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114.人脈は大切になさいな。それがあなたの身を守るのだから

 



 ぴょんこぴょんこと魔王城を散歩なう。スパイオル子は今日も敵地を行くのです。

 私とて、いつもハーディンの傍でダラダラしている訳ではなくてよ? ハーディンが玉座以外で仕事をしたり、外出をしたりしたときはこうしてお城の中で情報収集に動いているのです!

 派手に動かず、事を荒立てず、静かに情報を抜き取ることこそスパイの極意。私がシャチ身中の虫だと気付いたころには時すでにお寿司、ゲームオーバーって寸法です。


 廊下をぽにぽに跳ねていると、廊下の向こうに魔物が三匹固まっているのを発見。骸骨剣士に死神もどき、そしてヤギ顔悪魔さん。

 ややや、あれは見知った連中ではないですか。どれどれ、彼らからちょっくら情報を抜きましょうかね。


「はーい! そこの不気味系魔物三銃士のみなさーん! ちょっとお時間よろしくてー?」

「げげっ! ゲス子!」


 私を見て悲鳴のような声を上げる骸骨剣士。乙女相手にその反応は失礼ではなくて? 誰がゲス子じゃ誰が。

 他の連中も似たようなもので、死神君に至っては鎌を構え出すし。お、今オル子さん上手いこと言いましたよ! 令嬢たるものジョークも嗜んでおかなくてはね? ほほほ!

 ぴょんこぴょんこと近寄り、私は大きく跳躍して死神の鎌へと噛み付き、そのままベキンとへし折ってやりました。


「うわああああ! お、俺の冥獣王の鎌がああああ! 相棒おおおおお!」

「か弱い乙女に武器なんぞ向ける方が悪いのです。この間、ボコボコにしてやったのにまだ懲りないわけ?」

「懲りてるよ! 懲りてるからこそ、身の危険を感じて身構えたんだろうが! 見ろよ、この俺の無残な角を! 未だにお前にへし折られたままなんだぞ!?」


 唾を飛ばして激高するのはヤギ悪魔。

 ふーむ、確かに片方だけ折れてるってのはバランスが悪いわね。

 けれどご安心ください。優しい匠のオル子さんはアフターフォローも万全です。私はヒレをむいむいと振って提案。


「分かったわ、私がもう片側の角もへし折ってあげる! そうすればバランスもとれて嬉しいわよね? シャチ子さんは優しいのですよ!」

「お、鬼かお前は!? 悪魔や魔獣だってお前より優しさ持ってるわ!」

「こいつ絶対頭イカレてやがる……流石はハーディン様の寵愛を受ける魔物だわ、マジ半端ねえよ……」


 骨もヤギも死神も酷い言い様だこと。私はこんなにも優しーぷりちーフレンドリーだというのに。

 身を寄せ合って震え合うこの三匹。実は、私が魔王城に来た初日に突っかかってきたアホどもなのです。


 ハーディンに許可貰って、城内を一人でうろついてたら、『見慣れねえ魔物だがお前どこ出身よ? 何中よ? ここ、俺たちのシマだから先輩に挨拶しろよ?』みたいなこと言ってきたのよね。

 イラッと来たから、死なない程度にフルボッコにしたら翌日からこのザマですよ。

 しかもこの三匹、魔王城でもランクが高い方だったらしく、骨がB、死神がB+、ヤギ頭がB。

 そいつらに加え、ウェンリーのキメラを締め上げちゃったもんだから、お城の魔物たちからオル子さんは腫物扱いですよ。どいつもこいつも極力目を合わせようとしないようにするし。

 まったくもう、ぷんぷんですよ! か弱い乙女に失礼しちゃうわ! あ、これもしかしてヒロインに対するイジメイベント? 王子様が助けに来てくれるシーン来ちゃいます!? スチルかもん!


 そういう訳で、この三バカトリオは私にとって貴重な情報提供キャラなのです。

 力こそすべて、私はこいつらより強い。だからこいつらは私に逆らえない。魔物の世界って単純だけど分かり易いわあ。言うなれば私が悪役令嬢! こいつらは取り巻き令嬢A、B、Cなのです!

 私は床をベチベチとヒレで叩き、三匹に正座するように指示。三匹は渋々ながらも私の指示に従う。死神、いい加減その鎌は諦めなさい。次はもっと頑丈なのを買ってね!


「ささ、各地から上がってくるハーディン軍の戦況とかについて教えてくださいまし?」

「そんなもんハーディン様に直接聞きゃいいじゃねえか。お前のことを溺愛してるってことは城中の誰もが知ってることだし……へぶうっ!」


 床に転がってた鎌の長棒部分を口にくわえ、プッと噴き出して骨の頭に発射。

 ミサイルのように吹き飛んだ棒は骨の顔面を吹き飛ばして、頭蓋骨を床に転がしちゃった。うむ、我ながらナイススナイプ。ビューテホー。


「お前、なんてことしやがる! 俺がスケルトンじゃなかったら確実に死んでたぞ!?」

「お仕置きです。あなたが口にしたことは魔王の部下にあるまじき発言ですよ! もし私がハーディンだったら、今頃あなたはガイコツ戦士からラーメンのダシ用ホネに転職させられているところです!」

「いや、意味わかんねえよ……」

「いいですか? 次期魔王となることが約束されているハーディンは当然ながら多忙な日々を送っているのです! そんなハーディンのお手を煩わせてなんとしますか! もし、多忙な主を慮る気持ちがあるならば、ハーディンに訊けばいいなんて単語は出てこないはずです! 違いますか!? 恥を知りなさい、恥を!」

「けどよ、昨日の昼、ハーディン様は城内の池でお前の体を布で嬉しそうに洗ってたよな。しかも鼻歌交じりで。どう見ても忙しいようには見えない上に、お前がハーディン様の手を煩わせてるじゃ……」

「ペットの世話は飼い主の大事な仕事です。それはそれ、これはこれ!」


 エルザがいないから、オル子さんの体に洗浄魔法を使ってくれる人がいないのです。

 お風呂もないし、綺麗好きな私は入浴のない生活に耐えられないのです。

 綺麗な女の子で在り続けるためには、ハーディンだろうとイケメンだろうと何だろうと利用するよ! それが乙女だもん! 全然関係ないけど、私を嬉しそうに洗うハーディンの姿が休日に愛車を洗車する父親の姿そのものでした。


「という訳で、ハーディンやウェンリーに負担をかけてはいけないのです。むしろ、彼らとは違う視点、実際に城に務めるあなたたちの情報が大事なんですよ! その情報が有用であれば、ハーディンたちの役に立てるのですよ! これほど光栄なことがありますか!」

「言ってることは正論だが、お前にこき使われるってのがなあ……」

「んんん? 今なにか言いました? Bランクの子爵令嬢ごときが、Sランクオーバーの公爵令嬢である私に口答えしましたの? それはつまり、お家が取り潰しになっても構わないと受け取っても?」

「分かったよ、分かりましたよ! くそったれ、こんな不気味な魔物に突っかからなきゃよかった……過去の自分をぶち殺したいぜ……」

「はーやーくー。情報を左から順番にプリーズプリーズ! さっさと情報をおよこしなさいな、取り巻き令嬢たちー」


 骨令嬢、死神令嬢、ヤギ令嬢はイヤイヤそうにポツポツと調べてきた情報を教えてくれた。

 戦況は一進一退が続くものの、やっぱりハーディン軍がやや押し気味みたい。

 今まではイシュトス軍の奇襲に備え、守りをメインに置いていたのが、ハーディンの一声で攻めに転じたことで戦況は一変したんだとか。


 ただ、当然ながらその分犠牲も多いみたいで、色んな魔物がイシュトス軍との戦争で死んじゃってるんだとか。

 まあ、魔物連中もそれを喜びとしている奴らばかりだから、哀悼の意とかは全然ないんだけども。

 私が気にするべきは、犠牲者云々ではなく、あくまでもハーディン軍の戦力。

 どの連中が強くて、どういう戦いを好むのか。そのあたりをしっかり聞いておかないとね。むふー! オル子さんはやれば出来る子なんですよ! 伊達にエルザからいつも教育されていませんでした!


「ウチの軍で一番強い連中を挙げていると言えば、何といってもオーガ連中だろうな」

「だな。『地王』ガウェル様が率いるオーガ軍は、前魔王であるアディム様が死してもハーディン様に忠誠を誓い、全軍が残ってくれてるからな。新進気鋭の若者から、アディム様と共に戦場を駆けた古参まで揃いに揃ってやがる」

「戦いは疾風怒濤。剣一本を手にどんな敵だろうと叩き切る連中だ。そして何より、連携もすげえ。俺たちスケルトン族は一度連中とやりあったことがあるんだが、あいつらに剣が当たる気がしねえよ」


 ほむほむほむ、なるほどなるほど。

 やっぱり、オーガ連中はどいつもこいつもクレアみたいな戦いをすると見ていいっぽいかな。

 となると、オルカナティアがオーガ軍と戦う時は接近戦は無謀かな。ウチにも近接戦闘を好む種族はいるけれど、ちょっと力の差があり過ぎる。無駄に死人がでるだけね。

 そんなことを考えていると、ヤギ令嬢が骨の話に待ったをかける。


「いや、だけど連中も今回の戦争ではあまり良い戦果を上げられてはいないらしいぜ? なにせ敵であるイシュトス軍は主戦力が空の魔物だからな。地を駆け、近接して叩き切るオーガじゃ厳しいらしい」

「あー、なるほどな。オーガは空飛べねえもんな。できて斬撃を飛ばしたり、跳躍して叩き切るくらいか」

「そして連中は守りが薄い。足こそ速いが、守備も魔抵もそこらの魔物より低いからな。空から魔法なり何なりをばら撒かれりゃ、手も足もでないだろうよ」

「ガウェル様やクレア様クラスには通用しねえだろうが、並のオーガならひとたまりもねえだろうな。だからこそ、連中と俺たち悪魔やハーピーなんかがペアを組んでることが多いんだけどよ。後方支援も大変だってグエンの野郎が愚痴ってたぜ?」


 なるほど、オーガ軍は単独ではなく、それをフォローする魔物と組んでいるのね。

 となると、戦う時は私やミュラで空の援護部隊を先に潰すかなあ。その後にエルザの殲滅魔法ドドンガドンドン。

 それまでの間、ガウェルはスーパー二刀流チートクレアに何とか抑えてもらえれば……ステータスだけなら、クレアだって『六王』に負けないもんね。


「あとはウェンリー様もえげつねえよな。あの人は自分で造りだした合成魔獣を使役して、どこからでも召喚できるからな」

「噂によれば、その気になれば幾らでも合成魔獣を呼び出せるらしいぜ? しかもどれもこれもランクが高いんだからシャレにならねえよな」

「つーか、そんなことできるなら俺たち要らなくねえかって話だよな。ウェンリー様とハーディン様だけいれば戦争終わるっつーのな」


 ほーん。やっぱりというか、ウェンリーはリナやアスラエールと同じ魔物使役型なのね。

 リナがゴーレム、アスラエールがアンデッド、そしてウェンリーが魔獣。

 ううん……なんというか、あれね。この三人が揃って初めて『魔王』って感じよね。こんな人材を揃えていたんだから、どれだけアディムって奴は凄かったのって話ですよ。


 ウェンリー自身の戦闘力も気になるところだけど、こればっかりは直接戦ってるところをみないと駄目かな。

 ただ、厄介さは今のところそれほど感じていないわ。召喚型よりも、一点チート能力者の方がこの世界では怖いっていうのは、嫌というほど理解させられたもんね。


 おっと、折角だから我が取り巻きたちに魔王軍の過去とか訊いてみたりしちゃいましょう。

 こいつら、結構古くからお城にいるみたいだし、何か知ってるかもしれないわ。

 アディムが死んでから、どうして『六王』たちがハーディンから離れていったのか、とか。リナは『面白くないから』としか言わないけど、これだけハーディンのパーフェクト魔王っぷりを見る限り、きっと何か事情があるはず!

 その弱みを握り、『ほほほ! 弱みをばらされたくなかったらミュラを諦めあそばせ! あとオル子さん専属の魔王執事になるという契約書にサインすること!』なんて言えるかもしれない! むほー! 腹黒紳士執事こそ乙女の華よ! いざいざいざ!


「ねえねえねえ、あなたたちってアディムが生きていた頃から魔王軍にいたのよね?」

「ん? ああ、俺たちはアディム様に忠誠を誓って傘下に入った種族だからな。俺たちだけじゃねえ、この城に残ってる奴らはアディム様の死後に起きた反乱を何とか生き延びた連中だ。新参の魔物はハーディン様が城に入れねえんだよ。だからこそ、新参者のお前が珍しくて声かけたんだが……ああ、思い出すだけでも死にたくなるわ。過去の俺、死ねよ」

「反乱? アディムが死んだ後、誰かが反乱を起こしたの? それってハーディンから離反した『六王』連中や、アディムの右腕だったリナ・レ・アウレーカ?」

「なんだお前、そんなことも知らないのかよ……って、そうか、当時の戦争に生き残った連中しか当然知らねえよな。リナ様も『六王』全員も当時はハーディン様の陣営だ。反乱を起こしたのは幹部たちじゃねえ」


 ぬう? だったら他に誰がいるの?

 魔王軍で強かったのはアディムの他にはリナと『六王』くらいじゃないの?

 他の連中が反乱を起こしたところで、すぐにぶっ潰されそうだけど。

 首をかしげる私に、骨令嬢は大きく息を吐き出して、その名を告げた。


「ミュレイア様だ。ミュレイア・クロイツ――それがハーディン様と殺し合った魔物の名前だよ」

「ほむう……へ? クロイツ? ちょっと、それって……」

「そうだよ。ミュレイア様は、アディム様の奥方――つまりは、ハーディン様の実母にあたるお方だ」


 ……マジで? え、何その重過ぎる話。想定外なんですけど。

 ハーディンの母親ってことは、当然ながらミュラの母親でもあって。そのお母さんが、息子であるハーディンを殺すために反乱を起こしたの? いや、全然意味が分かんない。

 そもそも、ミュラたちのお母さんってそんなに強いの? ハーディンやリナ、『六王』をまとめて相手にしても対等に渡り合えるレベルだったの?

 私は骨令嬢をヒレでツンツン突きながら早く早くと続きを促す。


「悪いが俺は理由まで知らねえよ。ミュレイア様はたったお一人で乱を起こし、ハーディン様が幹部と共に鎮圧して終わりだ。その後はあっという間だったぜ? リナ様が消え、アヴェルトハイゼン様とアスラエール様がハーディン様に仕える気はないと言い」

「えええ……イシュトスは? イシュトスはどうしたの?」

「イシュトス様は一番手口がえぐかったぜ? 力のある魔物連中に根回しして、軍を半分に割る勢力になった瞬間に宣戦布告してきたんだからよ。そのタイミングで『魔選』が始まったんだから、たまったもんじゃねえよな」


 何その鬼難易度モード。

 ハーディン、あなた幹部連中に何したの? それだけ一気に去られるって、尋常じゃないと思うんだけど……

 お母さんを殺したことが理由、な訳ないわよね。それだったら、リナたちがハーディンと一緒に戦った理由につながらないもん。

 となると、やはり他に理由が……もしかして、ミュラ?

 ここまで全く話に出てきていないミュラだけど、もしかしてあの娘が何かこの話にからんでいるの? 『聖地』の『鍵』といい、そのあたりの事情がこう、あみだくじのようにこんがりあって……


「おい、大丈夫か? 頭から湯気が出てるんだが」

「駄目、知恵熱が出てきました。シャチ子さんは考えることが不得意なのです!」

「いや、お前が馬鹿だっつーのは誰が見てもごふぁっ!?」


 はい制裁。ヤギ令嬢のボディに軽い頭突きが入りました。

 悶絶する取り巻きに、私はぺこりと一礼。令嬢らしく、礼儀作法はしっかりとね!


「ありがと! あなたたちのおかげで、なかなか良い情報が得られたわ! これからの働きにも期待しているわよ! 取り巻き令嬢A、B、C!」

「頼むから、もう二度と俺たちに関わらねえでくれよ……この前突っかかった分は十分に働いただろうが。十分に反省したから許してくれよお」

「やーだよ! シャチ子さんは情に厚いから、取り巻きの女の子は見捨てないのです! また会いに来るから楽しみにしてなさいな!」

「二度と来るな、ばかやろー!」


 ほほほ、照れ屋さん! しかしまあ、魔王軍の過去には色々と闇がありそうねえ。

 アディムの死、ミュラのお母さんの反乱、そしてリナたちの離反、かあ……私たちオルカナティアと直接関係ないこととはいえ、何か気になるのよね。この情報だけは押さえておかないといけないという、乙女の直感がビシバシと。


 エルザたちが助けに来てくれるまでの間、まだまだ時間はあるでしょうから、ダラダラしながら調べてみましょうかね。使える情報かどうかは分からないけれど、そこの判断はきっとエルザが何とかしてくれるだろうし。

 女スパイオル子、どんな些細な情報も見逃さないのです! 見た目は美少女、中身も美少女! 真実の愛はいつも一つ! 名ヒロインオル子です!



 

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