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110.強さも、美しさも。良い女は二つの武器を兼ね備えているものよ

 



 玉座の間まで続く廊下をハーディンの後ろについてピョコピョコ移動中。

 なんでも、幹部連中が戻ったから紹介してくれるらしいけれど……ガウェルって言ってたよね。ガウェルって確か、『地王』ガウェルよね。

 たちって言ってたから、もう一人の『六王』である『窟王』ウェンリーも一緒かな? むふー! なんというスパイホップチャンス!

 全員まとめて『識眼ホッピング』でステータスを盗み取ってくれるう! そして情報を持ち帰ってみんなにいっぱいナデナデしてもらう! オル子さんチヤホヤされること待ったなしでございます! 私だけにしかできないミッションポッシブル!


 いや、ちょっと待って。そう言えば私、ハーディンのステータスまだチェックしてないわね。

 なんということ! スキルを封印されて動転して完全に忘れていたわ!

 このラスボスイケメンのステータス情報こそが何よりも大事なんじゃない!

 スキル封印効果もなくなったし、私に背中を見せている今こそチャンス! いざ、『識眼ホッピ――いやいやいや、待ちなさい、私。ちょっと落ち着こう、私。


 確かさっき、ハーディンは『闇王鎖縛ダーク・ジェイル』を使用した相手からの攻撃は全てダメージゼロって言ってたわよね。これ、ダメージだけじゃなくてスキル効果も無効化したりするんじゃないの?

 だって、いくらダメージを与えられなくても、縛った相手から毒を付与したり頭を混乱させたりのスキルとか使われるかもしれないじゃない。

 そんな抜け道だらけのスキルをボスが使ったりするかしら? もちろん、ハーディン自身に状態異常無効とかそんなスキルが別にあるのかもしれないけど……


 そして、さっきハーディンが口にした『制圧領域エデン』とかいう常時発動スキル。これがどうしても私の心に引っかかって離れない。

 ハーディンの話しぶりからして、私を感知したのはこのスキルなんだけど、この詳細は未だによく分かっていない。魂化した私を見つけるだけのスキルなんてありえるの?


 ビンビンする。嫌な予感がビンビンする。イケメンの敵と殺し合うことにかけては異世界一を自称する私のセンサーがめっちゃ反応してる。

 もしハーディンに『識眼ホッピング』を発動したら、この常時発動型っぽいスキルが発動したり感知したりするんじゃないの?

 そうだったら、私がハーディンに敵意有りとみなされて、その場で処刑されたりするかもしれぬ! いけません、いけませんぞ! そんな危険過ぎる橋は渡りとうない!


 敵の真っただ中、それもハーディンが私を飼う気満々な以上、極力ハーディンの機嫌を損ねるような真似は拙いわ。敵対を疑われる行動なんてもってのほか。

 だからこそ、ハーディンのステータスを知るために、彼にばれないように『識眼ホッピング』を発動しないといけないんだけど、もしものバレが怖くてできませぬ。

 どうしよう。どうすれば、ハーディンの機嫌を損ねずステータスを読み取れるのかしら。

 考えろ、考えろ私。リスクを負うことなく、敵のステータスを『識眼ホッピング』で読み取る方法、方法……頑張れ、頭脳派の私……


 前を歩くハーディン、そのお尻に私はヒレでペシペシと叩いて呼び止める。

 きょとんとして私を見つめるハーディンに、私はヒレをビシッと上げて口を開く。


「ハーディン、ハーディン。ちょっとだけあなたのステータスを覗いてもいいかしら!」

「僕のステータス?」

「うぬ! ハーディン凄く強そうだから、どれだけ強いのか見てみたい! ハーディンのー! ちょっと凄いところ見てみたいー! そーれ、びったん! びったん!」


 イエス、直球勝負。

 うむ、オル子さんが必死に考え抜いた結果、私だけじゃ案なんて何も出てこないことが分かりました。こちとらエルザがいないと何もできない駄目シャチなのよ! 悪い!?

 という訳で、考えても仕方ないので正面からお願いしてみた。

 別に私の『識眼ホッピング』は隠す必要のない能力だし、手をばらして正面からお願いしてみるの。もし駄目だったら引き下がればいいだけだし、オル子さんは何も失わない!


 私の『識眼ホッピング』の説明に、ハーディンは興味深そうに聞き入ってる。

 そして、話を聞き終えた私に笑顔で快諾。マジで!?


「別に隠すようなものでもないからね。しかし、よく僕に確認を取ろうと思ったね。相手にばれないよう、盗み取るのが本来の使い方だろうに」

「うにゅ、それも考えたんだけど、一応確認しないと駄目かと。ご飯とかもらったし! いっぱい食べさせてもらったし!」

「本当に面白い子だね、君は。だが、その判断は正しかった。もし君が僕にそのスキルを発動させていたら、大怪我では済まなかったからね――『制圧領域エデン』、解除」


 そう言って、ハーディンは例の常時発動型スキルをカットする。

 危なっ! やっぱり何らかのトラップがあったんじゃないの! オル子さん間一髪!


「いいよ。スキルを切ったから、今なら僕に『識眼ホッピング』とやらを発動させられるはずだよ。まあ、面白みのあるものではないけれど」

「わはーい! でも、いいの? もしシャチ子さんがあなたの命を狙う悪役で、ここで毒とか呪いとかそんなスキルを使って来たら危ないですぞ?」

「先ほどから君はずっと僕の心配ばかりしているね、シャチ子。まあ、その程度で死ねるような体ではないから安心してもらって構わないよ――そう、死ねないのさ、僕はね」


 ほむほむ、まあ本人から許可も貰ったし、とっとと発動させてしまいましょうか。

 さーて、ラスボスのステータスはどれほどのものかなっと! 『識眼ホッピング』! ぬぬぬぬーん! 爆殺!




名前:ハーディン・クロイツ

レベル:20

種族:ラグナロク・デモン(進化条件 なし)

ステージ:10

体量値:S+ 魔量値:S+ 力:S+ 速度:S+

魔力:S+ 守備:S+ 魔抵:S+ 技量:S+ 運:S+


総合ランク:SS




 はい、知ってた。知ってましたよ。そんなことだろうと思ってましたよ。

 この生けるチート! このイケメンチート王子! 何このふざけたステータスはっ!? 

 まるで『どうせエンディング後の隠しダンジョンだから、隠しボスはプレイヤーが勝てないステータスにしとこう』なんて悪ノリで作られたような異次元ステータス!

 S+、S+、S+! 右を見ても左を見てもオールS+! 隙をつくどころか、髪一本挟まる余地すらありゃしないじゃないの!

 これに将来オル子さん勝たなきゃいけないの? 無理に決まってるでしょうが! こんなクソゲー速攻で中古送りよ! 難易度設定しなおしなさいよ、ばかあろー!

 内心で毒吐きまくる私に、ハーディンはくすりと笑って言葉を紡ぐ。


「言ったとおりだっただろう? 僕のステータスは見ていて面白いものでも何もないと」

「面白いとかそういうこと考える次元じゃないくらいチートでした。オールSって何ですか? どういう調整したらそんな最強ステータスになれるんですか? やっぱりレベルアップの際に気に食わない能力上昇だったらリセット繰り返したんですか?」

「君が何を言っているのか分からないよ、シャチ子……だけど、最強の能力というのは間違いだ」

「ほえ? いや、どう見ても最強だと思うんだけど……」


 これで最強じゃなかったら、いったい何が最強だっていうんですかね。

 首を傾げる私に、ハーディンは困ったように笑いながら、言葉を続ける。


「どれだけ研鑽を積もうとも、僕の技はガウェルに及ばない。どれだけ体を鍛え抜こうとも、僕の守りはアヴェルトハイゼンに届かない。どれだけ空を翔けようとも、僕の飛翔はイシュトスの背に届くことはない」

「ほむう……」

「確かに僕は、誰と戦っても負けることはないだろう。誰とどんな状況下で戦っても、必ず僕が生き残ることは間違いない。けれど、僕には……止めようか。つまらない話をしてしまったね」


 そう言って、ハーディンは私の頭を一撫でし、再び前を向いて歩き始めた。

 つまり、あれかしら。何でも出来るオールラウンダーじゃなくて、誰にも負けない突き抜けた何かが欲しかった、とか?

 いや、特化型とか響きがロマンだけで実際に使うとアレですよ? この超絶脳筋ステ特化のオル子さんが言うんだから間違いありませんぞ!

 どうせ魔王を目指すのなら、バランスよくチートなハーディンの方が絶対強いと思うんだけどにゃあ。おっと、置いていかれちゃう!

















 戻ってきました玉座の間。

 ハーディンの後ろをひょこひょこついていくと、玉座の前に並ぶ二人の人物が。


 一人は白髪オールバック、口元に白髭を携えたナイスミドル。

身長は180後半くらいかな。腰に下げた大刀が嫌でも目を引く武者というか、侍。そして、クレアと同じ額から突き出たオーガ特有の一本角。どう見てもこの人が『地王』ガウェルよね。

 

 もう一人は淡い紫の長い髪をしたお色気お姉さん。

 エルザに勝るとも劣らない意志の強そうな吊り目、セクシーボンバーなボディスーツとその上から羽織る魔法衣。

 腰に下げているのはロープ……じゃなくて鞭よね、あれ。どう見ても女王様なスタイルのこの人が『窟王』ウェンリーかな。どれどれ、先に『識眼ホッピング』でチェックいれましょうかねっと。




名前:ガウェル・クーランド

レベル:15

種族:エンパイア・オーガ(進化条件 レベル20)

ステージ:9

体量値:A 魔量値:C 力:S+ 速度:SS

魔力:D 守備:B 魔抵:C 技量:SS+ 運:S


総合ランク:S+




名前:ウェンリー

レベル:12

種族:サティア・アルケミスト(進化条件 レベル20)

ステージ:8

体量値:C 魔量値:S 力:B 速度:B

魔力:S 守備:B 魔抵:S+ 技量:S 運:B


総合ランク:S




 むう、やっぱりどっちもSオーバー。ガウェルはクレアの完成形、ウェンリーはリナと似てるかな?

 二人とも『海王降臨』みたいなスキルを絶対持っているだろうから、ここから更にワンランクかツーランクくらい上昇すると考えていいわね。強敵だわ。


「待たせたね、二人とも。この子が先ほど話したシャチ子だ。シャチ子、彼らは僕の信頼する腹心たちだ。名をガウェル、ウェンリーという」


 ほむ、自己紹介しろってことよね? ハーディンの視線に、尻尾を振り振りして応える。

 二人の前に出て、私はヒレをビシッと上げてご挨拶。むふー! コミュ力の塊と呼ばれたオル子さんの力を見せてあげましょうかね!


「どうも、シャチ子です! 海の妖精みたいな存在ですので、思う存分可愛がってくださいましこ! あとよくお腹が空くので、ご飯とか与えてくれると嬉しいですよ!」

「若様、なんですかこの不細工なナマモノは」

「だ、誰が不細工なナマモノじゃあ!」


 ウェンリーとかいう女から、まるでゴミをみるような目で見下され、オル子さん大噴火。不細工じゃないしナマモノでもないわ!

 ビタンビタンと跳ねて抗議する私に、ウェンリーは相手することなくハーディンに意見を述べていく。


「若様、こんな頭の悪そうなナマモノは若様の愛玩生物に相応しくありません。若様は魔物全てを統べる王となられる高貴なお方。愛玩生物を飼うことに否定はしませんが、もっと若様に相応しい外見をしたものを選んでください」

「このあろー! 嫌味ったらしく私の外見を全否定するんじゃあない! そんなこというなら、私だって言うもんね! ハーディン、あなた傍につける女の趣味悪すぎ! こんなケバケバしい女なんて駄目駄目ですよ!」

「なっ!? こ、このナマモノ!」

「チート魔王のヒロインにも格というものがありますぞ! ハーディンはもっと若くてピチピチした美少女ヒロインを傍に付けるべきです! こんな性悪ケバ美さんはポイーで」

「ふんっ!」


 ぬお!? 蹴りました、この女、先に喧嘩を売ってきたくせに私のお腹を蹴ってきましたよ!?

 先に人のこと馬鹿にしてきたのはそっちじゃないのよ! オル子さん怒りましたぞ! このドネルケバ子、許さん!

 ビタンビタンとその場に二度、三度跳ね、尻尾をシャチホコのように反らせてウェンリーを威嚇。かかってこいやー! 女にはね、負けられない戦いってもんがあるんですよ!

 相手も鞭を取り出し、顔を真っ赤にして怒りモード。一触即発、睨み合う私たちに、ハーディンが静かに笑ったまま言葉を紡ぐ。


「そこまでだ、二人とも」

「で、ですが若様! こいつっ」

「――『止めろ』と言ったよ? 同じ命令を二回も繰り返さないと分からないかい?」


 おお、ハーディンが笑顔でウェンリーを黙らせた。

 ぷふー! 怒られてやんのー! ざまあでごぜえますよ! シャチを馬鹿にするから酷い目にあうんですぞ!

 床をゴロゴロと転がり、叱責されているウェンリーを笑って見上げてみたり。ねえ、どんな気持ち? ハーディンに怒られてどんな気持ち?

 ワナワナと震えるウェンリーさんをアクロバティックざまあしていると、これまで沈黙を保っていたガウェルが口を開く。


「『闇王鎖縛ダーク・ジェイル』の楔は打っているならば、その魔物が若様に手出しすることはありますまい。若様が望むならば、好きに飼うとよろしい」

「ちょっとガウェル、こんな怪しいナマモノを認めるの!? どう見ても怪しいでしょう! もしイシュトスの諜報員だったら……いや、こんな馬鹿そうな魔物だし、ありえないとは思うけれど、絶対とは限らないでしょう!?」

「お? 今シャチ子さんのことまた馬鹿にした? 馬鹿にしたよね? 馬鹿そうなって下りは別に要らないよね? ね? ヒレで引っ叩くぞこのあろー!」


 シャドウボクシングをするように、ヒレをブンブンと振り回して怒りを表現!

 初めてですよ! ここまで私を初対面でコケにしたお馬鹿さんは! もう許さんぞ!


「認めるも認めないもない。たとえ素性がどれだけ怪しかろうと、若様が決められたことは絶対だ。主の意に反することなどありえぬわ」

「くっ、この頑固親父……とにかく、私は反対です! こんな何の役にも立ちそうにないナマモノが若様の傍で愛でられ続けるなんて! 若様の傍を守護する魔物ならば、相応の強さがなければ認められません!」

「随分と食い下がるね、ウェンリー。僕としては、仲良くしてもらいたいのだけれど……さて、どうすれば君はシャチ子を認めてくれるのかな?」


 ハーディンの言葉に、ウェンリーは待ってましたとばかりに笑みを浮かべる。あ、悪い笑みだ。

 リナがオル子さんをイジメる時に流れるテーマ曲が聞こえる。悪いなオル子、このゴーレムは三人乗りなんだって感じで。


「そのナマモノには強さを証明してもらいます。いくら『闇王鎖縛ダーク・ジェイル』で縛られているとはいえ、何も出来ない、ハーディン様に負担をかけるだけの役立たずなど私は認めません。ハーディン様のお傍で盾となる力があるならば、私も考え直しましょう」

「え、何その異世界召喚主人公に対するライバルキャラみたいな流れ。シャチ子さんはヒロインポジションなので、そういうのは困ります! 私ってほら、喋る剣を振り回して無双するよりも、ツンデレヒロイン的なオーラ出てますし? この馬鹿シャチィ!」

「もしこのナマモノが相応の強さを持っているなら、私も潔く認めます。どうか私の提案を受け入れてくださいませ、若様。全ては若様を想っての意見なのです」


 嘘だわ。絶対嘘だわ。私のこと目障りだから、試す名目で私を合法的に殺す気満々だわ。

 ふふーん! 残念だったわね、性悪女! ハーディンは私を可愛がる気満々だから、そんな危険な目に合わせたりしないのよ! 残念でしたー! ぷーくすくす!

 有頂天で転がる私に、ハーディンはにっこりと微笑んで、私に言葉を送る。


「シャチ子、君ならやれるはずだ。頑張ってもらいたい」

「なぜえ!? そこは普通止める流れでしょ!?」

「こう見えてウェンリーは頑固でね。長々と説得するよりも、君の力を証明した方が早いと思ってね。大丈夫、シャチ子ならやれるはずだよ」


 やれるはずだって、いや、私のステータスとか何も知らないのに、なんでそんな勝ちを確信したような笑顔浮かべてるの!? 期待が重過ぎるんですけど!

 ぐ、ぐぬぬ……うまくハーディンの元に潜り込めたと思ったのに、まさかのピンチですよ。

 ウェンリーとかいう女、私をガチガチに警戒してるじゃない。いや、それが当たり前なんだけど……むしろハーディンのこれまでの対応が意味不明なくらい都合が良かっただけなんだけど。


 ううう、『六王』相手に力を証明しろだなんて、厳しすぎる……

 私の正体を隠す意味でも『海王降臨』『山王降臨』『森王君臨』の三つは絶対に封印しておかなきゃいけない。

 私の自慢の三種のチートスキル無しで『六王』相手にまともに戦えるなんて思えない……だけど、やらなきゃ私の処分待ったなしだし……

 や、やるしかない! 私はこんなところで死ねないのよ! オルカナティアでみんなが私の帰りを待っているんですよ! 絶対生き残るったら生き残るんじゃあ!


「うおおお! 死なん、シャチ子はこんなところで死なんぞお! 美少女になって、夢の異世界転生恋愛ライフを送るまでは! どんな手を使っても生き延びるんじゃあ!」

「ほう? なかなかに良い気合いですな。荒ぶる強き獣の覇気、死合う前に放つ煌めきは何度見ても良いものです。良い魔物を見つけられたようですな、若様」

「だろう? ガウェルならそう言うと思っていたよ。あとはウェンリーを納得させるだけのものをシャチ子が見せられるかだけれど、さて」


 ビタンビタンと床を跳ねまわり、尻尾を強く叩きつけて空中浮上!

 さあ、かかってきませい! あれよね、実力を見せればいいだけよね!? ガチで『窟王』と殺し合いなんてしないわよね!? 手加減しなさいよ、手加減! 絶対だかんね!

 臨戦態勢を整える私に、ウェンリーはフンと鼻で笑って、手を翳す。


「準備は良いかしら、不細工なナマモノ。この私、『窟王』ウェンリーがお前の強さを試してあげましょう。魔物とは強さが全て、強さがなければ生きる価値すらない。お前が若様の傍にいたいと望むならば、若様の力になれることを実力で証明なさい!――『異獣使役マスター・ビースト』! いでよ! 合成獣アルヴェトラ!」


 ウェンリーが何かのスキルを発動させた瞬間、玉座の間に四本足の巨大獣がこんにちは。

 あれ、こいつ、さっきアルエと一緒にお城をフヨフヨしていた時に見かけたキメラ君じゃないの。虎の頭、鳩の頭、そしてリスの頭という意味不明な構成のヘンテコアニマル。

 私に向かってグルルルと威嚇しているキメラ。ほむ、全然怖くないわね。今まで巨大竜と腐るほど戦ってきたせいか、可愛い動物程度に見えちゃう。どれどれ、ステータスはっと。




名前:アルヴェトラ

レベル:3

種族:カオス・キメラ(進化条件 レベル20)

ステージ:5

体量値:B 魔量値:D 力:A 速度:C

魔力:B 守備:B 魔抵:B 技量:C 運:C


総合ランク:B+




 私はくるっと振り返り、ハーディンに確認。


「いいの? あのヘンテコ動物、容赦なく倒しちゃっても。私、手加減とかしませんよ?」

「もちろんだ。シャチ子、君の強さをウェンリーに教えてあげるといい」


 私の問いかけに、ハーディンは満足そうに微笑んでゴーサイン。

 許可をもらったので、私はくるっと体を戻してウェンリーに警告。


「先に喧嘩売ったのそっちだからね? そのヘンテコ動物ボコボコにされても、逆恨みとかなしだからね?」

「あら、随分と強気ね。この魔物は私が手塩をかけてハーディン様のために生み出した合成魔獣よ。お前みたいな不細工なナマモノとは違い、気高く美しきアルヴェトラこそハーディン様のお傍を守護するに相応しいの。さあ、いきなさい、アルヴェトラ!」


 お、キメラ君が私に向かって走ってきた。

 えーと、王様関連スキルは身バレ怖いから使わないとして。手持ちのスキルは……いや、もうこの程度相手なら、スキル使う必要ないかな。この程度の雑魚相手に、わざわざこっちの手の内必要以上に晒すこともないし。

 私に食らいつこうとしたキメラ君に、私は正面から全力で体当たりで応戦。力S+、速度Sから放たれる突進に、キメラ君はとんでもない勢いで壁へと吹き飛んだ。


「え――?」


 呆然とするウェンリーを置きざりに、私はそのまま追撃。

 床に転がるキメラ君の上空でくるんと一回転して、全力のオーバーヘッド尻尾アタック。あ、嫌な音した。オル子さんの経験からして、敵の骨ごと内臓潰した感触かな。

 それでも立ち上がろうとするキメラ君の顔面に容赦なくシャチビンタ。首の一つがねじ切れんばかりに回ったけれど、気にしない!

 ふらつく体に再び体当たり、もう一度転んだところにジャンププレス、噛み付き。立ち上がれないキメラ君にひたすらラッシュラッシュラッシュ。あ、腕が千切れた。わはー、血がまるで噴水のよう。


 蹂躙すること数分。ぴくりとも動かなくなったキメラ君だった何かを確認し、私はぴょこぴょことウェンリーのもとへ。

 そして、返り血塗れの状態で、ヒレをビシッと上げて勝利宣言。


「はい、シャチ子さんの勝ち! これで文句ないよね? ね? ね?」

「私のアルヴェトラを、魔王の眷属すらも超越した私の自信作をあんなにも一方的に……ナマモノ、お前、いったい何なのよ……ただの魔獣ではないの……?」

「ただの愛され系ヒロインでございます! べーっ!」

 

 まあ、分かり切っていたことですよ。総合ランクS-の私にとって、B+程度の魔物をけしかけて殺そうなんて片腹大激痛ですわ。これは当然の結果です。キリッ!

 ウェンリーにざまあを一つくれてやり、私はぴょこんぴょこんとハーディンのもとへ。

 どうだと胸を張る私に、ハーディンとガウェルはしみじみと感想を告げ合う。


「見事なものですな。獣の本能に任せた、どこまでも暴力的な蹂躙、まさしく魔王の寵愛する魔獣に相応しい。強さだけで言えば、私やウェンリーにも引けをとりませんぞ」

「ああ、出会った時から強さは感じていたけれど、想像以上だった。楽しみだよ、この子と共に戦場を駆け、イシュトスたちを容赦なく蹂躙する時が。よく頑張ったね、シャチ子」


 血まみれの私を気にすることなく、ハーディンは笑って私の頭を撫でてくれる。

 おほー! これは完全にハーディンの信頼をゲットしたんじゃないかしら!? 私の持ち前の美しさにくわえ、戦う実力を示したことで、ハーディンもメロメロね!

 居場所もしっかりと確保し、安心してスパイ活動できるというものですよ! もちろん三食昼寝、おやつ付きでね!


 くふふ、この調子でどんどんハーディンに取り入って、オル子さんが内側から魔王軍を食い破ってくれますよ! 

 みんな、私の活躍をオルカナティアから見守ってくれてますか? オル子さん、敵の本拠地で、傾国の美女っぷりをこれでもかと発揮してますよ!

 男を落とすテクに関しては、恋愛ゲーで定評のある百戦錬磨の私ですから、この程度はできて当然! とうとう異世界で私の真価を発揮する時が来たようね!

 魔性の美貌、男を骨抜きにするその力! さしずめ九尾の狐ならぬ一尾のシャチでございます! さあ、魔王軍のありとあらゆるイケメンの皆様! 私という美少女に溺れてくださいまし!








・ステータス更新(レベルアップ一覧)


オル子:レベル8→9 (ステージ4)


 

 

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