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103.立つ鳥は後を濁さないもの。優雅に退室するとしましょう

  



「おかしいわ! おかしいわ、おかしいわ、おかしいわ、おかしいわああああ!」

「もきゅきゅーん!」

「みゅみゅみゅみゅーん!」

「オル子、うるさい。ミリィときなこもちがあなたの真似して騒いじゃってるでしょ」


 地面に降り立ち、あっちこっちにビタンビタンと飛び跳ねる私。それを追いかけて走り回るミリィと、私の真似して跳ねまわる真っ黄色なイルカドラゴンきなこもち。

 頭にミュラを乗せたまま、私はぴょんこぴょんことエルザの傍まで飛び跳ねて、クイクイとヒレでスカートを引っ張る。


「だってだって、私たち、戦闘終了したのよ?」

「そうね」

「人間を軽く7000人くらいは殺しちゃってるのよ?」

「殺したわね」

「それプラス竜族が召喚したレインボーなカラフルドラゴンズを圧殺蹂躙完了したのよ? つまり、人間7000に加えてステージ5のドラゴン7体分よ? それなのにどうして――どうしてこんなにレベル上昇が少ないの!?」


 戦いを終え、私たちは当然ながら全員レベルアップしたわ。レベルアップしたんだけど……みんなの変化はこんな感じ。




オル子:レベル4→8 (ステージ4)

エルザ:レベル4→8 (ステージ4)

ミュラ:レベル3→7 (ステージ4)

ルリカ:レベル3→7 (ステージ4)

クレア:レベル9→13 (ステージ4)

ポチ丸:レベル15→23 (ステージ3)

ミリィ:レベル7→15(ステージ3)

きなこもち:レベル1→44(ステージ1)




 たったこれだけしかレベルが上がってないの! どう考えても足りなさすぎるわ!


「だってだって、この前攻めてきた人間を500人殺した時は私のレベルが2から4まで上がったのよ? それを踏まえると、今回は7000人殺してるわけだから、単純計算でもらえる経験値が16倍はないとおかしいじゃない!」

「14倍よ。単純計算って自分で言いながら暗算間違えるってどうなのかしら」

「そうでした、14倍でした! とにかく、14倍ってことは、2かけるの14で28はレベルが上がる筈なのです! そこにドラゴン七匹の経験値もプラスアルファの予定だったのに!」


 一気にステージ5まで駆け上がれると思ったのに、4だけしか上がってないって酷過ぎ!

 いや、待って頂戴。もしかしたら、私の体内で経験値が水道管の詰まり状態のようになっている可能性があるのでは? 勢いよくシェイクでもすればポロッと詰まりが解消され、一気にレベルアップするかも? よっこらせっと、ミュラをお腹に乗せ直して、準備OKっと。せーのっ。


「エルザ、主殿が仰向けになって無言で飛び跳ね始めたのだが……」

「放っておきなさい。その子の行動に意味を見出そうとしても、頭が痛くなるだけだから」


 ぬー、レベル上がらないわね。レベルのトラブル8000円で解消してもらえるサービスとか異世界にないのかしら。

 高速背面ジャンプを繰り返す私を他所に、エルザたちは真剣にこの状況について思考する。いや、オル子さんも真剣に考えた末の結論がコレですよ?


「私たちの上昇したレベルは、どう考えても竜族七匹分の経験値によるものでしょうね。人間たちの経験値が入っていないということは、人間のレベルが極端に低かった……とは考えにくいわ」

「王を守る軍勢ですからね。それに7000もの数です、どれだけ弱くてももっとレベルが上がっても良いかと」

「そうなると、答えは一つ――私たちが殺した分の経験値を『聖剣』に横取りされたか、よ」

「『聖剣』にですと?」


 背面ジャンプを続けたまま、私はエルザの答えにびっくりぽん。

 いや、確かに『聖剣』は私たちの殺した人間の魂をストックしていたみたいだけど、経験値まで奪うの? そんなの酷過ぎじゃない?

 憤慨してヒレでベチベチ地面を叩く私に、エルザは『あくまで推測だけど』と前置きしたうえで説明を続ける。


「『聖剣』は私たち魔物に殺された人間の魂を力に変換していた。それはつまり、私たちが得る筈の力を横から介入して奪っていたともとれるわ。あの竜族は人間たちを利用して、『聖剣』に魂を蓄えようとしていた。まるでそれは『聖剣』を成長させるかのように」

「俺たちが殺した人間の経験値がそっくりそのまま『聖剣』の餌になっちまったってことかよ。殺した人間の数によって、カウントが上昇するだけじゃなくて、文字通り魂を食っちまって成長していたってことか」

「加えて言うなら、カウントを上昇させる条件は『魔物に殺された魂』ではなく、『魔物と交戦中に戦死した魂』なのかもしれないわ。その条件なら、奴の召喚した竜たちが人間を襲った理由にも説明がつくもの」


 にゃるほど。ドラゴンは魔物じゃなくて竜族ってカテゴリーだから、本来カウントが増えないもんね。

 だけど、その条件なら、私たちと戦っている最中に横から人間を殺せば聖剣のカウントは増える。私たち魔物と人間の戦いは終わってないのだから。


「つまり、この戦いはあの乱入してきたイケメン竜族の一人勝ちってこと?」

「いいえ、結果だけを見れば私たちは勝者だわ。私たちの目的は人間たちの侵略を防ぎ、相手の頭を潰すことだもの。前情報の無かった竜族の暗躍こそあったようだけれど、結果だけを見れば予定通りの戦果だもの」

「人間の王を仕留めた今、敵に反撃する気力は残されていない。敵を脅してオルカナティア、そしてサンクレナの『支配者』をササラへと移すことができれば、我らの目的は完全に達成ということか」

「そういうことよ。正直、竜族が何を企んでいるのかは気になるところだけど、今は当初の予定通り、なすべきことを終わらせましょう」

「にゅいにゅい! それじゃ、生き残った人間の中で偉そうな奴を適当に脅してくるう!」


 空を飛び、竜や私たちから逃げようとしていた人間の前に舞い降りてニッコリと笑顔。

絶世の美少女の笑顔よ、もっと嬉しそうな顔をしなさい! 何よその恐怖に引きつった顔は! 失礼しちゃうわ! ぷんぷん!























 どうも、こんにちは。かつてないほど悪役となっているオル子でございます。

 生き残った敗残兵を引きつれ、サンクレナの王都へ。街の人々から悲鳴やら絶望の声やらが次々飛び交っております。仕方ないね、街中に巨大な魔物が現れて、しかもその仲間が王様の生首抱えてるんだもの。

 兵士たちの状況から敗戦したことがしっかりと伝わっているようで、中には膝をついて震える人たちも。なんというリアル『もう駄目だ、おしまいだあ』なのかしら。

見た目は怖いけれど、オル子さんはこんなにも優しい女神だというのに! 歯向かった7000人をサクッと殺しちゃったけど、まあその辺は正当防衛ってことで!


 悲鳴が上がり続ける中、私の横で粛々と馬を進め続ける騎士団の副団長ことトーマスさん。

 エルザの猛攻も、ドラゴンラッシュも被害を免れ、先頭で士気を取り続けたかなり優秀っぽいオジサマ。この人が騎士団長だったら大分戦況が変わってたんじゃないかしら?

 トーマスさんは小声で私たちに確認するように問いかける。


「……約束は必ず守ってもらえるのだろうな。我々が敗北を受け入れ、先王たちとの戦後交渉の場を設ければ、サンクレナの民の安全を保障するという約束を」

「破るようなら既にこの地一帯の人間どもは誰一人として生かしていないわよ? 無力な民を守りたいと願うなら、余計な疑念は持たずに与えられた仕事を全うすることね」

「……承知した」


 表情を顰めながらも、黙々と私たちを城へと案内するトーマスさん。良い兵士だわあ。ウチにこない?

 まあ、彼ら兵士に敗北を認めさせ、こうして街中を連れられながら城に向かってるのには当然理由があるわ。

 一つはサンクレナという国民全体に『敗戦』を理解させること。私たち魔物に負けて、抵抗の余地などないと強く認識させて歯向かう気力を根こそぎ奪うこと。

 そして、もう一つは余計な戦いを回避すること。

 未だに『聖剣』のカウントが回っているかもしれない以上、極力人間たちを殺すのは控えたほうがいいというのが私たちの結論。

 それに、勝負は決し、サンクレナを私たちの都合の良い駒として使うことを考えたら、あまり力を削り過ぎるのも勿体ない話だしね。『支配者』として『命令権』を手にする仮定で考えたら、無駄な戦闘はもう必要ないもんね。


 阿鼻叫喚のサンクレナ城下街を抜け、私たちはとうとうサンクレナ城へ。

 あいかわらず、豪華絢爛と表現しても過言ではない城内。何個か調度品を記念に持って帰れないかなあ、なんて考えてると、私の上にミュラと一緒に乗っていたササラが小声で問いかけてくる。


「な、なあ……ほ、本当に俺がその、サンクレナの王になるのかよ……」

「そだよ? と言っても、『支配者』の座を貰うだけですぞ。ササラをこんなとこに置いていくつもりはないし、用を済ませたら一緒にオルカナティアに戻って、いつもの生活です」

「だ、だよな……俺、こんな場所に残って王様生活なんて絶対嫌だからな。置いていったら死んでも恨むからな、オル子と一緒に帰るんだからな。俺はずっとオル子の傍がいい」

「緊張のあまり、ササラがデレデレでござる。愛を感じる!」


 ミュラもびっくりなレベルで頭をこれでもかと連打されました。ああん、オル子さんの頭は太鼓じゃなくてよ。

 小声でそんなやりとりをしつつ、とうとう玉座の間へ。

 玉座には、白いお髭がもさもさ、服装キラキラのおじいさんが。ほむ、この人が生首さんとキャスのお父さんかしら?

 玉座へつながる道中、その両端には重臣らしきものがずらりと並んで、顔を引きつらせてる。ほむほむ。一応お偉いさんは勢ぞろいってわけね。都合が良いわ。

 礼儀も何もかも放り投げ、私は王様に向かって言葉を紡ぐ。レッツ悪役ターイム!


「わざわざ出迎えてもらって悪いわね。あなたが『今』のサンクレナ王になるのかしら?」

「そうじゃな……お前たちがアルガスの首を持っているということは、私が矢面に立つ以外にないじゃろう。ハルヴァードという」

「これはこれはご丁寧に。私の名はオル子、お前たちが兵を率いて攻めようとしたオルカナティアの王よ」

「ぬかしおるわ。元は我らサンクレナの地だったものを奪っておいてよく言う」

「あら、不思議なことを言うのね? 私が『ラーマ・アリエ』で見たものは、お前たち人間に虐げられ、食事すら満足にとることもままならなかった哀れな民たちだったけれど?」


 あらあらまあまあ、おじいちゃん顔真っ赤。ぷーくすくす! オル子さんごときにそんな状態では、エルザと論戦した暁には怒りでショック死しちゃいますぞ!

 私は視線をルリカに向けて合図を送る。ルリカは頷き、王様の生首をお爺ちゃんへの方へと放り投げる。コロコロ足元で転がる生首を確認して、私は口元を歪めて一言。


「返すわ、それ。人間にしては随分と頑張っていたみたいだから、丁寧に葬ってあげなさい? 竜族に利用され、自分の力に酔い、他の兄弟を淘汰し、挙句の果てには勝てない戦争をしかけてこのザマだもの。随分と立派な後継者を選んだわね」

「……苛烈な王が必要だったのじゃ。ガルベルーザにも、聖アルカナにも、貴様のような魔物にも後れを取らぬ、勇猛果敢な王が」

「勇猛果敢? 冗談にしては笑えないわね。地位を得るために兄弟を殺し尽し、竜族に利用されていることすら気づかなかった哀れな道化でしょう?」

「アルガスは敗者、そして貴様は勝者じゃ。勝者が全て正しく、敗者は何も言い返せぬ。もうよかろう、貴様たちは何の目的でサンクレナ城へ来た。王の首だけでは飽き足らず、この老いぼれの首も所望するか」

「そんなもの貰っても魔物の餌にもならないわよ。私たちが要求するのは、『支配者』の権限よ」

「『支配者』の権限じゃと?」


 私の言葉に、お爺ちゃんは眉を顰める。

 あれ、なんか反応が変じゃない? 嫌がっているというより、『何言ってんだコイツ』みたいな反応に見えるんだけど。まあいっか、話を進めましょう。


「そうよ。アルガスだったかしら? 彼が戦死した今、サンクレナの『支配者』は現時点で空白となっているわ。そこに私たちの仲間の一人を当てたいのよ。人間の『支配者』のシステムは不便で、『支配者』を殺した相手に権利が移る仕組みじゃないらしいのよね。あるのでしょう? 次期王として認められるための儀式のようなものが。それともアイテム?」

「正気か? 魔物は人の領域、『支配地』を得ることができぬ。まして『支配者』など、国の碑石に名が残るだけで、何の力も効力も持たぬというのに」

「ふふっ、残念だけど私の仲間には人の血が流れた者も沢山……待って。『支配者』に力がないですって?」

「『支配者』とは、我が国に伝わる石碑に名を刻むための儀式の一環であり、それだけに過ぎぬ。そんなものを得て貴様は何とする?」

「……『命令権』は? あなたたち王族はそれを利用して、民たちに命令を下して統治しているのではないの?」

「愚かな。そんな都合の良いものがあるならば、庶民貴族問わず誰もが王の座の簒奪を求めるわ。貴様ら魔物の世界の在り方など知らぬが、我ら人間は己が意思によって生きるものぞ。命令するだけで何でも受け入れてもらえる力など存在せぬわ」


 ……うっそーん。つまり、人間たちの『支配者』は『命令権』がないってこと?

 いや、確かにそんなものがあったら、こんな『社会』になんて生まれず、強者が全てという魔物世界みたいなものになっちゃうとは思うんだけど。王様に対する反乱とか起こりようもないんだけども。

 となると、『支配者』を譲渡するような儀式をキャスにしても無駄ってこと? ぐぬぬぬ……『命令権』を当てにしていたからこそ、ここまで来たのに。とんだ無駄足じゃない。

 それどころか、『命令権』がないとこいつらに蓋が出来ない。王を殺したんだもの、『命令権』を持たないまま放置すると、絶対オルカナティアに対して近い未来報復に攻めてくるわ。


 参った、これは参ったわ。どうしよう、こうなっちゃうと話が一気に変わるのよね。

むー……仕方ない。本当はやりたくないけど、オルカナティアを守るため、ここのお偉いさん含めて城下街を一掃……

 そんな物騒なことを考えてると、エルザが小声で私に助言を与えてくれる。


「動揺しないで。そのまま予定通り、『支配者』権限をササラに」

「でもエルザ、人間の『支配者』には『命令権』が……」

「大丈夫よ。ササラならば、必ず上手くいくはず。私を信じなさい」

「あいっ」


 即答です。だってエルザの意見だもん! エルザが右と言えば、私は右にいきますとも! 丸投げでございます!

 コホンと咳払いをして、私はワル子に戻ってお爺ちゃんに要求。


「こちらの思惑をお前たちが知る必要なんてないわ。さあ、選びなさい。『支配者』の権限を私たちに譲渡し、何も失わぬまま国を守るか。それともこの国の民を全て殺し尽されるか」

「……『支配者』の権限を譲渡する以上のことを求めぬのか?」

「求めないわ。それさえもらえれば、私たちはサンクレナに何の用もない。新たな王を立て、これまで通り好きにやっていればいいわ。ただし、またオルカナティアに攻めてくるようなら、国民一人残らず魔物の餌よ」

「我らの首も、財貨も、植民地としてすらも要求せぬのか?」

「くどいわね。そうされたいならしてあげるけれど?」


 私の言葉に、おじいちゃん困惑しまくり。まあ、普通はそうよね。

 あっちからすれば、戦争しかけて、負けて。敵から要求されたのが、何の力もない形だけの『支配者』権限だけなんだもの。逆に裏がありそうって思うのが普通だわ。まあ、あるんだけど。

 おじいちゃんの口ぶりだと、人間の『支配者』に『命令権』は存在しないみたいだけど、エルザの口ぶりからして勝算があるはず。

 私には微塵も分からないけれど、エルザが大丈夫って言うなら絶対に大丈夫。私の信じるエルザを信じるのです! まあ、駄目なら駄目でその時考えればいいし。アバウト!


「……『覇者の冠』をここに。急げよ」

「は、ははっ!」


 悩む抜いた果てに、お爺ちゃんは大臣らしき人に命令する。

 待つこと数分、太めの大臣から黄金に輝く冠がエルザへと手渡された。私じゃなくてエルザなのは、私はお手手がヒレだからね! 落とすと危ないからね!

 私たちの手に渡ったのを確認し、おじいちゃんは冠について説明する。


「次期王が決まったとき、『支配者』として認定するのに必要な祭具じゃ。それを頭に乗せ、名を告げて『我こそは王である』と強く祈るだけでよい」

「それだけ? 言っておくけれど、虚偽は許さないわよ? 嘘だと分かったら、そこに並んでる連中を一人ずつ殺していくから」

「この期に及んで虚言など並べぬわ。『支配者』の座のみで貴様らがラーマ・アリエに下がってくれるならこれほどありがたいことはない。敗者の貢ぎ物として、その王冠を譲渡する故、これから先、どうか互いの国に不干渉としてもらいたい」


 おじいちゃんお疲れモード過ぎ。それやるから二度と来るな、はよ帰れってオーラ出し過ぎよ。ふーんだ、言われなくても用さえ済んだらさっさとオサラバするっての!

 エルザが王冠をササラの頭の上に乗せる。ガチガチに緊張したササラに、エルザは安心させるように声をかける。


「大丈夫よ、ササラ。あなたならやれるはずよ。『人間』と『魔物』、そのどちらの血も持っているあなたたち、ラグ・アースだからこそ、できることだわ」

「あ、ああ……」

「彼らが『支配者』でありながら『命令権』を持たないのは、彼らが『人間』だから。人間たちの『支配者』に『命令権』がないのではなく、使えない。けれど、『命令権』を使用できる『魔物』では、人間の領域に支配地を持つことができない……この二つを同時にクリアできるのは、あなたたち人と魔物の二面性を持つラグ・アースにしかできないことなの」

「俺たち、ラグ・アースだけ……」

「誇りなさい、その血を、種族を。あなたたちは人間に虐げられるために生まれた訳じゃない――ラグ・アースは唯一人間の真なる『支配者』として君臨する力を持つ種族なのだから」


 エルザの言葉に、ササラの表情が変わった。

 困惑と緊張に満ちた表情から、決意に満ちた顔に。私から下りて、ぐっと拳を握りしめる。

 そんなササラを元気づけるためにも、私も声をかけるしか! ようし、最後の一歩を踏み出すためにも、オル子頑張っちゃう!


「ササラ、ササラ、頑張……」

「――俺の名はササラ! 俺こそが、俺こそがサンクレナの王だ! 俺たちは、俺たちラグ・アースはお前ら人間の奴隷になるために生まれたんじゃねえええ!」


 応援する前に自分から前に踏み出しちゃったでござる。ササラ、こんなにも強い娘になって! お母さん嬉しい!

 次の瞬間、王冠から眩い光が放たれ、部屋中を照らした。そして、光が収まるとびっくりした表情のササラが。これで儀式は完了したのかにゃ?


「……これで『支配者』はその娘になったはずだ。まさかラグ・アースがこのサンクレナの『支配者』となるとはの。形だけとはいえ、不快さは残るものよ」

「んだと? テメエっ! 『謝れ』よ!」

「――ぬっ!?」


 ササラがそう叫んだ瞬間、おじいちゃん、その場に強制土下座。

 お、おおおお!? これ、まさか命令権が発動してる!? 呆然とする私やササラとは対照的に、エルザは頷きながら言葉を紡ぐ。


「恐らく、『支配者』の力とは『魔王』のために用意されたシステム。人間たちには不要なシステムであり、人間たちには効果を発揮できないようになっていて、なおかつ魔物は人間の領域の『支配者』となれないようになっていたようだけれど……魔物と人間の混血という奇跡の存在までは想定していなかったようね。このシステムを作り出した『管理者』は」

「ぐううう、小娘、貴様ワシに何をしたっ……」

「な、何もしてねえよ!」


 ササラは慌てて私の上に逃げ込む。シャチの背中は大きいからね、安心するからね。

 ミュラと一緒に私の上に乗って、べーっと舌を出すササラ。うむ! 何はともあれ、ササラが無事サンクレナの人間たちに対する『命令権』をゲットしたわね! これで目的は達成よ!

 これでたとえサンクレナの連中が何をして来ようと、命令すればどうにでもなるし、状況によっては他の人間国や竜族の盾にもなるし!

 今更ながら、この『命令権』ってチートだわあ。だからこそ、魔選ではこのために壮絶な殺し合いをするんでしょうけれど。

 私はふふんと笑って、おじいちゃんに別れの言葉を告げる。


「確かに『支配者』の権利は頂いたわ。約束通り、お前を含むこの国全ての人間を一度だけ見逃してあげる。だけど、しっかりと肝に銘じておきなさい――次はないわよ?」

「ま、待てっ!」


 おじいちゃんが土下座状態で何やら騒ぎ立ててるけど聞こえませんぬう。

 私の背中ときなこもちの背中に皆を乗せて、窓からお城を脱出! 十二時の鐘が鳴る前にごめんあそばせですわ~!

 イケメンの王子がいたら、しっかりとオル子さんのガラスの靴を拾っておくように! リナに意地悪される灰被りな私を助けに来てね! よろぴこっ!



 

お盆より復帰しましたっ。また更新頑張りますー!

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