表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/142

12.ふう、また一つ良い女への階段をのぼってしまったわ

 



 二人ともレベル20になったから、進化できるわけだけど……困ったちゃん。

 私の進化先は一つ、セイントオルカだけだからいいとして、問題はエルザの進化先。

 正統な進化先であるハイ・ウィッチか、どう考えても私のせいで派生したエクストラ・クラスのオルカ・ウィッチか。


「まあ、迷う必要なんてないわね。オルカ・ウィッチにするわ」

「えええ……なんでよりによってそっちに。こんなんになったらどうするの?」


 自分の巨体をペチペチとヒレで叩いて悲しみをアピールしつつ、考え直すように説得。

 せっかくの美少女ボディなのに、それを捨てるなんてとんでもない!

 人間は安全を求める生き物なの。選ぶなら進化先の内容がハッキリと分かっているハイ・ウィッチ一択だと思うの。石橋は叩き割る勢いでぶん殴って渡るべきなのよ。


「オルカ・ウィッチなんて未知の進化先があるのに、選ばない手はないわ。私は歴史上で初の特殊なウィッチ個体になれるかもしれないのよ? それって凄く面白くてワクワクすると思わない?」

「そうかなあ……まあ、エルザの決断を尊重するけれど。でも先に言っておくわ! もし私みたいなシャチになったとしても、文句や苦情は受け付けないからね!」

「言わないわよ。オル子には感謝の気持ちしかないんだから。本当、あなたに出会ってから、私の世界はどんどん変わっていくわね。今が楽しくて仕方ないわ」


 それならいいんだけど。

 もし不幸にもエルザがシャチになったりしたら……うん、二人で頑張って人化を目指すお空の旅に飛び立ちましょう。これはもう空鯱団を結成して空の果てを目指すしか! オル子団長と呼んでね!


「それじゃ、進化といきましょう。進化、進化しろ~」


 方法が分からないので、とりあえず念じてみる……おおお、体がなんか光り始めたわ!

 淡い黄色の光が私とエルザの体を包みこみ、むうううん! 体が熱くなってきた! びゅううーん!  オル子進化―!


『おめでとうございます。オル子はスカイ・オルカからセイント・オルカに進化しました』


 脳内メッセージと間抜けなファンファーレきたー! ……大きさは何も変わってないみたい。

 ふむう、細かなところは確認できないから、どう変わったのか全然分からないわね。

 あとでエルザに確認してもらわないと。その前にステータスチェック!




名前:オル子

レベル:1

種族:セイント・オルカ(進化条件 レベル20)

ステージ:2

スキル:オルカ・ポッド(常時発動可、パーティにシャチの加護)

    ブリーチング・クラッシュ(単体:近距離:ダメージ4.0倍:力依存:発動後硬直(小):CT15)

    コンフュ・エコロケーション(複数:中:ダメージ0.3倍:魔力依存、魔量値消費(小):混乱付与:CT30)

    空中遊泳(常時発動可、空を泳ぐことができる)

    識眼ホッピング(常時発動可、自他ステータスおよび自スキル詳細の解析)

    レプン・カムイ(単・自身:中距離:守備↑敵単体ターゲット自分に固定効果T10:魔量値消費(小):CT60)

体量値:A(B→A) 魔量値:D 力:S(A→S) 速度:B

魔力:C(D→C) 守備:A(B→A) 魔抵:C 技量:E 運:E


総合ランク:B+(B-→B+)


所有支配地:1

支配地名:クユルの森




 おおお、何か色々上がってるじゃないの! ランクも二つ上がってB+になってる!

 パワーなんかAを超えてSに到達してる。なんというパワー馬鹿。レベルを上げて物理で殴れに邁進しちゃってるわ。


 そして、新しく増えたスキルが一つ。『レプン・カムイ』。

 効果は敵のタゲ取りと守備上昇。これはかなり便利な技なんじゃないかしら。

 私の無駄に頑丈なシャチ装甲と、エルザの固定砲台の組み合わせ的にも良い感じじゃない。

 問題は私がボコボコに殴られることだけど……もう慣れたもん。メイン盾オル子! よし、早速エルザに自慢しなきゃ。


 私はエルザへ視線を向けると、そこには大きくドレスアップしたエルザの姿が。

 桃色の長髪と釣り目気味の備えた美少女、そこは何も変わらないんだけど、服装が変化してしまっているみたい。

 魔法使い風の服ってところは変わらないけど、帽子が増えてる。

 トンガリハット、白と黒のシャチ模様なノスタルジック・マジシャン帽子が彼女の頭上に鎮座しているわね。


 そして、エルザの持つ杖。これが大きく変化しちゃっているわ。

杖というか、あの、スナイパーライフルじゃない、これ? 銀色に輝く杖下部は筒状に伸びていて、上部にはトリガーらしきものがあるし。

 グリップエンドには球状のシャチ人形が飾られていて、何ともコミカル。

 逆さ向きに持っているから、杖っぽくもあるんだけど……これ、確実にライフル銃よね? 杖銃とでも言うのかしら。

 今まで通りの持ち方で使うと杖、逆さに使うと銃。不思議アイテムねえ。

 エルザは呆けたような表情を浮かべながら、ぽつりと言葉を紡ぐ。


「これが、オルカ・ウィッチの力なの……なんて、出鱈目」

「え、で、出鱈目なの!? そんな非常識な進化しちゃったの!?」


 やっぱりシャチって最低だわ。幻滅しました、これからはイルカのファンになります。

 そんな冗談を言っている場合ではないわ。もしや、この進化のせいで何か体に不具合でもあったんじゃ……心配する私に、エルザは安心させるように首を振って笑う。


「体は何ともないわよ。ただ、あまりの凄さに驚いただけ」

「驚いたって、何に?」

「ステータスよ。私のステータス、識眼ホッピングで確認してみて頂戴」


 エルザに言われるがまま、私は識眼ホッピングでエルザの能力を視てみる。




名前:エルザ

レベル:1

種族:オルカ・ウィッチ(進化条件 レベル20)

ステージ:2

体量値:E(F→E) 魔量値:B(C→B) 力:F(G→F) 速度:D

魔力:A(B→A) 守備:G 魔抵:B(C→B) 技量:C(D→C) 運:D(E→D)


総合ランク:C+(E+→C+)




 なんぞこれ。

 ほぼ全部のステータス伸びているじゃない。私の進化も大概だけど、エルザはそれに輪をかけて凄過ぎでしょ。

 総合ランクなんてE+から一気にC+になっている。進化一つで六つもランクが上がるなんて……え、バグ?


「ねえ、エルザ。進化ってこんなにステータスが上昇するものなの? あなたのステータス、ほぼ全て上がっているんだけど……」

「ありえないから驚いているのよ。私の知る限り、ウィッチからハイ・ウィッチへ進化するとき、上昇するステータスは二つ程度よ。ランクだって通常なら一つ上がるだけなのに……」

「さっきのボスゴーレムを超えちゃったわね。んま、エルザってば規格外ウィッチ!」

「間違いなくあなたの規格外さに引っ張られた影響よ。それに新しいスキルも覚えたみたい。発動してみるわね」


 そう言いながら、エルザは杖銃をくるんと回し、狙撃銃のように持ち直す。

 トリガーに指をかけて、発砲。ドヒュンと音がしたかと思うと、壁に放たれた魔弾が突き刺さる。おお、女スナイパー、格好いい!


「というか、よく銃の使い方なんて分かったわね。この異世界って銃があるような文明には見えないんだけど」

「スキルを思い浮かべると、使い方が頭の中に浮かんできたのよ。これ、銃って言うんだ。魔力を投石に変換して打ち出す物理攻撃、それも魔量値を消費しない無制限……面白いわね。あなたにもらったこのスキル、大切に使わせてもらうわ」

「いや、私が自発的に与えた訳でもないんだけどね」

「それで、オル子の方はどうだったの? セイント・オルカだったかしら。見た目は背中に小さな羽が生えたくらいしか変わってないみたいだけど」

「なぬ!?」


 なんと、エルザが言うには、私の背中には羽があるらしい。それもミニチュアサイズのちんまいのが。

 小さすぎて私には羽が生えているという実感がないんだけど……まあ、セイント・オルカだからね。聖なるシャチだから、羽くらい生えてもおかしくないわね。


 私は調べたステータスをエルザに伝えてみる。

 説明を聞き終えたエルザは、溜息一つ。なんでじゃい! 人の顔見てため息つくとか親御さんの教育はどうなっているんですか、ふんがー!


「あなた、本当に無茶苦茶過ぎるわよ。ランクB+なんて、上級悪魔や竜族クラスじゃないの。ステージ2でそのクラスだなんて、オル子は本当に魔王にでもなるつもり?」

「魔王ではなく愛する人のお嫁さんになる所存です」

「力Sって、オル子はもうドラゴンと正面から殴り合いだってできるんじゃないの?」

「しないから! 死んじゃうから! だいたい、エルザも人のこと言えないと思うのよ。エルザだってステージ2でランクC+まで駆け上がったわけだし」

「そうね、オル子のせいで私も非常識に足を踏み入れてしまったのよね。こうなったらちゃんとオル子には責任を取ってもらわないと」


 やだ、美少女が責任取ってだなんて、なんかえっち。

 私も美少女になれたなら、将来できるであろう彼氏に是非とも言ってみよう、そうしよう。


 私もエルザもステージ2になったし、無事目標達成。

 こんな土埃っぽいジメジメした場所ともようやくオサラバだわ。太陽光がないと人は生きていけない、強く実感させてもらった気がするわ。日光浴日光浴。


「まだ戻らないわよ? 魔王がゴーレム生産拠点として活用してた施設だもの、その痕跡から知識を出来るだけ吸収しないと勿体ないわ。そのついでにオル子の人化のことも調べてあげるから」

「あ、そうだった……って、ついでじゃないから! 私の人化がメインだから!」


 エルザの後ろをフヨフヨと泳いでついていく。

 人化の情報、あるといいなあ。もし美少女になったら、何をしよう? 貴族に生まれなかったけど、平民から学園に入学してって王道パターンもありよね? 

 身分違いの王子様と育まれる禁断の愛……駄目よカイン、私は平民であなたは王子様……むふー! 夢が広がるわー! ラヴィ・アン・ローズ!


「ほら、気持ち悪い笑み浮かべてないで扉を押してちょうだい。結構重くて私の力じゃ開かないのよ」

「き、気持ち悪いとか乙女に言うなー! 乙女の微笑みをなんだと思ってるの!」


 抗議をしつつ、ゴーレムが守っていた奥の扉をエルザの代わりに押してみる。

 ぬ、簡単に開くじゃないの。パワーSは伊達じゃないってところかしら。

 大きな音を立てながら巨大扉を開き、足を室内に踏み入れる。


「ふふーん、さあて、人化の秘宝のお宝は~っと……げげ、何この汚部屋!」


 私たちが足を踏み入れた室内は、紙やら本やら何やらが床中にばらまかれていて、汚部屋以外の何物でもなかった。

 八畳くらいの室内に、壁にぎっしりと本棚が並び立ち、室内の中央には長机の上に実験道具みたいなのがこれでもかと並べられている。ああ、もう、ここもぐちゃぐちゃ……あああ、駄目、私こういうの駄目なのよ。ぐちゃぐちゃ過ぎる部屋は我慢ならぬう!


「……ん? 来客とは珍しいな。外に配置したクリスタル・ゴーレムは生半可な奴じゃ倒せないように調整していたはずだが。誰だ、お前たちは。私に何か用か?」


 その汚部屋の奥にある、椅子に腰かけていた女性が、私たちの来訪に気づいたらしく、視線をこちらに向けてくる。

 燃えるように真っ赤な髪を片側で束ね、切れ長の瞳をした気だるげな白衣美女さん。

 ぬう、なんて男にモテそうなオーラを発してるの! おっぱいも凄いし、溢れ出る色香がとんでもないわね。汚部屋のせいで全部台無しだけど。


「私の名はオル子、この娘はエルザ。あなたに用は……うむ、ないわね!」

「人の住処に来訪しておきながら用がないとは、面白いことを言う魔物だな」


 美人さんにねっとりした視線で見つめられ、言葉に詰まる私。

 いや、おっしゃるとおりで……用件も何も、そもそもあなたが誰かすらも知らない訳で。

 エルザに視線を向けても、なぜかエルザは見知らぬおっぱいさんを睨んだまま視線を反らさない。エルザー、ヘルプ―……あかん、私のこと見てない。


「あのね、実は私たち、あなたに用事があるわけじゃないの。ここがあなたの家だってことすら知らなかったのよ。それどころかあなたの名前も知らない訳で」

「まあ、そうだろうな。私のことを知っていたら、普通ならそんな反応はしない。それで?」

「私たちがここに来たのは、ええと……女ぶらり二人旅の最中というか、『私より弱くて経験値がっぽりな奴に会いに行く』のキャッチフレーズを実行中というか……」

「ふむ、興が乗った。事情を詳しく話してもらえるか。立ち話もなんだ、その辺に適当に座ってくれ」

「その辺にって……あの、足の踏み場が微塵もないんですけど」

「足元に散らばっているゴミを適当に避ければ幾らでも座れるだろう。遠慮するな」


 いや、遠慮させてください。全力でノーサンキューさせてください。その一言が言えない私ってばなんてジャパニーズ大和撫子なのかしら。

 ああ、私のシャチ腹の白部分が埃塗れになる……魔物と戦ったりして汚れるのとは気持ちが別物なのよ。あとでエルザに洗浄魔法かけてもらわないと。

 私とエルザが渋々床に腰を下ろすと、美人さんが嬉々として告げてくる。


「ここにずっと籠りっきりだから他人と会話をするのは久しぶりなんだ。さあ、聞かせてくれないか。お前たちがこんな辺鄙な場所までやってきた理由を」


 椅子から身を乗り出して格好良く笑う美人さん。目を輝かせてるなー。さらりとガチ引きこもり宣言してた気がするけど、きっと気のせいね。こんな美女が引きこもりのはずがない。

 まあ、隠すような話でもないし、聞きたがってるなら別にいいか。

 ゴーレムとの戦いで体も疲れてるし、休みがてら私はこれまでのことを美人さんに語っていった。


 気づけばこんなシャチボディになっていたこと。

 何としても人の体に戻り、素敵な人と出会い、恋愛を謳歌したいこと。

 レベル上げの最中にエルザと出会って意気投合したこと。

 二人で一緒にこの洞窟でレベル上げしていたこと。

 元魔王のゴーレム生産施設に人化のヒントがあったりしないか探そうとしたこと。

 

 全てを話し終えると、美人さんが呼吸困難なんじゃないのってくらい大笑いしてた。なんでよ。

 あの、笑い話じゃないよね? 不幸な女の子が体を魔物に変えられてしまい、それでも健気に人間に戻って恋をしようと奮闘する……そう、これは言うなれば愛と勇気の物語よね? そこには微塵も笑う要素なんてないわよね? 解せぬ。





・ステータス更新(オル子、エルザ進化。オル子、エルザ新スキル獲得)


名前:オル子

レベル:1

種族:セイント・オルカ(進化条件 レベル20)

ステージ:2

スキル:オルカ・ポッド(常時発動可、パーティにシャチの加護)

    ブリーチング・クラッシュ(単体:近距離:ダメージ4.0倍:力依存:発動後硬直(小):CT15)

    コンフュ・エコロケーション(複数:中:ダメージ0.3倍:魔力依存、魔量値消費(小):混乱付与:CT30)

    空中遊泳(常時発動可、空を泳ぐことができる)

    識眼ホッピング(常時発動可、自他ステータスおよび自スキル詳細の解析)

    レプン・カムイ(単・自身:中距離:守備↑敵単体ターゲット自分に固定効果T10:魔量値消費(小):CT60)

体量値:A 魔量値:D 力:S 速度:B

魔力:C 守備:A 魔抵:C 技量:E 運:E


総合ランク:B+


所有支配地:1

支配地名:クユルの森




名前:エルザ

レベル:1

種族:オルカ・ウィッチ(進化条件 レベル20)

ステージ:2

スキル:サンダー・ブラスター(複数:遠:ダメージ0.8倍:魔力依存、魔量値消費(小):CT10)

    サンダー・ブラスター・収束(単体:遠:ダメージ1.0倍):魔力依存、魔量値消費(極小):CT5)

    リフレクタ・プリズム(自身の魔法を反射させる飛行水晶の生成、操作は任意可:生成可能数1)

    ウィッチ式日常魔法(アイテムボックス、洗浄、発火、製水)

    (オル子との絆)オルカ・ショット(単体:遠:ダメージ0.5~0.8倍:魔力依存による物理攻撃)

体量値:E 魔量値:B 力:F 速度:D

魔力:A 守備:G 魔抵:B 技量:C 運:D


総合ランク:C+


 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ