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26.険しい道は踏破してこそ自信になるの。へい、タクシー

 



 通路で遭遇した魚人を圧縮。階段を上がってくる魚人を圧縮。

 潰して潰してつぶつぶみかん。ルリカによる水のヴェールと回復スキルでノーダメージプレイ続行中。


「あれよね。ブロック叩いてタイム切れの無いチートなお星様をゲットして、そのままダッシュでゴールまで向かってる気分だわ。マンマミーア!」

「無駄な力を消費しなくて済むのはいいことだわ」


 エルザ、ずっと銃で戦ってたもんね。

 サンダー・ブラスターはボスにきっちり温存、きっとラストダンジョンでも貴重な全回復薬を使えないタイプね。私は思い立ったら無計画にどんどん使う駄目子ちゃんです!

 でも、私たちかなりの数の魚人倒したんじゃないかしら。来た道を辿れば、あちこちにR18指定級の魚人だった成れの果てが転がってるし。暴力が全てを支配する世紀末異世界へようこそ!


「オル子様、まもなく海王の間に辿り着きます」

「海王の間、ううむ、響きが凄くボス部屋っぽいわね。だけどその海王の看板は今日限りで下ろしてもらおうかしら。今日グラファンとやらを私が倒して、海王の座は私の物となるのだから! 海の覇王に二者はいらぬう! 天を握るは常に一人、海を統べるはこのシャチよ!」

「ヒレをバタバタ上下して力説してるところ悪いけれど、敵の前では」

「流石にボスの前ではちゃんとワル子を演じるわよ! 強敵との戦いだもの、舐められた方が負けだということは理解しているつもりよ!」

「なら結構」


 エルザったら心配性ね。言われなくてもボス戦は真剣プレイが信条よ。

 なんてったって、この戦いには翡翠の涙結晶がかかっているからね。これに勝てば晴れて人化、私の純愛ストーリーの幕開けとなるのだから。

 私との出会いを今か今かと待ち続けるヒーローのためにも、私は何としても勝つわよ。グラファンとかいう奴、恨むなら海王の座についた己の不幸を呪うがいいわ!


 ボクシングの挑戦者入場のごとく、シャドーボクシングしながら進んでいると両開きの荘厳な扉がこんにちは。

 むむ、ルリカに指摘されなくても分かるこのボス部屋前の空気。セーブポイントとかありそう。


「さて、ボス戦ね。魔王の眷属以外の強い奴と戦うのは初めてだから、少し緊張気味かも。おおう、ドキドキしてきたわ。やばいわ、エルザ、もしグラファンから『手を組むなら世界の美青年美少年の半分をやろう』って言われたらどうしよう? 私困っちゃうかも! 優柔不断型ヒロインな私には誰かなんて選べないわ、許してカイン! クラエス! グレンシーナ!」

「グラファンを殺して残りの半分も奪えばいいんじゃないかしら」


 やだ、エルザの回答、男らし過ぎて素敵かも……本物の魔物娘は格が違いますわ。

 こういうタイプが恋人だと、困った時に何食わぬ顔でスルッと対応してくれるものなのよね。

 ううむ、何だかエルザが男だったら私の悩み全部解決するような気がしてきたけど気のせいかしら。

 戦いの前にルリカが私たちに全体ヒール。よし、元気になったわ。では参りましょうか!


「みんな、これまで長い間一緒に戦い抜いてくれてありがとう! これが私たちの最後の戦いよ! この戦いに勝って、私は人化してまだ見ぬダーリンと添い遂げるわ! レッツ・ラグナロク!」

「ルリカは私の傍から離れないで。ミュラ、あなたはオル子の動きに合わせて遠くから攻撃しなさい。立ち回りとしては、オル子を常に頑丈な盾として使うことを忘れちゃ駄目よ」


 この私を重盾と申したか。ミュラも素直に頷いてる、ううん可愛い。

 ぐぬう、でもみんなの盾代わりなら別にいいや。エルザもミュラもルリカもみんな私が守ってあげるわ! だからみんな、人化したら一緒に社交パーティーに参加してね! ほら、ぼっちで参加して、みんなにクスクス笑われたら恥ずかしいし……チキンな私です。


 大きな扉を押し開けて、私を先頭にしてボスのお部屋に入室。お邪魔しまーす! グラファン君いますかー!

 広い玉座の間、その最奥にある王様椅子にふんぞり返っている巨大魚人発見。わお、デカいわね。ルリカの言う通り、三メートルくらいあるんじゃないの?

 水色の肌、裂けた口と鋭い牙、筋骨隆々の体、上半身丸出しのスタイル。武器は無し、と。

 私たちの登場に気づいたのか、グラファンはゆっくりと椅子から立ち上がろうとして――馬鹿め! そうはさせないわ!


「甘いわ!」

「なっ」


 オル子さん、非情の開幕先制ロケットダイブ! 全速力で無防備な胸板に突貫!

 私の体当たりをモロにうけ、グラファンは玉座をぶち破り、遥か後方の壁まで吹っ飛んで行っちゃった。

 ふ、私はカップ麺にお湯を入れて二分で食べはじめる女なのよ! 戦場で敵がちんたらしてるのを待ってられませんわ!


「戦場でいつまでも椅子にふんぞり返っているなんて愚かな奴ね。そんなに休んでいたいならあの世で好きなだけ寝ていなさいな。戯けた天使が喜んで相手してくれるわよ?」


 壁にめり込んでるグラファン君を挑発。

 むふ、こうすることで奴のヘイトを私に集中させるって寸法よ。エルザにもミュラにもルリカにも指一本触れさせぬわ! オル子さんは情に厚い良い女なのよ、はい復唱!

 私の挑発が効いたのか、グラファンは鋭い瞳をギンと光らせ、私を見つめる。 おお、怖い怖い。そして、ニヤッと口を釣り上げて壁から抜け出してきた。ぬう、ダメージあんまりない? 割と本気でぶちかましたんだけどにゃあ。


「やるじゃねえか。目が合うなり、問答無用で殺りにくるとはな。誰だ、手前?」

「死にゆく相手に名乗る必要性は感じないのだけれど、まあいいわ。私の名はオル子、これからお前を殺す者よ」


 すっと立ち上がり、グラファンは首を一度二度鳴らしてる。

 うぬぬ、随分と余裕そうじゃない。流石に他の雑魚連中とは違うわね。

 私たちを一瞥し、ルリカの姿を視界に入れ、ククッと喉を鳴らして笑う。うーん、獣の笑いって感じ。もっと上品に笑えないのかしら、この私のように! おほほのほ!


「城の中に居ねえからどこに逃げたのかと思えば。ルリカ、手前がこいつらを引きつれてきたのか。強い連中を頼って親父の復讐とは笑わせるじゃねえか」

「ご冗談を。父があなたに負けたのは、父があなたより弱かった、この世界では強き魔物が弱き魔物を支配する……当然の摂理です。私がここに来たのは、そんなつまらぬ理由ではありませんよ」

「ほう? ならば何しにきやがった?」

「我が主、オル子様があなたの命をお望みなのです。ならば、敬愛するオル子様のために尽力するが私たちアクア・ラトゥルネの役割というものです。グラファン、オル子様の為にここで死んでください」


 あの、ルリカ、純真無垢な笑顔でその台詞、ちょっと怖いんですけど。

 ルリカの言葉を聞き、グラファンは獰猛な笑みをさらに深くさせる。


「アクア・ラトゥルネの生き残り全員が手前に膝を折ったのかよ。外の連中も蹴散らしたようだし、さっきの一撃といい、オル子、てめえ強いじゃねえか。俺の命を狙っているてことは、てめえも海王の座が欲しいのか。この南海覇者の証たる称号が」

「そんなもの要らないわよ、お前じゃあるまいし」

「海王に興味がねえだと? なら手前、何のために俺の命を狙う? ルリカに頼まれてそいつの親父の敵討ちって訳でもねえんだろ」


 なんかやけに私のことに食いついてくるわね。

 もうさ、会話なんてしなくてさっさと戦わない? オル子さん、開幕ぶっぱしたから気持ちが戦いモードに入っちゃってるのよね。戦闘中にスタートボタン連打されると萎えちゃう。


「この城の宝物庫に用があるのよ。お前の命はその駄賃替わりだわ」

「なんだ、そんなものが望みかよ。だったらオル子、手前は部下ともどもまとめて俺の下につけよ。てめえの望みは俺が叶えてやる」

「……は?」


 えっと、いきなり何言い出してんのこの魚人。意味不明なんですけど。

 私の望みって、人になって、滅茶苦茶素敵な人と出会って、恋愛して結ばれて子宝に恵まれて真っ白な犬を飼って……そんな一大夢ストーリーなんだけど、それを叶えてくれるとな? ま、マジで!?


「今が『魔選』の真っ最中だってことはお前らも知っているだろう。あの方が魔王になるためには、強力な配下が何人いたっていい。お前が俺の下につくなら、城の宝を全部くれてやる」

「ふ、ふーん! 全然興味はないけれど、もう少しだけ話を聞いてあげるわ。それでそれで?」


 エルザが無言で私の頭を叩いてるけど、待ってエルザ、今いいところだから!

 翡翠の涙結晶に加えて、お城の宝を全部くれるですって? こんだけの規模のお城なら、それこそ金銀財宝たんまり眠ってるんじゃないかしら?

 人化して、それを持って人間の国に忍び込んで、財宝を元手に一代貴族に成り上がって令嬢としてやっていく……これ、有りじゃない?

 配下になるとかどうこう言ってるけれど、そんなの後で無視して『配下になるとは言ったけど協力するとは言ってない』って言い張れば問題なし。

 おおお、こ、これはいける! 心の天秤がグッと傾いちゃう! 今すぐハンコを押しましょう、契約成立させましょう! こんな良条件、速攻で飲むしか……なに、エルザ、小声で相談?


「分かっていると思うけれど、受け入れちゃ駄目よ」

「え、でもエルザ、この話を受け入れたら全てが解決するのよ? 人になって財宝手に入れて私の令嬢物語が始まるのなら、私はドラゴン・キングの取引にだって応じる所存!」

「馬鹿ね。こいつを殺したらこの城の物は自動的に全部あなたの物になるのよ? こいつの下について自由を制約されるより、そっちのほうがいいでしょう?」

「あ、本当だ。よく考えたらこいつの下につくメリット何もないじゃないの。エルザ、頭いい!」


 あ、危ない! 危うく騙されるところだったわ! まさか異世界で詐欺にあいかけるとは何て卑劣なの! こういう手合いを追い払うのはいつも妹の役割だったからね、ちょっと危なかったわ! 本当にちょっとだけね!

 話し合い終了。私はくるりとグラファンの方へ視線を向け、提案を一蹴。ふ、私は頭が良いからそんな手口には騙されないのよ! えっへん!


「愚かね。そんな面倒をしなくても、お前を殺して全てを私の物にすれば同じことじゃない。何を言っても無駄よ。私がお前を殺す――これは確定事項なのだから」

「ハッ、やっぱりそうくるかよ。実に魔物的、欲しい物は力づくで奪う、それが俺たちの生き方だよな。そうやって俺も海王のジジイをぶっ殺してここまで来たんだからよ!」


 そう言い放ち、グラファンは気合いを入れて咆哮をあげる。

 ぬわお、グラファンの体の周りを青い光が包んでる! これが海悪鬼さんの戦闘態勢なのかしら! 戦闘前の識眼ホッピング入りまーす! それ!






名前:『海王』グラファン

レベル:7

種族:ブラッド・シャクルリカ(進化条件 レベル20)

ステージ:5

体量値:A* 魔量値:D 力:A 速度:A*

魔力:D 守備:A* 魔抵:C* 技量:A* 運:B


総合ランク:A






 ぬう、Aランク! やっぱり格上なのね! Sじゃないだけまだマシだけど、私より二つも上とはなかなか厳しい!

 なんか各ステータスに変な記号ついてるけど、何かしらこれ。アスタリスク付きって通常のものより強いの、弱いの? 

 名前の横に『海王』ってついてるのも分かんないし。これ名前じゃなくない? うぬう、誰か説明書プリーズ!


「勿体ねえが、俺の物にならねえなら殺すしかねえよなあ!」

「あら、気が合うわね。私も同じ考えよ。欲しい物があるなら強引にでも奪い取ればいいだけのこと。だからお前を殺して私が欲する全てを奪ってあげるわ!」

「面白え! 面白え! 手前を喰らって俺は更に上へと昇ってやるよ、オル子!」


 そうよ、恋はいつだって戦争なの!

 翡翠の涙結晶も、素敵な彼氏も、指をくわえて待っているだけじゃ手に入らないわ! 欲しい物は力づくでも奪い取る、それが現代乙女の生き様よ!

 肉食系女子オル子さん、いざ参る! 海悪鬼グラファン! あなたの命と『俺、お前のこと好きだよ』って照れ顔で言ってくれる彼氏を私に寄越せえ!




 

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