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24.女神の顔も一度までって言葉を知らないのかしら

 



「ぬぬ! そろそろきたんじゃないかしら!」


 本日22匹目のカエルを轢殺し、私は後方に下がっているミュラに視線を向ける。

 するとミュラは、私にこくんと力強く頷き返してくれた。おおお! ミュラ、とうとうレベルが20になったのね!

 ぼよんぼよんと跳ねながら、私はミュラに近づいて頬ずり頬ずり。


「レベル20おめでとうミュラ! とうとうミュラが進化の時を迎えるなんて、お母さん嬉しいわ! ここまでよく頑張ったわね!」

「頑張ったのはカエルを潰しまくっていたあなただと思うんだけど。それよりもミュラ、あなたの進化先に『オルカ』と名の付いた進化先はあるかしら?」


 エルザの質問に、ミュラはこくんと再び首を縦に動かした。

 おおー! オルカ進化がミュラにもやっぱり存在してるのね! シャチの呪い、恐るべし!


「ミュラが喋れないから他の進化先を知ることができないけれど、まず間違いなくエクストラ・クラスの方が強くなれるでしょう。ミュラ、進化先はオルカと名のつく方を選んで。そっちがオル子に関係する進化先だから」

「オル子様の名を冠する進化先、ミュラ様が凄く羨ましいです……私もステージ3に上がればエクストラ・クラスに進化できるのでしょうか」


 羨ましそうな顔でミュラを見つめるのはルリカ。

 心配しなくても間違いなくなれると思うわ。シャチの呪いは仲間になった人に対して見境なしっぽいし。本当に性質の悪いウイルスみたい。

 私たちから少し離れて、ミュラは瞳を閉じて意識を集中。おお、し、進化しちゃうのね! エルザ、デジカメの準備しましょう! 娘の一世一代の晴れ舞台を記録するのよ!


 眩い光に包まれ、ゆっくりと収束した中から再びミュラが姿を見せた。

 だけど、エルザの進化したときと同じで、ミュラの服装が大きく変わっちゃってる。

 これまでのドレスのような恰好から、彼女の全身をすっぽりと覆うようなフード付きのシャチパジャマ。白黒の色調、そしてコミカルな表情を浮かべた顔のシャチが特徴的なもこもこパジャマ、うむ! かわいいいい!


「ミュラ、とても可愛いわよ! シャチのパジャマなんて、そんなにあなたはお母さんが好きなのね! 私も大好きよ、世界で一番愛してるわ!」


 これでもかと褒めると、ミュラは満足げに私の顔に抱き付く。

 むふ! 親子の愛を確かめ合う瞬間、これぞ絆だわ! シャチとシャチぐるみ娘の感動シーン!

 そんな私たちに、エルザは肩を竦めつつ確認。


「オル子、識眼ホッピング。ミュラのステータスがどう変化したのか教えて頂戴」

「おっと、そうでした。むむむむーん! 電波受信、識眼ホッピングー!」


 ミュラのステータスをチェックするべく、スキル発動!

 どーれ、ミュラの能力はどう変わったかなあ。





名前:ミュラ

レベル:1

種族:オルカナ・デモン(進化条件 レベル20)

ステージ:2

体量値:F(G→F) 魔量値:S(A→S) 力:F(G→F) 速度:F(G→F)

魔力:E(G→E) 守備:E(G→E) 魔抵:D(E→D) 技量:S(A→S) 運:C


総合ランク:B-(D-→B-)





 おかしいでしょこれ。

 何がおかしいとかじゃなくて、いや、えーと、えええ? 能力上がり過ぎを通り越してる気がする。

 能力が二段階あがってるものもあるし、魔量値と技量なんてSよ。S二つって、私でもないわよ? リナクラスじゃない。ステージ2でこれって、ステージ上がっていったらどうなるの?

 ランクもB-まであがってるってことは、えっと……6段階昇進? エルザと同じ上がり幅とはいえ、ランクがB-までワープって……


「エルザ、ルリカ」

「何?」

「どうしました?」

「私の娘が未来の魔王かもしれない件について。本物のチート能力者っているものなのね」

「つまらないこと言ってないでどうしたのかちゃんと説明しなさい」


 半信半疑状態ながら、私はミュラの進化について二人に説明する。

 説明後、ルリカは私のように唖然として、エルザは考え込む様子を見せている。そりゃ驚きもするし考えもするわよね。

 こてんと首を傾げるミュラ。やだ、凄く可愛い。ミュラの天使っぷりをみていると、なんだかどうでもよくなってきたわ。ん? 何、ミュラ? 何か伝えたいことがあるの? ほむ。


「自分の時も実感したことだけど、オルカ進化、とんでもない力ね。この力があれば、仲間を集めれば集めるほど強力無比な軍団が作れてしまう……魔王の器、統べる能力、そしてオル子自身の力ならば……」

「エルザ、エルザ! ミュラが何か見せてくれるみたいよ! 新スキルかも!」

「っと、ごめんなさい、ボーっとしてたわ。ミュラ、あなたの新しい力を見せてくれる?」


 両手を翳し、ミュラは意識を集中させ始めた。これはミュラのいつも使っている変身能力と同じ流れね。

 そして、掌に生み出したのは黒い球。けど、これまでと違うのはそのサイズ。

 今まで野球ボールだとしたら、今回のは大きい。バランスボールくらいあるかしら。

 大きな黒球にミュラは力を込め続け、その形を大きく変形させていく。ミュラの力によって生み出された黒球は、みるみるうちに形状を見慣れたシャチボディに変えた……って、またこれ私じゃないの!?


「小さなオル子様ですね。色は真っ黒なうえに、大きさは半分ほどになってますが」

「以前生み出されたチビオル子はミュラに食べられちゃったわけだけど……まさかミュラ、このチビオル子二号も食べちゃうの?」


 ミュラの方を見ると、ブンブンと首を振って否定。食用ではないんだ。

 じゃあこれ、いったいどうやって使うのかしら。抱き枕としてはなかなか便利そうな感じだけど。首を傾げていると、ミュラが生み出したチビオル子に飛び乗った。

 その瞬間、チビオル子の目が光り輝き、ばたばたとヒレを羽ばたかせて空を飛び始めちゃった。な、なんと! こいつ、動くの!?

 数メートルほど空を飛び、その場でグルグルと旋回しだすチビオル子とミュラ。おおお! まさかの乗り物を生み出すスキルだったのね! ごいすー!

 感動していると、真っ黒なチビオル子の口がパクパクと動き、そこから機械的な音声が発される。


『カレシホシーヨー! カレシホシーヨー!』

「ちょ」

『オウジサマボシュー! オウジサマダイボシュー!』

「驚いたわね。オル子そのものじゃない。これじゃどっちが本物か分からなくなっちゃうわ」

「そうですね、よく見ないとどちらがオル子様か間違えてしまいそうです」

「ちょ、二人とも酷い!? 私あんな直球なこと言わないでしょ! もっとオブラートに包んで慎み深く言うもん! 大和撫子オル子さん、はんなりはんなり、殿方募集中どすえ?」

「あ、目から攻撃を放ってる。移動と攻撃を兼ねるなんて凄いわね」


 チビオル子が目からビームを放ちながら名誉棄損も甚だしい台詞を吐きまくってる! 

 や、野郎! ぶっ壊してやるう! そんなことするとミュラが悲しむから口だけなんだけど! くそうくそう!


「何はともあれ、合格ね。変身能力に加え、ステータスの上昇、そして変身せずとも戦うことのできる新スキル獲得、申し分ないわ。あれなら海王城でも戦力として活躍してくれるでしょう」

「むあああ! ミュラ、その全然似てない偽オル子は戦闘時以外乗っちゃいけません! ほら、そんなのポイしてお母さんの背中においでまし!」


 私の声に反応して、ミュラは地面すれすれまで急降下。

ぽひゅんと間抜けな音を発して偽オル子は霧散し、ミュラは再び私の上にライドオン。

 うむ! ぽっと出のパチモンにミュラは渡さないわ! やっぱりオル子がナンバーワン! やっぱり本物がナンバーワン!


「今日はゆっくり体を休めて、明日になったら海王城とやらに向かうとしましょうか。ルリカ、道案内をお願いするわ」

「任せて下さい、エルザ」


 あれ? ルリカ、今エルザのこと呼び捨てにした? 仲よさげ?

 ぬぬ、いつも間に距離を縮めたのよ。あ! 昨日私を追い出して二人っきりになったときに仲良くなったのね! ずるいわ、ずるいわ、ずるいわ!

 ルリカのスカートをヒレでグイグイと引っ張って、シャチの必死の主張。


「ルリカ、ルリカ。私のこともオル子って呼んでいいのよ? エルザみたいにフランクに!」

「それはできません。オル子様は私たちのご主人様ですから……ああ、落ち込まれているオル子様のご尊顔もとても魅力的で私、参ってしまいます。こんな夢のような世界を今まで独り占めしていたなんて、エルザはずるいわ」

「ずるいと言われてもね」


 ルリカに拒否られトボトボと敗走。いいえ、これは逃げではない、明日への前進よ。

 主従関係とかじゃなくて、もっとこう、柔らかい関係に寄せていけないかしら。ご主人様よりもお友達、そういうものにシャチはなりたい。
















 翌朝、三人を背に乗せて海岸沿いに西に飛ぶこと数時間。

 見えてきました海王城。海岸に面するように建てられた、何だか超巨大な巻貝を思わせる水色建造物。ううん異世界アート。


「あちこちひび割れたり穴が空いたりしてるのは、グラファンって奴に攻められたから?」

「おそらくそうだと思います。城には戦闘型のアクア・ラトゥルネが二十人ほど残ったのですが、王と徹底的に抵抗し、共に最期を迎えたのでしょう」

「そっかあ……でもルリカ、結構淡々と話すのね。王様が死んだこともショック受けてないって前に言ってたし、無理だけはしちゃ駄目よ?」


 私の質問に、ルリカはこてんと首を傾げる。

いや、ほら、親御さんが亡くなって悲しみで無理をしたりするのもね?


「強い種族が弱い種族を食う。殺し殺されは魔物の世界では当たり前のことだからオル子が言うほど悲しみに暮れないものなのよ。もちろん、怒りや悲しみを覚えない訳ではないけれど」

「にゃるほど。野生の掟ってやつは厳しいね」

「オル子様は私を心配して下さったのですね。ありがとうございます」


 ええのよええのよ。私はヒレをぷいぷいと振って応えてあげる。

 さて、海王城についたものの、どうしましょうかね。

 正面に大きな門の入口はあるけれど、人型の魚人が二人立っているわね。あれが『シャクル・ラトゥルネ』って奴らかしら。


「どうする? ここから銃で狙い撃って押し通る?」

「ほむ、いきなり殺すのもあれじゃない? エルザさん、敵はあくまで海悪鬼グラファンであり、私たちの目的は翡翠の涙結晶を手に入れることでしょう。抵抗しない方々は優雅に逃してあげてこそ淑女というものですわ。まずは対話、対話を試みましょう」

「対話ねえ……まあいいわ。オル子に任せる」


 FPSじゃないんだから、いきなり射殺っていうのもね。現代世界から来た私には、問答無用で殺すなんてできない!

 私たちも鬼じゃないの。軽く脅して、抵抗しない人は生かすべきなのよ。そう、言うなれば寛容さと慈悲を示してあげるの。

 そうすればオル子の名が、優しさの女神の代名詞として、見逃してあげた子孫代々にまで語り継がれるってものよ。

 魔物になってから精神も引っ張られているのか、生き物を殺すことに微塵も抵抗なくなってきてるんだけど……そこを敢えて、ね。

 お城の入口の傍に着陸し、私は三人を下ろしてあげる。


「それじゃ、ちょっとお話してくるわ。何、この優しさの女神であるオル子さんがお話すればちょちょいのちょいで無血開城間違いなしよ」

「連中が牙を剥いたら即座に撃ち殺すから、安心してやりたいことをやってきなさい。成功は微塵も期待してないから」

「まあ、撃ち殺すなんて怖いわ。おほほ、大丈夫、人間は言葉で分かり合えるものですわ」

「あなたも相手も魔物だけど」


 ふよふよと空を飛び、私は門番さんたちの前に現れる。

 鎧を着こんだ青肌の魚人さんたちこんにちは。ネゴシエイターオル子さんがやってきましたよ。さあ、オハナシしましょう! ちょっと頭を冷やシート!


「ふふっ、そこのお二人さん、少しお話いいかしら?」

「な、なんだこの空飛ぶデブ魚は――がっ」

「こんな不気味な海獣がこの海域にいるなど聞いたことない――ひゅ」


 さよならガンジー。あなたに別れを告げ、オル子は鬼になります。

 頑丈そうな鎧ごと押し潰し、一瞬にしてグッバイ。


 というか、デブじゃないもん! 不気味じゃないもん! 初対面で可憐な女の子に暴言吐くってどういうことよ!? 一度は聞き逃してあげてもよかったけど、二回は許さぬ!


「よくよく考えたら、こいつらってルリカのお父さんや仲間を殺してるのよね。温情かける必要なんてないわよね。よし、一匹残らず消しましょう、そうしましょう。ルリカの家族殺しプラスうら若き乙女への暴言、ギルティ! 断罪執行!」


 乙女へのとんでもない侮辱、死してなお生温い! ましてや女の子の体重や容姿をバカにするなんて言語道断!

 乙女の敵などこの怒れるオル子が一匹残らず駆逐してやる! 今宵は3トン級シャチ無双じゃあああああ!







・ステータス更新(ミュラ進化)


名前:ミュラ

レベル:1

種族:オルカナ・デモン(進化条件 レベル20)

ステージ:2

体量値:F 魔量値:S 力:F 速度:F

魔力:E 守備:E 魔抵:D 技量:S 運:C


総合ランク:B-(D-→B-)



 

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