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28.何度でもアタックし続けるわ。だってそれが恋だもの

 



 グラファンと私、超近接戦闘で大絶賛殴り合いタイム。

 すみません、嘘つきました。殴り合いじゃないです。かなり私が押されてます。

 グラファンが殴る蹴るのハイパーボーナスタイム突入中に対し、私の攻撃回数はどんどん少なくなっちゃってる。こんなの絶対おかしいわよ。

 さっきの休憩タイムから敵の攻撃が激しくなり過ぎて、防御に手いっぱいで全然反撃に移れない。ふんぬー!


「この、ちょこまかと! とっとと倒れなさいよ!」

「手前のドラゴン並の馬鹿力、そう何発も喰らってたまるかよ! そら、捕えたぜ!」


 大振りした私のテイルアタックを読み切って、グラファンは片手で私の尻尾を掴む。んげ! 嫌な予感!

 うおおお! ボタン連打で敵の拘束から逃げるんじゃあ! じたばたじたばた! あ、スキル発動ですかそうですか。ふーん、容赦ないね。


「『因幡鮫ラウンド・ラブト・シャクル』! 踊り狂いな!」

「ふぬわああああ!」


 私のシャチボディを高速回転させながら、グラファンは私を振り回して床に叩き付ける。

 それも一発では終わらない。私を床に叩き付けた後、すぐに方向転換して後方の床へと再度クラッシュ。

 うぐー! 死ぬ! 本気で死んじゃうこれ! な、何とか抵抗を、脱出しないと、いくら頑丈なシャチボディでも耐えられない!

 というか、私の体を片手で振り回すって、どういう怪力してんのよ!


「オル子様! 今回復を!」

「させねえよ! てめえはそこに張り付いてやがれ!」


 回復スキルの射程内に入ろうとしたルリカを牽制するように、グラファンは空いてる片手で空を薙ぎ払う。

 次の瞬間、グラファンから放たれた水の刃がルリカを襲う。こいつ、こんな遠距離攻撃まであるの? ぬわあ! ルリカ避けてええ!


「サンダー・ブラスター!」


 グラファンの遠距離攻撃をエルザが何とか魔法で迎撃。

 ナイスエルザ! ついでに私も助けてくれていいのよ! エルザが杖を構えて再度スキルを行使する姿を見て、グラファンは私を前に突き出した。


「いいのかよ? 俺を撃てばこいつを巻き込むことになるぜ?」


 オル子さん、魚屋に売られる魚の如く宙ぶらりんで盾状態。

 な、なんて卑劣なの! 私を盾代わりに使っては、エルザは魔法が撃てないじゃない! 

 エルザは私のことが大好きで大好きで仕方がないから、私を巻き込む可能性がある以上、魔法なんて絶対撃てないわ。

 ね、ね、そうよね! エルザ、絶対撃たないわよね!? 私が盾にされてるのに、サンダー・ブラスターを撃ったりなんて絶対しないでよ! 絶対だからね!? 押さないでよ、絶対押さないでよ!?


「サンダー・ブラスター!」

「はっ、マジかよおい!」


 はい躊躇なく攻撃はいりまーす。だよねー。知ってた。グラファン君、エルザの魔法で一緒に死のう!

 エルザの放った電撃は私たちの横を通り抜ける。あれ、エルザが狙いを外すなんて珍しい……いや、違うわね! これはエルザのお得意のHANSHA攻撃! 

 背後に展開していたリフレクタ・プリズムに当たり、反射してきた電撃がグラファンの背中を直撃……してるはずなのに、倒れないいい! 離してくれないいい! なんでよ!


「ウィッチやチビの攻撃なんぞ何発喰らっても倒れねえっつっただろうが。俺を喰らう可能性があるのはオル子だけだ。だからこそ手前は逃がさねえ!」


 いやいやいや! 普通は回復役を狙うのがセオリーじゃないの!?

 くっ、こんなの計算外よ。ルリカの回復を厄介とみて、集中的に潰すために動くと思ってた。でも、こいつ、ルリカを牽制して封殺したまま私を先に仕留めようとしてる。

 他の人がターゲットになっている状態で動くのと、自分がターゲットになっている状態で動くのでは立ち回りの難しさが全然違う。


 ルリカにグラファンの意識が集中されてるなら、それを逆手にとって私もたくさん反撃だってできる。

 でも、今はこいつの攻撃を防ぐのに精一杯で、私が攻撃に移り切れない。

 そして私が反撃できないと、当然ダメージソースがルリカとミュラ頼みになってしまい、それだけじゃこいつは押し切れない。

 そのうえ、ルリカが抑えられている以上、私のダメージはどんどん溜まるわけで……あかん、これ、本当にやばいかもしれない……こいつ、本気で強い……これが、Aランク。


「まずいわね。オル子が完全に押され始めてるわ」

「エルザ、私が行きます! オル子様に近づいて回復スキルを……」

「止めておきなさい。あいつ、戦いの最中にあなたから意識だけは外していないわ。こちらを牽制しつつオル子を集中的に狙っているのは、焦れてルリカが無謀に飛び出すのを狙っているのでしょう」

「でも……」

「我慢しなさい。オル子はこれくらいじゃ倒れないわ。反撃の前にあなたが死ねば、オル子を回復する手段がなくなってしまうのだから。見てみなさい、オル子の眼を。あの娘、全然諦めちゃいないわよ」


 いやあ無理かなあ! だってこいつ強すぎ! 私じゃ勝てません! てへぺろー!

 もうね、ひたすらタコ殴りにされてるだけの状態だもん。段々痛いって感覚すら段々薄れてきはじめて笑い事じゃなくなってるんですよ! 意識飛びかけてるんですよ!


「どうしたよ! だいぶ元気がなくなってきてんじゃねえか! さっきまでの威勢はどうした!?」


 ぐぬう、調子に乗りおって! こいつ、すごろくゲームとかやってる時に場の空気を最悪にするタイプだわ! 借金地獄は止めろお! 友情破壊ゲームは止めろお!

 とにかく、このままじゃホントに死んじゃう。なんとかしないと、でもなんとかってどうすればいいのよ。

 落ち着け、冷静に考えろ、考えろ、考えろ……考えるってなんだろう? 

 ふむ、シャチは考える葦である。葦ありませんけども。ヒレと尻尾ならあるんだけどにゃあ……ぐわあ、ボディブロー超痛い! 駄目だ! 私に考えるなんて絶対無理! 何も思いつきませんぬう!


「だんまりかよ。いいぜ、手前が心折れるまで殴り続けてやるよ。大したタフさだと賞賛するが、この先いつまでも耐えられると思うなよ!」


 思ってねえでごぜえますよ! 思ってねえから必死に考えてやがるんでごぜえますよ!

 でも、こいつを何とかする方法なんて出てこない。エルザも援護してくれてるけど、グラファンの嵐を止められない。ルリカも回復届きそうもないし……詰んだかな、これ。

 そんなことを考えていると、グラファンの良い一発が私の顎に直撃。あ、終わったこれ。


 ぐらりと大きく揺らいだ私の体に、トドメの一撃を繰り出そうとした、その時だった。

 大きく拳を振りかぶったグラファンの体に、巨大な黒い塊が衝突し、大きく後方にはじけ飛んだ。

 体当たりをして私とグラファンの間に割り込んだ魔物。それが誰かなんてアホな私でも考えるまでもない。

 空飛ぶ漆黒のシャチ――それは、私に変身したミュラ。


「ミュラ……あなた」


 よろける私を見て、ミュラはその場で一度二度と勢いよく飛び跳ねる。ええと……もしかして、凄く怒ってる?

 彼女の睨みつける先には、体当たりを喰らってなお悠然と笑うグラファン。


「驚いたな。チビ、手前はオル子にも化けられんかよ。だが、『足りねえ』な。その変身能力は性能まで本物と同じにはできねえようだな。そらよ!」

「ミュラ! 危ないわ! 逃げて!」


 グラファンが牙を剥いてミュラに襲い掛かる。

 だけど、ミュラは退くどころか前に出てグラファンと打ち合う選択肢を選んだ。

 ぐぬう! 駄目よ、ミュラのブラックオル子への変身時間は少ないの! もしグラファンと殴り合っているときにタイム切れを起こしたら……ひいい! 考えたくない!

 慌てて立ち上がろうとする私だけど、それを制止するようにルリカが駆け寄ってくる。


「動かないで下さい、オル子様! ヒーリングを行います!」

「そんなの要らない! ミュラが、このままだと私のミュラが!」

「落ち着いて下さい! ミュラ様も、エルザも、オル子様を回復するための時間を稼いでくれているのです!」


 ルリカの言葉に、私はハッとなる。

 よく見ればミュラだけじゃない。エルザもミュラと連携して、魔法と銃でかなり踏み込んだ戦いをしている。私という盾を使わない、無防備に身を曝け出している、まるでグラファンを誘い出すかのようならしくないエルザの戦い方。


「ちっ、うぜえ援護をしてきやがる! ウィッチ、手前、真っ先に殺されてえか!」

「私を仕留めている間にも、ルリカがオル子を回復する時間がさらに稼げるわね……そのおバカに救われた命だもの、今更惜しもうとも思わないわ。オル子さえ生きていれば、勝つ可能性は残る。なら私たちはそれを信じていればいい」

「くそがっ! ウィッチもガキも死を覚悟の上かよ! これだけのクラスの魔物が揃いも揃って、主のために迷いなく死戦に踏み込むなんざ……やはりオル子、手前は危険すぎる!」

「主なんてそんなに格好いいものじゃないけれど――殺させないわよ、私の『友達』は」


 そう言って、エルザはグラファンの正面から銃撃を放ち続けている。ミュラもそう。あんなにたくさん殴られてるのに、ミュラは一歩も引かずにグラファンに立ち向かい続けてる。

 その光景に、私は視界がぼやけて滲むのを止められない。ばか、ばかばかばか。みんなバカよ。

 私が絶対勝つと信じて、私を守るためにあんなにも危険な戦いをして。それでいて、少しも迷いがなくて。

 私、諦めてたのに。もう勝てないなって内心では泣き言だらけだったのに。こんなの、こんなの卑怯よ。


「オル子様、エルザもミュラ様もあなたの為なら喜んで死ぬでしょう。それは私やアクア・ラトゥルネも同じです。あなたに出会い、私たちの世界は変わりました。あなたという魔物に心惹かれ、共に歩みたいと願ったのです」

「……本当に、ずるいわね。エルザも、ミュラも、ルリカも、みんなずるっこよ。こんなの見せられたら、私、諦められないじゃない。無理ですなんて、言えないじゃない」


 床から空へ浮き上がり、私はヒレや尻尾を動かす。なんともない。

 エルザやミュラが時間を稼いでくれたおかげで、ダメージは完全に消えた。


 ……うん。やれる。いいえ、やらなくちゃ。やるんだもん。あんな光景を見せられて、黙っていられるほどオル子さん大人じゃないもん。

 エルザが、ミュラが、ルリカが私のために命を捨てる覚悟なら、私だって覚悟を決める。


「それじゃ、行ってくるわ。ルリカ、悪いけれど、あなたの仕事はここで終わりよ――私がグラファンを倒す姿、しっかりと見届けて頂戴」

「――はい、オル子様のお心のままに」


 ルリカに告げて、私は全力でグラファンに向けて加速した。

 完全に勢いを取り戻したグラファンは、ミュラを暴力の嵐に包み込んでいる。

 グラファンの遠距離攻撃を受けて、エルザも傷が深い。血を流しながら膝をついて、それでもまだ銃を構えている。

 ばか。本当にばか。みんなみんな、私の為なんかに無茶ばかりして――戦いが終わったら、いつもとは逆に私がみんなを『アホ』呼ばわりしてやる!


「私のエルザに、ミュラに手を出してんじゃないわよっ!」

「きやがったか、オル子! だが、少々遅かったな! 援護の二匹は潰した以上、手前に勝利の芽はねえ!」


 殴り続けていたミュラを大きく蹴り飛ばし、グラファンは私の襲撃に身構える。

 床に転がり、そこでミュラの変身は切れた。気を失い、ボロボロになっているミュラの姿に心が熱くなる。私のミュラを――こいつ、絶対許さないわ! ぎたんぎたんにしてやる!


 私の突進に対応し、カウンターの要領で拳を突き出してくるグラファン。

 戦い慣れしていない私の動きなんて、もう読み切ってるという状態ね。だけど――あまり舐めてくれるなよ?

 私の本気は、こんなもんじゃない。みんなが絶対に勝つと信じてくれたこの私は――こんなものじゃ絶対に終わらない! 終わらせない! 天使にもらったこのシャチートボデイはっ、パワーSは伊達じゃないわ!

 私は更に一段階速度を上げ、全力でグラファンの拳に自分からぶつかった。


「な……んだと?」


 ゴキリ。鈍い音が室内に響き渡る。


 音の正体なんて確かめるまでもない。私の衝突、そのあまりの力に耐えられず、グラファンの腕があらぬ方向へへし折れた音だ。

 殴られた私も半端じゃない痛みだけど、こんなの痛くない。痛くないったら痛くない。こんなのより、エルザやミュラやルリカを傷つけられる方が百万倍痛い。痛くないなら耐えられる!

 表情を顰めるグラファンに、私はそのまま加速を続け、グラファンの体ごと壁に突き刺さった。


「ぐおおお! こ、この野郎――ぐあ!」


 私から逃れようと、壁際でもがこうとするグラファン。

 だけど、それより早く、私は押す力を強めた。ミシミシと、敵の体から骨の軋む音が響いてくる。


 本当、私って馬鹿だった。どうしてこんな簡単なことに気づかなかったんだろう。

 戦闘経験豊富で、戦闘技術が自分よりも遥かに卓越している相手に、どうして真正面から挑んでいたんだろう。

 私が出来ることなんて、たった一つしかないのに。器用に立ち回ろうと考えずに、愚直にただ一つだけを貫けばよかったんだ。

 壁にめり込んだグラファンを確認し、私は少しグラファンから距離とり、そして再び加速をつけて突撃した。


「がはっ! て、てめえっ……ぐおっ! こんな無茶苦茶、ありかよっ! ぐああ!」


 ひたすら単調に。丁寧に。距離を取って全力で突進をグラファンの腹部に繰り返す。

 骨の折れる音が聞こえなくなっても、口から血を吐こうとも、止めない。

 敵が動かなくなっても、繰り返せ。愚直に。愚直に。愚直に。愚直に。



 どこまでも愚直に――圧倒的な力で、全てを強引にねじ伏せて蹂躙する。

 戦闘技術もスキルも能力も、その全てを踏み躙る。小細工なんて必要ない。残酷なまでの暴力で、相手を無慈悲に叩き潰す。それが私にできる唯一にして絶対。



 やがて、完全に抵抗を停止したグラファンを確認し、私は攻撃を止める。

 腹部を完全に消失させたグラファンは、参ったとばかりに清々しく笑い、私に問いかける。


「くははっ……なんつー無茶苦茶な奴だよ、おい……馬鹿力だけで戦況を一瞬で覆しやがって……マジで魔王みてえな奴だな、手前は……鍛え抜いた技も何もかも、剛腕でねじふせてくれやがった……」

「ふん……この娘たちが望むなら、私は神にも魔王にもなってみせるわ。終わりよ、海王グラファン。私の愛する娘たちを傷つけたこと――それがお前の敗因よ」

「そうかい……チビやウィッチどもに手を出したのが俺の運の尽きってか……ああ、くそったれ、マジで最高だな、手前は……すまねえ、イシュトス、負けちまったわ……」


 そう言い残し、グラファンは完全にこと切れた。

 最後まで苦戦させてくれた海悪鬼……いいえ、海王グラファン。彼の死に様を見届け、私は後ろを振り返った。


 そこには、ボロボロになったエルザと、気を失ったミュラを抱きかかえたルリカの姿が在る。あ、もう駄目、もう無理。もういいよね。我慢限界。

 私はびたんびたんと床を飛び跳ねながら、みんなへと駆け寄って絶叫。


「うぼああああ! みんな、勝ったよおおおおお! うわあああん! 生きてる、私生きてるうううう! みんな大好き、大好きだからあああああ! うおおん! うおおおん!」

「ちょっとオル子、返り血と涙と鼻水を人の服で拭うの止めなさい」


 エルザがべちべちと杖で頭を叩いて文句を言ってるけど、知ったことか! 涙も鼻水も微塵も止まらないのよ! 乙女の可憐な泣き顔よ、むしろ喜びなさいよ!

 オル子さん、今回凄く頑張ったもん! だから褒めて! 優しくして! 私を愛して! 食後のスイーツの量を三倍に増やして! あなたたちの知りうる限りの知人友人の男の子にオル子さんの素敵なところを沢山広めておいてえええええ! びええええん!









『レベルが9から12に上がりました。条件を満たしたので、スキル『サクリファシーワールズ』を獲得しました』


『海王を倒しました。称号『海王』がグラファンからオル子に譲渡されます。特殊スキル『海王降臨』を獲得しました』


『支配者の討伐に成功しました。『グラファン』の所有支配地が全て『オル子』へ譲渡されました。現在、あなたの統治する地域は14です。所有支配地が10を超えましたので、特殊スキル『支配地勢力図』を取得しました』



 

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