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15.プレリュードを流しましょう! 私の為に鐘が鳴る!

 



 エルザを背中に乗せて、夕焼け小焼けの空をふよふよふよ。

 リナと洞窟でお別れして、私たちは再び空の旅へ。私はとても上機嫌でございます。なぜかって、それは勿論、リナから貰ったマイハウスがあるからよ!


「むふふ、今日から野宿せずに済むわよエルザっ。どんな家か楽しみだなあ、魔王用ってくらいなんだから、凄くゴージャスな洋館だったりするのかなあ」


 ウキウキでエルザに話しかけると、背中に乗ってるエルザから溜息一つ。

 ぬ、人との会話中に溜息なんて失礼しちゃう。


「オル子、あなた、先ほどまでのリナとの会話で何を思ったの?」

「ランクCの敵を倒すだけで豪華マイホームがもらえて超ラッキー! 日頃の行いって大事よね、オル子は良い子元気な子! って思ったわ」


 むふんと胸を張って答えると、さらに深い溜息。

 あの、地味に傷つくから止めてほしいんですけど。まるで私がバカなこと言ってるみたいじゃないの!


「オル子、真剣に聞いて頂戴。あなたは今、これ以上ないくらい危機的状況に追いやられてしまっているわ」

「え……そ、そうなの?」

「そうよ。このままだとあなた、死ぬわよ?」

「そこまで!? 私、知らぬ間に死ぬ寸前まで追い詰められているの!? なぜに!?」


 いやいやいや、リナにお家もらっただけで死のカウントダウンってどういうことなの。

 困惑する私に、エルザは一つずつ丁寧に噛み砕いて状況を説明してくれた。


「あなたはリナに支配地を押し付けられたわね。それがとても拙いことなの。前魔王の右腕であり、魔王軍から離れたリナの支配地を譲られた――それはつまり、リナ・レ・アウレーカが次期魔王にあなたを推したということなの。前魔王が最も信頼していた配下が推す存在なんて、次期魔王を目指す魔物にとっては邪魔でしかないわ」

「う……」

「ましてや譲った支配地は魔王となるには欠かせない特別な場所だって言うじゃない」

「話し合いの時にそんなことを言ってたわね。で、でも、魔王軍からの刺客はCランクくらいなんでしょ? それなら私とエルザの二人がかりで倒せば……」

「最初はその程度で済むかもしれないわ。けれど、あなたが刺客の雇い主だとして、Cランクの刺客が返り討ちにあったら、次はどうする?」

「そりゃ、もっと強い奴を送り込んで……あ」


 そこまで口にして、私はサッと血の気が引いていくのを感じた。

 な、なんてこと! そうよ、同じランクの刺客なんて送る訳ないじゃない! 一回で駄目だったら二回目、それももっと強い奴を送るに決まってるわ!

 まして私の持つ支配地が魔王になるために絶対必要なら、諦める筈もないわけで。

 あばばばばば、や、やばいどころではない! マイハウスに浮かれ過ぎて簡単なことすら気づかなかった!


「どどど、どうしようエルザ!? このままだと私Sランクキャリーオーバーの魔物たちに殺されちゃう! これはもう逃げるしかないわ! 二人で世界の果てまで逃避行しましょう!」

「落ち着きなさい。そのために今、南を目指して飛んでいるでしょう。東には屈強な魔物が蔓延り、西は人間の国、北を竜族が支配しているとなれば、私たちが目指すのは南よ」

「み、南だと安全なの?」

「安全というより時間を稼ぐのよ。東から少しでも遠ざかって刺客に見つかる時間を引き延ばすの。その間に、私たちはやるべきことをやっておく必要があるわ」

「やるべきことって?」

「私たち個々のレベルアップ、そして仲間を揃えることよ」


 私の質問に、エルザは人差し指を立ててきっぱりと言い放った。

 ええと、前者は分かるわ。刺客に殺されないためにも、返り討ちにできるようにもっと強くなりましょうってことよね。でも、後者は?


「刺客を返り討ちにしたところで、それは所詮時間稼ぎに過ぎないの。さっきも言った通り、倒したら次の刺客が差し向けられて、倒したらまた次……その繰り返しがいつまでも続くなんてオル子も嫌でしょう?」

「嫌よ! そんな物騒な異世界ライフは絶対にノー! もっと平穏かつ穏やかに、ときに甘酸っぱい恋愛を交えて過ごしていきたいの!」

「相手に手を出させないためにはどうするか、こちらに手出しをすると逆に命が危ないと思わせてしまえばいいの。つまりオル子、あなたは元魔王軍の連中にも負けないくらい強い組織を築き上げればいいのよ。強者があなたのもとに集っていると知れば、簡単に手出しは出来なくなるわ」


 な、なるほど。確かに一理あるわ。

 素晴らしい答えだけど、問題点がただ一つ。それは大きすぎる問題点よ。


「エルザ、非常に申し訳ないんだけど……強い人を仲間にできる自信が微塵もありませぬ! 魔王軍の人たちが恐れるような魔物が私みたいなへっぽこシャチ娘に従ってくれるはずがないわ! ああ、変なところでネガティブな自分が憎いっ」

「大丈夫、あなたが集める人材は強者ではないわ――オル子、あなたが真に集めるべきは、あなたのためなら命を賭けられるという魔物よ。必要なものは覚悟、それだけ。それさえあればたとえ魔物がどれだけ弱くても構わないの」

「え、えええ……でもでも、弱い魔物だったら刺客に殺されちゃうんじゃ……」

「あら、忘れたの? あなたにはとんでもない力があるでしょう? E+だった普通のウィッチをたった一度の進化でC+まで引き上げたのは誰だったかしら?」


 な、なるほど! 私のよく分からないシャチの呪いパワーに賭けるのね!

 オルカ・ウィッチのように、シャチパワーによって不思議進化をして強くなってもらえば戦力としても申し分なくなる。だからこそ、必要なのは私と一緒に戦うという気持ちだけなのね!


「な、なんだか生き残れる気がしてきたわ! うおおん、エルザありがとううう! あなたがいなかったら私、確実に即死してた! 心の親友よー!」

「あの女の狙い通りに事を進めてしまっているのが癪だけどね」

「あの女って、リナ?」

「そうよ。現状、私たちの選んでいる道はすべてリナ・レ・アウレーカの掌の上なのよ。あなたに支配地を押し付け、強制的に『魔選』に参加させ、生き残るために組織を作る――拠点を渡したのも、それが理由なのよ」


 にゃ、にゃんと。つまり、ここまでの流れをリナは読んでいた……いいえ、誘導したというの? なんて恐ろしいおっぱい悪魔なの! 計略よ! 罠よ!

 誰よ、あれを女神なんて言ったバカは! 私がヒレビンタをおみまいしてやるわ!


「そしてオル子、この先を生き残るためにあなたは一つ努力すべきことがあるわ」

「ほむ! やる気に満ちた今なら何でも頑張っちゃうわよ! このオル子にお任せあれ!」

「これから先、常時その素を出すのは止めなさい。特に敵の前では徹底して別人を演じて頂戴」

「え……な、なんで?」


 意味不明な指示に、大混乱する私。

 まさかの人格否定!? た、確かに妹からは『少し黙って、うるさいし、ときどき本気で鬱陶しいと思う時あるから』って言われたりしたけども! 

 でも、でもこれが私だもん! 嘘偽りのないオル子をエルザなら受け入れてくれると信じてたのに!


「うう……こんな全否定されるくらいなら、素直に妹の言葉に頷いて反省するんだった……エルザに私の中身を否定される、こんなに悲しいことはあるだろうか、いやない……」

「勝手に落ち込まないで。私はオル子のその性格を非常に好ましいと思っているから。私が言っているのは、あくまで敵や見知らぬ他人の前での話よ」

「そ、そうなんだ……でも、どうして?」

「あなた、怖くないのよ、微塵も。これから先、どんどん『オル子』という魔物の存在を敵に恐れさせなきゃいけないのに、肝心のあなたがそれでは舐められっぱなしじゃない」

「ぬう、確かに否定はできませんぬ」

「あなたの単純明快な在り方は好ましいけれど、敵と対する時にそれは不要よ。だからオル子、あなたは徹底して今のあなたとは異なる『オル子』という虚像を作りあげて。多くの強者の上に立ち、どんな状況でも動じない冷静沈着な魔の怪物――それを頑張って演じなさい」


 なるほど、エルザの言いたいことは理解できたわ。

 これから先、敵に私という存在の恐怖を広める意味でもキャラクターは非常に大事ということなのね。

 確かに敵の親玉が『わはー! 敵がきたっぽー!』とか言ってたら怖くもなんともないもんね。わ、私はそんな台詞言わないけどね!


 うん、まあ、問題ないでしょう。

 女とは役者であるとはよく言ったもの。一流のレディーを目指す私として、できないだなんて情けない台詞を口にするわけにはいかないわ。

 えーと、恐れられる悪の魔物キャラ口調、恐れられる悪の魔物キャラ口調。あー、あー、こほん……よし。


「――フフッ、まもなく闇が世界を支配する時間ね。紅に染まる空の終焉を見届けるのも悪くはないけれど、この空よりも紅き獲物を喰らいたいと体が訴えて仕方がないの。そう、私が求めるは禁忌とされた大樹の果実――」

「別に大袈裟に話せって言ってるわけじゃないわよ。慣れない言葉なんて使わなくていから、普通に、落ち着いて、冷静にを心掛けて話しなさい。それじゃ、この辺で今日は休みましょうか」

「わはーい! もうお腹ぺこぽこりんよ! リンゴが私を呼んでいるっー!」


 エルザの許可が出たので、私はウキウキで草原へと着陸する。晩御飯の時間だー!

 速攻でキャラが戻ってる? 私は本番に強いタイプだから平気平気。

 敵の前でだけクール・ビューティーな魔物を演じればいいんでしょ? むふー、そんなの楽勝よ! そんなことよりご飯、お家、スリーピング!


「リナにもらったお家がどんなのか楽しみだわ。魔王用として作ってたんだから、それはもう豪華なんでしょうね! それこそ令嬢が暮らす貴族の館みたいな! 新アニメ・魔物令嬢ぐうたらオル子、はじまります!」

「家を出す前に試してもらいたいことがあるのだけど。オル子、あなた領地を譲渡されたときに新スキルを覚えたって言っていたわよね?」

「ぬ? うん、『従魔契約』だったかな」


 既にうろ覚え状態の私はステータスチェックで効果を確認。



・従魔契約(常時発動可、支配地の魔物をランダムで一体召喚して強制的に従魔とする。使用回数は一度だけであり、呼び出した従魔を変更することはできない。呼び出される従魔は術者の素質に依存)



 うん、間違いないわね。

 所有支配地が5を超えることが獲得条件だった不思議スキル。

 なんか説明文を読む限り、召喚魔法というよりも、どこぞの英雄さんと召喚契約する系ものっぽいんだけど……これがどうしたのかしら。


「先にそれを使って従魔とやらを召喚してしまいましょう。もし私たちのように会話ができるタイプの魔物なら、一日でも早く馴染んでもらったほうがいいでしょうから」

「確かに。でも、呼び出した魔物は支配地の魔物でしょ? 私の持ってる支配地ってゴーレムとかカブトムシとかロクな魔物いないんですけど」

「別にゴーレムやカブトムシでもいいじゃない、次のステージに進化すれば嫌でもオルカタイプに引っ張られて強くなるでしょうから。それに、あなたの支配地の七分の五はリナに押し付けられた未知の場所でしょ、うまくいけばとんでもない魔物を引き当てるかもしれないわよ?」


 むむ、そう言われるとちょっと期待しちゃうじゃない。

 未知の支配地から呼び出された魔物、それがイケメンの騎士とかだったらどうしよう。

 私の為に命を賭して忠義を尽くすナイト。私の目を見つめて、オル子、君のために私のすべてを捧げよう――なんて、きゃーきゃー! 最高じゃないの!


「任せてエルザ! 私、絶対にイケメン爽やか騎士を召喚するわ! 私の剛運ならばSSRまったなし! 無課金の意地をみせてくれるわ! 召喚したナイト様に私がモテモテになっちゃう未来しか見えぬう!」

「また意味不明なことを……」

「うおおおー! この世界のどこかにいるであろう、私だけのスペシャルな王子様かもーん! 『従魔契約』発動っ!」

「引き当てるのは騎士じゃなかったの?」


 エルザの突込みをスルーしつつ、私は念じてスキル発動!

 その瞬間、足元の草原に光の魔法陣か。おおおお、本格的召喚!

しかも黄金の光、これはきた! この演出はSSR確定よおおお! エルザ、神引きの瞬間をみせてあげるわ!

 眩い光が辺りを包み込み、私たちの目を眩ませる。そして、光が収まった先に現れたのは――小さな女の子だった。


「あら」

「んまっ、かわいい!」


 銀の髪を肩まで伸ばし、紅の瞳、そして頭部からにょきんと小さく伸びる二本の角が特徴的な小さな美幼女ちゃん。パッと見で小学校入学くらいの歳かしら。

 白を基調としたドレスっぽい服を身に纏い、幼女ちゃんは草原に腰を下ろしたまま、私をじっと見上げている。やだ、お持ち帰りしたいくらい可愛いんですけど!

 おっと、このまま見つめ合っていても仕方ないわ。私は幼女ちゃんに声をかけてみる。


「こんにちはっ、私の名前はオル子。あなたの名前は……はうっ!?」


 挨拶をしようとすると、幼女ちゃんが突如立ち上がり、私の顔面にがしりと抱き付いてきた。

 ぬおおお! 何事!? って、ひいい、今度はペチペチと顔を手で叩きだした! 頬ずりまで!?


「お、落ちついて幼女ちゃん! まずはお姉さんとお話しましょ! 私の名前はオル子、あなたのお名前は……ぬわああ! 全然話を聞いてくれぬう!」


 いつの間にか幼女ちゃんが私の額の上までよじ登ってる。

 幼女ちゃん、私はアスレチック遊具じゃないのよ!? 確かに海やプールでよく見る人形とかに見えるかもしれないけれど!


 というか、私の命を守るために呼び出した魔物が幼女ってどう考えても無理でしょう……誰よ、神引きだのSSR確定だの騒いでた奴は。

 そもそも、こんな小さい娘を勝手に召喚して大丈夫なの? 犯罪に足突っ込んでたりしない? よ、幼女ちゃん、今すぐお姉ちゃんに親御さんの連絡先を教えてえええ!



















 紫雲が空を埋め尽くす東の果て。

 切り立った崖にそびえる古城、その一室で玉座に座る銀髪の青年は瞳を閉じたまま報告に耳を傾けていた。


「つまり、リナ・レ・アウレーカが簒奪した『聖地』の支配者が奴から変わっていた、と。そういうことかい?」

「はっ。支配者の魂の色を映し出す『地図』の色が紅蓮から群青へと変わっておりました。奴の魂の性質は青になることはありえませぬ」


 彼の前に膝をつくは歴戦の武人。忠実なる僕にして、彼が唯一信を置く剛の者。

 軽く息を吐き出し、青年は小さく喉を鳴らす。


「どこまでも僕に背いてくれるね、リナ・レ・アウレーカ。あれは父の亡霊に捕らわれているだけで他の愚者どものような欲はないと思っていたけれど……僕ではない『王の器』を見つけたようだ」

「お戯れを。アディム王亡き今、次期魔王はその血を受け継ぐ若様――ハーディン・クロイツ様をおいて他におりませぬ」

「そう思っているのはガウェルやウェンリーくらいだろう? 他の配下連中も裏でコソコソと次期王になるために動き回っているみたいじゃないか。つい最近に至っては、『アレ』を担ぎ上げようとした一派まで出た始末だ」

「小物など気にしなくてもよろしい。清濁全てを一色に染め上げてこそ王の道かと」

「まあいいさ。それよりも今は『聖地』を支配する魔物の話だ。リナ・レ・アウレーカが認めるほどの存在だ、よほどの者だろう。かといって放置する訳にもいかないね」


 コツコツと玉座を指で弾きながら、青年――ハーディンは思考する。

 どうしたものかと考える彼に、配下である武人、ガウェルは首を振って望む答えを紡ぐ。


「悩む必要などありませぬ。若様が王となるために邪魔となる存在など早々に消してしまえばよろしい。そう判断し、既にその魔物を探し出すための一隊を動かしております」

「それは助かるね。だが、リナ・レ・アウレーカが認めた魔物を簡単に消せるかな?」

「念には念を入れて、我が娘を送りました。あれに勝てる魔物はそうはおりますまい」


 ガウェルの回答に、ハーディンは満足して笑う。

 ガウェルが信をおくように、ハーディンもまた彼の娘の実力を理解している。

 だからこそ、何の不安もない。彼女ならば、確実にその魔物を消してくれるだろう、と。


 だが、突然ガウェルの表情が強張る。

 彼が表情を崩すのは珍しい。ハーディンは興味深げに彼に理由を問いただす。


「どうした、ガウェルがそんな顔をするなんて珍しいじゃないか。何か面白いことでも起こったのかい?」

「笑い話にできればいいのですがな――『聖地』の地下で拘束していた姫の姿が消えたそうです。おそらく攫われたかと」


 ガウェルの言葉に、ハーディンの表情から色が消えた。

 そして、次に浮かべる彼の笑みはどこまでも凍てつくほどに冷酷。暗き炎を心に宿したハーディンは、嗤ってガウェルに口を開く。


「笑えるね。まだ『アレ』を神輿にしようとする勢力がいたか。ガーゲルド一派ともども一掃できたと思ったんだけどね」

「仕方ありますまい。若様に逆らう連中が利用するにはこれ以上ない道具ですからな。アディム王の血を継ぎ、女である以上、姫は言わば生ける王冠とも言えましょう」

「厄介な存在だよ、『アレ』は――やはり殺しておくべきだったかな。僕が魔王になった際にその力だけは利用してやろうと生かしておいたけれど」

「若様」

「冗談だよ。ガウェル、今すぐに『アレ』を探し出せ。そして、『アレ』を攫った魔物の首を僕の前に持ってくるんだ」

「やれやれ、持ってくる首が二つに増えてしまいましたな」


 軽く息を吐くガウェルに、ハーディンはカラカラと愉悦交じりに笑う。

 優しく顔の裏側でどこまでも残虐になれる青年。それこそが、ガウェルの求める次代の王の姿。


「リナ・レ・アウレーカの認めた魔物に、我が忌まわしき妹『ミュラ』を攫った魔物……どちらもよほど次期魔王になりたい魔物なのだろうね。だけど、残念だが諦めて死んでもらおう――この僕、ハーディン・クロイツこそが世界を統べる魔の王となる覇者なのだから」


 そっと見開いたハーディンの紅の瞳は、どこまでも深く暗く、しかし自信に満ち溢れ。

 その堂々たる様に、ガウェルは深く首を垂れ、己が王の覇道を確信するのだった。

















「随分と可愛らしい魔物を召喚したのね。予定通りモテモテになれてよかったわね」

「ち、違ううう! 私の想定していたモテモテ風景とは全然……ぬわああ! 駄目よ幼女ちゃん、そこは駄目、私のぷりちーな瞳が……あんぎゃー!」


 幼女ちゃんの獣式すりすりスキンシップによって、にょきんと生えた角が私の目にぶすん。やばい、この娘、クリスタル・ゴーレムより強敵過ぎるでしょう?

 と、とにかく何とかして幼女ちゃんの保護者の情報を聞き出して家に戻してあげないと……


 でも、あれよね。これだけ懐かれてるんだから、そこまで保護者の人に怒られたりしないよね? むしろ『まあ、娘がこんなに懐くなんて! 仲良くしてくれてありがとう!』なんて親御さんに言ってもらえるかもしれないわ。

 ……はっ! もし、この幼女ちゃんに格好良くて優しいお兄さんでもいて、これを機に仲良くなれたりしたら!


『僕の妹をここまで可愛がってくれるなんて――オル子、君はなんて優しい可憐な女の子なんだろう。その黒光りするシャチボディもとてもチャーミングだ』

『まあ、いけないわ銀髪王子様……そんなこと急に言われても、私……キャッ』

『いけないのは君の方だよ、オル子。僕を困らせて、いけない魚だ……今夜は三枚おろしだよ』


「なーんちゃって! きゃーきゃー! ぎにゃー! 幼女ちゃん、羽を、羽を引っ張らないでええ! ひぎいいいい!」

「オル子が楽しそうで何よりだわ。それじゃ、家の準備をするからそれまでその娘とゆっくり遊んでて頂戴」


 幼女ちゃんと必死に遊びつつ、私はエルザが家を建ててくれるのを今か今かと待つのだった。

 まだ見ぬ幼女ちゃんのお兄さんー! 見てくれてますかー! オル子は、オル子は頑張ってますよおお! は、羽が千切れる、千切れるうう!






 ~序章 おしまい~



 

 

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