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125.守りに入りたくないわね。私は常に押していくわよ

 



 大地に転がった私を守るように、魔物たちの前に降臨した仲間たち。

 どうやって現れたのか、なんて考えるまでもないわよね。間違いなくクレアの『転移「瞬」』の力だわ。

 ずっとずっと会いたかったみんなが助けに来てくれたことに、オル子さんのハートは震えたくて、震えたくて、震えたくて、震えてしまいます!

 いかん、いかんですよ! この溢れ出る喜びがどうしても抑えられませぬ! みんなに甘えるように、ビタンビタンと跳ねまわって歓喜の舞です!


「落ち着きなさい。まだ合流しただけで、何一つ終わってはいないのだから。アルエから話は聞いているわよ、まずはあなたを縛るハーディンの『鎖』から解放しないと。ルリカ」

「ええ、心得ています――『クリアライズ・マリン』」


 ルリカが私に向かって状態異常回復スキルを使用しはじめた。

 そうだった、私にはハーディンによる『闇王鎖縛ダーク・ジェイル』が発動しているんだから、このままじゃ逃げることもできないんでした。

 ハーディンが言うには、このスキルの力で私はいつでもハーディンの傍に転移させられるうえ、私の攻撃は彼に全く通らなくなってる。

 攻撃が通らないのともかく、魔王からは逃げられないっていうのは拙すぎる。そんな状態じゃ、私はオルカナティアでゴロゴロすることだって出来ませんよ!

 という訳で、こんな状態異常はルリカに綺麗さっぱり取り除いてもらいましょう! ルリカさん、よろぴこ!

 キラキラした瞳で見上げる私に、スキルを発動し終えたルリカは困ったような笑顔で一言。


「やはり駄目みたいです。私の『クリアライズ・マリン』では、『闇王鎖縛ダーク・ジェイル』は打ち消せないようです」

「嘘おおお!?」

「『闇王鎖縛ダーク・ジェイル』は状態異常ではなく、味方への補助効果として判定されているようで、私の『クリアライズ・マリン』の対象とならないみたいです」


 そ、そんなあ……ルリカの状態異常解除だけが頼りだったのに。

 というか、『闇王鎖縛ダーク・ジェイル』がバフ扱いってなんなのよ! あれのどこか味方補助能力なのよ! 攻撃できないようにするわ、強制的に自分の傍に呼び寄せるわ、どう考えても状態異常じゃん! 詐欺じゃない!

 きっとあれよ、こういう風に状態異常解除をされないために、状態異常ではなくバフ効果として設定されたに違いないわ! なんて狡猾なの! ハーディンのあほー! あほー!


 と、とにかくこのままじゃ拙いわ! いくらみんなと合流できても、このスキルを解除しない限り、私はハーディンに呼び寄せられちゃう!

 ぐぬぬ、どうすれば! 困り果てる私に、エルザは私の頭をポンポンと触れながら口を開く。


「落ち着きなさい、オル子。ルリカのスキルで解除できないかもしれないこと、ここまでは想定内よ」

「そ、そうなの?」

「勿論、ルリカのスキルで解除できるに越したことはなかったけれど、ね。オル子、ここから先はあなたの判断になるわ。この方法を使えば、あなたは今より数分もの間、完全に戦う力を失うことになってしまう。この戦場の中で、敵を攻撃することも、空を飛ぶこともできなくなる――それでもあなたは、私たちに命を預けてくれるかしら。危険と分かっていてもなお、私たちを信じてくれるかしら」


 私を見つめながら、エルザは真剣な表情で問いかけてくる。

 そんなエルザを見上げた後、私はヒレをむいむいと振って何の躊躇いもなく返答。


「今さらそんなことを言われましても。オル子さんはいつだってみんなに命を預けていたし、信じてますぞ。私を助けるための方法をエルザたちが考えてくれたんだもん、オル子さんはそれに全力で乗っかるだけです! 全てをみんなに丸投げして! 私はみんなにこれでもかと依存して生きていくんだから!」

「……全く、あなたって娘はこの状況でもそんなことを」

「ふふっ、よいではありませんか。オル子様に頼って頂ける、これほど嬉しいことがあるでしょうか」

「然り。主殿が我らの力を信ずると言ってくれたのだ、なれば我らが為すべき事は一つ」


 私の言葉に、みんなが笑って答えてくれる。

 グラファン戦も、アヴェルトハイゼン戦も、アスラエール戦も、アルガス戦も。私はいつだってみんなと一緒に乗り越えてきたんだもん。

 そのみんなが、私を救うために頼ってくれというのなら、命を預けてくれというのなら、私は迷わずにそうしちゃうのです! だってそれが一番なんだって、私とみんなのこれまでの軌跡が教えてくれるから!


「という訳で、オル子さんは全てをみんなに捧げます! さあエルザ! 私を『闇王鎖縛ダーク・ジェイル』から解放してくださいまし!」

『今は雑魚どもが壁代わりになってくれてるが、そろそろ俺たちの存在に敵の頭どもが気づき始める頃合いだろうよ。あまりダラダラ時間をかけてると、ハーディンや他の『六王』連中が駆けつけてきちまうぜ。やるならさっさとやっちまえよ』

「……分かったわ。ミュラ、聞いた通りよ。オル子の『闇王鎖縛ダーク・ジェイル』をあなたの『力』で解除してあげて頂戴」


 エルザの言葉に、私の頭の上に乗っていたミュラがぴょこんと飛び降り、私の正面へ。

 おおお、まさかミュラ、ハーディンの極悪スキルを解除するためのニュースキルでも手に入れたの!? 目には目を、魔王の王子には魔王の王女をってことね! いや、ミュラはもう私の子どもだから魔王の娘じゃなくてシャチの娘なんですけどね?

 じーっと私を見つめてくるミュラに、私はヒレとヒレを合わせておねだりポーズ!


「さあ、ミュラ! 遠慮なんて要らなくてよ! お母さんをハーディンの鎖から解放してくださいな! 私は縛られる女ではないということを、これでもかと証明して頂戴!」


 私の言葉に、ミュラはこくりと頷いて――両手をバンザイして、宙に巨大な黒球を生み出した。

 あ、あれ? それってあれじゃないの? アヴェルトハイゼンとかを倒す時に使ってた、スキルとかを完全に使えなくする最終奥義的なやつでは。

 驚く私に、ミュラは躊躇うことなくその黒球を私に投げつけちゃった。

 封印の黒球は私の体に吸い込まれてしまい……うおおお! な、なんで私にスキル封印!?

 使うのは私じゃなくて『闇王鎖縛ダーク・ジェイル』を使用してるハーディンの方でしょ!? 私に使っても空を飛べないシャチが一匹陸に打ち上げられるだけですよ!?

 大混乱の私に、エルザはこの行動の理由を説明してくれた。


「ミュラのこのスキルの効果は対象のスキル封印、そして対象にかかっている効果の解除ディスペル。その効果が自分のスキルによるものだろうと、他人にかけられたものであろうと全てを除去してしまう。数分ほどスキルは使用できなくなるけれど、ハーディンの縛りからは解放されたはずよ」


 な、なるほど! アヴェルトハイゼンをも封じ込めた最強ディスペルスキル効果で、ハーディンの『闇王鎖縛ダーク・ジェイル』を消し去ってしまったのね!

 流石はエルザ! なんて冷静で的確な判断力なの! これでオル子さんは魔王軍とオサラバできるって寸法ですよ! もうスパイなんてこりごりです! もう二度としないよ!

 ささっ、自由の身になった私がこの場に留まる理由なんて何一つありませぬ! ハーディンやウェンリー、イシュトスなんかに捕まる前にこの場からさっさとオサラバしちゃいましょう!

 空を飛べなくなった私は、コロコロその場に転がりながらエルザに提言。


「さあ、さっさとこの物騒な戦場から逃げ出しちゃいましょう! クレアのテレポートパワーがあれば、一気に逃げられるよね!」

「そうしたいのは山々だけれど、そうはいかないのよ。あなたを助けるために『借り』を作ってしまったものね」

「『借り』? 誰に? それはいったい――」


 私がそうエルザに問おうとした瞬間、戦場中に大きな声が響き渡る。

 それは魔法によって拡声されたような、まるでスピーカーから聞こえるような音で。


「イシュトス全軍に伝令するぜ! 我らが主イシュトスの盟友にして『海王』、『山王』、『森王』の称号を継し怪物『オル子』が力を貸してくれる! 諜報活動を終えた奴とその仲間がイシュトス陣営について、魔王軍をぶっ殺してくれるそうだ! 今からそいつの姿を映し出すからよ、決してそいつに手出しするんじゃねえぞ! オル子は我が主イシュトスの盟友だからよっ!」

「ほえ?」


 えっと、この大声量で響き渡る声は、確かエルザの叔父さん……よね? なんでエル叔父の声が? いや、そもそも私がイシュトスの盟友ってどういうこと?

 困惑する私をおいて、戦場のある地点から空に向かって光が放たれる。そして、大空にパブリックビューイングのごとく映し出された画像――それは私がグラファンのボディに風穴をあけてる残虐シーン……って、うおおおおい!? 何てものを空に映し出しちゃってんのよ!?


「まあ、そうくるわよね。オル子の力と名を利用し、『六王』の力によって戦場の空気を一変させる……私もそうするわ」

「ちょっとちょっとエルザさん!? あなたの叔父さん、人の危険画像を無断使用しながらとんでもない大ぼら吹いてるんですけど!? 私いつからイシュトスの盟友になったの!?」

「苦肉の策よ。あなたを助け出すために、近づくためにはイシュトス軍とハーディン軍、その二つを敵に回す無茶は出来なかったもの。ゆえに、私たちはイシュトス軍を利用させてもらったわ。イシュトス軍の魔物たちに紛れ込み、あなたに近づいていつでも転移を発動できるように。もちろん、あなたがハーディンに縛られてるという話はしなかったけれど」

「そ、それじゃ私を助ける代わりに、私たちはみんなイシュトス軍の魔物としてハーディン軍の連中と戦えってこと!? イシュトス軍が負けたら私たちも負けみたいな!?」

「そんな不平等な取引を飲むはずがないでしょう。私たちが情報した時間は半刻だけよ。オル子と合流してから三十分。その間だけは魔王軍の魔物と戦うけれど、その時間さえ耐え凌げば、私たちは戦場から離脱するわよ。この戦いはあくまでもハーディンとイシュトスの戦い、私たちには何の関係もないもの」


 な、なるほど……つまり、この戦いの勝利条件は『三十分間死なずに堪え抜け』ってことなのね。

 取引である以上、これを反故にしたらイシュトス軍まで敵になる可能性がある。だけど、約束さえ守れば仮初とはいえ同盟を組んでいるから堂々と逃げることができる。

 つまり、これまではイシュトス軍との戦いだったのが、今度は敵がハーディン軍に変わるわけで……しかも、あんな大空に私が裏切り者だって大々的に宣伝された訳だから、魔王軍の連中は……


「裏切り者を殺せっ! ハーディン様に逆らう裏切り者に死をっ!」

「裏切りなど万死に値する! その所業、イシュトスと同罪、決して許さぬ!」

「そうだ! ぶっ殺せ! 俺は前からあいつが怪しいと思ってたんだ! 人の骨をいつもいつもバラバラにしてくれやがって!」

「全くだ! あいつは絶対に何かやからすと思ってたんだよ! 俺の自慢の角をへし折りやがったしよ!」

「殺せ! 殺せ! ぶっ殺せ! 裏切りがどうこうなんぞどうでもいいわ! この機会に俺の鎌をぶっ壊した恨みを思い知らせてやれっ!」


 ひいいい! こっちに迫ってくる魔王軍の連中から私に対する憎悪の大合唱が!

 やばい、やばいやばいやばい! 魔王軍の奴ら、私に対して完全にターゲットロックしてるううう! エル叔父のアホおお! あんな画像出して、私の名前を裏切り者だって大々的に宣伝したらこうなるに決まってるじゃないのよ!

 あの声と画像をウェンリーが見ていない筈がないわ! もしこのままだと、あの女が鬼神の形相で迫ってくる!

 死ぬって! あんな数の魔物にくわえて『六王』に襲われたら、オル子さんガチで死んじゃうって! 


 私に向かって前進を始めた連中に、エルザはすっと杖をかざして――容赦なく『アビス・キャノン』をぶち込んだ。

 それも一発じゃなくて、二発、三発、四発、五発……うわあ、何これ酷い。チャージタイムゼロで超必殺技をこれでもかとぶちこんじゃってる。『アルティメット・バースト』のスキルで、チャージタイムなくしてるのよね、これ。

 表情を何一つ変えないまま、エルザは他のみんなに指示を出す。


「クレアとミリィは私の撃ち漏らしを処理して。ルリカはオル子の護衛と何かあったときのために回復待機を。ミュラは私の『アルティメット・バースト』が切れた瞬間、私に変身して入れ替わりで『アビス・キャノン』を同じように撃ち続けて。その間に私は『クール・ディスチャージ』で魔量値を回復しつつ、『オルカ・ショット』で援護に回るから」

「任せておけ! いくぞ、ポチ丸! 『創造「剣」』、アルエ!」

『カハハッ! 宴の始まりだっ! 盛大に暴れようじゃねえか!』

『オル子が何とかみんなと合流できて何よりよ。全くもう、目立つなって言ったのに人の話何も聞いてないんだから……』

「あばれるっ! つぶすー!」

「はい、全てはオル子さまのために」


 みんなが一致団結し、迫りくる魔物を次々と容赦なく殲滅していく。

 エルザの『アルティメット・バースト』の効果切れで『アビス・キャノン』の連打ができなくなり、好機とみて魔物たちが攻めてきた瞬間、クレアとミリィの嵐に呑み込まれた。

 そして、その隙にミュラがエルザに変身して、さっきのエルザと同じように『アルティメット・バースト』からの『アビス・キャノン』連打コンボ発動。それが終わったら、また交代でエルザにスイッチ。


 あまりの怒涛の攻めに魔王軍だけじゃなくて、私たちの背後のイシュトス軍も怖がって前に出れずにいた。

 むしろ、足を止めて、エルザたちの魔法に合わせるように遠距離攻撃だけで攻めまくってる。いや、そりゃそうよね。前に出たらエルザやミュラの化け物火力に呑み込まれるもんね。


 圧倒的殲滅力を誇るエルザとミュラ。

 足を止めて撃ちまくる二人を確実に守るクレアとミリィ。

 そんな戦いぶりを眺めながら、私はヒレで口元を押さえて思わずつぶやいてしまう。


「やだ、私のオルカナティア、強過ぎ……? もう全部エルザの殲滅力だけでいいんじゃないかな」

「馬鹿なこと言ってないで、さっさと力を取り戻しなさい。こんなものは、所詮はあなたが力を取り戻すための時間稼ぎ、雑魚掃除に特化した力に過ぎないわ」

「いやいやいや、ぶっちゃけエルザとミュラの力だけで魔王軍壊滅できますよこれ! いけるって! これだけの鬼火力ならどんな奴でも一蹴ですよ! こうなったらエルザのパワーで全滅させてしまいませう! 最後の戦いに主人公がいないというのも、RPGでは稀にありますからね! 育成時間を返して!」

「馬鹿なことを言ってないで、心の準備をしておかないと――くるわよ、この程度じゃ止められない『怪物』が」

「へ……?」


 エルザがそう言った瞬間、解き放った光槍が真っ二つに切り裂かれてしまった。

 まるで大地が割れるように、エルザの『アビス・キャノン』は無効化されてしまう。

 その切り裂かれた場所では、刀を振り上げて立ちつくす男と、そんな彼の背後で私たち……いいえ、私を睨む女と少女が。

 見覚えがあり過ぎる姿に、私はあわあわと言葉を震わせながら、彼らの名を告げた。


「が、ガウェルにウェンリー、そして別人クレア……」

「あれが『地王』に『窟王』なのね。何より気になるのはクレアと全く同じ容姿をしたあのオーガだけど……さあ、ここからが本当の始まりよ。オル子が力を取り戻すまで、私たちだけであの怪物どもを押さえられるかどうか」


 杖を構え、気合いを入れなおすエルザ。そして変身をといて、偽オルコを展開してそれに飛び乗るミュラ。

 ハーディンはイシュトスが押さえているとはいえ、まさか『六王』二人同時に来るなんて……こ、これからが本当の地獄よ、なんて冗談言ってる場合じゃなくて! オル子さんのスキル復活まだー!?



  

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