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116.素直に甘えるなんて柄じゃないけれど、それでも今日だけは

 



 とりあえず心行くまでアルエに甘えました。むふー! オルカナティアの温もりを感じるわ!

 ごつんごつんと何度も頭を擦りつける私に、アルエも仕方ないと呆れながらも相手してくれる。そうよ! これよ、私はこれを求めていたのよ!

 空に浮かんで再会を喜び合う金髪令嬢とシャチ令嬢。なんて幻想的な光景かしら、まるで絵本の世界だわあ。


『とりあえず、オル子が無事でよかったわ。ハーディンの対応から、大丈夫だとは思っていたけれど、それでも心配だったもの。魔王城での生活は大丈夫だったの? 傷つけられたりしてない?』

『しましたよ! 『窟王』ウェンリーや魔王城のガイコツやら死神やらヤギ悪魔やらに毎日毎日シンデレラのごとくイジメられておりました! アルエ、可哀想な私を慰めてくださいまし!』

『イジメられる……? オル子が……?』


 え、何その胡散臭そうな目は。ありえねえ、みたいな目は。

 本当だもん! イジメられたもん! その十倍くらい反撃したけど! 雑魚連中は死ぬほど後悔させてやったけど!

 甘える私の頭をぺちぺちと叩きつつ、アルエはオルカナティアに戻った事に関して話し始めてくれた。


『オル子と別れてから、私は真っ直ぐオルカナティアに戻ったわ。クレアの周囲を飛んで、剣化してもらって、それからみんなにオル子が捕まったことを話して……』

『どうだった!? みんな心配しまくっていたでしょ!? 大切なオル子さんがいきなり消えたかと思うと、敵の魔の手に捕まっちゃったんだもんね! そりゃあ心配するってもんでふ!』

『心配してるなんてもんじゃなかったわよ……私が戻るまで、オルカナティアはハーディンに戦争を仕掛ける一歩手前だったんだから』

『そこまで!?』


 アルエの話だと、やっぱり向こうの私で眠りこけていた私が忽然と消えちゃったらしい。

 それに気づいたミュラが癇癪を起しまくって大泣き、つられてミリィも遠吠え。

 私の姿が影も形もないことに、オルカナティア幹部は緊急会議。当然ながら、ハーディンへの偵察中に何かあったに違いないという結論になったそう。そこで会議が荒れに荒れたらしいの。


 どうして魂だけの私が消えたのかは分からないけれど、これがハーディンによるものということは明白。間違いなく私はハーディンに捕まったに違いない。

 だからこそ、ハーディン軍に向けて主の為に今すぐにでも動くべきだというクレア、ルリカ、ポチ丸。


 私の身に何が起きたのかは分からないけれど、即座に軍を動かしてハーディンとぶつかるのはリスクが高すぎる。下手を打てば国民すべてがハーディンの軍勢に呑み込まれてしまう。

 私と違って純粋な死者、魂だけの存在であるアルエが一緒にいる以上、もしかしたら彼女が戻ってきて情報を持ち帰るかもしれない。それを待っても遅くはないというエルザ、キャス。


 二つの意見に場が荒れに荒れて、結局二段構えの結論が出たそう。

 タイムリミットは十日間。それまでにアルエが戻ってきたら、それでよし。もし戻らなければ、イシュトスと組み、オルカナティアの総戦力を以て進軍する。

 オルカナティアの出来事を思い出しているのか、アルエは心から疲れ切った表情で私に語り掛けてくる。


『オルカナティアはね、あなたがいないと駄目なのよ、オル子。あなたがダラダラしたり、食っちゃ寝の生活を送ることが、どれだけオルカナティアにとって大切なのかを嫌というほど痛感させられたわ……あなたは偉大だわ、オル子。これからも国の頂点でいつまでも腐った生活を送って頂戴』

『あの、褒められてるようで全然褒められてる気がしないんですけども……腐った生活って何ですか、腐った生活って』


 乙女ライフに腐ったなどとは表現があまりに酷過ぎる。異世界まったりスローライフと呼んでほしい!

 でもまあ、私がいないことで随分とみんなに迷惑をかけちゃってるわね。ミュラやミリィなんか、大泣きしちゃってるし。

 うむ、これは戻り次第、沢山甘やかしてあげねば! 寂しい思いをさせてごめんね、娘たち! お母さんすぐに戻るからね!


『あなたの現状を伝えて、これからどうするかの指示をエルザから受けて、こうして私は戻ってきたという訳』

『ほむほむ、でも随分と戻るの早かったね』

『それはそうよ。オルカナティアまで全速力で飛んで、そこからエルザの指示を受けて、一日と滞在せずにとんぼ返りしたんだもの。エルザがあなたの傍にいてあげてって』

『エルザが?』

『オル子はいつも騒がしいくらい明るくて、変なところで図太いけれど、決して孤独に強い訳じゃないからって……オル子?』


 やばい。かなりキュンとした。

 普段はクールでいつも私のことをハイハイとあしらっているエルザが! あのエルザさんがそんな台詞を!

 もしエルザが男の子だったら、完全にエルザルート入ってしまっていたわ! それくらいの破壊力のある言葉ですよ! エルザのシャチ殺し! ワシントン条約違反!

 そうなんです! オル子さんは明るく振る舞っているけれど、独りぼっちに耐えられない寂しんぼなのですよ! 誰かが一緒じゃないと寂しくて泣いちゃいます! エルザってば何でも私のことはお見通しなのね! 大好きよ、私の永遠の親友!


『ニヤニヤするのはいいけれど、話はちゃんと聞いてね? エルザからの指示を伝えるわよ?』

『あいあいさ!』

『とりあえず「闇王鎖縛ダーク・ジェイル」を解除して助けるにしても、オル子と接触しないと始まらない。けれど、ハーディン支配地、それも城の奥深くまでは流石に手出しができないそうよ』


 まあ、そうよね。ただでさえ、ハーディンの支配地には魔物がうじゃうじゃしてるのに、強固に守りを固められた城へ攻め込むっていうのは難易度が高過ぎですよ。

 これじゃ私を助ける前に、みんなが力尽きかねませぬ。私を助けるためにみんなが犠牲になったりしたら、それこそ本末転倒なんですよ!


『オル子を助けるためには、あなたがイシュトスの支配地に出てくるのが望ましいらしいの』

『イシュトスの支配地に?』

『ええ。加えて言うなら、イシュトス軍とハーディン軍、二つがぶつかり合う混戦、乱戦の状況がいいそうよ。その状況ならば、入り乱れる魔物の戦いの中で、警戒されずにオル子を救うための一手を打ちやすいのだそう』


 なるほどなるほど。エルザたちの言いたいことが分かってきましたよ。

 確かに、私にハーディンや他の幹部連中の監視の目があると救出はとても難しい。

 けれど、戦いの中、それも混戦状態の中なら、ハーディンたちは私に注視し続けるわけにはいかないもんね。むしろ襲ってくるイシュトス軍の相手でそれどころじゃないはず。

 その混戦状態を狙って、私と接触してこの『闇王鎖縛ダーク・ジェイル』を何とかして脱出! ってのをエルザたちは狙ってるんだと思う。

 だったら、私がやるべきことは簡単ね。私はむぷぷと笑ってアルエに問いかける。


『つまり、私はハーディンにお願いしてイシュトスとの戦争に参加させてもらい続ければいいのね?』

『そういうこと。あなたはハーディンに気に入られているっぽいから、それなりに強さを示せば参戦させてもらえるとエルザは言っていたけれど、大丈夫そう? 私は捕虜も同然のあなたを戦場に出すなんて思えないんだけど……』

『それは平気。だって私、もう既にイシュトス軍の魔物と戦わされちゃってるし。むしろ「また戦え」って催促されてるくらいだし。強ければそれでOKみたいなところあるよね、魔物って』

『ううん、人間である私にはよく分からない考えだわ……どう見てもオル子は怪しい存在なのに……どうしてハーディンはあなたをそこまで自由にさせるのかしら』


 そんなの私も分かんないですよ。どうしてハーディンは私によくしてくれるのだろう。

 敵の親玉とは思えないくらい、ハーディンは温厚だし、私に対して優しくしてくれるし。ちょこちょこ闇抱えてそうなところは見えるけれど……不思議な人。いや、魔物かな。


『とにかく、エルザの指示は了解しました。みんなが助けに来てくれるまで、オル子さんはハーディン軍に参加してイシュトス軍の魔物をバッタバッタと殺しまくるよ! イシュトスとの不戦条約なんて知りません! だってここでの私はオル子ではなくシャチ子だから! 別人だからノーカン! ノーカン!』

『いや、無理しない程度に参戦するくらいでいいと思うのだけど……とにかく、もうしばらく頑張って頂戴ね。あなたを助けるため、みんなも頑張ってくれているから』

『余裕です! アルエも戻ってきてくれて寂しさは吹き飛びました! エルザもミュラもルリカもクレアも……クレア! そう、クレアの件があったわ!』

『? クレアがどうかしたの?』


 首をかしげるアルエに、私は先日出会った別人クレアについて話す。

 見た目も声も何もかも同じ、違うことと言えばオルカ化していないとところと、ウチのクレアと違って可愛らしいポンコツさが消えちゃってるくらい!

 私の説明に、アルエは眉を寄せながら言葉を紡ぐ。


『瓜二つ、それでいて別人のクレア……しかも敵幹部である『地王』ガウェルの娘……それだけ単語が並んでいても、ウチのクレアがハーディンの内偵だと微塵も思えないのが不思議よね。普通なら、敵の刺客だと疑ってしかるべきなんでしょうけれど……』

『うにゅ、それだけは絶対にないと思うのよ。自分で言うのもなんだけど、クレア、私の為なら死ぬことすら迷いそうにないくらいだし。私の為に、誰より先頭で戦場を駆け抜けてるあの子が裏切り者なんて微塵も思えない。というか、思うくらいならオル子さん死にます』


 記憶喪失で、不安で泣きだして、私の手をぎゅっと握ったクレア。

 あの涙が嘘なんて微塵も思えないし、私の剣になるという誓いをつまらない疑いで汚したくない。ウチのクレアは、誰が何と言おうと私のクレアなんだもん。

 その忠義っぷりを知っているからこそ、比較的会ってからの期間の短いアルエすら間者だと疑ってないもんね。


『双子の姉か妹、でも名前まで同じだとは……クレアは記憶を失っているから、そのあたりも知りようがないし。困ったわね、ちょっと私には分からないわ。エルザなら何か推測できそうだけど、みんなもうオルカナティアを出発しただろうから報告もしようがないし』

『今のところ、当たり障りのない感じで接触しているけれど、どうしよう? クレアの為にも踏み込んで話したりしたほうがいいのかな?』

『そうね……怪しまれない程度にそうしてあげたほうがいいのかもしれないわ。クレア、自分に記憶がないこと、自分の素性が分からないことを結構気にしてたし。ああ見えてクレアって、オルカナティアで一番内面が脆いところあるから』


 そうなのよね。戦場では鬼神の如き強さだけど、一番繊細というか、豆腐メンタルというか。そんなポンコツっぷりがクレアの可愛いところなんだけども!

 アルエもこういってくれている以上、みんなと合流するまでの間、別人クレアと色々お話してみましょう。


『うむ、方針は決定です! オル子さんはこれからガンガンとイシュトス軍と戦っていきつつ、敵の情報収集、そして別人クレアとコミュニケーション!』

『ええ、それでいきましょう。私は常にあなたの傍にいるから、何か話したいことや相談があったら「トランジェント・ゴースト」をお願い。剣霊になっていない状態だから、そうしないと見えないものね』

『あいあいさっ! という訳で、話し合いは終わったので、今日はとことんアルエに甘えることにしまふ! わはーい!』


 アルエに再び頭をぐりぐりと擦りつけ擦りつけ。

 明日からまた戦いの日々だからね! 今のうちにアルエにたっぷり甘えてオル子パワーをチャージするのです! さながらルーベンスの絵の前で抱き合う飼い主とワンコのごとく!

 異世界最強・構ってちゃんの私は、みんなに愛されることでエネルギーを貯めるのですよ! うむ、これで明日からも頑張れるう! みんなが傍にいてくれれば、オル子さんはいつだって最強美少女ですよ!



 

 

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