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97.さあ、準備を済ませましょう。楽しいイベントはもう目前よ?

 



 会議室に戻った私は身振り手振り尻尾をふりふりしてアルエに『王様マジぱないわ』的なことを説明。もちろん、惨殺された人間の死体のことはアルエには内緒だよ!

 シャチホコのごとく、エビぞり状態になってヤバさを語る私に、アルエは眉根を寄せて一言。


『申し訳ないけれど、私に王や聖剣の強さを語られても分からないわよ。オル子たちみたいに殺し合いなんてやったことないから、能力のランク云々言われてもピンとこないのよね』

『んまっ、殺し合いの一つも嗜んだことがないなんて、なんという箱入り令嬢なのかしら!』

『ほとんどの令嬢は殺し合いなんて物騒な経験持たないと思うのだけど……とにかく、オル子の反応を見ても、アルガス王がとんでもない武器を所有してるということは理解できたわ。どうする? 今すぐにでもオルカナティアに戻って報告する?』


 ほむ、どうしよう。

 敵がオルカナティアに攻めてくる期日も大凡掴んだし、何より『聖剣シャルチル』とかいう武器の対策は一秒でも早く始めないとマズイわよね。

 でも、本当に戻っていいのかしら。前回、『森王』戦では敵のカードが骨召喚だけと思い込んでたら変身されてブスリといっちゃったのよね。私はオル子、学習能力に秀でた成績優秀ヒロインなのです。

 具体的に言うと、上流階級の通う学校に普通平凡の女の子でありながら特待生で入学し、学年一位を掻っ攫う……そんなイメージトレーニングを一日足りとて欠かすことのなかった私なのですよ。

 そんな私の乙女の第六感がビンビンに反応してるわ。敵のカードはまだ他にもあるのではないかと。


『でもなー、私の勘って微塵もあてにならないからなー。小学校の頃、隣の席だった石田君から好意寄せられてると勘違いして、『私のこと好きなんでしょー!』って訊いたら『うるせえ馬鹿! 二度とお前に宿題写させてやんねえ!』って怒られたもんなー。どうしたもんかなー』

『あなたの魚類的恋愛事情はともかく、私はオルカナティアに戻っても良いと思うけれど。こちらに攻めてくる時期も掴んだのだから、当初の目的は果たしたと思うわよ?』

『んー……考えすぎなのかな。敵にはまだ何かある気がするんだけどなあ』

『気になるなら、一度戻ってエルザたちに報告した後、また来ればいいじゃない。あなたの飛行速度なら、ここまで半日とかからないじゃない』


 ほむ、確かに。まずはこの激やば情報をみんなにテイクアウトするのが先よね。

 アルエの言う通り、気になるならまたここに戻ってくればいいんだし。

 私は両ヒレをパタパタさせてアルエに指示を出す。リーダーたる私がこれからの行動指針を示すのですよ!


『決めました! 一度オルカナティアに戻って、全てをエルザに丸投げしたいと思います! さあアルエ、私の背中にお乗りあそばせ!』

『丸投げって……私、今尊敬する人を訊かれたら迷わずエルザの名をあげると思うわ』


 何故かアルエの中でエルザの評価がうなぎ上りのようです。オル子さんの評価は?

 アルエを背中に乗せて、城の天井をすり抜けてふよふよと大空に浮上。


『いい? 私が乗ってるんだから、振り落とされない程度の速度で飛ぶのよ? 絶対だからね!』

『お任せあれ! アルエが落下しない速度は私の頭にインプット済みですよ! 振り落とされないギリギリのところを攻めちゃうよ!』

『だから、ギリギリじゃなくてもう少しゆっくりで……ふきゃあああ!』


 オルカナティア目指してオル子号発進よー!

 早く我が家に戻って情報を届けねば! そしてベッドでゴロゴロしてお菓子をモチャモチャ食べねば!


















 アルエと一緒にオルカナティアに戻り、『トランジェント・ゴースト』をカット。

 目覚めた私に大興奮するミュラをよしよしとあやしつつ、私の尻尾をガジガジ噛むミリィを宥めつつ、館中を駆けまわって全員召集。

 緊急事態も緊急事態なので、いつものメンバーに加え、仕事中のキャスや怪しげな研究に没頭しているリナも引っ張り出して説明開始。

 『聖剣シャルチル』とかいうチートにも程がある魔物キラー武器のヤバさを語り終えると、エルザが私の頭を撫でながら言葉を紡ぐ。


「お手柄よ、オル子。よくその情報を持ち帰ってきてくれたわ」

「褒められたでござる! エルザに褒めてもらえたでござる! でしょー!? オル子さん頑張ったでしょー!? もっと褒めてくれてもいいのよ! おほほほほ!」

「アルエもお疲れ様。あなたたちのおかげで、大きな危機を前以て対処することができるわ」

『別に感謝されるほどじゃないけれど……そんなにその「聖剣」とかいう武器は危険なの?』

「ええ、恐ろしいほどに危険だわ。もし、このことを知らずに人間を迎え撃っていたら、私たち全員まとめて返り討ちにされ、全滅していたかもしれないほどに」


 エルザの言葉に、その場が一気に静まり返る。

 みんなの表情を見るに、どうやら考えはエルザと一致しているらしく、聖剣がどれだけヤバいのかが窺い知れるわ。

 みんなに一つ一つ状況を噛み砕くように、エルザは『聖剣シャルチル』のヤバさを語っていく。


「聖剣は私たちが人間を殺せば殺すほど、その真価を発揮するわ。自身のステータス上昇、そして強制麻痺と体量値・魔量値以外のステータス3ランクダウン。何より怖いのは、そのステータス上昇とバッドステータス付与の効果範囲に限界表記がないこと」

「敵の王が五万の兵士を引きつれ、私たちとぶつかったとき、その兵士を倒せば倒すほど際限なく能力値と効果範囲が上昇するかもしれない……そういうことですね?」


 ルリカの確認に、エルザは頷いて肯定する。


「例えば、人間を五千人殺すたびにワンランクステータスがあがると考えても、五万人殺せば10段階上昇。王の能力が全てFだとしても、十段階上昇すればSS+に到達するわ。防御、魔抵のSS+なんて、もはやオル子の攻撃も私の魔法だって貫通できない。ましてや相手には完全無敵障壁能力があるのだから」

「唯一可能性があるとすれば、ミリィの防御無視、無敵障壁破壊効果のある『オルケイン・クラッシュ』だろうが、速度SS+の相手に攻撃が当たるとは思えんな……」

「きゅーん」


 クレアの言葉に、抱っこされているミリィが自信なさげに鳴き声を上げる。

 そうよね。速度ある相手に低技量では当たんないのは、グラファン戦で私が嫌というほど思い知らされたわ。私と似たステータスのミリィでは厳しいでしょうね。


「キャス、確認しておきたいのだけど、あなたの兄の戦闘能力は?」

「ふむう……武芸には秀でておったが、あくまで王族の嗜みとしてに過ぎんの。妾の知る限りでは、お主らのような怪物相手に立ち回れるような力はもっておらぬぞ」


 ふむふむ。つまり、怖いのはステータスの暴力、力のごり押しだけと。

 そして、話を聞いていたバトルジャンキー、ビーフジャーキーことポチ丸も意見を述べてくる。


「ステータスを強制的に3ランクダウンさせられるっつーのもかなり厳しいな。麻痺はルリカのスキルで何とかなるだろうが、能力ダウンだけはどうにもならねえだろ」

「そうですね……私の持つ『クリアライズ・マリン』で麻痺の解除は可能でしょうが、ステータスダウンは対象外ですので」

「範囲内全ての魔物を対象として発動されるのだから、下手に多くの魔物を連れてきても無駄死にするだけでしょうね。オルカ化もしていない低ステータスの魔物が麻痺に加え、ステータス3ランクダウンなんてくらってしまえば、ただの的でしかないもの」


 ううん、やっぱり3ランクダウンが厳しいわよね。

 私のステータスから考えるとして、強制能力低下をくらうとこうなるんでしょ?




体量値:S+ 魔量値:C 力:S+→A 速度:S→B

魔力:C→F 守備:S→B 魔抵:B→E 技量:E→G 運:C→F




 いや、無理。こんなの無理だから。勝てないから。

 全ステータス酷い上に、技量なんか最低ランクのGですよ? こんなの当たる気がしませんよ?

 私だけじゃなくて、他のみんなも見る影もないステータスになっちゃうだろうし……本当、勝てる気が微塵もしないわ。恐るべき対魔チート、源頼光に退治される鬼になった気分ですよ。

 頭を悩ませる私たちに、話を聞いていたササラが疑問を投げかける。


「なあ、みんなしてキャスの兄貴の剣にビビってるけど、その能力は人間の支配地限定の効果なんだろ? オルカナティアはオル子が占領してるんだから、効果は出ないんじゃないのか? サンクレナに攻め込まない限り、怖がることはないと思うんだけど」

「違うのよ、ササラ。オルカナティアというか、ラーマ・アリエの支配者はオル子さんじゃないんですよ。ここ、ばっちり人間の支配地内、聖剣の効果範囲内なんですぞ」

「へ? そうなのか?」

「魔物では人間の支配地の支配者になれないのよ。逆もまた然り。だからこそ、私たちはこの場所を拠点としているのだけど」


 そうなんですよ。この地の支配者は人間のままなのですよ。

 人間の支配地だからこそ、『支配地勢力図』にもオル子さん色に染まってないし、ハーディンやイシュトスに対する隠れ蓑になってるの。まさか連中も私たちが人間の支配地を根城にしているなんて思わないもんね。

 だけど、今回はそれが見事に裏目に出ちゃってる。人間の支配地だけで効果を発揮するチート武器があるなんて思う訳がないじゃない。


「聖剣の効果を発動させない一番簡単な方法は、このオルカナティアを捨てて人間の領域外に引っ越すことでしょうね」

「そ、そんなの嫌だぞ! この街は俺たちラグ・アースの故郷でもあるんだ! それを捨てるなんて……」

「ササラ、ササラ、安心して。ここまで頑張って発展した街を捨てたりなんかしませんぞ。それに、エルザって実は意外と負けず嫌いだから、そんな逃げ腰な方法はとらないと思うの」

「あら、よく分かってるじゃない」


 不敵に笑うエルザさん。まあ、この程度で逃げてたら、遅かれ早かれイシュトスやハーディンに殺されるもんね、私たち。

 ラグ・アースを保護して、この場所に拠点を立てた以上、こうやって人間とぶつかるのは想定内だもん。これを何とかして乗り越えないと、ここまで頑張ってきた意味がないわ。


 さて、一番の大問題である聖剣持ちである王様の対処を考えねば。

 この強制ステータスダウンを防げるとすれば、『フリスビー・バック』を持つポチ丸か、ポチ丸剣のときにスキルを使用できるクレアだけ。


「ほむう……王と正面から打ち合えるのはポチ丸剣を有し、『フリスビー・バック』で能力ダウンを押し付け返せるクレアだけっぽいね。よかったあ、ポチ丸が進化してなくて! もしポチ丸が進化してたら、剣化できずにとんでもないことになっていたもんね」

「あ? 悪いが俺は既に進化してるぞ。ステージ3のレベル15だ。総合ランクもC-で上がってるぞ」


 ポチ丸の返答に、私は頭が真っ白になる。

 進化してる? 誰が? ポチ丸が? ふーん……って、うおおおい!?

 私は慌ててポチ丸に詰め寄り、ヒレでばちんばちんと床を叩いて抗議する。


「何勝手に進化してるの!? 進化したら剣化できなくなって、クレアが『フリスビー・バック』使えなくなるでしょ!? 誰が許可したというの!?」

「テメエだテメエ! 剣化できるアルエが仲間になったときに、テメエが進化するかどうか俺とクレアに任せるっつったんだろうが! その空っぽの脳みそでしっかり思い出しやがれ!」

「あれ、ホントだ。そんなこと言ったような気がしますぞ」


 そうだった。私が言ったんだった。てへ! ……などと言ってる場合ではない!

 私は慌ててポチ丸に対して識眼ホッピングを発動。ポチ丸のステータスをガン見する。




名前:ポチ丸

レベル:15

種族:タービュレント・ポメラニオルカ(進化条件 レベル20)

ステージ:3


体量値:D 魔量値:E→D 力:D→C 速度:C→B

魔力:E 守備:F 魔抵:F 技量:C→B 運:E→D


総合ランク:D-→C-




 ほげええええ! 本当に進化してる、しちゃってる! ランクがC-まで上がってるうう!

 C-ってことは、クレアのランクがB+だから、ひいふうみい……六段階下回ってないいい! つまり、剣化不能ってことじゃないの!

 私はばったりと床に転がり、ぴちぴちしながら力なく声を漏らす。


「もう駄目よ、おしまいよ……ステータスダウンを免れたクレアなら、あの聖剣とも唯一打ち合えると思っていたのに、ポチ丸が剣化できないんじゃ……バカバカ、私のバカ、もっと深く考えて判断すべきだったのに……」

「おい、何勝手に早とちりしてんだ。誰が剣化できねえっつったよ」

「……へ? できるの? 総合ランクD+より上の魔物は剣化できないんじゃなかったの?」


 むくりと起き上がり、問いかける私に、ポチ丸はニヒルに口元を釣り上げる。軽くイラッとするぶちゃ顔だった。

 どうやらエルザやルリカも初耳だったようで、視線は自然とクレアへと集まっていく。

 みんなの視線を集め、クレアは説明を始めた。


「確かに以前までの私ではD+以下の魔物しか剣化できませんでした。私のランクはB+ですので、本来ならC-のポチ丸は範囲外。剣化することは不可能です」

「よね、だよね? そのことがあったから、ポチ丸をどうするかクレアはずっと悩んでたんだもんね」

「はい。ですが、その問題を解消してくれた人物がいたのです。それがアルエです」


 名を呼ばれたアルエは、少し自慢げに胸を張る。

 アルエがなんでポチ丸の剣化に影響するの? 疑問符を浮かべる私に、クレアは説明を続けていく。


「アルエやポチ丸のように、魂の格が高い存在を剣化したとき、生み出される剣は破格の強さと力を得ています。その効果には、私のステータスや総合ランクを押し上げるもので……」

「……なるほどね。つまり、以前のクレアではC-となったポチ丸は剣化できなかった。けれど、アルエを剣化した後のクレアなら」

「アルエを剣化することで、私のランクは二段階上昇してAとなります。すなわち、剣化可能なランクもそのまま二段階上昇してCからですので、ポチ丸を剣化可能なのです」

「お、おおおおお!」

「テメエらのこれまでから判断して、進化しても俺のランクは上がって3ランク。そう読み、クレアと話し合ったうえで決断した賭けだったんだがな。ま、成功して何よりだ」


 短い後ろ足で耳の後ろを掻きながら、ポチ丸は何でもないように言ってのける。やばい、なんだかポチ丸が超絶イケメンに見えてきた。目をヒレでこすって見直すと、どう見てもただの白ポメだった。気のせいだったわ。

 しかし、そんな方法があったのね。剣化は一本限定じゃないこと、アルエがいたからこその方法よね。

 でも、ということは、もし適合する魂を有する魔物さえ見つかれば、クレアは際限なく剣化してステータス強化できるってこと?

 それこそ、沢山武器を抱え込めば最終的には私やエルザとかも武器にしたりできるようになるんじゃ……武蔵坊クレアと申したか。クレア、対個人戦闘なら本当に無敵モードね! すばらしこ!

 クレアのことはひとまず置いといて、今はポチ丸のことですよ。進化したってことは、スキルを得ている筈ですぞ。


「進化したのはいいんだけど、新しいスキルは何か覚えたのん? ポチ丸のスキルってトリッキーなの多いから、ちょっと楽しみなんだけども」

「ああ、覚えたぜ。『ワンダフルドリーム』、なかなかに面白いスキルだぜ?」

「わ、ワンダフルドリームとな!?」


 いやもう、名前から効果が微塵も想像できないんですけども。

 ポチ丸から説明されたスキルの効果は以下の通り。




・ワンダフルドリーム(複数:中距離:範囲内の敵に幻惑効果と力低下を付与。対象の目に映る生き物全てを術者の姿へと変え、力のランクをワンランクダウンさせる。スキル成功率は自身の魔力と敵の魔抵に依存。効果T60:魔量値消費(小):CT90)




 何これ、つまりスキル発動した敵の視界に映る生き物全ての姿がポチ丸になるってこと?

 右を見てもぶさポメ、左を見てもぶちゃポメ。もしサンクレナ軍に使おうものなら、視界には五万を超える白ポメ軍団。う、うおお! た、楽しそう!


「そのスキルを人間にぶちあてましょう! 人間たちに五万のポチ丸に囲まれる恐怖を叩き込むしか!」

「くははっ! あわてんじゃねえよ! 戦いになったら、容赦なく叩きこむつもりだからよ! 溢れかえる魔物に恐れおののく人間ども、その恐怖に引きつる顔が楽しみじゃねえか!」

「恐怖かあ……? いや、困惑することは間違いないだろうけどよ……」


 ササラの突込みを右から左にさらりと流します。駄目よササラ! ポチ丸は自分を狼か何かだと勘違いしてる節があるから、黙っててあげないと!

 男のプライドを守ってやるのも良い女というものですぞ! まあポチ丸はオスなんですけども。

 盛り上がる私とポチ丸をよそに、エルザたちは冷静に聖剣との戦いに関する分析を進めていく。


「ステータスダウンを無効化できる可能性があるのはポチ丸とクレア、そしてポチ丸に変化して『フリスビー・バック』を使えるミュラの三人ね。如何に聖剣のカウントを上昇させず、この三人と王の戦いを邪魔させずに行えるかが鍵かしら」

「もしくは『守護者』のカウントを無駄に浪費させるか、だな。オル子の情報によれば、『人類の盾』が発動すれば、カウントが10消費されるのだろう? これを利用しない手はあるまい。カウントさえ上昇しなければ、ただの無力な人間に過ぎんからな」


 悩むエルザに対し、意見を述べたのはリナ。

 ほむ、リナがこうして助力するような意見を言うのは珍しいわね。いつもは第三者という感じでニヤニヤ見守ってるだけなのに。

 エルザもそう感じたのか、納得できないような表情でリナを見つめながら問いかける。


「珍しいわね。あなたがオル子に助言をするなんて」

「ま、ただの気まぐれと思ってくれて構わんさ。何せ、『聖具』にはかつて私やアディムも手痛い敗北を喫しているからな。数年越しのリベンジをお前たちが果たしてくれたなら、これほど愉快なことはない」

「そう言えば、魔王アディムもかつて人間の領地に攻め入り、敗北したんだったわね。そのすぐ後にアディムが死んだという情報から、私はてっきりアディムが人間に殺されたのだと思っていたけれど」

「アディムが終わったのは聖地でのことで、人間に殺された訳じゃない。ま、敗北をしたことに変わりはないがね。私たちの時は『剣』ではなく『盾』だったよ」

「『盾』?」

「ある人間の娘が、その命と引き換えに『盾』の力を開放し、魔物全てを支配地内から転移させ、人間の領地に入れないようにする強力な結界を生み出した。万の魔物の軍勢を前におびえる素振りもみせず、実に堂々とした見事な娘だったな」


 ほへえ、そんなことがあったんだ。

 チート剣だけじゃなくて、敵の侵入すらシャットアウトするチート盾があるなんて、いったい人間界にはどれだけ化物兵器が眠っているのかしら。怖いわあ。

 ミュラを頭に乗せて、親子一緒におやつをボリボリ食べながらしみじみ。そんな私たちに、リナは楽しそうに笑ったまま助言を終えた。


「不幸中の幸いと言うべきか、今回人間たちが手にしたのは『盾』ではなく『剣』だ。強制転移で排除し、守りを固められるのではなく、相手が戦いを望み攻めてくるというならば、お前たちにも十分勝機はある。せいぜい頭を使って勝利を掴むがいいさ」

「ほむ、頭突きに定評のあるオル子さんの出番と申したか。敵の内臓がなくなるまで何度でもしつこくヘッドバッドするよ! おっる子うちっ! おっる子うちっ!」

「おい、馬鹿、止めろ。腹が痛くなるだろうが」


 頭を8の字にローリングしていると、ポチ丸から非難の声が。おほほ! 失礼!

 そんな私たちのコントに呆れつつ、エルザはまとめるように言葉を告げる。


「とにかく、人間たちが攻めてくるまで大凡二十日ほど。その間に、聖剣とやらを含め、人間たちをどう退けるかを考えましょう。この間にオル子とアルエにはまたサンクレナに偵察に行ってもらうかもしれないけれど、その時はお願いね」

『もちろん協力するわ。キャスには悪いけれど、サンクレナが弱体化すればそれだけガルベルーザ帝国が力を持つことができるだろうから。公爵家を盛り上げるためにも、頑張っちゃうわよ』

「そうね、一回頑張る度にエルザがデレてオル子さんを甘やかしてくれるなら張り切ることも吝かではない所存よ! まずはオル子さんにウィッチ族のイケメンを紹介するところから始めましょうか! エルザのパパ似のナイスガイを紹介プリーズ!」


 調子に乗ったら杖先でお腹をグリグリされました。すみませぬ、すみませぬ。

 とにかく、決戦の日までの間、私たちは聖剣の対処法とサンクレナ軍攻略のために時間をかけて作戦を練りに練ったわ。

 ごめんなさい、嘘つきました。練ったのは他のみんなで、私は何も頭使ってませぬ。ぐぬう……人には適材適所ってものがあるんですよ!

 私はほら、ミュラとミリィ、三人一緒にベッドでごろ寝してお菓子を食べることで忙しいから……戦いになったら本気出すし! ほ、本当だよ? オル子さんは有能な怠け者なのです!




 

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