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23.仲間になったときの音楽をリコーダーで練習したりしたものよ

 



 アクア・ラトゥルネのみんなをオル子ハウスにご招待完了。

 ルリカたちは現在、館内を回ってる最中。これから住む部屋を決めたりしてもらってるわ。

 その間、私は休憩タイム。ボス戦頑張ったからね! マイルームで寝転がってリラックスタイムを満喫中よ。ごろごろーん。ごろごろごーん。ついでにストレッチもしておこうかしら。背筋も伸ばしー。


「オル子の仰向けってなんだかとてもシュールな光景よね」

「スレンダー美少女を目指す私として、毎日の軽い筋トレとストレッチは欠かせないのよ。明日のくびれのためにも足上げならぬ尾びれ上げ腹筋よ! むふー! ミュラ、お腹がくすぐったいわ!」


 仰向けになっている私のお腹にミュラが満足そうに乗っかっている。いつもの日常ね。私のお腹を手でぷにぷに押す姿はなんだか猫の赤ちゃんみたい。

 ミュラの頭を撫でてあげようとするも、ヒレが届かないでござる。私のお腹のでっぱりよりも腕が短いのは悲しいわ。ふ、太ってるわけじゃないんだけどね?


「でも、ルリカたちがウチで働くことにOKしてくれて助かったわ。誘ったはいいものの、賃金ゼロボーナスゼロの超絶ブラックな職場だから拒否されるかもと思ったもん」

「するわけがないでしょう。あなたに命を救われ、他の魔物に怯えて暮らす必要のない住処まで与えられているというのに。あなたはアクア・ラトゥルネの新たな王となったのよ」

「エルザってば大袈裟ね。何はともあれ、人がにぎやかになるのはいいことだわ。ルリカたちって料理とかできるかしら? そろそろリンゴ丸かじり生活から卒業したいんですけど!」

「さあ、どうかしらね」


 私もエルザも料理できない系女子だから、ルリカたちの女子力に期待するしかない。

 いや、できない訳じゃないのよ? 前世の私だったら、それはそれは大したものよ? でも、ほら、シャチだと包丁持つ時点でアウトなわけで。

 魚料理とか出来てくれたらいいなあ。最低限文化的な生活に戻るためにも、ルリカたちに頑張ってもらいましょう。うん。


「それよりもオル子、これから何をすべきなのか分かってるわよね?」

「ごはん! おねむ!」


 真面目に即答したのに、エルザに杖で横腹を突かれた。ひどい。家庭内暴力反対。

 すべきことなんてあったかしら。今日の冒険は終わりだし、ご飯食べてゆっくりするだけだと思ってたんだけど……

 そんなことを考えていると、エルザさん超呆れ顔。そ、そんなに駄目な回答だったの!? 面と向かってため息つかれると堪えるから止めて!


「オル子、あなたは翡翠の涙結晶を手に入れて人化したいのではなかったの? そのためには海王城にいる海悪鬼とやらを倒す必要があるのでしょう?」

「……おおう!? そうでした!」

「ならば彼女たちの力を利用なさい。海悪鬼に関する情報を引き出し、必要があればアクア・ラトゥルネたちにも戦ってもらう。命を捧げた以上、文句は言わせないわ」

「えええ……」


 情報を引き出すのはいいけど、彼女たちを戦わせるのはちょっと……

 だってあの娘たち、ランクC-のイカ大王にすら追い詰められていた戦力じゃない。ハッキリ言って非戦闘員よ。もし無理に戦闘に出して死んだりしたら私の心が罪悪感でどうにかなっちゃう。


「要らないわよ。あの娘たちはあくまでウチの管理を任せるだけ。戦闘するのは私たちの役目だもん。彼女たちから情報はもらうけど、絶対に危険な目にあわせたりしない。それでいいでしょ? 私は無駄死にさせるためにあの娘たちを誘ったんじゃないもん」

「……だ、そうよ。よかったわね」


 エルザの視線が私の後ろへと向けられる。ほむ?

 私はゴロンと転がって後ろの扉を向くと、そこにはルリカが。あれま、聞いてたの? はずかち!

 目を丸くしているルリカに、私はヒレをふりふりと振って声をかける。


「おかうー。もう他のアクア・ラトゥルネの部屋は決まった?」

「は、はい。皆、緊張の糸が切れたようで、体を休めています。命を助けて頂いた上に、このような素晴らしい居場所まで私たちに与えて下さり、オル子様には……」

「固い、固いわよルリカ! もっとりらーっくす! そしてフレンドリーに接してくれてもいいのよ! 今日から私たちは一つ屋根の下で暮らす家族なのだから!」


 ぴょこんぴょこんと跳ねてルリカの緊張をほぐしてあげる。

 むう、未だにルリカの表情から驚きが消えないわね。どうしたのかしら。何か変なものでも見たかのようだわ。目の前に巨大シャチが仰向けに転がってるくらいで、おかしなものはないと思うんだけど。

 そんなルリカに、エルザが淡々と話しかけていく。


「これが素のオル子よ。見てのとおり、アホなのよ」

「むしゃー! 本人が目の前にいるのに直球過ぎるでしょう! ルリカ、私はアホじゃないからね! こんなにもぷりちーな乙女に向かってアホなんて酷過ぎる!」

「こんな風だから、敵か味方か分からない相手の前では演じさせているのよ。でないと舐められてしまうでしょう?」

「なるほど、そういうことですか。ふふっ、オル子様の新たな一面を知り、ますます心惹かれてしまいそうです」


 あれ、なんか褒められた気がする。私もしかしてモテ期きてる?これはそろそろ素敵な男性との出会いがあったりするんじゃないかしら!

 そこんところどう思う、ルリカさん……って、またこの娘うっとりしてる。もしかして妄想癖とかそういうのが強い娘なのかしら。妄想じゃなくて現実に生きなきゃ駄目よ、この私のように!

 私たちの視線に気づいたのか、ルリカはハッと意識を取り戻して口を開く。


「お二人のお話は失礼ながら聞かせて頂きました。海王城の海悪鬼を倒すというのは……」

「本当よ。海王城に居座っているその魔物を倒さなければ、この娘の欲している翡翠の涙結晶とやらが手に入らないもの」

「そうなのよ! 私、人の姿になりたくて、どうしてもあなたたちアクア・ラトゥルネの秘宝という翡翠の涙結晶が必要なの! だから海悪鬼という奴を倒さなきゃいけないんだけど、ルリカはそいつがどういう魔物か知ってる? どんな些細な情報でもいいんだけど」


 私の問いかけに、ルリカは少し考えるような仕草を見せ、ぽつぽつと語り始める。


「海悪鬼グラファン……私たちのように人型の体を持つ、『シャクル・ラトゥルネ』と呼ばれる魔魚一族を率いる男です。昔からかなりの野心家であり、次期海王は自分であると豪語していました」

「やけに詳しいわね。もしかして知人なの?」

「知人と言えば知人かもしれません。私は幼い頃からグラファンより妻となるように求められていましたから」

「……ぬぁぁんですって!? そのあたり詳しく! ラブなの!? ラブ話なの!?」


 ゴロゴロと床を転がり、私はルリカの話に食い入る。

 ちょっと、何よその心ウキウキする話は! 求婚され続けていたなんて言われて興味がないわけないでしょう! さあ、続きをハリーハリーハリー!


「私はグラファンにとって都合の良い相手だったというだけですよ。海王の娘である私ならば、強い魔物を産む可能性が高い、ただそれだけの理由で求められていただけですから」

「海王の娘……そういうこと。どうしてあなたのような若い魔物が群れを率いているのかと思えば、あなたはアクア・ラトゥルネの姫だったのね」

「その通りです、エルザ様。身分を隠していたわけではないのですが、既に海王である父が死した以上、この肩書に意味はないと思っておりますので」


 やばい、クる。そうとうきてる。

 亡国の姫とそれを無理矢理物にしようとする俺様キャラ。やばい、その設定、超好みなんですけど。


「グラファンが百を超える魔物を従え、海王城を強襲したとき、私は王の命により非戦闘員である者たちをまとめて城を逃げたのです」

「なるほど、頑張ったのね。ところでグラファンって魔物はイケメン? どんな外見?」

「池目、というのは分かりませんが、グラファンは身の丈が私の倍はあろうかという大男です。鋭い牙が特徴的で、獰猛な魚人型の魔物です。かつての彼は、三又の槍と牙による噛みつきを得意としていました」

「かつての、というのは?」

「その、私の知るグラファンの力では、到底海王には及ばないはずなのです。海王がA-ランクに対し、グラファンはC+でした。それなのに、海王が手も足も出ずに負けたということは、グラファンの力は何らかの理由により大きく上昇しているのではないかと」


 ふむう、A-をC+が倒すって大金星じゃない?

 私がB+なんだから、海王は私より強かったってことよね。それを倒すんだから、グラファンって奴はA、下手をすればSに足を踏み入れているかもしれないわ。

 そいつを倒さなきゃいけないのかあ……何だか無理ゲーな気がしてきた。でも倒さなきゃ人になれないわけで……むーう。


「急に力をつけた魔物、ね。魔物が急に強くなる理由なんて限られているわ。進化をして特殊な力を得たか、自分の物ではない他力を利用しているか。何にしてもA-以上の強さは確定したわね」

「父である海王も肉弾戦を得意とする魔物でした。ですが、その父を凌駕するとなると……」


 話を聞けば聞くほど強敵に思えてくる。でも、これを乗り越えなきゃ私は人になれない。

 人になれなければ、当然私の恋愛生活もやってこない訳で、このままズルズルと遅れて人になるのは数十年後ってことにもなりかねない……待って、それは拙いんじゃないの!?


 魔物になった私だけど、年齢の経過がもし人間だったころと同じだとしたら。

 数十年後に人化しても、おばあちゃんだったら意味ないじゃない! 私は若いうちに美少女になって、甘酸っぱい恋愛がしたいの! こんなところで足踏みなんてしていられないの!

 いかん、これは悠長に構えている場合じゃないわ。私は必死にヒレを上げて意見。


「まだ見ぬ敵の強さをああだこうだ悩んでも仕方がないと思います! 肉弾戦が得意、Aランク以上の強さという情報が得られただけでも有利に戦えるはずよ! グラファンて奴を叩き潰しにいきましょう!」

「また考えもなしにそういうことを……相手は強敵なのよ?」

「強敵と戦うことなんて最初から分かり切ってるじゃない! これから先、私たちは色んな強敵と戦うことになるでしょうから、格上と戦うチャンスが早めにやってきたと前向きに考えるべきよ! ランクが上だからって逃げていては誰とも戦えないわ! 私は予定通り、海王城攻略に乗り出すべきだと思いまふ!」


 だから倒しに行きましょう。今すぐ倒しに行きましょう。私が嫁ぎ遅れ令嬢になる前に!

 エルザの『話が違うだろこの野郎』って視線が痛いけれど、負けないもん。戦いはオル子部屋で起きてるんじゃない、戦場で起きてるのよ! 一日一秒でも早く人になって王子様と出会うために、ここは譲れない! 守ったら負けよ、攻めるの!


「……まあ、一理ある、か。ランク上の敵を怖がって避けるより、ここは海悪鬼とやらを叩いて周辺海域全てを支配下において海の魔物を牛耳るほうが正解かしら。南一帯を支配してしまえば、連中も手出ししにくくなるでしょうし、この娘の脅威も高まるもの」

「そ、それじゃあエルザ」

「いいわ。海王城に向かい、敵を一掃してしまいましょう。ただし、タイミングはミュラが進化してから。今がレベル19だから、あと1上がるまで待ちなさい。これだけは絶対に譲らないわ、いいわね」


 エルザ先生の許可が出ました! やったー! ミュラ、お母さん頑張ったわよ!

 ミュラをお腹の上でモフモフしていると、ルリカが私たちにお願いをしてきた。


「オル子様、エルザ様。もし許して頂けるなら、私も戦列に加えて頂けませんか? アクア・ラトゥルネの代表として、ご恩をお返しさせて頂きたいのです」

「あなた、戦えるの?」

「ステージ2、ランクはD+です。肉弾戦に自信はありませんが、癒しと補助スキルを所有しております。こういう力ですので、魔王の眷属との戦いでは何もできませんでしたが、オル子様やエルザ様、ミュラ様を支援するのに役立てるかと思います」


 え、マジで? ルリカって戦える系お姫様だったの? 攫われてヒゲおじさんの助けを待つポジションかと思ってた。

 ええと、ちょっと失礼、識眼ホッピング発動! そいや、そいや、そいやっさ!






名前:ルリカ

レベル:4

種族:アメジスト・ラトゥルネ(進化条件 レベル20)

ステージ:2

体量値:D 魔量値:C 力:F 速度:D

魔力:C 守備:E 魔抵:D 技量:D 運:D


総合ランク:D+






 わあお、平均的ではあるけれど、確かにD+の能力持ち!

 しかも回復魔法と補助魔法特化って、まさに今の私たちが求めてやまないタイプじゃない。

 強いボスと戦ったり迷宮を潜ったりするのに回復役は必須だもの。ルリカがいれば、海王城の雑魚連中を正面からガンガン叩き潰せそう! ダメージなんて怖くない、怖くないったら怖くない!


「ルリカ、あなたの使用できるスキル全ての詳細を教えて頂戴。あなたの力は非常に有用だわ。あなたの力があれば、私たちは刺客を恐れて身を隠す必要もなくなるかもしれない」

「身を隠す? あの、それはどういう」

「あとで説明するわ。それよりもあなたの能力の話を」


 ぬう、エルザにルリカが取られちゃった。

 桃色髪と青髪のコントラスト、綺麗だわあ。釣り目とおっとり目なところも対照的。

 やっぱり、美少女って絵になるわね……むむ、つまり私も二人のなかに入れば美少女ということ? 人化できた暁には二人に負けない美少女になること間違いなし?

 よし、私の二人の輪に入って美少女パワーを分けてもらおうっと。いくわよミュラ! せーの、よいせっ、よいせっ、エルザとルリカに間にお邪魔しまーす。

 ぐいぐい、ぐいぐい……ふー、二人の間に割り込み完了。二人で内緒話でイチャイチャするなんてズルいじゃない。シャチも仲間に入れて頂戴よー。


「オル子、邪魔。今、大事な話をしているの。退屈ならその辺で遊んでなさい」


 にべもなく部屋からポイっと追い出されました。

 あれ、ここ私の部屋なのに……おかしいね。最近、エルザの私の扱いが雑になってきている気がするの。

 これは許せないわ! デモよ! ストライキよ! 離婚調停よ! もっと私を愛して! 部屋の扉をヒレでべしべしと叩きながら猛抗議。


「うおおー! エルザの馬鹿―! もっと私を大切に扱いなさいよー! シャチを虐めちゃ法律で罰せられるのよ! エルザを鳥獣保護法違反の疑いで逮捕するう! 『オル子ちゃんは世界で一番可愛いお姫様!』って叫びながら部屋から出てきなさーい!」


 必死に訴えてもエルザは相手してくれませんでした。さみちい。








・ステータス更新(仲間追加)


名前:ルリカ

レベル:4

種族:アメジスト・ラトゥルネ(進化条件 レベル20)

ステージ:2

スキル:アクア・アロー(単体:中:ダメージ1.0倍:魔力依存、魔量値消費(極小):CT8)

    癒しの海風(全体:中:回復量0.4倍:魔力依存、魔量値消費(小):CT40)

    癒しの撫手(単体:近:回復量1.0倍:魔力依存、魔量値消費(小):CT15)

    水のヴェール(全体:中:物理ダメージ3/4に減衰 効果T20:魔量値消費(小):CT30)

体量値:D 魔量値:C 力:F 速度:D

魔力:C 守備:E 魔抵:D 技量:D 運:D


総合ランク:D+




 

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