子、少しは考えて行動することを覚えるように」

「あれえ!? この前と言ってることが百八十度変わってるんですけども!」


 エルザやササラの真似をするように、小さい子たちが次々に私へ『良い子にしてなきゃ駄目だよ?』『大人しくしてたらご褒美貰えるよ』と諭してきた。

 おかしいね。まるで私が一番聞き分けの無い、我が儘な小さい子どもみたい。ふぬう! このあまりの扱いに断固抗議するう! オル子ちゃんは真面目で素直な良い子です!














 マトルンの村から境界線を越えて北東の草原。そこが今日のレベル上げポイント。


「一番上の兄豚はシャチに体当たりされてドーン! 二番目の兄豚もシャチに体当たりされてドーン! 賢い三番目の弟豚はレンガの家を作り逃げ込みましたが、上からシャチに潰されてドーン! 以上、三匹の子豚、完!」


 逃げ惑うオークたちに次々と体当たりアンドプレス祭り。今日も戦場にヴァルキュリアが舞い降りる! 美しくてごめんねええええ!

 遠くに逃げた奴らは、エルザとミュラの魔法で悲惨な状態に。おお、エルザの新魔法『ライトニング・フレア』が炸裂してるわね。巨大な光球が腹部で炸裂してとんでもないことに。グロ画像待ったなし!


 オーク13匹、全て絶命したことを確認して、戦闘終了。

 エルザのアイテム・ボックスにオークの死体を次々と放り込みながら、のんびりと雑談に興じる。


「あんまり強くないわねえ。敵のランクがE-だから当たり前なんだけど、これなら昨日の馬もどきの方が歯ごたえあったかにゃあ。お肉も美味しかったし」

「バルブレス・ホースの群れにはなかなか遭遇できないものよ。でも、確かにこいつらでは少し非効率的ね。もう少し強くなければ、戦闘経験も磨けないわ」


 オークの肉や骨も村人たちは喜んでくれるから使い道はあるんだけど、この肉は正直食べたくない。人型の豚男の肉って抵抗あるわあ。


「どうします? もう少し北か東へ向かってみますか?」

「そうね。北のエリアならオークも減るかもしれないわ。オル子、構わないかしら?」

「もちもちこ! 向かった先に美味しい魔物いるといいなあ」


 みんなを乗せて、オル子エアラインズ離陸いたしまーす。

 最近は、狩った魔物をどうすれば美味しく食べられるかと村人とアクア・ラトゥルネのみんなが色々試してくれているから、晩御飯が楽しみなのですよ。

 ご飯は生きる活力、美味しいご飯が元気の源。このおかげで魔物を狩るレベル上げにも力が入るってものです。


 空でパタパタとヒレを羽ばたかせること三十分。

 結構北上したし、そろそろいいかな? そう思いながら、どこに着陸するかと大地を見渡し見渡し。ふむう、あの大きな木の下なんか……あれ?


「ぬぬぬ? ねえ、あの木の下に誰か人がいない?」


 空でブレーキをかけ、私は眼前に広がる大木の根元部分を指し示す。

 太い幹に背を預けるように、腰を下ろしている人の姿がそこには在って。ううん、ちょっと遠くだから分かりにくいけど、多分女性かな?


「確かに誰かいるわね。この近隣に生息域を持つ魔物かしら?」

「ここからではよく分かりませんね。近づいてみれば種族も分かるかもしれませんが、敵対行動をとられる可能性も否定できません。いかがいたしましょう」

「むー……ちょっと近づいてみる? 攻撃して来たら応戦するか逃げるかをその時に判断するって感じで」


 私の提案に、二人は同意する。ミュラもペチペチと叩いているから同意ってことね。

 高度をゆっくりと下ろしていき、私はその人物へと近づいていく。ぬう、こっちに気づく感じがしないわね……もしかして寝てる? いえ、気を失ってるのかな?

 ふむう、だんだんわかってきたけど、かなりの美人さんっぽい。

 黄金の長髪を束ねて、耳は長く、何より特徴的な一本角が額から伸びている。この時点で人外だと分かるんだけど……


「――オーガ族ね。あの耳と一本角、間違いないでしょう」

「オーガ族?」

「武力に長け、力と身のこなしによって敵を制圧する魔物ですね。ですが、オーガ族は魔物支配域でもかなり東部に生息していたはずですが」

「……というか、あの子、大怪我してるように見えるんだけど。あちこちが血だらけじゃないの。強い魔物にでも襲われたのかしら」


 身に纏った鎧は完全に破壊され、衣服からは紅の血が染み出し、彼女の周りの草原にはかなりの血量が流れてしまっている。


「今なら治療が間に合うかもしれません。どうします、オル子様」

「逆に仕留めるのであれば今が最高の好機よね。もっとも、もう死んでいるかもしれないけれど」

「意識のない無力な女の子に手をかけるのはちょっと……まず治療しましょう。どうするかはその後で判断すればいいじゃない。話が通じるならそれでよし、問答無用でかかってくるなら容赦なく殺してあげましょう。駄目?」

「良いわ。実に魔物らしい素敵な答えよ」


 私の答えにエルザさんご満悦。

 ほむ、私としては普通の意見を言ったつもりなんだけど。人間ではなく、魔物らしい答えか。

 やっぱり心が自然と魔物側に引っ張られちゃってるのかにゃ。

 なんか今の私って人間殺しちゃっても『ふーん』って感じで済ませちゃいそうで怖いんですけど。海王城で人型の魔物殺しても全然なんとも思わなかったし……ぬうう、流石にスタートから殺人罪のヒロインはまずいような。

 まあいっか。今はそれより人命救助、人命救助。ひっひっふー! ひっひっふー! おめでとうございます! 産まれたての元気なシャチですよ!



 

 

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