3.夢を追いかける女の子ってキラキラ輝いている、そうでしょう?
オル子です。途方に暮れて空を泳いでいるオル子です。シャチです。
異世界にて転生、超絶美少女になるはずだったのに、どうしてこうなったのよ。
このシャチボディじゃ、素敵な男の人と巡り会ってお嫁さんになって、幸せな家庭を作るなんて野望は夢また夢。
女子力に磨きをいくらかけても、この体じゃねえ……オスのシャチは寄ってきてくれるかもしれないけれど、そんなのちっとも嬉しくないのよ! シャチだって人間と恋がしたい!
「はあ……人間になりたい。もうスーパーチート美少女なんて我儘言わないわ。普通の女の子になりたい。こんな黒白ボディとおさらばして、素敵な男の子と恋がしたい……うわあああん! なんでシャチなのよ! 誰がシャチになりたいなんて言ったのよ! 天使のアホ! アホー!」
ビタンビタンと前足を横腹に叩き付けて愚痴を零してみるも、当然天使が現れてくれるはずもなく。
ただ、私の叫び声を聞きつけたらしく、空の向こうからバッサバッサと何かが飛んできた。
鳥……にしては、デカくない? 何か、一メートルくらいありそうなんだけど……え、プテラノドン? 何それ怖い。
なんかプテラノドンが翼広げてこっち威嚇してるんですけど。どう見ても私のこと敵視してるんですけど。え、なんで?
「キシャー!」
「め、滅茶苦茶怒ってる……何よ、ちょっとくらい悲劇のヒロインぶって嘆くぐらいいいじゃない! アンタに何が分かるのよ! 美少女に生まれ変わって幸せになれると思ったらシャチなのよ? この絶望の何がプテラノドンに分かるっていうの……こ、こら! 人の頭を突くなあ!」
こ、こいつ! 人が話してる最中だっていうのに、嘴で頭を突いてきた!
なんて礼儀知らずな鳥なのかしら。さっきの狼といい、異世界の動物はどうしてこうも野蛮なのよ! いや、野生の動物だから野蛮で当たり前なんだけど!
とにかく、このまま黙ってやられる訳にはいかないわ。
相手は見たところ、たかだが一メートル、数百キロ程度の鳥に過ぎない。
その点、私はシャチ。三千キロ級を超えるずっしりオルカ。教えてあげるわ、体格の差が動物界では全てだということを! という訳で突撃!
「だっしゃおらー!」
「ギギィ!?」
加速をつけて頭から突進。
私の頭突きは見事にプテラの腹に突き刺さり、思いっきり吹き飛んでくれた。
ふふん! 伊達に重量級やってないのよね! ……いや、花も恥じらう乙女が重量級ってどうなのよ。地味に傷ついたわ、ギルティ。
「ふ、呪うなら傷心の乙女の扱い方を学んでこなかったその身を呪うといいわ。デリケートな乙女をコケにしたこと、万死に値する! くらえ、必殺のスーパーオルカたいあた……」
トドメの一発をぶちかまそうと身構えると……あ、逃げた。プテラが逃げちゃったわ。
よろよろと右に左に揺れながら逃げるプテラ。わお、隙だらけじゃない。
……試してみようかしら。せっかくだし、コンフュ・エコロケーションってやつ、撃ってみようかしら。よし、迷うくらいならやっちゃえ。ごー。
「くらいなさい! 爆殺! コンフュ・エコロケーション!」
何となくノリで叫びながら使ってみたけど、これで何も出なかったら恥ずかしいってレベルじゃないわよね。
そんな悲しい予想に反して、スキルはちゃんと発動してくれた。
私の頭頂部から発射された黄金電波がプテラに向けて発射され、見事命中。その結果――プテラが狂った。
「ギギギギギィイィィ!?」
「うわ、怖! 鬼怖っ!」
その場でグルグルと高速で回りだし、支離滅裂な動きを始めたプテラ。えええ……何これ。
予想はしてたけど、コンフュってつくくらいだし、混乱効果でもあったのかしら。
プテラは奇声をあげ続け、変な動きで空を舞い続けてる……うん、なんか、ごめん。せーの。
「ほあたああああ!」
「グゲュ!」
プテラに向かってブリーチング・クラッシュをぶち当ててトドメを刺してあげた。
メキョっと嫌な音を立て、プテラは母なる大地へと墜落していった。死んじゃった。
……狼の時もなんだけど、動物を殺してるのに罪悪感とか全然ないのはなんでだろう。
以前の私なら、虫を殺すことすら無理ゲーだったのに。シャチになった影響でもあるのかな。
あと、襲われても恐怖感とか微塵も感じないし。不思議。
『ぴろりろりーん』
そんなことを考えてたら、脳内にまたヘンテコ効果音が。レベルアップかな。
『レベルが3から4に上がりました』
新規スキルは無しなのね。
でも、レベルが上がるってことは、これ、他の生き物を殺したら経験値もらえるってことなのかな。
レベルねえ……これ、上がったら何かいいことあるの?
ゲームとかじゃステータス上がって強くなったりするんだろうけれど、私、別に強いシャチになりたいわけじゃないし……私がなりたいのは最強シャチじゃなくて、人なのよ、人。
人になって、男の子と素敵な恋がしたいの。幸せな家庭を持ちたいの。一軒家で旦那様と一緒に生活して、子犬を飼うの。名前はポチ丸。真っ白でふわふわなワンコ……ああ、いいわ、実に素敵な未来だわ。
そんな未来が欲しかっただけなのに、今の私は頭のてっぺんからつま先までシャチだもん……人生やり直したい。人じゃないけど、シャチだけど。
「はあ……人間じゃなくて、せめて人型だったらなあ……マーメイドとか、ハーピーとか、獣人とかだったら、まだロマンスの可能性が……」
……いや、待って。ちょっと待って。
私、確かレベル20で進化するのよね? もしかしたら、進化の先に『人型』があったりするんじゃないの?
仮に進化の先になくても、『人型』になれるスキルとか魔法とか、そういうのがあったりするんじゃないの? 天使が言うには、ここ、異世界なのよね?
多分、さっきの狼やらプテラノドンやらは動物じゃなくて魔物だと考えると、あいつらを山ほど叩きのめして、レベルをガンガンあげていけば、私は『人』に戻れるんじゃないの?
「ありかもしれない……このまま死んでも天使のアホにまた会えるとは思えないし、それなら僅かな希望でも縋って前向きに生きるべきだと思うの」
私はグッと拳を握りしめて希望に燃えた。いや、拳ないけど。ヒレなんだけど。
そうよ、諦めてなんてやるもんですか。私には夢があるのよ。人になって、幸せな結婚を掴み取るまでは死んでやれないのよ。
シャチにされた、それがどうしたっていうのよ。その程度で私が夢を諦めてたまるもんか。
どんな手を使っても人に戻って、私は普通の幸せを掴み取るのよ! 結婚を、諦めない!
「とりあえず、レベルを上げるためにも動物……じゃないや、魔物に遭遇しないと」
うーん、森の中とか結構うじゃうじゃしてそうじゃない?
とりあえずとばかりに、私は高度を下げながら空を泳いでいった。地上に広がってる結構大きめの森にでも行ってみませうかね。