2.最近のゲームって説明書がついてないのよね
あらすじ。
スタイル抜群の美少女に転生したいと願ったらシャチにされました。終わり。
「ふざけんなあああああ! こんなの納得できる訳あるかあああああ!」
断固抗議、必死に荒ぶる私だけど、体が草原をびたんびたんと叩き付けるだけ。
なぜ、どうしてシャチ!? 私、言ったよね!? 願ったよね!? 美少女になりたいって言ったよね!? 全然これ美少女じゃないよね!?
というかね、というかなのよ! シャチにするならするで、せめて水の中に入れなさいよ!? なんで草原!? シャチなのに草原って何!? 馬鹿なの、死ぬの!?
暴れること十分。
これが無駄な抵抗だと悟った私は、ぐったりとして涙をこぼす。
「うう、なんで、なんでシャチなのよ……シャチなんてデカくて怖くて恐ろしい奴じゃない……せめてイルカにしなさいよう……」
さめざめと涙をいくら流したところで現実は変わらない。私の体が美少女に変わってくれる訳でもない。
そうだ、これは私への罰なんだわ。あんな天使なんて怪しい奴の言うことなんて信じるんじゃなかったのよ。
交通事故で死んで、手違いだから願うままに転生させてあげるなんて言われて、ホイホイ信じた私が馬鹿だったのよ……美味しい話なんて裏があるに決まってるじゃない……
「とりあえず、私はどうすればいいのよ、これ……水辺まで移動すればいいの?」
コロコロ転がって周囲をぐるっと見渡したけれど、どこにも水場なんてなさそうなのよね。
草原に、森に、山に、狼に……ああ、空が綺麗だわ。日光も気持ちよくてポカポカ。狼もグルグルと私に向かって唸り声をあげて……狼!?
ぐるんと向きを変えて、視線をそっちに向けると、五匹の狼の群れがこんにちは。ひ、ひええええええ!
「待って! 何このベリーハードモード!? 愛され系令嬢になるはずが、シャチになって草原に寝転がされたと思ったら狼登場!? こ、殺しに来すぎでしょ!? これ、私を完全に殺しに来てるでしょ!? ちょっと天使さん、天使さーん!」
必死に叫んでみるものの、当然天使なんて来るはずもない。ですよねー。死ねばいいのに。
私が身動きをとれないことを悟ったのか、狼たちは私を囲むように展開した。あ、駄目だこれ、詰んだ。完全に詰みました。
全てを悟り、私は瞳を閉じて身を投げ出した。もー、どーでもいいや。なんかもう疲れた。うん、死のう。もう一回死んで、天使のところにいって抗議してこよう。
「さー殺せ! 好きに食すが良いわ! ご自由にお食べ下さい! まな板の上のシャチを存分に味わうといいわ!」
私の叫びを皮切りに、狼たちが私のはらわた目がけて飛び込んできた。そして、次々に鋭い牙を突き立てていく。
その光景を見つめながら、私はニ度目となる自分の死を受け入れることにした。
ああ、短すぎる二回目の人生……いいえ、シャチ生だったわ。次に生まれ変われるなら、今度こそ美少女令嬢に……半歩譲ってマーメイドでも可よ。
ガジガジと噛みつかれ続け、意識が朦朧と……全然ならないわね。あれ、痛みもない。なんで?
私は恐る恐る視線をチラリと腹部へ向けると、狼たちが必死に歯を腹に突き立てようとして、できずにいる光景が見えた。
……もしかして、あれかな。私の皮膚、固いのかな。狼如きの歯じゃ通用しないってこと?
諦めることなく歯を突き立てようとする狼たちをじっと眺めること十数秒。
……うん。せーのっ。
「どっせええええええい!」
「キャイン!!」
思いっきり勢いをつけて高速で転がってみた。
私の推定三千キロオーバーの圧し掛かりに、狼たちは一匹残らずペチャンコになり、絶命してしまった。
その死骸をじっと見つめながら、私はそっと呟いた。
「ふ……むなしい勝利だわ」
格好つけて呟いても、決まらないんだけどね。だって、私の体、おデブなシャチだし。
『ぴろろりーん』
『あー、死にたかったけど死に損なったわー、かー! 本当に死にたかったんだけどなぜか死に損なっちゃったわー!』って呟いて遊ぼうかなと考えていたら、突如脳内に変な音が鳴り響いた。え、何この音。着信?
『レベルが1から3に上がりました。条件を満たしたので、スキル『空中遊泳』を獲得しました』
レベルアップって何ぞや。いや、それはまあいいとして、空中遊泳とな?
もしかして、これってピンチ脱出できるんじゃないのだろうか。シャチなこの体でも、空を泳げちゃったりするんじゃないかしら。
うーん、でも方法が分かんない。
どうすればいいのかしら。念じてみようかしら。泳げ―、泳げー空を泳げー……おおお、浮いた!
私のヘビィーなボディーは見事宙に浮くことに大成功。
良かった、これで草原でシャチの日干しにならずに済みそうだわ。
バタバタと尻尾を振って感動の舞を披露しつつ、私は現状を考えてみる。
まず、私はシャチに生まれ変わりました。これは間違いない。
どうして自分がシャチだって分かるのかは、自分でも不思議なんだけど、『そうなんだ』って分かるのよね。
人間が人間だって分かるのと同じように、私はシャチなんだって感覚的に理解しているっていうか。不思議よね。
で、さっき襲い掛かってきた狼を倒したら、レベルが上がって、空を飛べるようになった。
そもそも、レベルって何? ここ、異世界なのよね? 異世界ってゲームの世界みたいにステータスとかあるの?
……気になりだしたら、止まらないのが人間の性質よね。ううん、ステータス、ステータスでろー、ステータスお前もかー……
名前:オル子
レベル:3
種族:スカイ・オルカ(進化条件 レベル20)
ステージ:1
スキル:オルカ・ポッド
ブリーチング・クラッシュ
コンフュ・エコロケーション
空中遊泳
体量値:B 魔量値:D 力:A 速度:B
魔力:D 守備:B 魔抵:C 技量:E 運:E
総合ランク:B-
わーお、全然訳わからんぽん。
まず名前がふざけてる。オル子って何? シャチ、オルカだからオル子なの? お、おバカ野郎! そんな適当過ぎる名前があるかー!
もし私が超絶可愛い美少女に転生してたとしても、こんな名前じゃみんなドン引きだわ! きっとあの駄目駄目天使のやつが勝手に付けたんだわ! 天使滅びろ!
まあ、名前は自分で決めればいいわよね。天使の付けた名前なんかポーイ。
次にレベル。うん、やっぱりあるんだ。これがあがったから、スキルで『空中遊泳』を覚えたってことよね。
次に種族……スカイ・オルカっていうんだ。へえ、スカイ・オルカ……どこがスカイよ!
だったら最初から空飛べるようにしなさいよ!? なんでレベル上がらないと空飛べないのにスカイ・オルカなのよ!? レベル1の私はスカイどころかグラウンド・オルカだったじゃないのよ!
名前の後に進化条件ってのがあるんだけど……これ、もしかして、某モンスター育成ゲームみたいに先があるってこと? 強くなったり大きくなったりタイプが変わったりするってこと?
……うん、今は考えないようにしよう。次々。
ステージが1。いや、微塵も分かんないからね。
これがゲームならゲーム開始の第一マップみたいな……いや、でも私のステータスにそんな情報を表記するだろうか。ううん、分からないし、これはスルー。
スキルは……空中遊泳は分かるわ。今、実際に使ってるもんね。
他の三つは何だろう。オルカ・ポッド、ブリーチング・クラッシュに、コンフュ・エコローケーションか。
使ってみようかしら。ええと、オルカ・ポッド発動!
「……何も起きないわね。ぬう」
使い方、間違ってるのかしら。脳内で発動って叫ぶだけじゃダメなのかな。もしくは、空中遊泳と同じで常時発動型の何か、とか?
他のも駄目かな? ええと、ブリーチング・クラッシュ、ごーっ
「ほわああああ!? ぶべえっ!?」
次の瞬間、私の体は大空百メートルくらいの高さに急上昇し、そこから急加速して草原に横っ腹を叩きつけていた。この間1秒。こっちは発動するんかーい!
私の腹を叩きつけられた草原は、大きなクレーターが出来ていて、その破壊力の大きさを物語っているわ……って、おい! 滅茶苦茶だろ! 何だこの自爆技!
ヒリヒリするお腹をヒレで撫でながら、私はこの技を封印することにした。こんなの繰り返してたら内臓破裂で死ぬわよ! ドラゴンナイツだって真っ青のジャンプ攻撃だわ!
もう一つのコンフュ・エコロケーションとかいうのは……もういいや。今度暇なときに試そう。
最後にステータスだけど……アルファベットで書かれても分かんない。
もっとこう、数字で明確に表してくれたら分かりやすいんだけど。Aが1つ、Bが3つ、Dが2つ、Eが3つ。総合ランクB-ってこれ、強いの? 弱いの? 他の比較対象がいないから全然分かんないんだけど。
ステータス画面を閉じながら、私は大きく溜息を一つ。
うん、本当、どうしよう、これから。




