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27.恋愛には色々と理解があるつもりよ、してあげるとは言ってない

 



 グラファンが青い光を全身に纏っていて、嫌な予感ビンビンするんですけど!

ここは一度引いて様子見……否! 私が前に出なきゃエルザたちが距離を取れない! ええい突っ込めー! 女は度胸! 殴られたっていいからまずは時間を稼ぐのよ!

 私が盾になって有利な布陣を敷く、そしてグラファンを全員でタコ殴りにするんじゃあ!


「ここで躊躇なく前に出るかよ! 惚れ惚れするくらいのクソ度胸だが、俺相手にそれは無謀過ぎるぜ! 『鮫噛乱舞シャクル・パイレッツァ』!」


 うわあああなんかグラファンの拳に光が集まってるううう! 嫌あああ! 明らかに必殺技待機状態入ってるううう!

 でも今更突進を止められるかあ! こちとら守備力Aのタフガールよ! 殴るなら殴るが……いや! やっぱり顔は止めてボディにしてボディに! 乙女の顔は勘弁! ぎゃあ! 発動したあ!


「一つ、二つ、三つ四つ五つ六つ七つ!」

「あがっ!」


 グラファンの鋭いパンチが私のテンプルに直撃。ひぎい、痛い!

 よろめいたところに、容赦のないパンチの雨が私の顔面に次々飛び込んでくる。

 痛い痛い痛い! おま、顔は止めろって言ってんでしょ!? おふざけでないわよ!? ちょ、カメラ止めなさい! くぬあろー!


 怒涛の七連撃で、私の突進は止められてしまう。ぐう、顔変形してないわよね……美少女の顔になんてことを……だけど、完全に止められた訳じゃなくてよ。

 グラファンの拳の届く距離、それは私の攻撃の届く距離でもあるの。つーまーりー! 噛み付けるってことよ! 喰らえい! いや、喰らわせろい!

 私の全力噛みつき攻撃を、グラファンは思いっきり上半身を仰け反らせて回避。ふっ――体勢を崩して避けたわね? あなたって本当にお馬鹿さん!


「あれをくらってまだ動くのかよ! 獰猛な魔獣そのものだな、てめえ――がっ!」


 体勢を戻し、私を殴ろうとしたグラファンの頭が魔弾によって大きく後ろに弾け飛ぶ。

 完全に隙状態、それを見逃す手はないわ!


「ナイスアシストよエルザ! 吹っ飛びなさい!」


 その場で体を大きく旋回させ、全力で尻尾ビンタをグラファンの胸に叩き込む!

 エルザの魔弾と私の尻尾ビンタの連撃! これで沈まなかった魔物は存在しないわ! そのまま倒れなさ……ぬうおおお! 倒れるどころから反撃してきた!

 尻尾ビンタを喰らっても、グラファンは左足一本で踏ん張り、その反動で鋭い回し蹴りを放ってきた。回避? 無理無理、オル子さん巨体だもん。ぐへえ!


 横っ腹に鞭のような蹴りをぶち込まれ、私は床に二回、三回とバウンド。ぐぬう、私をサッカーボールか何かと勘違いしおって、許せん!

 即座に起き上がり、怒りのダイナミック突進を敢行するも、右拳を突き出されて止められる。頭は止められても、私にはヒレがあるわ! 

 日々のシャドーボクシングで鍛えたシャチ式ヒレビンタを喰らえい!

あ、駄目だ、ヒレが短すぎて敵まで届かないじゃん! なんて策士なのコイツ! 恐ろしいわ!


「サンダー・ブラスター!」

「甘えよ! 二度も不意打ちを喰らうかよ! もっとも、こんなもの何百発喰らったところで倒れるつもりはねえがな!」


 後方から飛んできたエルザの魔法を、グラファンは青光に包まれた裏拳でいなして流れを強引に変えちゃった。何そのチート拳法! 魔法無力化なんてずるい!

 だったら私の猛攻で手一杯にして無効化できないようにしてくれるわ! 名付けて『買い物に付き合わされて荷物がいっぱいでケータイにでれねえよ作戦』よ!

 拳一本で私を抑えたつもりのようだけど、甘くてよ? 私のフルパワーはこんなものじゃないわ! ふぬううう! 火事場の女子力うううう!


「っ、とんでもねえ馬鹿力だな手前は!」

「くふっ、声に余裕がなくなってきているわよ? 哀れね、非力な魔物って」

「いい挑発をしやがる……くははっ」


 ぬ? グラファンの奴、後方に跳んで距離を取ってきたわね。

 私を抑え込みつつ、エルザの魔法を凌ぐのは難しいと判断したのかしら。でもこいつ、ずっと拳でボコボコ殴る戦法しかとってなかったのに、急に距離を取るなんて……

 ぬうう! 嫌な予感ビンビン! 男が女の子から距離を取ろうとするときは何かやましいことを隠そうとしているときに違いないわ! 少女漫画で鍛えた乙女の第六感を信じろおおおお! タゲ取りスキル『レプン・カムイ』発動よ!


「レプン・カムイ!」

「喰らいつけ! 『忍び寄る海狩人グレタ・ホワル・シャクル』!」


 グラファンの掌から生み出された魚型の魔弾が次々と私の背後のエルザたちに向かい……かけて、思いっきりUターンで私に全部直撃。

 あだだだだだ! 一発一発がグラファンに本気でぶん殴られてるみたいに痛い! 10発はやばい、本気で死んじゃうって!


「ミュラ、合わせて! サンダー・ブラスター!」

「ちいっ!」


 私がタゲ取りという名の魔弾被害にあっている間に、エルザとエルザに変化したミュラがグラファンに向けて雷の嵐を放射。

 私のブリーチング・クラッシュもそうだけど、大技スキルには硬直時間があるもの。それを狙いすましたエルザの攻撃に、流石のグラファンも回避はできなかったみたい。

 雷が直撃して吹き飛ばされている間に、ルリカが駆け寄ってきて私にヒーリングをかけてくれる。


「大丈夫ですか、オル子様!」

「回復ありがとう、ルリカ。助かるわ」


 ルリカの癒しパワーでピットイン完了。

 しかし、本気で強いわねアイツ……流石はAランク、海王なだけのことはあるわ。

 これまでの魔王の眷属とは段違いの強さね。正直シャチスペックやエルザたちの進化パワーで楽に勝てるかなって舐めてた。

 だ、け、ど! 負けるわけにはいかないのよ! 私の人化が、恋の行方がかかってるのだから!

 私はギンと鋭い視線をグラファンへと向けなおす。もちろん、ルリカを庇うように前に出て。

 そんな私に、グラファンは獰猛な笑みを浮かべたまま軽く話しかけてくる。


「あのタイミングで防がれるとは思わなかったぜ。後ろの邪魔な連中を消そうと思ったんだがな……俺のとっておきの『忍び寄る海狩人』を見切るとは、手前、本気で化け物かよ」

「あれでとっておき? 随分と期待外れもいいところだわ。あれを使っても他の連中には当たらないわよ。私が全て止めるもの」


 嘘です。ハッタリです。レプン・カムイはチャージタイムが長いので連発できません。しかもあんな強力なスキルの盾に二度となりとうないです。だからお願い、騙されて!

 私たちを一瞥しながら、グラファンは肩を一回し。こいつ、あれだけ攻撃を喰らって本当に効いてないの? 私はちょー効いてるんだけど……心折れるう、これだから鬼耐久は。


「オル子、これから本気で殺し合う前に、手前に一つだけ問いたい。手前はこれだけの連中を揃えて、どこへ行くつもりだ?」


 ……うん? いきなりこいつ、何言い出してるのかしら。

 戦いの最中にいきなり質問タイムって、え、もしかして回復狙い? でも、回復スキルなんて持ってるように思えないし、これチャンス? 不意打ちしてもいいの? 突っ込む?


「手前もそうだが、そこのウィッチもチビも明らかに普通じゃねえ。ルリカをはじめとしたアクア・ラトゥルネの生き残りは全部手前の下についてやがる。それだけの勢力を揃え、俺を殺して『海王』になって、手前は何処を目指してやがる? ただの一介の魔物として終わる訳がねえ」


 目指す先。そんなものは決まってるじゃない。

 人化して! 恋をして! 愛するダーリンと結ばれて! 子宝に恵まれて! 可愛い白い犬を飼って! 幸せな日々を過ごす! そんな素晴らしき世界、家庭を作ることよ! それが我が夢我が野望! そこに令嬢設定があればなおよし!

 私の目指す場所なんて、それ以外に存在しないじゃない! ぬう、つまらん質問をなげかけおって! 言い返してやる!


「私の目指す場所なんてただ一つ――私の欲望の全てを満たしてくれる素晴らしき世界よ。そこに至るまでの道は誰にも邪魔させないし、道を阻む愚かな連中は容赦なく蹴散らしてやるだけ」

「世界……かはっ、世界かよ! 『魔王』ではなく、世界ときたかよ!」

「『魔王』なんて興味はないわね。有象無象の魔物どもを率いて王様ごっこして何が楽しいの? 私の欲望はね、そんな子供遊びでは満たせないのよ」


 魔王プレイは私の求めるジャンルではござらぬ! 王女様プレイなら考えるけども!

 私の夢は魔王よりももっともっと価値あるサムシング! 女の子としてキラキラ輝けるような恋がしたい! 輝く時に捕らわれていたい! デートの待ち合わせとかしたい!

 そんなことを考えていると、グラファンの奴、床を蹴って私に疾走してきた。ちょ、話しかけておいて不意打ちとか! 私はヘッドバッドで反撃。ついでにシャチビンタもくらえい!

 グラファンが私をタコ殴りにしつつ、狂ったように笑いながら声を上げる。


「手前、本当に最高だな! ああ、最高だ! 海王のジジイを超えるため、あの方に力を解放してもらったが、そうじゃなかった! 俺の力は、オル子、手前を殺すためにあったんだな! こんな突き抜けた『バカ』と殺し合えるなんざ最高じゃねえか! 魔王を、魔選を児戯などと抜かす狂った魔物なんざ手前くらいだろうよ!」

「一人で勝手に盛り上がって鬱陶しいわ! 満足したなら早く死になさい!」


 用があるのはグラファンじゃなくて、宝物庫にある翡翠の涙結晶なのよ!

 うぐううう、とんでもない乱打戦に持ち込まれちゃった! 近過ぎて、エルザたちもなかなか援護ができないじゃない! こいつ、本当に戦い慣れ過ぎ!

 むがあああ! イライラするううう! ボスキャラなら複数対一で戦いなさいよ! 集団にボコボコにされるのがボスキャラのお約束でしょうが!


「手前が創り出す世界、興味は尽きねえが――手前はここで殺しておかなきゃならねえ! 在り方、強さ、王者としての性質……申し分ねえ。近い将来、手前は間違いなくこの世界に名を轟かせる魔物になるだろう! だがな、主の覇道の為に、将来の脅威となる手前はここで仕留めなくちゃならねえんだよ!」

「あの方だの主だの鬱陶しいわね! 戦う理由を他人に拠るような奴に私が倒せるか!」


 全く、大の男があの方だ主様だご主人様だと叫んでからに!

 どれだけその主様のこと好きなんだっていうのよ! 筋肉男が主様主様お館様って……あ……そういう……



 

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