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17.サンタ・ルチアの調べに乗って。サーフィンじゃなくてよ?

 



 あれから色々試してみたんだけど、ミュラの能力について分かったことをまとめるとこんな感じかしら。


・変身能力を使用すると、ミュラのステータスは変身対象者の全能力からワンランクダウンの値に変更

・変身後は変身対象者のスキルを使用可

・変身対象者の総合ランクによって変身可能時間が変動(B+の私に変身すると1分持たないくらい、C+のエルザなら3分くらい、F-のスケルトンならいつまでも変身し続けられるみたい)

・同じ対象者に変身できるのは一日一度まで


 かなり強力な能力だけど、制約も大きく使い方が難しい感じなのよね。

 エルザ曰く、これから色んな魔物と戦い、ミュラの変身対象を増やしていけば場面に応じて戦い方を変えられるようになり、頼もしい力になるとのこと。


 ミュラの反応を見る限り、一度目にした相手が変身対象となるようなので、これからバンバンレベル上げをしていけば、ミュラも色んな魔物になれるってことなのね。

 むふー、何だかラーニングっぽくてワクワクする能力ね! 任せておいて、ミュラ、私があなたを一流のブルーマジシャンにしてあげる! ランダムルーレットの即死魔法は勘弁よ!

 しかもミュラはまだステージ1、エルザのようにオルカ進化したりしたら、この能力も成長するかもしれないのよね。本当のチートってこの娘みたいなのを言うんじゃないかしら。






 エルザとミュラを背に乗せて、お空の旅を続けること三日。

 とうとう私たちは目的地である蒼海の洞窟とやらに辿り着いた。海沿いだけあって、潮の香りと波を打つ音がノスタルジック。いや、私はシャチだけど海で生まれたわけじゃないけどね!


「これが蒼海の洞窟ね! いかにも魔物が住処にしてそうな場所じゃない!」


 私たちの目の前には、大きな岩をくり抜いて生まれたような洞穴がある。

 けど、奥行きは全然なくて、いきなり下り坂になってるのよね。地下トンネルみたいな洞窟なのかしら。


「さて、情報通りならここで効率よくレベル上げできるはずだけど」

「待ってエルザ! 今思ったんだけど、海の洞窟なんだから、魔物も海鮮系じゃないかしら? きっと魚やカニやイセエビよ! 倒した魔物の中で美味しそうな奴は全部アイテム・ボックスに放り込んでおいて!」


 てぃーんときてしまったわ。我ながら何というナイスアイディアなのかしら。

 ここでレベル上げと並行して食材をストックしておけば、美味しいご飯が楽しめるってことじゃない。リンゴはもう飽きたのよー! 魚料理食べたいー! 刺身―! 焼き魚―!

 この世界に来たばかりの頃、魔物は絶対食べないつもりだったけど、エルザ曰く魔物食は当たり前のことみたいだし、もういいや。常識は投げ捨てるもの!

 エルザの持ってる干し肉はバルホーンって魔物の肉を乾燥させたものだし、私の食べてるリンゴは言うまでもなく魔王の眷属のものだし、今更だもんね。


「なんてこと、つまりこの蒼海の洞窟はグルメツアーでもあるのね! 美味しい海鮮料理に舌鼓を打ちつつ、レベルもあげちゃう! なんて素晴らしい企画なの! あとは温泉があれば言うことなしね」

「オル子、涎で口周りが凄いことになってるけど」


 むふー、むふー! 乙女にとって食の欲求は何事にも代え難い誘惑なのよ! 乙女心と夏の空! カロリー? 知らぬ、存じぬ、覚えておらぬ。

 私の頭の上でミュラもぺチペチと手を叩いて楽しそう。ふふ、幼くても立派なレディね、美味しいモノが食べれると知って興奮しておるわ!


「さあエルザ、ミュラ、たんまりと海の幸を堪能するといたしましょう。ポン酢の準備はよろしくて?」


 二人と一緒に、ニューダンジョンへと突入!

 マグロ? タイ? サーモン? カルパッチョ? ナポリタン? カルボナーラ? 何が来ても美味しく頂いちゃうわよー! 











「ほら、活きのいい倒したてよ。好きなだけ食べなさい」

「うわあああん! うわああああん! こんなの違うううう! 私の求めてたものとは違うのおおおお!」


 魔物の死骸をエルザに指さされ、私はビタンビタンと右に左に跳ねまわる。

 私の目の前にあるのは、エルザのサンダー・ブラスターでこんがり焼きあがった魔物――ウミイロガエルの死体だった。か、か、カエルなんぞ誰が食べるかー!


 海鮮ダンジョンである蒼海の洞窟に潜ること三時間。

 洞窟内に出てきたのは、どいつもこいつも食用としてアウトなものばかり。

 カエル、ザリガニ、タニシ。アンタらみんな川の生き物じゃないのよ! なんで海辺の洞窟に来てんのよ! 川に帰れ川に!

 ザリガニなんて、最初に見たときロブスターかとウキウキしたのに、識眼ホッピングで『アオノザリガニ』って名前出ちゃってるし! くそう、くそう!


「我儘ね。なんでもバリボリ食べそうな見た目してるのに」

「食べられるかー! リアルシャチだって魚食べてるのに、なんで私がカエルやタニシなのよ! そんなの絶対認めぬう!」

『げこっ、げこっ』

「ひいい、ダーク・カエル!? ……って、ミュラじゃない、びっくりした!」


 変身能力でウミイロカエルになって遊んでいるミュラ。カエルのスキル、バブルビームが気に入ったみたい。小さい子ってこういうの好きよね。

 しかし、魔法使いとシャチとカエルっていったいどんな色物パーティーなのよ!? 何だか悪魔的過ぎてちょっと自分でも怖いんですけど!


「とりあえず少し休憩しましょうか。ここに来てミュラのレベルもぐんぐん上がってるし、良い感じだわ」

「私は全然よくなーい! ちょっと待ってて、絶対に海の幸を手に入れてくるんだから!」

「あまり遠くにいかないでね。ミュラ、おいで」

『げこっ』


 ダンジョン内ではミュラはエルザと常に一緒に行動してるわ。

 私は敵に体当たりしたり飛んだり跳ねたりするから、ミュラを背に乗せ続けるわけにもいかないしね。


「そんなに遠くまでいかないわ。さっきのフロアに海があったでしょ? 水の中に美味しそうな魔物がいないかチェックするだけ。むふー、期待しててね! 今度こそ美味しそうな魚をゲットしてくるから!」

「あなた本当に精神的にタフよね、前向きというか何というか」


 ミュラをエルザに任せて、私は来た道をふよふよと逆戻り。

 細くなった通路を通って少し開けた部屋に。そこには、海の水が入り込んでいる湖状の部分があった。


「私は思い違いをしていたようだわ。魚といえば海、ダンジョンをウロウロする魚なんているはずがないのよ。どうして私はダンジョンで魚を探そうとしていたのかしら。そんなのいるわけないじゃない、空を飛ぶ魚なんてファンタジーやメルヘンじゃないんだから」


 大きく息を吸い込み、私は海の中にロケットダイブ。

 海の中でも視界はクリア、感度良好。海水も全然目に染みないわ。


『むう! いる、いるわ! あちこちに魚が泳いでいるじゃない! やはり私の読みは間違っていなかったようね! 魚は水の中にしかでしか生きられない、これは学会で発表すべき新発見だわ!』


 ハイテンションで泳ぎ、魚に近づいてヒレビンタ炸裂!

 私のビンタをくらった魚は、物凄い勢いで地上へと打ち上げられていく。

 いいわ、すこぶる好調よ。この感じで手あたり次第に魚を乱獲していきましょう! 館内に貯めておけば、当分は海のフルコースよ!


 魚相手に格闘すること二十分。うむ、五十匹は陸に打ち上げたかしら。

 これくらいとれば十分でしょう。あとは一時的にエルザのアイテム・ボックスに収納してもらわないと。

 私はエルザたちと合流するために、海深くから陸に向けて泳いでいく。しかし、結構深くまできちゃったわね。シャチボディじゃなかったらここまで深くは潜れなかったかも。

 今夜の晩御飯を楽しみにしつつ、私はぐんぐん上昇し続けようとして――思いっきり何かにぶつかった。


『ふぎゅ!?』


 突然、私の顔に何かネットのようなものを押し当てられた。

いや、押し当てられたんじゃなくて、私がネットにぶつかったみたいな……何事?

 目を凝らすと、うっすらと青いロープのような網が私の周囲に張り巡らされている。ぬ、いつの間にこんなものが。全く、どこの密猟者か知らないけれど、海の幸を独占しようとでもしたのかしら。無許可で魚を捕るなんて許せないわね!


『とりあえず、邪魔だし噛み千切ろうかしら……って、ぬおおおおお!?』


 ネットをガジガジと噛んでいたら、突然そのネットが物凄い力で後方へと引っ張られた。

 当然、その中にいた私も一緒に引っ張られる訳で。ひいい! ネットの中で転がる、転がってるから! ちょっと待って、誰か知らないけど止めて! 溺れるっ、シャチだけど溺れちゃうからっ! シャチの海流れっ!


 体勢を立て直せないまま、結構な距離を引っ張られ、私は元いた場所とは異なる洞窟内へと引っ張りあげられた。

 陸に投げ出された横たわる私、そんな私をぐるりと取り囲むように現れたのは美女美少女の皆様。総勢で三十人くらいはいるかしら。ど、どちら様!? 


 私を不思議そうに見下ろす女の子たち、みんな耳の形が人とは異なっている……ウンディーネ耳とでもいうのかしら。もしかして、この娘たち魔物……人魚さん?

 ど、ど、どうしよう? 私も困惑だけど、あっちも凄く困惑してるじゃないの。『え、何このデカい魚、食べられるの?』的なオーラぷんぷんじゃないの! 特に先頭に立ってる青髪の美少女さんなんか呆然としていらっしゃるわ!


 し、仕方ないわ。ここは何とかコミュニケーションを取らないと。相手さんもいきなり私を殺そうとはしないでしょうし。

 ええと、知らない人たちだから、いつもみたいに素の私丸出しじゃダメなのよね。初見の相手には強い魔物アピールして、『むむ、こいつに手出しすると危ないぞ』って思わなせないと! 素を出すのは相手が完全に敵じゃないと分かってからでも遅くはないわ。

 エルザの言う通り、魔物の親玉っぽく、女帝っぽく振る舞って……あー、こほん、こほん、よし、行くわ!


「ククッ――随分と可愛らしい魔物に呼び出されたものね。私に何か用かしら、人魚のお嬢さん?」

「あの、すみません、お顔に海藻が……失礼しますね」


 青髪の美少女人魚さんが手を伸ばして私の顔に張り付いてたワカメらしきものを取り除いてくれました。エルザとはまた違うタイプの優し気な美少女さんね。

 これはこれはご親切に……って、違う! ありがたいけど違うの!


 あの、初っ端から格好つけるの転んじゃってるんですけど! エルザ、私がこのキャラ押し通すの無理っぽいんだけど……これ致命的な作戦ミスじゃないの?

 登場で顔にワカメ張り付けた魔物の親玉なんて前代未聞過ぎでしょ? ここからどう巻き返せば『この魔物は普通じゃない!』って思わせられるのよ……





 

 

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