21.服装の乱れには気を付けて。オル子様が見てるわよ
イカ大王を壁際に押し付けてからのー、識眼ホッピング!
開幕直後のステータスチェックは戦局を左右する重要な一手だわ!
名前:アディム・スクイッド
レベル:19
種族:ガーネット・スクイッド(進化条件 レベル20)
ステージ:4
体量値:S 魔量値:E 力:C 速度:F
魔力:D 守備:F 魔抵:F 技量:C 運:D
総合ランク:C-
むむ、これまた極端な奴ね。
HPが突き抜けて高いけれど、守備も魔抵も速度もかなり低い。つまり、体力の多さで打たれ弱さをカバーするタイプなのね。
だけど、この程度なら怖くないわよ! まだヴァルガン洞で戦ったクリスタル・ゴーレムのほうが厄介ね。
足による攻撃をかわしながら、私はイカの頭にがぶりんちょ! そして全力で噛み千切る!
骨もないから、簡単に頭の一部が食い破れちゃった。むふー! 私ちょっと強くない? これは調子に乗らざるを得ないわ!
ペッとイカ肉を吐き出し、私は自慢げに言ってのける。
「つまらないわね。所詮C-程度では暇潰しにもならないのかしら。まあ、せいぜい必死にあがいて私を楽しませて頂だ……」
『ブッヒュー!』
ワル子ごっこしてたら敵から墨攻撃が飛んできました。
回避? 調子に乗ってた最中だったのでできませんよ? 全身真っ黒なダークシャチ完成ですよ? ぶ、ぶ、ぶっころ! イカなんか怖くねえ!
「サンダー・ブラスター!」
怒りの炎に身を委ねていると、後方から電撃の援護射撃が二発飛んできた。ぬ、二発?
うしろを振り返ると、エルザと真っ黒なシャドウ・エルザのダブル美少女が電撃魔法を連発していらっしゃる。あ、ミュラがエルザに変身してるんだ。ダブル釣り目美少女の夢の競演ね!
そのチャンスを逃してはならぬう! 足の一本に食いつき、全力で噛み千切る! シャチの顎は流氷をも砕く! 足が一本減ってしまい、イカさん大絶叫。
「凄い……これが、オル子様の、お力……」
ぬ、ルリカたちったらまだ避難できていないのね。
私たちの戦いにそんなに興味津々なのかしら。いや、確かにダイオウイカVSシャチなんてアトラクション、私がルリカの立場でも魅入るわ。
期待されると応えたくなるのがオル子さんってもんですよ。仕方ないわね、観客を満足させるためにもこのボス戦、派手にやろうじゃないの!
私を叩き落とさんと残る手で必死に伸ばしてくるのを、私は次々にアクロバット回避する。甘い、甘すぎるわ! その程度で被弾してあげるわけにはいかないわねえ!
気分は航空ショーを行うパイロット。むふー! 私が飛び回るたびにルリカたちから歓声が上がって気持ちいい! もっと褒めて、もっと褒めて! オル子は褒められるとぐんぐん伸びちゃうタイプなの!
……って、イカの奴、私に攻撃が当たらないからって、またルリカたちを狙おうとしてるじゃないの。強制ターゲット変更! レプン・カムイ!
「――させないと言ったでしょう? その娘たちに手を出すんじゃないよ、愚物が」
『ガアアアアア!』
スキルの効果で私を攻撃せざるを得ないダイオウイカさん本当にいと哀れナリよ。
しかも私は体量値A守備A速度Bのシャチートボディ。クリスタル・ゴーレムならまだしも、イカさんごときじゃ私の守りは崩せないわ。
私はひたすらイカに体当たりしたりして、ルリカやエルザたちから敵を引き離すだけでいい。思い出したように噛みついたりしてダメージも与える感じ。
そうすれば、エルザとミュラが遠距離からチクチクとダメージを稼いでくれるわ。
ふふ、体量値がSであっても、日本ゲームの古来より伝わる『ハメ』と『ケズリ』の前では無力! お前はもう、詰んでいる! おっと、レプン・カムイ発動っと。
わはー! タゲ取りって楽しーい! このスキル最高だわ! テンションアゲアゲよおお!
「ねえ、どんな気分? 喰らおうとしたアクア・ラトゥルネたちを前にしながら、何もできずにひたすら蹂躙される、なんて無様なのかしらね。あは、あはは! あははははっ!」
やばい、今の私って凄く輝いてる。私ってば凄く悪女だわ!
今ならメインヒロインが登場しても悪役令嬢として任務を完遂できる気がする! 学園内で突如現れた天然ヒロインに、私は颯爽と嫌がらせを行うの!
『まあヒロインさん! 課題の提出は明日までだというのに、まだ終わっていませんのね? ふふん、これだからあなたは駄目なんですわ!』
『ごめんなさい、オル子さん。私、これからアリエス第一王子とデートの約束がありまして……私の分の課題をお願いできますか?』
『おーっほっほっほ! 仕方がありませんわね! この優秀な私ですから? 不出来なあなたの代わりにやってあげてもよろしくてよ!』
『流石オル子様です! 私たちの課題もよろしくお願いします! 私たちも婚約者とデートがありますので!』
『おーーーーーーっほっほっほっほっほ! よろしくてよ、よろしくてよ、よろしくてよ! 優秀過ぎるこの私が! 取り巻きの皆さんの分も終わらせてあげますわ!』
『オル子さん、とても優しいんですね! オル子さんは婚約者とデートにはいかないんですか?』
『ほほほ、私に婚約者なんていませんもの! 課題が終わったらペットのポチ丸の散歩くらいしかやることありませんのよ! 大絶賛彼氏募集中ですわー! おーっほっほっほっほっほ!』
『流石オル子様! 一生ついていきます!』
やばい、いける。私、人化しても悪役令嬢として全然やっていける! 待っててポチ丸(ポメラニアン3歳オス)!
私の未来の幸せの為にも、アクア・ラトゥルネたちを食べようとしたこのイカは万死に値するわ! 私の人化のためにも、この娘たちは絶対に死なせはせんぞー!
私とエルザ、そしてミュラの激しい猛攻によってイカちゃんはだいぶ衰弱してきたみたい。体量値Sと言っても、力Sや魔力Aにここまで集中攻撃されてはね。
よし、そろそろ頃合いかしら。ここでビシッと格好良くトドメを決めなくちゃ!
「さあ、終わりにしてあげる! 悠久なる時を遥かなる原初の理にうんちゃらかんちゃらなんとかかんとか!」
格好いい決め台詞を言おうとしたけれど、全然思いつかなかったので最後は適当に誤魔化しました。気にするな!
私はイカ大王の懐深くまで潜り込み、その巨体を持ち上げるように体当たり。
イカちゃんの体がくの字にへし曲がったのを確認して、必殺技開放。くらえ、これが私の最強の一撃! クリスタル・ゴーレムをもねじ伏せた究極奥義! ブリーチング・クラッシュよ!
『ギャアアアアア!』
殺人的な加速で巨体を持ち上げ、そのまま洞窟の天井に激突。
ジャンプしてその速度を利用して踏みつける技なんだけど、最近は洞窟戦闘ばかりなので、本来の用法とは異なる使い方ばかり。でもまあ、効果は同じように効いてるしいいよね。
私の一撃で、イカちゃんは完全に戦闘不能。天井からゆっくりと地面に落下し、ぴくりとも動かなくなった。むふー! あーいむ、うぃなー!
『レベルが5から7に上がりました。支配者の討伐に成功しました。『アディム・スクイッド』の所有支配地が全て『オル子』へ譲渡されました。現在、あなたの統治する地域は8です』
レベルアップと支配者討伐の情報が流れたわね。
支配地はどうでもいいけど、レベルアップは嬉しいにゃあ。私が上がったってことは、エルザはもちろんのこと、ミュラのレベルもグッと上がったんじゃないかしら。進化が楽しみ楽しみ。
私がイカの死骸の前で勝利の余韻に浸っていると、頭の上に軽い衝撃。ミュラが飛び乗ってきたのね。エルザも杖を下ろして近づいてきてくれる。
むふー! ミュラ、お母さん頑張ったわよ! 私の悪役令嬢としての頑張り、見てくれたかしら!
「随分とあっさり倒せたわね。敵のランクはどれくらいだったの?」
「Cだったわ。ステータスが大したことなかったから怖い相手じゃなかったかも。これならクリスタル・ゴーレムの方が厄介だったわね」
「私たちがステージ2に進化済みだったというのもあるでしょうね」
エルザは杖を一振りして私にクリーンの魔法をかけてくれた。あ、そっか、墨塗れだったの忘れてたわ。イカめ、乙女のオシャレを何だと思ってるのかしら。ぷんぷん。
魔法で綺麗になった私に、エルザは一息ついて言葉を紡ぐ。
「綺麗になったなら、彼女たちに声をかけてあげなさいな」
「彼女たち?」
「あなたのことを待っているみたいよ。あなたが彼女たちを助けると決めただから、最後までその責任を持ちなさい」
私はエルザの視線の先、背後へと振り向く。
すると、そこにはルリカをはじめとしたアクア・ラトゥルネの女の子たちが全員そろって頭を下げていた。
両ひざを地面につき、深々と頭を地につける……なんという見事な土下座。まるで大名にでもなったような……って、違う! 何してるのこの娘たち!?
土下座は私の得意分野であって、あなたたちのような可憐な美少女がすることではなくてよ!?
「る、ルリカ、これは何のつもりかしら?」
「アクア・ラトゥルネの命を救って頂いたこと、心より感謝申し上げます、オル子様――いいえ、我らが始祖、『はじまりの女神』オルカナティア様」
ゆっくりと顔を上げたルリカの表情は、熱に浮かされたような……例えるなら恋する乙女そのもの。いえ、ルリカだけじゃなくてアクア・ラトゥルネの女の子たち全員がそんな状態。
な、何この変なプレッシャー。馬鹿な、このB+ランクのオル子さんが美少女に気圧されて……ひいい! なんか背中がゾクゾクする! めちゃくちゃ怖いんですけど!
よく分からないけど、なんだかとんでもない地雷踏み抜いた気がする! エルザさん、へるーぷ、へるうううぷ!




