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94.笑顔のその裏で全てを調べ上げる。常套手段よ

 



 剣霊と化したアルエドルナは、話し合いの結果、このまま霊状態でウチに居候することに。

 誰にも見えない孤独の世界から解放されたアルエドルナ曰く、ずっとこの剣霊のままでいさせてくれとのこと。彼女の申し出に私たちは了承した。

 『森王』の頃の記憶は皆無かつ、霊体だろうと剣霊だろうと私たちに危害を加えようがないし、何より彼女から生み出された剣が破格の強さだったのが大きいわ。


 魔剣ヘラヴィーサ。

 剣のランクで言えば、オルトロスをも上回るS-。『森王』で在り続けた彼女の魂は、人間ながら恐ろしいほどの強度を得てしまっていたらしく、物凄いとんでも剣になってしまっていた。

 この剣を手にしたことで、クレアの武器としてポチ丸の進化を拘束する必要がなくなるのよね。


 ただ、進化すると間違いなくポチ丸のランクはD+を超え、クレアの剣化の対象外となる。

 『サカマタ・フェイカー』でオルトロスはこれからも出せるでしょうけれど、ポチ丸のスキルをクレアが使用することはなくなっちゃう。

 ヘラヴィーサを手にしたことで、ポチ丸をどうするか。それはクレアとポチ丸の二人で話し合って決めることにしてもらったわ。

 戦いはまだ先、進化は一度切りだもんね。じっくり考えてくれればいいと思う。




 まあ、そんな感じでアルエドルナ……アルエは一週間経った現在も剣霊状態でウチにいまふ。

 仲間になってくれたので、彼女のことはアルエと呼ぶことに。六文字は長いからね! 五文字までしかニックネームは入力できないのよ!

 ミュラと一緒に私の背に乗って、オルカナティア上空をふよふよと散歩中。広がる光景を眺めながら、ほうと息をつく。


『本当に大きな街ね。これらが魔物の手によってつくられたなんて、未だに信じられないくらい』

「まあ、街の発展に対して人口はそこまでないんだけどね。オルカナティア全体、人と魔物を合わせても五千いるかどうかくらいじゃないかにゃあ」

『これだけ立派な建物や施設があるのに? もったいない話ね。規模だけで言えば、ガルベルーザ王都にだって負けてないと思うけれど……まあ、私の知るガルベルーザ帝国は既に百年も昔ものなんだけどね』


 そう言いながら、アルエは肩を落として深く溜息。そうなんです。実はアルエが生きていた時代は、百年も昔だったそうです。

 アルエはガルベルーザ帝国……サンクレナの隣国の人間で、公爵家とかなり身分の高い貴族の令嬢だったので、元王女のキャスが彼女の家のことを知っていたのよね。

 カタリネア公爵家はガルベルーザ帝国を支える忠臣として名高い四家の一つで、彼女の父親の名前がおよそ百年ほど前の当主だったそう。

 つまり、アルエの家族、兄弟は既にこの世から他界しており、カタリネア家にはアルエの知らない血族がいるだけ。

 

『舞踏会の夜、護衛と共にバルコニーに出てからの記憶が一切ないの。きっとその時に、私は「森王」とやらに殺され、魂を奪われたのでしょうね……悔しいわ。自分の死も理解できないまま、魂を利用され続けていたなんて。アスラエール、絶対に許さないんだから』

「まあ、許さないも何も、あいつはオル子さんが容赦なくぶっ殺してしまった訳なんですけども。頭にきたので、全力でグチャグチャにしたよ! えへ!」

『それを聞くと、少し鬱憤が晴れそうよ。ありがとう、オル子』


 私の背をナデナデするアルエ。おほほ! もっと褒めてくれていいのよ!

 自慢の背びれをくいくい動かしていると、アルエは街の外の草原を眺めながら口を開く。そこには、隊列を組む訓練をするフォレス・ケンタルスの群れの姿があった。


『オル子、彼らは何をしているの?』

「多分、戦闘訓練じゃないかしら。サンクレナの人間たちが攻め込んできそうだからね、撃退するためにエルザやキャスたちが色々と魔物たちに指示を出してるみたいよ?」

『そうなんだ。普通、そういうのは魔物の王であるあなたが指示するものでは……ああ、まあ、オル子だものね』

「待ちなさい、何よその察したような顔は。言いたいことがあるなら聞こうじゃないの」


 くそうくそう、少し前まで学生だった私に、そんな指示なんて出来る訳ないじゃないのよ。

 いい? 生兵法は大怪我の基とはよく言ったもの、こういう無理なことには出しゃばらずにドンと構えるのが立派な王様の役割なのよ……ってエルザが言ってました! 遠まわしに余計な事するなよって言われてる気がしたけど、きっと気のせいです。

 そんな訳で、オル子さんは戦争準備にノータッチ。私はほら、戦いになったら暴れまわるだけだし。難しいことは全部エルザたちにお任せよ!


『戦争ねえ……敵対するガルベルーザ帝国と睨み合っていながら、よくもまあ余裕があるものね。サンクレナはそれほど強大な国になったのかしら』

「キャスも攻めてこないだろうって読んでたみたいだけど、この前国境を超えて500人規模の兵士が入り込んできたのよね」

『それで、いつ頃連中は攻めてくるの? 既に情報は得てきたのでしょう?』

「ぬ? 知らないよ?」

『え?』


 キョトンと私を見つめるアルエと首を傾げるオル子さん。ふわあと欠伸をするミュラ。

 賑やかさに包まれたオルカナティア、その上空に広がる静寂。

 少し間を開けて、アルエが眉根を寄せながら確認するように問いかけてくる。


『オル子は私以外の誰にも見えなくなる、干渉されなくなる「トランジェント・ゴースト」というスキルを持っているのよね?』

「うむ! 持ってるよ!」

『そのスキルを使えば、剣霊となっていない私のように、壁をすり抜けたりできるのよね?』

「できるよ!」

『……だったら、それを使用してサンクレナの王城に忍び込んで、敵国の情報を抜き取ればいいのではないの?』


 アルエの意見に、両ヒレをこめかみに当てる私。

 ぽく、ぽく、ぽく、ぽーん。な、なるほど! 確かに! その手があった!

 魂の状態になってお城に潜り込み、王様か誰かの傍で聞き耳を立てていれば、嫌でも情報が入ってくるはず!

 攻撃したりといった干渉はできないけれど、相手からされることもない! 安全を約束されたまま、堂々とオルカナティアに情報をテイクアウトできるじゃないの!


「サンクレナの情報を持ち返れば、みんなの役にも立てて沢山褒められること待ったなし! それに気づくとはアルエ、流石は元『森王』ね! やはり天才かしら!」

『いや、普通は誰でも気付くと思うのだけど……オル子はともかく、特にあのエルザがこのことに気づかないなんてこと、あり得るのかしら』

「早速エルザにこのことを伝えてきませう! サンクレナに忍び込み、貴重な情報を持ち返らねば! ついでにサンクレナの貴族たちにどんなイケメンが揃っているかチェックせねば! キャスに顔の良い貴族の名前全員教えてもらおうっと!」


 ぶんぶんと尻尾を揺らし、私は館の方角へとバックホーム!

 国の為に王様自ら出陣する、なんていい話なのかしら。イケメン情報……じゃなくて、敵の情報を抜き取るために、オル子さん頑張るよ! ふひひ!



















「これまでそれをやらなかった理由は簡単よ。オル子単独で諜報活動なんて絶対無理だと判断したから。この子に戦争の情報を抜き取り、記憶し、報告するなんて難易度の高いことができる訳ないでしょう?」

「うおおおん! うおおおん! 今エルザが馬鹿にした! 私のこと全力で馬鹿にしたー!」

「こ、こらあ! 妾の執務室を壊すでない! 物が机から落ちてしまうわ!」


 キャスのいる国政館にいたエルザに、先ほどの話をするなり、帰ってきた言葉がこれ。

 あまりの酷さにオル子さんも憤慨です。ビタンビタンと部屋中を飛び跳ねていると、キャスの叫びが。許すがよい!

 跳ねるのを止め、床を転がりまわる私に、エルザは書類の束をトントンとまとめながら言葉を続ける。


「事実でしょう? 例えばオル子、今あなたがここに留まって、私とキャスの会話を何時間も耳にして、その中から戦争に重要な情報だけを記憶するなんてできるの?」

「馬鹿にしないでくれる!? そんなことしたら、ものの十分もせずに寝るに決まってるじゃないの!」

『いや、何胸を張って情けない台詞を叫んでるのよ。それってつまり、エルザの言う通りってことじゃないのよ』

「ほむ、確かに。やはりエルザは天才か……オルカナティアの頭脳は格が違った」

「お主が突き抜けてアホなだけだと思うんじゃがのう」

「みんなが口を揃えて私に酷いことを言われる私……美少女たちにいじめられる普通平凡の女の子ってヒロイン力とても高くない?」

「お主はいったい何を言っとるんじゃ」


 お腹の上でミュラをトランポリンさせてあげながら、自分がいかに優れたヒロインであるかを考える。

異世界転生、美少女三人にイジメられる、ほむ、私ってばやっぱりヒロインね!

 楽しそうに笑ってぽんぽん空中に投げられるミュラを眺めていると、エルザがアルエを見つめながら口を開く。


「……けれど、アルエドルナがいるなら話は確かに変わるわね。オル子一人じゃ絶対に無理だから諦めていたんだけど、あなたが一緒ならサンクレナの情報を抜けるわね」

「ふむ、もしサンクレナ軍の動きが掴めたら、これほど助かることはないの。ライルとエルザが拷問……ではなく、尋問にかけたルーズ子爵は大した情報を持っておらなんだ。故に、敵の動きが全く読めなくての」

「あとの問題は、オル子の体のことね。流石に半日や一日では終わらないでしょうから、その間、強制睡眠状態になった本体が一切食事をとれないというのは厳しいわね」

「こやつのことじゃから、眠った本体の前に食事を用意すれば、寝ぼけたまま食べてくれたりせんかの?」

「……オル子、ちょっと今すぐ『トランジェント・ゴースト』を発動してみてくれる?」

「し、失礼な! いくらオル子さんでも、眠ったまま物を食べたりしませんぞ! 乙女を侮辱するにも程がありますよ! 異議あり、異議ありです!」


 結論。私の本体、眠ったまま差し出されたものをモチャモチャ食べました。

 それはもう美味しそうに、寝ぼけたまま、幸せそうな顔して。わ、我が本体―! あなたってばどうしてそんなに食い意地はってるの!?

 あまりの恥ずかしさ、情けなさに身もだえしている私を放置して、エルザたちは話を進めていく。


「という訳で、アルエ、悪いけれどオル子と共に魂状態でサンクレナに潜入して頂戴。王城に忍び込み、新王とやらから役に立ちそうな情報を可能な限り持ち帰ること。できるわね?」

『やるわよ。こうして『剣霊』としてあなたたちには世話になっているんだもの、少しでも恩返ししないと。それに、ガルベルーザ帝国の長年の宿敵であったサンクレナの没落のきっかけをこの手で行うというのも、面白そうだものね』

「没落するかは分からんが、アルガス兄上は他国を侵略してサンクレナを唯一の巨大国家にという考えじゃったからの。オルカナティアを制圧すれば、次はガルベルーザに手を伸ばすことは間違いなかろう」

『あら、だったらなおさら喜んで。弟の子孫がカタリネア公爵家を継いでいるでしょうから、それに手出しをさせないためにも頑張らないと。頑張りましょう、オル子』

「うむ! 頑張っちゃうよ! ところでキャス、あなたのお兄さんの新王様ってイケメン? その配下にクール系知的眼鏡男子みたいな人いたりしない? 宰相の息子で、将来の約束されたクーデレ系美少年とかオル子さん大好物ですけども! 戦争の情報の前にサンクレナの誇るイケメン男子の情報をプリーズ! シルブプレ! アンドゥトロワ!」

「……アルエドルナ、こういう子だから、しっかりと手綱を握っておくように」

『ええ……無茶言わないでよ……』


 鼻息荒くしてキャスに詰め寄ってると、背後からヒソヒソ声が。

 サンクレナの王城ともなれば、王族貴族騎士団なんでもござれ! お城にキレイどころが集まるのは古来よりのお約束! 偵察するのは構わないけれど、別にイケメンを持ち返っても構わないのでしょう!?

 一人くらいこっそり持ち返ってもバレないでしょ! エルザさん、魂状態のまま人間をテイクアウトする方法を早急に調べるように! 頼みますよ!




  

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