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112.鏡の中の私はいつだって美しく咲き誇っているわ

 



 異世界の修羅場からこんにちは。

 アスラエール戦を思い出すような、対集団魔物バトルの時間です。しかも今回はエルザもミュラもルリカもクレアもミリィもいません! ポチ丸は……まあいいや。

 飛翔してくる鷹みたいな魔物を愛くるしい尻尾アタックでミンチにしながら、私は真面目モードで思考を働かせる。


「さて……みんなはいないけれど、悲観にくれるほどの戦況でもないわ。私以外にもイシュトス軍と戦ってくれてる、ハーディン軍の連中がいるもんね」


 地上から怪鳥どもへの攻撃はもちろん、数こそ少ないけれどハーディン軍っぽい連中が空を飛んで戦っている姿もちらほら見受けられる。

 だから、イシュトス自慢の空軍が私だけを狙い撃ちにするのは絶対に不可能な状況。酷い言い方になるけれど、盾として使い捨て出来るハーディン軍の魔物が山ほどいるってことなのよね。

 これがオルカナティア軍なら、犠牲を一人でも減らすために身を盾にして頑張るんだけど。

 まあ、せいぜいハーディン軍の戦力も、私が生き残るための駒として利用させてもらいましょう。一番大事なのは、何があろうと生き延びることだもん。


 三匹、四匹と魔物を一撃で潰したことで、イシュトス軍の魔物たちに私への警戒の色が生まれた。お、流石に力の差が分かったかにゃ?

 返り血のついた尻尾をブルンブルンと空中で振り払い、私は眼前の魔物たちに笑って告げる。


「悪いけれど、一匹たりとも逃すつもりはないわ。私の姿をイシュトスに報告されては色々と面倒だもの――誰一人例外なく皆殺しよ。私に出会った己の不幸を嘆きなさいな」


 そう、皆殺しですよ。私の手じゃなくて、ハーディン軍のみんなが適当に頑張るでしょうからね! オル子さんは適当にだらだら戦うだけですよ!

 さてさて、ここから先の戦闘、使うスキルは限定しないと。なにせ私にはウェンリーの目がついてる。

 私が戦闘で使ったスキルは、確実にハーディンへと報告される。

 いくら面倒を見てもらっているとはいえ、相手がイケメンとはいえ、私はハーディンが敵に回らないなんてお花畑思考になれない。

 私にミュラと聖地なるものが関わっている以上、ハーディンを含めた『魔選』参加者は確実に敵対することになると思ってる。


 だから私の気持ちは最初からずっと割り切ってる。


 ――ミュラを私から奪おうとする奴は殺す。

 ――私の大切な人を傷つけようとする奴は殺す。


 それがたとえ、私に優しくしてくれるハーディンだろうと、誰だろうと容赦はしない。私の一番はいつだって変わらない。

 私にとっての一番は、オルカナティアで私の帰りを待ってくれているみんな。

 この異世界で出会い、私のことを大好きだと言ってくれた人たちなんだから。


「……まあ、ハーディンが私を甘やかしてばかりだから、今いち気合いが乗らないのも事実ですけれども。もっとこう、悪役オーラ出してくれてたら『むっしゃー! 殺すぞー! かもすぞー!』って思えるのに」


 いかんいかんと首を振って、私は気持ちを切り替える。ミュラに関する動向が見えない以上、ハーディンは警戒すべき敵、警戒すべき敵。うむ! イケメンだけど敵よ! 敵ったら敵なんです!

 だからこそ、極力私の手の内をハーディン陣営に見せないように。

 私は自分の持つスキルの中で、使用可能と不可能の分類分けを殺し合いの中で行っていく。


「ほむほむ。とりあえず、私の持つ戦闘用スキルで、使えるのと使えないのは……っと」


 コウモリ人間の胴体を噛み千切りつつ、結果を頭の中で整理。

 とりあえず、こんな感じですかな。




*使用可能スキル

・ブリーチング・クラッシュ:大味な技だし別にバレても怖くない

・コンフュ・エコロケーション:対ボスに混乱なんて使えると思えない

・キラーホエール・ダイブ:追加攻撃を発生させるスキルだからバレても問題ない


*使用不可能スキル

・冥府の宴:私の最大火力、フィニッシュブロー、戦いの生命線なので極力見せたくない

・レプン・カムイ:タゲ取りはこれまでの全ボス戦で有効だったから見せたくない

・海王降臨:私が海王殺した奴だってばれちゃう

・山王降臨:私が山王殺した以下略

・森王君臨:私が森王以下略


*問題外スキル

・サクリファシーワールズ:このふざけた自爆スキル別の便利なスキルと交換できないの? 一生使いません




 うむ、我ながら上手く整理できたと思うわ。

 今後のことも見据えて、私はこの局面を『ブリーチング・クラッシュ』、『コンフュ・エコロケーション』、そして『キラーホエール・ダイブ』の三つだけで乗り切っておきたい。

 言ってしまえば、この異世界で一番、雑魚敵が強いフィールドでの縛りプレイ。


 私にできるかしら? いいえ、できるか、じゃないわ。やるのよ! この程度の局面、一人で乗り越えられなくて、弱音を吐いて何がヒロインか!

 元の世界で死んでも! 美少女どころかシャチに転生させられても! 私はいつだって前を向いてきた!

 だからこそ、今回も絶対に下を向いたりしないの! 常に前を向いて、胸を張って乙女の花道を堂々と歩き、いつの日か幸せをこの手に掴んでみせる! そのためにもっ!


「私はっ! こんなところでっ! 死んでいる暇なんかないのっ! うおおおお! 『キラーホエール・ダイブ』発動!」


 私の体に確定追加攻撃の補助効果が発生する。

 準備はオーケー、それではレッツ無双ターイム! 私は全速力の突進を正面の鳥どもに喰らわせていく。


「ぎいいいいっ!?」

「ぎゅああああっ!」


 私の頭突きをモロに喰らった瞬間、更に追い打ちの打撃が敵に加えられ、次々に地上へと落下していく。

 パワーS+の確定二連撃よ、DランクやCランク程度の有象無象に耐えられる訳がないでしょうっ! そーれ、突撃突撃!


「な、なんだ奴は!? ハーディン軍の新たな魔獣かっ!? なんという速度――どっ」


 知性のある人型タイプ、コウモリ翼人の首を牙でガブリ。

 舞い上がる血飛沫と、落下していく体を見届けることなく、私はペッと先ほどまで何かを叫んでいた頭部を吐き捨てる。

 悪いけれど、私と出会うフローチャートを歩んでしまった自分自身を恨んで頂戴。イシュトスに私のことを報告させたくないのよね。


「止めろ! 誰でもいい! 誰かあの巨大魚を止めろお!」


 私に向かって容赦なく魔弾やブレスの嵐が降り注いでくるけれど、その程度じゃ今の私は殺せない!

 アクロバティックに宙返り、その最中に六匹ほど魔物を仕留めつつ、より上空へ。

 よし、ターゲットロック完了。せーのっ! 『ブリーチング・クラッシュ』発動!


「スーパー・オル子・デラックス・ボンバー! くらったら相手は死ぬ! もしくは『オル子さんマジ美少女』と叫びたくなる!」

「ぎいいいいい!」


 私の超高速落下に、まるでサンドイッチされるように敵が次々と巻き込まれていく。

 そして、ハンバーガーのように重なり合ったまま、そのまま大地へドーン! いち、に、さん……八匹まとめて圧縮だドン!

 空から舞い降りてきた私に、驚いているのは地上にいた魔物さんたち。

 ゴブリンっぽいのやらエルフっぽいのやらが武器を私に向けたまま、震える声で問いかけてくる。


「な、なんだお前は!? 空に現れてイシュトス軍を次々と……お、お前は我々の味方なのか!?」

「ハーディンとウェンリーに指示されて手を貸しにきたのよ。あなたたちはハーディン軍なの? イシュトス軍ならこの場で惨殺してあげるけれど」

「ひっ!? お、俺たちはハーディン軍だ! 混成軍四一二部隊、隊長はラベール様で……」

「あっそう。そういうの私は分からないから別にいいわ。とにかく、上空は私が適当に暴れまわるから、あなたたちは地上の連中に専念しなさい! とうっ!」


 何やら説明を続けている魔物を無視して大空へ。ハーディン軍の魔物なんて興味もないし、覚えるつもりもありませぬ。私の線の外側の魔物なんてどうでもいいし。

 再び空に舞い上がって、敵に向かって『コンフュ・エコロケーション』を照射。大きく乱れ、同士討ちが始まったところに突撃アンド尻尾サマーソルト!

 敵をぶっ殺して動きが減速したところに、私の背中へ魔法が次々と着弾。私はくるっと振り返り、魔法を撃ってきた翼人たちにニッと笑う。


「効かないわねえ。その程度じゃ私の肌は貫けないわよ」

「む、無傷だと!? ば、化け物か、貴様っ!」


 むむ、女の子相手に化け物だなんて失礼しちゃう。というか、アンタも魔物でしょうが!

 イラッと来たので、容赦なく突っ込んで轢殺。逃げようとした奴も撲殺。

 どうやら、空の魔物は機動力と遠距離攻撃重視で、火力はあまりないみたいね。それじゃあ私の鬼装甲は貫けませんわよ?

 ましてや、速度Sの私から逃げようだなんて……ぷふー! シャチハダーオル子さんの加速を見よ! 美少女からは逃げられない!

 速い! 堅い! 美しい! 三拍子そろったパーフェクトビューティ、それが私ですよ!


 私が空で大暴れしているせいか、地上ではハーディン軍が盛り返しているみたい。

 ほむ、チラチラと眺めているけれど、かなり動きの良いオーガがいるわね。上空だから金髪の女の子としか分からないんだけど、きっとあれがガウェルの娘さんかしら?

 かなり速いし、強いわね。ウチのクレアほどじゃないけれど! ウチのクレアほどじゃないけれど! 大事なので二回言いましたよ! オーガ最強はウチのクレアなんです!


「くらえ、化け物が!」

「うにゅっ」


 しまった。よそ見してたら被弾しちゃった。まあ、大したダメージはないんだけどね。

 くるっと反転し、オル子さんのオルカイックスマイル。恐怖に顔を引きつらせる失礼な連中に、ぶるんぶるんと尻尾を振り上げて口を開く。


「まだ力の差が分からないのかしら――どうあがいたところで、死ぬのよ、お前たちは」

「あ、あ……」

「私の姿を見た以上、誰一人例外なんて許さない、認めない――この私が殺すと決めた以上、お前たちの死は変わらな……」

「うぎゃあっ!」


 あ、私が話している間に、地上からの援護射撃に敵が被弾しちゃった。

 まっさかさまに落ちていくドジな敵を眺めながら、とりあえず、むふんと胸を張ってみる! ウィナーイズオル子!


 これぞ『無駄に格好いい会話シーンを演出して敵の注意を集めて他の連中に倒してもらう』作戦、略して『他力本願大作戦』よ!

 オル子さんあったまいいー! 敵との会話に夢中になるのは漫画の世界だけにしておいてね!


















 これでもかと敵を蹂躙すること一時間。


 気づけば空と地上の戦いは終結。どうもイシュトス軍が後退しちゃったみたい。かなりの数の魔物を殺しまくって、結構レベル上がっちゃった。

 撤退されちゃったから、私のことがイシュトスに報告あがっちゃうかも。何とか人違いならぬシャチ違いで通してくれないかな。

 まあ、オルカナティアに苦情をあげようにも場所が割れてないからあげようがないしね。そのあたりは楽観しましょう。

 というか、ウェンリーの奴、結局私に援護のえの字もしてこなかったわね! 絶対許さん! お城に戻ったらあることないことハーディンに報告してやるう!


「よし、それじゃお城に戻ってハーディンの傍でゴロゴロする仕事に戻るとしましょう! かー、つらいわー! 毎日ダラダラゴロゴロする仕事に追われて全然寝てないわー! 私の睡眠時間全然足りてないわー! かー!」

「あの、よろしいでしょうか」

「にゅ?」


 お城に戻ろうとすると、いつの間にか傍に魔物娘が。鳥と人の合成みたいな……ハーピーさん?

 呼び止められ、首を傾げる私に、ハーピーさんが要件を語っていく。


「我らの隊長が、この度の助力に感謝を伝えたいとのことで、是非とも一度顔合わせを行いたいと」

「別にそういうのはいいんだけど……あ、もしかして隊長ってガウェルの娘さん?」

「そうです。隊長はあちらです」


 ハーピーさんが指さした先には、さっき先頭で戦っていた金髪オーガさんが。

 まだ遠くてよく見えないけれど、私の方を見上げてるのかな? ほむ、確かハーディンにも顔合わせしておくように言われてたわね。よし、折角なので会っておきましょう。

 私は高度を下げて、オーガさんのもとへ。いったいどんなオーガっ娘なのかしら。

 地上に降りたった私に、そのオーガさんはゆっくりと歩いて近づいてくる。さてさて、どんな女の子――へ?


「――貴様がハーディン様とウェンリー様より命を受けたという協力者か。助力感謝する。貴様の力がなければ、我らだけでは奴らを押し返すために多大な犠牲が出ていただろう」


 私の前に現れた少女の凛とした声、それは私のよく知っている少女のもので。

 いいえ、それだけじゃない。その綺麗な黄金の髪も、息を呑むほど整った貌も、すらりとした肢体も。

 服装と腰に下げた大剣こそ異なるけれど、それ以外は何もかもが、私の知っている……私の大切な家族である少女と同じで。

 そこにいるはずのない少女の姿に、私は震える声をひねり出してその名を紡ぎ出す。


「く……くれ、あ……?」

「うん? 既に名を聞いていたか。私の名はクレア――クレア・グーランドだ。ハーディン様、そして父ガウェルの命により、オーガ第二軍の指揮を任されている。貴様の名はなんという?」


 まるで初対面の相手に接するように……ううん、事実、初対面である私相手に問いかけてくるオーガの少女。

 そこには、私の知っているクレアの温かな笑顔や、優し気な表情、私を『主殿』と慕ってくれる姿なんてどこにもなくて。


 あまりの衝撃に、私はぽてんと力なく横に転がってしまう。

 なんで? クレアがどうしてここに? どうしてクレアが私のことを知らないの? どうしてクレアが私をそんな目で見つめてくるの? 

 分からない。何これ。何がどうなってるの? このクレアの容姿をしたオーガの少女は誰なの? どうしてクレアと同じ名前を名乗るの?

 分からない。分からない。おバカな私には何がどうなってるのかちっとも分からない。

 このクレアは私の知るクレアじゃないの? 分からないけれど、確かめるために私は――


「……どうしたのだ? 急に横になったかと思うと、ヒレを差し出したりして。名前を私に教えてはくれないのか?」


 ――やっぱり、別人なんだ。

 私はヒレをぽとりと地に付けて、弱々しい声で自分の名を告げる。


「シャチ子と申しまふ……」


 そう、この人は完全にクレアじゃない。理由は分からないけれど、同じ姿をした別人なんだ。

 だって、クレアなら絶対に私のヒレを握り返してくれるから。

 つらいとき、泣きたいときは、心が落ち着くまでお互いの手をぎゅっぎゅっとすれば、悲しい気持ちなんてどこかへ飛んでいっちゃう。それが私とクレアの、二人の大切な絆。


 差し出したヒレを私の大好きな笑顔で握り返してくれない――このクレアと瓜二つの少女はいったい誰なの?










・ステータス更新(レベルアップ一覧)


オル子:レベル9→14 (ステージ4)



 

 

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