96.いつだって運命は切り開くものでしょう? 強い意思という剣でね
サンクレナに辿り着くなり、アルエと一緒に街を観光してまわりました。
未発達の中世文明、ファンタジーのお約束、これぞ異世界転生って感じの街並みですよ!
『これで私が人に転生してたなら、間違いなく王道的転生恋愛物語になったというのに……惜しい、本当に惜しいわ。人だったなら、平民からだろうと公爵令嬢まで成り上がる自信があったのに! なんもかんも天使が悪い!』
『公爵家を馬鹿にしてるの? 平民から成り上がれる訳ないでしょ。サンクレナだろうと、ガルベルーザ帝国だろうと、どれだけ頑張っても男爵程度しか無理よ』
『いけるいける! 私のヒロインパワーで公爵家に引き取られたりするから! こう、この世界にただ一つしかない光の力とか聖女の力とかを、私だけが持ってる流れで!』
『あなたが持ってるのは巨大な魚になる力じゃない……って、どうして急に地面に寝転がってるの』
アルエがあまりにも酷いことを言うので、抗議とばかりに拗ねてみる。
頬を膨らませてごーろごろ。いいじゃない、シャチになれる愛され令嬢がいたって。水族館きっての人気者を馬鹿にするんじゃない! 食べ物くれれば芸だってできるよ!
ラビングするがごとく地面で転がりまわっている私を他所に、アルエはサンクレナを見回った感想を口にする。
『サンクレナの王都にしては、随分と空気が浮ついてるわね。熱を保っているというか、変に緊張……雰囲気が張りつめてるというか』
『そうなの? 賑やかな街だなーくらいしか感じなかったけど』
『この街並みを賑やか、で済ませちゃ駄目でしょうに……』
そう溜息をつかれましても。街があって、人がいっぱいいれば賑やかだとしか。
首を傾げる私に、アルエが少し得意げそうに話を続けていく。
『これは「戦争」の雰囲気よ。民は空気の変化に敏感で、戦前の空気を感じ取るものなの。例えば国が遠征のための物資を集めていたりすれば商人が動き、商人が動けば街全体の経済も変わる。きっとこの街の住人たちはそんな空気の機微を感じ取っているのよ』
『ほええ……アルエがオル子さんを押しのけて、知識チートポジションを確立しようとしてる! なんでそんな知識があるの?』
『ふふん、当然よ。我がカタネリア家の領地は他国との国境に面していて、小競り合いから大きな戦いまで幾度の修羅場を乗り越えてきた武家だもの。時の王より『剣家』と誉れ高い名を与えられたりしているんだから。そのカタネリア家で生まれ育った私が戦争の空気を感じ取れない訳がないでしょう?』
『ほむ、つまりカタネリア家には人化したオル子さんを養子として迎え入れる準備があると? アルエ、私のことをお姉様と呼んでもいいのよ!』
『どこをどう聞いたらそうなるのよ!』
なんだ、違うのね。公爵家へのお誘いかと思ったじゃないの。
とにかく、アルエの話をまとめると、この国はやっぱり戦争の準備の真っ最中っぽい。しかも遠征だから、どう見てもウチに攻め込む体勢ですな。
あれだけ兵士に脅しをかけたのに、王様ってばやる気満々ね。やっぱり末端の兵士ごときの言葉じゃ耳を貸してくれないみたい。人の忠告を何だと思ってるのかしら。
『サンクレナの植民地も同然だったラーマ・アリエが魔物に奪われたことは国中に伝わっているはず。普通なら恐怖で沈んでもおかしくないのに、こんな熱気に包まれているということは、オル子たちへの恐怖よりも王が何とかしてくれるという期待感があるということ……いえ、魔物を敵と外敵とし、国民の意思統一を図り、それを倒すことで新王としての指示や地位を盤石にする狙いもあるのかしら? キャスのお兄さん、どうやら王としてなかなか手強そうね』
『そういうものですか。政治の世界は難しくて分からんぬー』
『あとは裏付けを取るためにも、城に入り込んで情報収集ね。まあ、私としては、オル子に手出ししたサンクレナが壊滅的な打撃を受けてくれたほうが嬉しいわ。難敵そうな王が消えたら、その隙にカタネリア家がサンクレナへ進軍して、領土を奪えるでしょうから』
『む! それってあれでしょ、火事場泥棒って奴でしょ! ぬふー! 難しい言葉を知ってる私ってとても知識チート! 国語辞典を枕に眠りこけた甲斐がありました!』
『火事場泥棒って……否定できないけど、なんか腑に落ちないわ……』
『しかし、死して魂になった後でも公爵家の発展をアルエは願うのね』
『当然でしょ。それが貴族、カタネリアの娘なんだもの。家を誇り、先代を誇り。驕らず阿らず、王と国と民を守護する剣、その一員として自覚を持つこと。それを胸に、私はこれまでを生きてきたのだから』
『き、貴族令嬢っぽい! 発言がとても貴族令嬢っぽい! 見た目はミュラよりちょこっと年上の将来有望な悪役令嬢って感じなのに立派だわ!』
『誰が悪役令嬢よ!』
怒鳴られました。解せぬ。
悪役令嬢って私にとって最上級の褒め言葉なのに。
『頭を叩かれたでござる。悪役令嬢とは褒め言葉、約束されし勝利のヒロインなのですよ! もっと喜んでもいいのよ!』
『なんで悪役なのに褒め言葉になるのよ……ああもう、頭痛い』
アルエを背に乗せて、私は街の中央に位置するお城へふよふよ移動。
豪勢なお城、その門周辺に配備された兵士たちに敬礼し、堂々と入城。見えないところでも礼を欠かさない、礼節の精神を大事にしたい私ですよ。
豪華絢爛な城内をあっちにうろうろ、こっちにうろうろ。
お城が広過ぎてどこに行けばいいのか分かんないですよ。海王城のときはルリカの案内があったから、敵をぶっ殺しながら真っ直ぐ目的地に辿り着けたんだけどね。
『とりあえず地下にでも行ってみる? お城の地下に宝箱があって強い武器とか良いアイテムが置かれてるのは古来よりお約束ですし!』
『そのお約束が何なのか微塵も理解できないけれど、行くなら上の階でしょう? サンクレナの新王を見つけて、王の傍に張り付くの。重要な情報や国を動かす決定は必ず一度は王に届けられるものだからね。むしろ、キャスの話す感じなら、王自ら指揮を執って戦の話し合いをしている可能性も高いわ』
『あいあいさ! それじゃ王様を捜すとしましょう。私好みのご尊顔だったらいいなー! むほほ、目の保養、目の保養!』
『オル子好みって、サンクレナの王は魚じゃなくて人間だと思うわよ?』
『誰が魚のオスなんか見たいと申したか! 魚のイケメンなんぞ見分けつくかー! 私は人間のイケメンが好きなんですよ!』
巨大階段を飛び越えて、廊下を右に左に移動。
そして、謁見の間らしき部屋に入るも玉座に王様見当たらず。ぬう、不在かしら。衛兵みたいなのはいっぱいいるけれど、肝心の王様が見当たりませんぞ。
仕方ないので、アルエと一緒にこの階の部屋を片っ端から探し回ってみる。執務室みたいなのがあってデスクワーク中かもしれないし。
探し回ること少々、甲冑を纏った兵士たちが厳重に警備する部屋を発見。
扉をすり抜け、室内にお邪魔すると、大きな長机を囲うように見るからに地位の高そうな騎士やら貴族やらが席について会議中。そして、扉から一番離れた場所に、とんでもないイケメンがいた。
キャスと同じ黒髪、そして猛禽類のような鋭い黄金の瞳。
日本人とも西洋人とも異なる、どちらかといえば中東系のアラビアン美形が肩肘をついて周囲からあげられる報告を聞いていた。
そのイケメンを凝視し、私はヒレをビシッとあげて宣言。
『92点! 最高水準のイケメンスペックに、全身から漂うザ・王様オーラ! 俺様キャラならぬ王様キャラを予感させる雰囲気、嫌いじゃありません! デレた時に私だけに笑顔を見せてくれると更に3点プラスしちゃう! ワンダホー!』
『あれが今代のサンクレナ王……王位継承争いでキャスを蹴落としただけあって、なかなかに雰囲気があるわね』
『ええ、確かに……攻略難易度が高そうなオーラをビンビン感じるわ。でも、一旦ルートに入ってしまえばチョロそうでもあるわ』
『だからあなたはいったい何の話をしてるのよ……とにかく、重要な情報を抜き取るまで王に張り付くわよ。王に報告される話全てに耳を傾けて集中するの』
『おまかしこ! ゲーム中と漫画読んでる時の集中力には定評のある私を信じなさい!』
私とアルエはイケメン王の背後について、会議に耳を傾ける。
ふむ、どうやら今は内政、食糧事情についての話し合いみたいね。いいでしょう、この国の食糧事情を握り、転生キャラらしく軍略、謀略を以て兵糧攻めしてあげるわ!
レッツ集中! どんな話も私は聞き漏らしませんぞ! さあ、私の存在に気づかぬまま、重要な話を垂れ流すといいわ! 一言一句全てを記憶してくれるう!
揺れる。世界が揺れる。
ゆさゆさと体を揺さぶられ、何やら私を呼ぶ声が。
『……ル子、ちょっと、オル子!』
『にゅう……?』
ヒレで目を擦りながら、むくりと起き上がると、そこには釣り目をいつも以上に釣り上げたアルエが。
私を見下ろしながら、アルエは大きく溜息をつく。
『会議が始まるなり、ものの十分で居眠りするなんて……あなた、本当にアレね……』
『……あれ、私寝てた?』
『寝てたわよ! それはもう、涎を垂らしてとても気持ちよさそうに! 魂の状態では睡眠を必要としないのに、何をどうすれば眠れるのよ……』
やべえ、どうやら居眠りやっちゃったみたい。
キャスお兄さんの声いいなー、お腹に響く声だなーとか考えてたあたりから記憶がないわ。肉体でも寝て、魂でも寝て、私ってちょっと寝過ぎじゃない?
欠伸を一つして、尻尾をふるふる。ヒレをびたんびたん。ついでにボディもびたんびたん。よし、元気いっぱい!
『それで話し合いはどんな感じ? 何か良い情報はあった?』
『全くもう……オルカナティアへの進軍は確定事項みたいよ。あと二十日ほどで準備が整うとのこと。予定兵数は五万前後』
『五万? 随分と絞ったわね。キャスが言うなら、本気出せば三十万はいけるって言ってたのに』
『他国との国境沿いに配備している兵士を引き上げたくないみたい。ガルベルーザ帝国とアルカナ神聖国の動きをかなり警戒してるみたいね。新王になるなり国の守りを空にするほど、サンクレナも馬鹿じゃないってことでしょう。特にガルベルーザとサンクレナはいつ互いに侵攻してもおかしくないくらい不仲だから』
『アルカナ神聖国? 初めて聞く国家ですぞ。サンクレナともガルベルーザとも違う、第三の人間の国なの?』
『そうよ。サンクレナ王国、ガルベルーザ帝国、そしてアルカナ神聖国。この三大国家によって人間の領地は治められているの』
なるほどねえ。
王が代替わりをして、いきなり全戦力を魔物との戦争にぶつけてしまえば、背後ががら空きになって隣接する二大大国に呑み込まれちゃうと。
だからこそ、国境沿いの守りは固めつつ、五万の兵士で私たちをさっさと潰してしまおうという感じかしら。
『五万、五万かあ……五万ならなんとか出来そうじゃない? エルザとコピーしたミュラがノータイム・ビーム連打して、私がどっかんどっかんシャチの雨を降り注いで。オルカナティアに近づけず、国境沿いで迎え撃てば街に被害も出ないし……あれ、これ『森王』の無限ガイコツゲーよりも楽勝じゃない?』
『精強を誇るサンクレナの五万の兵を楽勝なんて言えるのはあなたたちくらいのものよ』
『まあ、とにかく出兵数が減るなら好都合。オルカナティア発展のための人員を無駄に死なせたくないし、後に控えるハーディンやイシュトスを見据えてもここは私たちだけで無双……ぬ?』
そんなことを話していると、イケメン王が動きを見せた。
一人の兵士が王に近づき、何やら耳打ち。それを聞いた王は、一瞬表情を崩した。
そして、机上であれこれと話し合っている配下たちに告げる。
「ラーマ・アリエ進軍の準備状況は把握した。あとは期日までにしっかりと仕上げておけよ。細部の詰めはお前たちに任せる。決して俺を失望させるなよ?」
「はっ。王は今から『鍛錬』ですかな?」
「当然だ。準備も整ったようだからな。王である俺が強くなくては、兵にも民にも示しがつくまいよ」
そう言って、王様は兵士たちとともに室内を後にする。腰に蒼く輝く剣を下げて。
そんな王の姿に、配下たちは『流石は武王』だの『あれでこそ覇王』なんて賞賛しっぱなし。
『へえ、鍛錬なんてするんだ。もしかしてオルカナティア侵攻の際に、アルガス王も出陣するのかしら。王自ら戦場に出てくるなんて、まるでガルベルーザ帝国ね』
『アルエ、アルエ』
『ん、何?』
『私、あの王様追っかけるから、アルエはここで待機ね! このまま会議の情報を抜いて、しっかりとオルカナティア侵攻に関する話を掴むこと! これは王様命令ですよ!』
『ちょ、何よそれ!』
『イケメンの監視は私に任せなさい! 会議が終わっても、絶対にここから動いちゃ駄目よ! アルエまで出歩いちゃうと、はぐれちゃう可能性があるからね! 私を迷子にしないためにも、絶対に絶対に動かないように! よろしくう!』
『こ、こらあっ! あなた、会議の難しい話を聞きたくないだけじゃっ!』
アルエを残して、私はぴゅぴゅーんと会議室を後にする。おほほ! アルエをイケメン王追跡に連れていくなんてとんでもない! あなたにはまだ早過ぎるわ!
うむ、脱出成功! そして、廊下を歩いていくイケメン王をレッツストーキング開始! ついていくよ、どこまでも!
王様をついて回ること十数分。
辿り着いたのは、お城の地下。薄暗い通路を潜り抜け、その先に広がるのは少し開けた石畳の部屋。
ほむ、異世界に来たばかりの頃に潜ったヴァルガン洞を思い出しますな。雰囲気がちょっと似てるかも。
その広場にて、アルガス王は楽しそうに喉を鳴らし、ゆっくりと剣を抜く。
「クククッ、どうやら既に『鍛錬』の状況は整っているようではないか。いったい何人『生贄』を用意した?」
「はっ、今回は五十人ばかりを」
兵士の報告を耳にして、アルガス王は愉悦の表情を零す。
そして、彼の視線の先には――既にこと切れた、人間だったものを貪る鵺のような魔物がいた。
その魔物の足元には、一人だけではなく、散乱されたように幾人もの屍が広がっていた。眼前に広がる光景に、私はやっぱりねと息を吐く。
まあね、だろうね。そんな気がしましたよ。アルエを連れてこなくて正解だったわ。
会議室の間で一瞬みせたアルガス王の顔、そして空気。それは『森王』アスラエールと同質のものだってピンときてしまったわ。あ、これ駄目なヤツだって。
そんな存在が『鍛錬』なんて言い出したんだもの。予想ができる以上、アルエにショッキング過ぎる光景なんて見せられるはずもなく。
あの子、『森王』の記憶がない以上、十二、三歳の人間の女の子と何ら変わりない訳で。
そんな娘さんに惨殺死体なんて見せられませんよ! 駄目、絶対! あ、私は別に。お菓子ボリボリ食べながらでも余裕で見れちゃいます。なんかもう慣れた。
しかしまあ、この魔物は何なのかしら。どうして人間の国、それもお城の地下に魔物が?
その魔物に人間を生き餌として与えてるみたいだけど……魔物を兵器として使うのかしら? でも、『鍛錬』とか言ってたし……まさか、この魔物と王様が戦うの?
悪いけれど、この王様そんなに強そうに見えないんだけど。逆に魔物はステージ結構高そうよ? 少なくとも雑魚敵には見えないんだけど。
ううん、『識眼ホッピング』が使えれば、どっちもステータス見れるんだけど……『トランジェント・ゴースト』発動中、他人に干渉できないのよね。参ったわ。
そんなことを考えていると、王様は剣を抜いたまま、一歩また一歩と魔物の方へ。マジで戦うの? 一人で? こんなデカいのと?
「ククッ、五十人を喰らったか。なるほどなるほど、魔物らしく随分と惨たらしい死をこやつらに与えてくれたようだな。お前の殺された人間の魂、その怨念が俺の体に力として流れてくるわ。兵士たちを褒めねばなるまいて、今回は随分と素晴らしい醜悪な獣を持ち帰ってきてくれたようだ」
「グルウウウ……」
おお、鵺も王に気づいたわね。やる気満々だわ! いったれ! 魔物の意地を見せてやりなさい!
イケメンは好きだけど、こういうネジ外れた系のイケメンはもうお腹いっぱいです。私が許可するわ、遠慮なくやっちゃえ!
鵺が唸りをあげて、王に飛びかかろとした刹那――次の瞬間、鵺が動きを止めた。え、何ごと?
まるで金縛りにあったかのように、動きの取れなくなった鵺に、王は剣を向けて、愉悦を漏らしながら語り掛ける。
「動けんだろう? であろうな。貴様が魔物である以上、この『聖剣シャルチル』の前では稚児も同然よ。貴様の体に流れる薄汚れた血が、その体を呪いの如く縛るであろう」
「グオォォ……」
「さて、次は試し斬りに興じようではないか。五十人もの命を得た聖剣、その力に貴様は耐えられるか?」
ゆっくりと蒼い剣を振り上げ、王は鵺に向けてまるで素振りをするように軽く振り下ろした。
瞬間、鵺の体が真正面からズレた。蒼い斬撃が巨大な獣の体を捉え、真正面から真っ二つに。
その光景に私はあんぐり。何この威力。何このチート。え、ありえなくない?
よく分かんないけど、鵺は何やら不思議な力で拘束され、そして次の瞬間、剣の斬撃によって唐竹割。やばい、これ、やばすぎる。
王様がやばいんじゃないことくらい、流石の私でも分かる。ヤバいのは間違いなく、王様の握っている聖剣とかいう蒼剣。なによこの武器。
「なんという威力! なんという切れ味! ははっ、ははははっ! 鎧袖一触とはこのことか! 素晴らしい、素晴らし過ぎるではないか! これぞ『聖剣』の力、『人王』となる王の力よ!」
狂喜乱舞している王様。やばい、どうみても殺しを楽しむタイプです。本当にありがとうございました……などと考えている場合ではない!
とにかく、あの剣よ。あの剣が意味不明な強さ過ぎるのよ。強さだけで言えば、オルトロスだって比べものにならないかもしれない。
なんとか強さとか効果とか知りたいんだけど、『トランジェント・ゴースト』状態で『識眼ホッピング』は効果ないし……いや、ちょっと待って。
剣は生きている存在でも何でもないのだから、干渉に含まれたりしないんじゃないかしら。王様にスキル発動は駄目でも、武器ならワンチャン……駄目もとでやってみるしか。
『なんかいけそうな気がする! 頼むわよ、「識眼ホッピング」ぬうううん!』
王様の握る剣にスキル発動! おお、これ、いける! よし!
そして、スキルの効果で、剣の性能が私の頭の中に流れ込んでくる。さてさて、この秘密兵器はどんな……
名前:聖剣シャルチル
武器ランク:SS+
補助効果
・守護者(範囲内で自身より総合ランクの低い人間が魔物に殺される度にカウントが上昇する。カウント数は様々なスキル効果に反映される。効果が発動するのは人間の治める支配地内のみで、他種族の支配地で効果は発動しない。カウント数は武器の所有者ごとに設定される)
・英雄(武器所有者の体量値と魔量値以外のステータスランクが上昇。上昇率は『守護者』のカウントにより変動。また、共に魔物と戦う人間の体量値と魔量値以外のステータスランクを1ランク上昇)
・覇王(範囲内の魔物全てに金縛り効果および体量値と魔量値以外の全てのステータス3ランクダウン。効果範囲、成功率は『守護者』のカウントにより変動)
・聖剣(魔物に防御無視の飛翔斬撃。使用ごとに『守護者』のカウント1低下)
・人類の盾(魔物から受ける攻撃、ステータス異常を全て無効化する。効果が発動する度に『守護者』のカウントが10低下)
何これ。ちょっと待って、本気で何これ。
魔物に対する強制拘束に強制ステータス低下、ステータス上昇および防御無視の必殺、そして完全ダメージカット。
それらに使用される数値は魔量値ではなく『守護者』とかいうカウント。
このカウントは人間が魔物に殺されれば殺されるほど上昇するって……いやいやいや! 何この絶対魔物殺すソード!? おかしいでしょ!?
つまり、こいつがオルカナティアに攻め込んでくるでしょ?
五万の兵士を撃退するためにこっちも魔物を用意するでしょ? 人間の兵士を殺せば殺すほど、王様が強化されるでしょ?
強化されたら、強制麻痺みたいな壊れ全体スキルが発動して魔物たちの動きを止められるでしょ?
よしんば動けたとしても、全員ステータス大幅低下で、その状態で残りの兵士を相手にするの? しかもその頃には王様の『守護者』ストックが万単位で溜まってるのに?
「素晴らしい、素晴らしいぞ『聖剣シャルチル』よ! 流石は『聖乙女オリカ』と共に修羅となりて戦場を駆け、時の魔王すらも退けた最強の剣よ! この剣さえあれば、ラーマ・アリエの魔物などあっという間に蹂躙してくれるわ! 我が兵の命、喰らうなら好きなだけくらうがいい! その代償として、ラグ・アースともども全てを殺し尽してくれる!」
『あわ、あわわわ……あ、あ、あ、あかーん! このままじゃオル子さんが王様から三枚おろしにされちゃううう! エルザさああん! 今すぐ対策をプリーズううう!』
どったばったと飛び跳ね、私は慌ててアルエの待つ会議室へと戻っていった。
やばい。この王……というより、この聖剣マジでありえない。こんな対魔物特化チート兵器なんて持たれたら私たち何も出来ずに全滅しちゃう。
どこのどいつか知らないけれど、なんて恐ろしくはた迷惑な兵器を作ってくれてるのよ! こんなのに魔物転生した私が勝てる訳ないでしょ!?
こ、こうなったら剣をばれないように盗み出して、魔法の湖とかに投げ捨ててくるしかないわ! 物騒な武器は全部しまっちゃおうね!




