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95.籠の中の鳥ではいられないの。大空の広さを知ってしまったから

 



 魂状態でアルエと二人、サンクレナに向かうことになった私。

 決行が決まった日の翌朝、私の部屋でみんなに見送られながら出発することに。

 職人ササラさんお手製の巨大ベッドに転がり、ヒレをバタバタ動かしてみんなに挨拶。


「それじゃあ行ってくるからね! 眠り続けるオル子さんへの三食と間食と忘れないこと! そして三時間に一度のブラッシングも大事よ! 朝と夜は『クリーン・ライト』の魔法で綺麗にするのも忘れずに! オル子さんは綺麗好きなのです!」

「ブラッシングって、お前、どこにも毛なんかねえだろ」


 ポチ丸の心無い発言を右から左にスルー。ハゲではありません、決してハゲではないのです。

 しかし、胸のワクワクが止まりませんぞ! 異世界初めてとなる人間の街へのお出かけですもの、魂だけとはいえウキウキになるのは仕方なし!

 浮かれる私に、エルザは溜息をつきながらジト目を向けてくる。


「オル子、旅立つ前に訊いておきたいのだけど」

「ほむ? なんぞ?」

「あなたが今、背負っているその荷物は何?」


 そう言いながら、仰向けに転がる私の背中の巨大袋を見つめてくるエルザさん。

 荷物の後ろに座り、袋をごそごそ漁るミュラとミリィを尻尾であやしながら、私はふんぞり返って力説。


「これは私のお菓子袋なのです! みんなが寝ている私にお菓子を与えやすいよう、ルリカと一緒に昨夜頑張って袋の中に詰め込んだの! ほら、これならいつでも気軽にお菓子を取り出して、私にあげたくなっちゃうでしょう? 動物園の餌やりコーナーみたいに!」

「そう。ところでそのお菓子、ミュラとミリィが食べはじめてるけど」

「ふおおおお!? だ、駄目よ二人とも! そのお菓子はオル子さんのお供え物で、二人のお菓子は別にルリカに用意してもらいなさいな!」

「きゅるっくー!」

「お供え物って、お前……間違いじゃないと言えばないけど」


 私の背中の上でバリボリとお菓子を貪り始めた愛しき娘たち。

 ぐぬう、後でルリカに袋の中をしっかり補充してもらいましょう。こうやって言っておけば、動物大好きっ子のクレアあたりが一時間に一度くらいのペースで私にお菓子をくれるだろうしね!


「いい、オル子。もしも不測の事態が起こったりしたときは、迷わず『トランジェント・ゴースト』を切って体に戻りなさい。人間たちにあなたは見えない、干渉できないでしょうけれど、アルエドルナのような例外となる存在がいないとも限らないのだから」

「うにゅ! 了解!」

「そしてアルエドルナ。あなたはオル子の代わりに有益そうな情報をしっかりと持ち帰ってきて頂戴。この子、頭が残念だから覚えられないでしょうし」

『エルザ、あなたってオル子に対して言葉に容赦がないわね……頭が残念って』

「でもオル子さん知ってるよ? そんなオル子が可愛いってエルザが心の中で叫んでるの、オル子さん知ってるよ?」

「寝言は魂状態になってから言いなさい」

『本気で容赦ないわね……』


 頬を引きつらせるアルエ。

 アルエは知らないかもしれないけど、エルザって人に毒舌を吐いてる時はかなり甘々ですぞ。

 容赦する必要のない、敵や無関係の相手にはエルザは本気で冷たく残酷になりますし。

 そんなエルザの顔を知ってると、私に対するエルザはあれです、ツンデレですよ。ツンが98パーセントでデレが2パーセントくらいの極端な。むふー! 愛され過ぎて申し訳ない!


「期限は一週間。出発からその日数が経過し、何も情報が得られなかったとしても戻ってきて頂戴。たとえ情報が得られなくとも、私たちに何一つ痛手はないのだから」

「そうじゃの。もともとこれはオル子のスキルとアルエの存在という、二つの反則が合わさってできた奇跡みたいなもんじゃからの。情報がないならないで、正攻法で攻めてきたサンクレナを撃退してやればよい」

『撃退すればいいって、いいの? 元とはいえ、サンクレナはあなたの国なのでしょう?』

「今更じゃの。妾はオル子やオルカナティアの枷になるつもりも、この国に生きる『人間』を『殺させる』つもりもない。既に覚悟など終えておる。たとえ妾の死後、どれほど恨まれようと、妾は一を違えることはない。そもそも、妾が兵士を殺すなと言ったところで何も変わらんじゃろ? 違うかの、オル子?」

「ぬー? キャスには悪いけど、攻めてくるならみんな容赦なく殺すよ! 躊躇したらオルカナティアのみんなが危ないもん! 人間の兵士よりこの国のみんなが大事だからね!」


 仕方ないね、私は博愛主義者でも何でもないし、攻めてくるなら殺すしかないし。

 私が超絶最強チートヒロインで、人間たちを無力化だけして王様を『戦争なんて駄目だ!』からのハッピーエンドなんて出来たらいいんだけど、オル子さんにできるのはこの豊満ボディでぷちっと潰すことだけですし。

 願わくば、少しでも苦しまないよう死ねるように。だからこの私が、向かいくる人間全てを一瞬で殺してあげましょう。躊躇なく、本気で。

 ……ぬー、これってやっぱり思考がどんどん魔物化してるのかにゃあ。ま、いっか! 難しいことは考えず、ストレス溜めない生き方が大事ですよ! むほほ!


『まあ、部外者の私がとやかく言うことではないわね。私は私で、与えられた仕事をしっかりこなすことにするわ』

「うむ! せいぜい頑張ってくるがよい! オル子の面倒をしっかりみるのじゃぞ!」

『それだけが全く自信ないんだけど……なんとか頑張ってみる』


 旅立ち前の話し合いを終え、とうとう出発の時。

 私はスキル発動の準備を整え、みんなに両ヒレをぶんぶん振ってお別れ。


「それじゃ行ってくるからね! オル子さんはしばらく留守にするけれど、見送りに涙なんて不要よ! でもほろりと泣いたりしてくれると嬉しかったりするかも! さあ、みんなで泣いてくれてもいいのよ!」

「どっちだよ! とにかくアルエに迷惑かけんなよ! お前が戻ってくる間に、頼まれてるもの色々と作り終えておくからな!」

「早く行きなさい。そして可能な限り早く帰ってくること。それだけよ」


 ツンツンコンビのササラとエルザ、二人のちょっとしたデレを感じつつ、いざさらば!


「ふぉい! ではではー! 『トランジェント・ゴースト』!」

『クレア、私の剣化の解除をお願い。行ってくるわ!』

「心得た。主殿の傍で、頑張って己が務めを果たすのだぞ、アルエドルナ」


 スキルと剣化解除により、私とアルエは魂状態となる。

 ベッドには、ぐーぐー眠りこける私の姿が。そんな私の口にぐいぐいと食べかけのお菓子を押し付けるミュラ。

 まあ! ミュラってば早速母親想いな行動を! 母は嬉しくて涙と涎が出そうですよ! お菓子食べたい!

 私とアルエは天井をすり抜けて大空へ。青空広がる外へ出て、私はアルエに問いかける。


『それじゃ出発しよっか。アルエは空を飛ぶ速さに自信ありまふ?』

『全然ないわよ。飛んでいるというより、浮いているだけだし。だからエルザの指示通り、オル子の背中に乗っていくことになるからよろしくね』


 そう言って、アルエは私の背中の上に腰を下ろす。

 ほむ、アルエは一応空を飛べるのよね。だったら落下する心配もないわけで。


『それなら遠慮したりする必要もないよね?』

『遠慮? 何のこと?』

『いや、アルエは私から落ちても落下することないから、全速力でサンクレナに向かっても大丈夫かなって。本気で飛ぶから、しっかり捕まっててね!』

『本気って、ちょっと待っ――ひゃあああ!』


 アルエが言い終るより早く、私はサンクレナの方角目がけて全力で加速。

 むふー! いつもはみんなが落ちたりしないよう、ゆっくり飛んでいたけれど、今日は別よ! 速度Sの本気、見せてあげる! ちなみに体量値もS+だからスタミナ切れもしないよ!


『待って、待って待って待ってええ! 風景が、何も風景が見えないからああ!』

『おほおおおお! 風よ! オル子さんは今、風になってます! 今、一陣の風となり、この果てしない大空を……一陣? 一陣じゃ駄目じゃない? 二陣ないと駄目じゃない?』


 急ブレーキをかけ、背中を見上げても、そこには誰もなく。

 後ろを振り返ると、大声で私に非難の声をあげる、どうみても振り落とされたアルエの姿が。落ちてやがるです、速過ぎたんでごぜえますよ……ごめんぬー!




















 ハイスピードで飛翔し、アルエが落ちては文句を言われ、てへぺろっと謝って。

 飛行し続けること半日。恐ろしい速さで私たちはサンクレナ城とその城下街に辿り着いたわ。

 発展し、広がる中世の街並みを見下ろしながら、私はしみじみと感慨深く声を漏らす。


『異世界にシャチとして生まれ落ちて幾星霜……とうとう私は人間の街に、人間のお城へとやってきましたよ! 貴族の娘として社交界に参加するために! 異世界恋愛物語を繰り広げ、素敵な殿方と出会うために! 人間たちよ! 私は帰ってきた! 人化はまだだけども、それはドラゴンオル子に期待ですよ!』

『生きてる……私、ちゃんと生きてる……既に死んでるのに、生を実感するだなんて、我ながら訳が分からないわ……』

『まあ、アルエったら大袈裟ね。ちょっと本気で飛行しただけじゃない。帰りもあれだからよろしくね!』

『エルザが、ササラがあなたの面倒を押し付ける意味がようやく分かったわ……オル子、あなたはもう少し、考えて行動するということを……』

『お城に行く前に、まずは街中を観光して回らなきゃ! 行きますよ! アルエさん! 互いに令嬢同士、民の皆様に恥ずかしくないようにあらねばなりませぬ! スカートのプリーツは乱さないように! おほほ! 王子様が見てましてよ! とうっ!』


 アルエを背中に乗せたまま、全速力で街中に全力ダイブ。一秒でも早く街に辿り着きたいからね!

 うむ! 流石は『ブリーチング・クラッシュ』ね! 恐ろしい速さで落下してくれたわ!

 魂状態だから誰に当たることもないし、気兼ねなく使用できるわ。さあ、アルエ、街を見回りませう……あれ、何かアルエさん白目むいてぐったりしてる。おねむ?



 


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