13.要らないってば。セールスの押し売りは断固お断りよ
全ての話を聞き終えた美人さん、絶賛ぷるぷる震え中。マナーモード?
というかね、笑い過ぎでしょ? こちとら真剣なのよ? 美少女になりたいと、恋がしたいとシャチが願って何が悪い! 何がおかしい! シャチをバカにするなー!
「だ、大体の事情は把握した。それにしても、ククッ、人から転生した先が『それ』で、当人は人になって恋愛がしたいとのたまう。オル子といったか、お前、面白すぎるだろう!」
「面白くないわよ! あなたには気づけばシャチなってしまった気持ちが分かるっていうの!? ちょっと美人でおっぱいでかくて男の子にモテそうだからっていい気になってんじゃないわよ! 彼女のいない素敵な男の子の友人がいたら紹介してください! よろしくお願いします!」
「オル子、ヘコヘコ頭を下げないで。そこの女がまた笑い死にしかけてるから」
だって、妖艶な美女ってイケメンフレンド多そうなんだもん……私にもちょっとくらい幸せのおすそ分けがあってもいいじゃない。
散々笑い抜いたのち、美人さんは大きく息を吐く。
「お前は本当に馬鹿だな、オル子。ああ、実に馬鹿だ、突き抜けるほどの大馬鹿だ」
「ちょっと、人のことバカバカ言わないでくれる!? エルザ、私バカじゃないよね?」
「安心しなさいオル子。あなたは胸を張っていい、世界レベルのアホよ」
親友から華麗に梯子を外されたでござる。あんまりだ。
うおんうおんと泣きながら転がっていると、美人さんが二カッと男前な笑みを浮かべて口を開く。
「良いじゃないか。私は馬鹿が大好きだぞ。馬鹿は偉大だ。馬鹿は常人には思いもつかない、とんでもないことを平然とやってのける力がある。私は馬鹿を心から愛する。何をしでかすか分からない、だからこそお前たちのような馬鹿は面白い」
「それには同意するわ。オル子、よかったわね。たくさん褒められているわよ」
「褒めてないわよね? 持ち上げてるように言ってるけど、結局私はバカってことよね? というかバカバカ言われ過ぎてそろそろゲシュタルト崩壊しそうなんですけど」
「そう、アディムもお前によく似た馬鹿だったよ。奴もまた気持ちいいくらいに突き抜けた馬鹿でな、やることなすこと全てが無茶苦茶であり、だからこそ奴の生涯は輝いていた。あいつだからこそ、私も従ってやろうと思えた」
「アディムって誰? 美人さんの元カレ? ……ふぎゃあ!」
美人さんの雷鳴のような拳骨が私の頭に突き刺さった。
ふがー! 痛いいいい! 守備Aの進化シャチボディがあっけなく貫かれてるううう!
もんどりうってゴロゴロ転がる私を他所に、エルザが視線を鋭くさせながら美人さんに問いかける。
「前魔王アディム・クロイツ……彼が死した後、魔王軍から離れこんな場所で隠遁生活を送っている。前魔王への親しげな口ぶりからして、あなたが誰だか分かった気がするわ」
「痛たたた……エルザ、この人を知ってるの?」
「知っているも何も有名人よ。実際にその姿を見るのは初めてだけど、その名を知らない奴なんてこの世界にいないってくらい――自己紹介をしてもらえるかしら? 『元』魔王の右腕さん」
エルザの言葉に、美人さんは唇を釣り上げて妖艶に笑った。
んまっ、これは悪女だわ! 男を手玉に取る悪女のオーラがするわ!
「――私の名はリナ・レ・アウレーカ。お前の言ったとおり、かつて魔王の右腕と呼ばれアディムに付き従った者だ。もっとも、奴亡き今はただの一悪魔に過ぎんがね」
「ふーん、つまるところ、好きな人が死んだから、喪に服して退職したってことよね? やっぱり私の読み通り、あなたはアディムって人の元カノ……ふぎゅ!?」
「私をあんな馬鹿と番にするな!」
乾坤一擲。リナのサンダーパンチが私の脳天に再び直撃。ぎゃー! 割れる、それでも地球は割れるうう!
うう、さっき馬鹿は好きだって言ったじゃない……コレはあまりに理不尽過ぎるでしょう?
「それで、前魔王の右腕さんがなんでこんなところにいるの……?」
「アディムが死んで魔王軍を引退した身だ。私がどこにいようと自由だろう。むしろ私の隠れ家にやってきたお前たちに『なぜ侵入してきた』と問うべき立場だな」
正論でぶった切られました。ですよねえ。
言ってしまえば、ここはリナの家で、私たちは勝手に入って暴れるだけ暴れまわったってことだし。
性質が悪いわね、私たち! 悪女はリナじゃなくて私たちのほうでした!
「さっき説明した通り、レベルアップがしたかったので、洞窟内にいた手ごろなゴーレムをボコボコにしてました。許して、てへり!」
「まあ、それは構わんよ。アディムが死んだ際、他の馬鹿どもに利用されないよう、ここのゴーレム生産施設の機能は私の手で完全に潰している。洞窟内の連中は言わば主を失って彷徨う亡霊のようなものだ。むしろ処理の手間が省けて助かった」
「ほっ」
「だが、クリスタル・ゴーレムまで倒されるとは思ってもいなかったぞ。あれはアディムが直々に生み出した眷属で、生半可な奴では倒せない高ランクのゴーレムでな。私を呼び戻そうとしていた愚か者どもを追い払うのに使っていたんだが」
ああ、なるほど、文字通り門番というか番犬代わりだったんだ。
どうしよう。私とエルザの二人でやりたい放題ふるぼっこしちゃったんだけど……修理できるのかな。弁償しろなんて言われても何も払えないんですけど。
……あれ? でも待って。さっき倒したゴーレム、魔王の眷属なのよね?
でも、あれ倒しても私の支配地域は増えていないんだけど。なんで? 大樹を倒したときは増えたのに。
「ねえリナ。部屋の外のゴーレムって魔王の眷属なのよね? あれを倒したけど、私の支配地域が増えてないのはどうして? クユルの森の魔王の眷属を倒したときは支配地域が増えたんだけど」
「簡単だ。このヴァルガン洞の支配者はクリスタル・ゴーレムではなく私だからだよ」
「あ、なるほど。魔王の眷属だからって必ず支配者って訳ではないのね」
「魔王の眷属とは魔王によって生み出された魔物に過ぎん。アディムが死に、この地の支配者権限が奴から解放され、クリスタル・ゴーレムに移っていたのを私が横から奪ったのだから、元支配者ではあるのだがな」
……いや、全然分かんないけども。
とにかく、魔王の眷属だから支配者じゃないってことは分かったからいいかな。ちょっと気になっただけだしね。
そんな私に、リナは面白い玩具を見つけたというような笑みを浮かべて問いかけてくる。
「アディム・ユグドラルを倒したということは、支配者になっているんだな。次期魔王を決める『魔選』の戦いは既に始まっているが、お前も次期魔王に名乗りをあげるのか?」
「マセンって何? 魔法戦士か何か?」
「オル子、言葉の意味を考えるなら話の前後をしっかり噛み砕きなさい。どこをどう読み取っても魔法戦士なんて関係ないでしょ」
エルザに怒られました。私のなかでマセンって言ったら魔法戦士なんですよ! マセって言ったらマーセナリーなんですよ! 仕方ないじゃん、ゲームを嗜む乙女だもん!
そんなおバカな反論をする私を放置して、リナは『魔選』について説明してくれた。
なんでも、魔王が死んだら、次の魔王を決めるための戦いが強制的に開催されるらしい。
魔王の死後三年間を準備期間と定め、それから開催される次期魔王争奪戦が『魔選』とのこと。
決め方は簡単、前魔王が死んで分散された支配地を一番かき集めた魔物が優勝、つまり魔王決定。
タイムリミットは夜空に『魔緑の月』っていうのが現れたとき。
それがどのタイミングで現れるかはその代の『魔選』によって異なるとのこと。長くてウン百年、早い時は一年も経たずに現れたらしい。
……なるほどねえ。前にエルザが次期魔王争いが始まってる~みたいなこと言ってたけど、これのことだったのねえ。
私はエルザにお願いして取り出してもらったリンゴをボリボリと丸かじりしながら、右から左に聞き流していた。え、だって興味ないもん。
素直過ぎる私の気持ちを読み取ったのか、リナは嬉しそうに問いかけてくる。
「微塵も興味がないといった顔だな。生まれたばかりでありながら、あのクリスタル・ゴーレムを倒すその実力、魔王を目指すには十分過ぎる素質なのだが」
「なんで私が魔王を目指す必要があるの。私がなりたいのは魔王じゃなくて人だってば。欲を言えば人間、美少女ならモンスター娘ことモン娘でも可!」
人に戻って、恋をして、青春の日々を謳歌する! それがこのオル子の抱く唯一無二の大望よ!
ババーンと胸を張って言ってのける私に、穏やかに笑うリナ。
あれ、今度は爆笑したりしないのね。ふふん、私の夢の大きさがどうやら理解できたようね! ウェディングには呼んであげてもよくってよ!
「フフッ、そうだな。確かにお前のその夢ならば、魔王などなっても仕方あるまい。オル子、お前ほど魔王が似合わぬ魔物は他にいないだろう――だからこそ、面白い」
そんなことを考えていると、リナはおもむろに私の額に人差し指をぴたりと押し付けた。にょ? ツボでも押してくれるの? チャクラ開眼しちゃう?
何するんだろうと思っていると、突然脳内に響いてくるメッセージ。
『支配地の譲渡が成立しました。『リナ・レ・アウレーカ』の所有支配地が全て『オル子』へ譲渡されました。現在、あなたの統治する地域は7です。所有支配地が5を超えましたので、特殊スキル『従魔契約』を取得しました』
へえ、支配地って譲渡できるんだ……って、うおおおおい!? 支配地数が恐ろしいことになってるんですけど!? しかも変なスキルがセットでついてきたんですけど!
な、な、な、何をしてくれちゃってんのこのおっぱい星人!? 誰が支配地を下さいなんて言ったのよ! クーリング・オフ! 今すぐクーリング・オフプリーズ!
・ステータス更新(オル子、新スキル獲得・支配地獲得)
従魔契約(常時発動可、支配地の魔物をランダムで一体召喚して強制的に従魔とする。使用回数は一度だけであり、呼び出した従魔を変更することはできない。呼び出される従魔は術者の素質に依存)
所有支配地:7
支配地名:クユルの森・ヴァルガン洞・グルディア城・ガーディバン草原・ルメイア山・バガル平野・ランドラリン湖




