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19.情報を制する者は恋愛を制す、名言ね

 



「駄目よ。却下」


 海王城に翡翠の涙結晶を盗みにいこうと提案したら、一瞬でバッサリ切り捨てられました。ぐふう。


「魔王軍に見つからないよう、わざわざ南方まで来たのに、支配地を巡る魔物同士の争いに考えなしに介入してどうするのよ」

「うぐう……」

「翡翠の涙結晶がある場所には海王を倒した魔物とその配下が陣取っていて、その強さの詳細や総合ランクも分からない。まして私たちは海王城の構造も知らない。そんな場所に忍び込むと?」

「うわああん! エルザがいじめる!」


 理詰めで淡々と語るエルザ。容赦なんて微塵もしてくれないですよ?

 だって、仕方ないじゃない、仕方ないじゃない。人の姿に戻れるかもしれない方法が目の前にあるのよ? エンディングが目前まで迫ってるのよ?

 人になって、恋をして、ハッピーエンドで日常物語を過ごす未来がもうそこまで来てるのに、諦めるなんてそんなの嫌よ!

 ああ、目を瞑れば見える、私の人化を持つ素敵な殿方たちが……



『オル子、またお前は宿題忘れたのかよ。本物のアホだなお前は!』

『オル子ちゃん、髪の毛を食べちゃってるよ。本当にオル子ちゃんはアホだね』

『ふふ、オル子さん。さきほどから口が半開きっぱなしですよ。分かってはいましたが、オル子さんは掛け値なしのアホなんですね』



「俺様系のカインが! 穏やか系のレドナスが! 計算高い系のアレクがヒロインの登場を待っているの! 私が登場して、そこから恋のエチュートが奏でられるのよ! だから翡翠の涙結晶が無いとヤダヤダヤダ! 翡翠の涙結晶がほしいよお! 人になりたいよお! もっと言うなら公爵貴族令嬢になって幼馴染の許嫁と恋愛結婚がしたいよお!」


 地面に転がってヒレをばたばたさせて必死におねだり。

 私の真似をして、ミュラも地面に転がってジタバタ。

 どうかしら! エルザ、少しくらい『よし、ちょっと翡翠の涙結晶を取りに行きましょうか』って気持ちになったかしら……ちらっ、ちらっ。

 って、ぬおおおお! エルザさん、武器の手入れを始めてちっともこっちを見ていらっしゃらないじゃないの! なんという鉄壁のスルースキル! こ、こうなったらなんとしても泣き落としてやる! 私はエルザの足元に縋りついて、必死におねだりする。


「お願いよおエルザ! 私の人生が、人生がかかってるの! 人にならないと私の恋が始まらないの!なんとかして翡翠の涙結晶を手に入れる方法を一緒に考えてえええ!」

「考えてと言われてもね。ちょっとオル子、涙と鼻水が凄いことになってるわよ」

「何でもするから! 翡翠の涙結晶が手に入るなら、何でも言うこときくからああ! 演技だって頑張る! 翡翠の涙結晶のためなら頑張って『ワル子』を演じるから! 他人の前では悪女になりきるから、だからお願いよおおお! 私とカインを出会わせてええええ!」

「だからカインって誰なのよ。ったく、本当にもう」


 嗚咽交じりの叫びに、エルザは大きく息を吐き出す。

 そして、人差し指を立てて順序立てて話を始めてくれた。


「まず始めに、私はオル子の行動を全否定している訳ではないわ」

「……ほえ?」

「あなたが翡翠の涙結晶とやらが欲しいなら、手に入れればいい。だけど、無策のまま行動を起こすことに反対しているというだけよ」

「ええと……つまり、どういうこと?」


 むう、私ではエルザの言わんとすることが全然わかんにゃい。

 私の頭の上に飛び乗ってきたミュラも同じ……というより、ミュラは右から左に聞き流してるだけなんだけど。


「翡翠の涙結晶を手に入れるには、その城主を倒さなければまず不可能。私たち、とくにオル子に隠密行動なんて向かないし、ばれずに忍び込んで盗むなんてできっこないわ。なら、私たちがどうしても翡翠の涙結晶を手に入れたいなら、城主を倒す以外に道はない。これで私たちのターゲットがまず決まったわよね?」

「そうね。翡翠の涙結晶を手に入れるには、海王城を占領している海悪鬼とかいう魔物とその取り巻きを倒さなきゃいけないってことね」


 私の言葉にエルザは頷く。

 でも、海悪鬼って海王とかいう強い魔物をちょちょいのちょいで倒した化け物なんでしょ? それに勝つのは難しいんじゃないかしら……でも、涙結晶ほちい……

 そんな私の心を読み透かしたように、エルザは話を続けていく。


「海悪鬼を倒すことが私たちの目的になったわ。では、次に考えなければいけないのは海悪鬼という魔物とその配下がどれだけの強さを持つかということよ。連中を打倒するためにも、私たちはより精度の高い情報を手に入れなければならない。敵の特徴、ランク、スキル……それらの情報を得れば得るほど、私たちは勝利に近づくと言えるわ」

「ボス戦用の対策を取れるってことね。ほむほむ」

「あなたの出会った『アクア・ラトゥルネ』たちが、少しでも情報を握っているかもしれない。オル子、あなたは彼女たちから少しでも情報を引き出しておきなさい。得た情報を全て私に報告すること」

「あいあいさー!」


 私はヒレを伸ばして敬礼をする。頭には全然届かないけど、こういうのは気持ちの問題だからね!

 そして、エルザは私の隣で敬礼の真似をするミュラに視線を送りつつ、話を続けていく。


「情報収集と並行して、私たちのレベル上げを行うこと。私たちの次の目標は、ミュラの進化よ。ミュラがステージ2になって、私と同じように『オルカ進化』が出来たなら、間違いなくこの娘は海悪鬼たちとの戦いで大きな力になってくれるはずよ」


 そうね、現時点でもミュラはとんでもない変身能力なんてものをもっているんだもの。

 これがステージ2になれば、更に強くなること間違いなし! ミュラのレベルが現時点で9だから、頑張ればあっという間よね。頼りにしているわよ、ミュラ。


「とにかく今は焦らないことよ。海王城は逃げたりしないのだから、今は敵の情報を集めながらレベルアップを進めましょう」

「分かったわ! エルザ、ミュラ、頑張って強くなりましょうね! むふー! 人に戻る瞬間が楽しみだわ! そろそろ夢へのカウントダウン、はじめちゃいますかー!」

「……王が殺され、滅びを待つだけとなってしまった窮地の『アクア・ラトゥルネ』たち、ね。この場所に向かうよう言っていた意味が嫌というほどよく分かったわ。あの女――どうやってもオル子を表舞台に引き上げたいようね」

「にゅ? どしたの、エルザ?」


 私の問いかけに、エルザは何でもないと帽子を深くかぶって首を振った。ほむ、何か言った気がしたけど気のせいかしら。まあいっか。

 さあ、これから張り切ってレベル上げを始めるわよー! 人化の夢が目前まで迫っていると考えれば、レベル上げ作業なんて酷でもなんでもないわ!

 かもんかもん、カエルでもタニシでもザリガニでも何でもかかってらっしゃーい! 



 

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