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14.風が吹いてるわ。私の幸せを後押しする春風が

 



 なぜかリナに所有支配地を押し付けられ、支配地が1から7になりました……って、ちょと待てい!


「意味不明なんですけど! なんで支配地を贈呈なんてしてくれてるの!?」

「どうしたの、オル子?」

「聞いてよエルザ! このおっぱいがなぜか私に支配地を譲渡してきたのよ! 私の所有支配地が7になってるの!」


 私の説明に、エルザは目をキョトンとして驚いたのち、今まで以上の鋭い視線をリナに向ける。

 いいわよエルザ! もっと睨んでやって! お痛ばかりするヒロインに対し、悪役令嬢が厳しく睨みをきかせるがごとく! 防御力ガンガン下げちゃって!

 私はほら、つぶらなシャチアイだから睨んでも効果ないからね。癒し系乙女です、はい。


「どういうつもり? どうしてオル子に支配地を譲渡したの?」

「そうよそうよ! 理由を聞かせなさいよ! いや、やっぱり理由なんてどうでもいいから返品させなさい! 支配地なんぞ貰ってもシャチに小判なのよ! ふんがー!」

「理由なんて簡単だ。そうしたほうが『より世界が面白くなる』と思ったからだ」


 やばい、猛烈にぶん殴りたい、このドヤ顔おっぱい。

 落ち着け、落ち着くのよ私。良い女はこの程度では動じないもの。暴力で解決しようだなんて淑女にあるまじき行為だわ。

 冷静に、冷静に。ふふっ、怒ってないわよ? ええ、ええ、怒るもんですか。慈悲、寛容を大切にするこのオル子が暴力行為なんて決して……


「次期魔王を決める『魔選』が繰り広げられている今、価値ある支配地を所有するということは魔王の座を虎視眈々と狙う魔物どもに狙われるということだ。私はお前がこのつまらない戦いに巻き込まれ、面白おかしく一石を投じる様が見たい」

「な、な、なっ」

「ちなみに支配地の返還はできんぞ、返せないように特殊な呪いをかけたからな。お前はこれから先、支配地を貰うことはできても誰かに譲渡することはできん」

「うおおおおお! 私は怒ったぞおおお、このドS鬼畜おっぱい! くらえ! これは私の怒り! これは私の涙! そしてこれは先祖より母妹私ともども引き継いだ呪われしペチャパイ魂! オル子の魂よっ! 」


 笑顔でとんでもないことをいうリナのおっぱいを右に左にヒレビンタ、ヒレビンタ、ヒレビンタ!

 寛容な精神? 知ったことか! 気に食わない奴は暴力でねじ伏せる、それが魔物の掟なのよ!

 荒ぶる私を放置して、エルザはリナを睨んだまま問い続けてくれる。


「面白いというだけで支配地を6つも譲渡するというの?」

「数よりも質が問題さ。支配地のいくつかは『曰くつき』の場所でな。次期魔王への覇道を歩むには、その領地が必要不可欠と言っても過言ではない。そんな支配地を私が他の魔物に譲渡したと知った連中は、それをどう受け取ると思う?」

「……魔王アディムの後継者の誕生。前魔王の右腕であり、前魔王の死とともに軍を見限り去ったリナ・レ・アウレーカが『魔王となるために必要な場所』とやらを譲渡するほど認めた者が現れた……つまりはそういうことかしら」


 エルザの言葉に、リナは満足そうに笑う。え、ちょ、おま。

 つまり、曰く付きの支配地を受け取った私は次期魔王候補の本命に躍り出ちゃったってことで。

 次期魔王になりたい連中からすれば、私は邪魔者以外の何物でもないわけで。

さっきリナが言ってた『魔選』に巻き込まれるというのは、文字通り私が強制参加確定ってことで……お、お、バカ野郎!


「返すわ! 支配地なんて全部返すわよ! いえ、返させてください、お願いします! 今ならタイムサービスで私の持ってたクユルの森もつけちゃう!」

「だから返還はできないと言っただろう? その呪いは強力でな、私が解呪するか死ぬかしない限りは解けんよ」

「ぐぬう! だ、だったら力ずくでも解呪させてやるう! 何が魔王の右腕よ! そんな中二病な呼び名されている奴に限って実は雑魚キャラなのが相場なのよ! 覚悟なさい、おっぱいお化け! エルザ! やっておしまい!」

「駄目よ、オル子。落ち着いて、その女のステータスを見て頂戴」


 ぬう、エルザが杖を抜こうとしない! どうしてよエルザ! この女は悪よ! 私の平穏を脅かす悪魔なのよ!

 でも、指示されたからには『はい、承りました!』と行動せずにはいられない、そんな私はジャパニーズ・ガール。むむむん、むむむん、ホーッピング! ステータスチェック!




名前:リナ・レ・アウレーカ

レベル:15

種族:アポカリプス・デモン(進化条件 レベル20)

ステージ:9

体量値:A 魔量値:S+ 力:D 速度:A

魔力:S+ 守備:C 魔抵:S 技量:SS 運:B


総合ランク:S+




「オル子、一応訊くけれど、寝転んで真っ白なお腹を見せて何がしたいの?」


 獣方式で全面降伏、服従の意を示しております。もきゅーん。もきゅきゅーん。

 無様? 失望? なんとでも言うがいいわ! 私はまだ死にたくないのよ! せっかく手に入れた第二の生、また恋愛の一つもできぬまま終わってたまるかあ!

このオル子、友人に初めてできた彼氏を自慢するまでは泥水を啜ってでも生きてみせる!


 というか、何この化け物ステータス。真顔で言うけど、酷過ぎでしょ?

ありえなくない? SSって何、おいしいの? ステージ9、総合ランクS+って、もしかしてチート? か、勝てるわけがないじゃない……もう駄目よ、おしまいだわ。

 ぷるぷる震えながら命乞いをする私に、肩を震わせて笑うリナ。そんな私をペチペチと叩いて起き上がらせるエルザ。やだ、こんな化け物相手でも動じないエルザ格好いい、惚れそう。エルザが男だったら是非とも結婚してほしい。

 そそくさとエルザの背後に隠れるチキンな私を見ながら、リナは楽しそうに話を続けた。


「ステータスを見て分かってくれたかと思うが、私を倒して解呪を狙うのは賢いとは言えんぞ。今のお前たちでは私には届かんだろう。もっとも、未来は分からんがな」

「分からないわね……どうしてそこまでオル子を買っているの? あなたはオル子に何を視ているの?」

「先ほどから何度も言っているだろう。気に入ったんだよ、オル子を。アディムが死に、次期魔王を決める『魔選』は俗物どもの権力に物を言わせたつまらぬ泥沼の争いになってしまっている。その状況をオル子に変えてもらいたいのさ。アディムと同じく、とびっきりの馬鹿であるオル子にな」


 なるほど、つまり私は魔王級の馬鹿だと。ぬがー! 悔しいけど怖いから言い返せない!

 でも、何とか、何とかしないと! エルザ、お願い! 私の命はあなたにかかってるわ! ヒレでエルザの服をグイグイと引っ張ってアイコンタクト。エルザ、あなたならやれる!


「領地を譲渡されたことで、オル子はあなたと同格の魔王軍幹部からも狙われるのでしょう? 正直、今の私たちでは手も足も出ずに殺されるわよ」

「安心しろ。私と同格クラスの連中は動けんさ。奴らは愚かにも俗物同士で睨み合って、動くに動けない状況に陥っているからな。動くとすれば、その部下連中だ。そして、それはお前たちにとって望ましい状況とも言える」

「え、全然望ましくないんだけど……部下の人たちも私の命を狙うんでしょう? 刺客に襲われて望ましく思うって、私たちどれだけドMなのよ」

「お前たちはレベルを上げたいのだろう? 将クラスの配下となると、ランク的にはCからB。つまり、お前たちにとってレベルを稼ぐには非常に美味しい相手ということになる。差し向けられた刺客を片っ端から潰していけば、レベルなどあっという間にあがるさ」


 おお、なるほど。確かに危険はあるけれど、旨味もちゃんとあるってことね。

 さっきのゴーレムくらいなら、油断さえしなければ勝てる。しかも私たちは二人とも進化できたし、強さもグンとアップしてるはず。

 ……あれ、これめっちゃ良い話なんじゃない? 必死に魔物を探してウロウロするより、美味しい経験値ボスがやってくるんだから。しかも強キャラはこない、と。


「エルザ、もしかしてリナって良い人なんじゃないかしら? 私たちの目的のために協力してくれてる気がしてきたわ」

「オル子、この世界の生き物全てがあなたくらい単純だったら争いなんて存在しなかったのかもしれないわね」

「それってつまり、私が聖女みたいってこと? やだ、照れる」

「馬鹿な子ほどとは言うけどね。で? そんなことで流されてあげられると思ってるの? あまり舐めないでほしいわ、リナ・レ・アウレーカ」

「納得してもらえるとは思っていないさ。だが、私たち魔物にとって力こそが全てだ。お前たちが私より弱い以上、受け入れてもらうしかない……が、強制的に押し付けておきながら何もしないというのも面白くな……いや、私の主義に反する」

「今、面白くないからって言いかけたでしょ! このあろー!」


 リナの巨乳にひたすら百裂ヒレビンタを繰り出していると、彼女が机の上から取り出した何かを額に押し付けられた。

 むきゅ、丸くて固くて小さい……ビー玉?

 蒼に染まったガラス製っぽい玉を渡し(シャチの手じゃ持てないから受け取ったのはエルザだけども)、リナはそれが何かを説明してくれた。


「宝玉に触れたまま『解放』と唱えると家に変化する魔道具だが、お前たちに進呈しよう。これから先、各地を旅して回るお前たちには嬉しいものだと思うが」

「家!? 家になるの!?」

「家というよりは館と言った方がいいかもしれんな。魔王のための移動式簡易住居として生み出したアイテムだけあって、その広さは保証しよう。守りも強固に造ってあってな、ドラゴン程度の攻撃では傷一つつけられん。中に誰かが入っていてもこの形態に戻せて持ち運べる優れものだぞ」


 ふぉああああ! なんてこと! 

 つまるところ、私たちはこれから先、野宿をしなくても済むってことじゃないの!

 しかもかなり大きいかつ豪華な館みたいだし、ベッドとかもあったりするんじゃない? わは! 異世界に来てまさかのマイホームゲット!


「いいの!? 本当にもらってもいいの!? 後で返せなんて言っても駄目だからね!?」

「言う訳ないだろう。どうせ私には不要なものだ、これからの旅に役立ててくれ。その館ならば、この先お前と道を共にする者が何人増えたところで問題にならんだろうからな」


 うわあ、うわあ、リナ気前良すぎ! めっちゃ良い人じゃないの! どこぞのぱっぱら天使とは格が違うわ。

 リナの一言でエルザの視線がさらに怖くなったのは謎だけど。あれかな、タダで良い物もらうのを気にするタイプなのかしら。『おごりは嫌! 絶対割り勘じゃないと!』みたいな。

 確かに私も気が引ける思いはあるけれど、異世界で野宿な毎日なんて耐えられないもん。貰えるものは遠慮なく貰うわ!


「ありがとう、リナ! あなたにもらったお家、大切に使うわね! この家があれば百人力、Cランク程度の刺客なんて私たちがババーンと倒してみせるから!」

「ああ、期待させてもらおう。それと、確かオル子は人化の方法を探していたな。私の方でもその方法を調べておいてやろう」

「マジで!? やだ、女神が、本物の優しい女神様がいる……」

「だからオル子、お前は安心してレベルを上げるために世界を巡るといい。それにしても私が優しい女神とは……ククッ、お前は本当に面白いことを言うな」

 

 家を貰えるだけじゃなく、人化の方法まで調べてくれるなんてリナ最高!

 仕方ない、リナの望み通り刺客とやらを適当に返り討ちにしてあげましょうかね。

Cランクが相手ならエルザと二人がかりでフルボッコ確実だと思うしね。


 でも、私のシャチ生活、思ったよりも早く終わりそうね。

 人化したらエルザと一緒に社交界にでも出て、素敵な出会いを果たしてハッピーエンド確実間違いなし! ……間違いないはずよね?



 

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