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93.泣きたいときは泣くの。すっきりすれば明日からも頑張れるわ

 



 部屋の明かりを灯し、眠そうな顔をしたみんなにヒレを振りあげて必死に説明。

 最初は胡散臭げに聞いていたエルザだけど、そのお化けの容姿が金髪縦ロールの美少女と聞いて態度を一変。おお! とうとう私の話が真実だと気付いてくれたのね!


「あなたの話す幽霊の容貌、アルエドルナに酷似しているのだけど」

「ああ、言われてみれば。『森王』が利用していた少女の魂、だったか」


 エルザの言葉に、ぽんと掌を打つクレア。

 いや、待って。つまり、この部屋にいる幽霊は『森王』のもので、あのオカマさんをぷちっと潰しちゃった私に恨みを持って化けて出てきた可能性が……?


「うおおおお! 払いたまえ清めたまえ! 汝死にたもうことなかれ! アーメンソーメンタンタンメン! 今すぐここで装備していくかい!?」


 ベッドのシーツに潜り込み、思いつく限りのそれっぽい成仏呪文を羅列。

 いくら異世界魔物ワールドにきたとはいえ、お化けは対象外ですぞ! 骸骨兵はぶん殴れたからいいけど、霊なんて実体がないじゃない!

 試練の時の幽霊さんは良い幽霊だけど、こっちはぶっ殺した相手の幽霊、どう考えても悪霊だもん!

 ベッドの上でぷるぷるしてる私に、エルザさんは溜息をついて非情の通告。


「オル子、『トランジェント・ゴースト』を使用してそいつと接触しなさい。私たちには見えないけれど、そのスキルを使えば室内に見えるのでしょう?」

「嫌でござる! 絶対に嫌でござる! もしお化けの怒りに触れて、この先一生彼氏できない呪いとかかけられたら、死んでも死にきれぬう! 私のかわりにエルザが何とかしてくれると信じてます! ほら、いつもの魔法でドバーッと! 昇天魔法とか極大消滅呪文とか!」

「その呪いなら既にかかってるようなものだから問題ないでしょ。ほら、早くして」

「え、その発言、地味に酷くありませぬ? オル子さんの彼氏は絶望的なんですか? シャチは駄目ですか? 海産系なのが駄目ですか? 一応哺乳類ですよ?」

「いいから早く。もしその幽霊とやらがあなたに害を及ぼすようなら、今すぐ対処しなきゃいけないんだから……ふぁ」


 小さな欠伸を一つ。エルザ、実は眠くてさっさと面倒事を終わらせて寝たいってだけじゃないよね? 私のこと心配してくれてるんだよね?

 でも、これ以上駄々こねると本気でスルーして寝られちゃいそうなので、渋々『トランジェント・ゴースト』を使用することに。

 本体が強制睡眠モードになり、にゅるんと出てきた魂オル子さん。そんな私の視線の先には、いつの間にか眼前まで接近している金髪縦ロールお化けちゃんが。


『近っ! 鬼近っ! ぐぬう、「森王」の亡霊め、地獄の底から舞い戻っていったい何の用よ! はっ、まさかこの儚い系美少女の体を依代として狙ってるの!? させはせん、させはせんぞお! でも代わりに男の子にもてはやされそうな美少女ボディを用意してくれるならテーブルについて交渉に応じる所存! ついでに彼氏も下さいな! 私好みのクーデレな男の子はよ!』

『あなた、私が見えるのね!? 私の声が聞こえているのね!?』

『ぴいいいい! 聞こえてるから許してえええ!』


 私の威圧を物ともせず、グイグイと詰め寄ってくる幽霊さん。

 がしっと私の顔を両手で掴んで、息の触れ合う距離で叫んでくる。な、なんで掴めてるの!? このスキルって干渉の一切を遮断する無敵モードなんじゃないの!?

 もしかして、相手も同じ魂状態なら可能ってことなの? そんなこと考えてると、突然目の前のお化けが目に涙を浮かべ、次の瞬間、大号泣。ほわい!?

 めそめそと涙を流しながら、せつせつとその理由を語る幽霊さん。


『気づいたらこの状態で、私の姿や声を誰もが認識できない状態で……しかも、この館も外も、見たことのない魔物ばかりで……よかった、たとえ見知らぬ魔物相手でも、気付いてもらえて。もしかしたら、ずっとこのままなんじゃないかって、怖くて……』

『見知らぬ魔物? えっと、あなたって……』

『あ、そうね。自己紹介もせずにごめんなさいね。こほん、私はアルエドルナ・フルール・カタリネア。ガルベルーザ帝国のカタリネア公爵の娘、なのだけど……魔物であるあなたに人間の身分なんて話しても意味ないわよね』


 小さく溜息をつくアルエドルナ。いや、そうじゃなくて。はじめましてってどういうこと?

 私たち、ウィッチの里で本気で殺し合った仲だと思うんだけど……もしかして、私のこと覚えてない? というより、『森王』だった時のこと、かな。

 何だろう。確かに目の前のアルエドルナからは『森王』だった時の邪悪さとかそういうのは微塵も感じない。ミュラより少しだけ年上の、気の強そうな美少女さんって感じがするだけ。

 ほむ……ちょっと探りを入れてみますか。

むふー! こういう頭脳戦は得意でしてよ! 直球ではなく、さりげなく会話の中で確認を取るのがオル子流なのです!

不自然にならない感じで話題の中に組み込む、余裕です!


『なるほど、あなたの名前はアルエドルナと言うのね。はじめまして! 私の名前はオル子! 私の父の名前は森山守男といいます! 「イッツミー守男!」とみんなに挨拶しまわる父を、会社の部下たちは親しみを込めて「森王」って呼んでるそうです! そんな父の趣味は女装、おねえ言葉、そして骸骨コレクション、略してガイコレです!』

『そ、そうなの? あなたのお父様って変わってるのね……』


 ふむ、さりげなく分からないように散りばめた『森王』キーワードに反応しないわね。これは本当に記憶がないのでは?

 確かアルエドルナは、本当の『森王』であるアスラエールが殺した人間の女の子の魂で、それを洋服のように着飾って外見を変えていたって感じだったはず。

 つまり、この子は『森王』とは何の関係もない、あの変態の被害者である女の子の魂である可能性が? ぽむう……ちょっと視てみますかな。


『ちょいと失礼、識眼ホッピングう!』


 本来なら『トランジェント・ゴースト』中、他者に干渉することはできないんだけど、触れたり会話できたりする魂状態のこの子ならいけるかも……あ、いけた。

 私の頭の中に入ってくる、女の子の情報。個人情報保護法なんて知らないよ!




名前:アルエドルナ・フルール・カタリネア

レベル:――

種族:――

ステージ:――

体量値:C 魔量値:SS+ 力:D 速度:D

魔力:S 守備:D 魔抵:S 技量:A 運:A


総合ランク:――




 うむ。意味がじぇんじぇん分かりませぬ。

 ステータスはこれ、『森王』が演じていたアルエドルナそのままよね。

 ただ、他の箇所が意味不明。レベルも種族もステージも、総合ランクでさえも無記入。なんぞこれ。

 首を傾げる私をおいて、アルエドルナさんはこれまでのことを語り始める。


『もう何がなんだか分からないのよ。気が付いたら、この館の中にいて、誰にも気づいてもらえなくて……体はふわふわと空を飛べちゃうし。私の体、どうなってるの? どうして私、誰にも気づいてもらえないの? あなたはどうして気づくことができたの?』

『ちょ、ちょっと待ってね? 一つずつ説明してあげたいんだけど、オル子さんの頭もいっぱいいっぱいで……みんなに相談してくるから、あなたも傍で話を聞いててね? みんなの声は聞こえるのよね?』

『ええ、それはまあ……』

『それじゃ、ちょっくら失礼!』


 説明を放棄し、私は『トランジェント・ゴースト』を切って本体へと戻る。

 私が一から説明するより、エルザたちと話し合いの中で状況を知ってもらった方がいいもんね。

 というか、オル子さん、アルエドルナに『ユー、死んじゃってるよ!』なんて絶対に言えませぬ! 残酷な現実を突きつけるなんて、私にはとてもとても。

 アルエドルナが聞き耳を立てる中で、みんなに状況を説明。全てを聞き終えたエルザは、きっぱりと断言する。


「人間だったアルエドルナの魂でしょうね。『森王』であるアスラエールがオル子に殺され、奴のスキル『貯魂箱ソウル・ストック』に蓄積されていた魂が解放されたのでしょう。記憶がないというのも、アスラエールに殺された時点で魂が奴の所有物となってしまったからではないかしら」

「ほむほむ。でも、あいつのスキルでストックされてた魂って滅茶苦茶いっぱいあったのよね? どうしてアルエドルナだけ?」

「さあ? アルエドルナは奴のお気に入りの容姿で、一番利用していたらしいから、何かしら魂に異変でも生じてしまったのではないの? ただの人間の魂が『森王』の力を宿し続けたんだもの、何も起きないとは言い切れないわね」


 もしくは、『森王』の力に順応できるほど、アルエドルナ本来の魂が人間としては破格なほど魔に適合する才があったのか。

 そんなエルザの説に、私はほむほむと分かったふりをする。

 ふりだけね! だって言ってること、難し過ぎて何も分からんもん! アルエドルナが話を聞いてればいいんですぞ!


 まあ、これでアルエドルナも自分が死んだことを知ったでしょうし、あとはしっかり成仏させれば全て解決。

 私はヒレをむいむいと振りながらエルザに問いかける。


「それでアルエドルナはどうすれば成仏できるのかしら? 教えてエルザえもん!」

「知らないわ」

「え?」

「だから、知らないわ。今まで話したのは、全て推測に他ならないのだし、死後どうすれば消滅できるのかなんて死を経験したことないから分からないもの」

「では、行き場を失って彷徨っているアルエドルナさんの魂はどうすれば?」

「放っておきなさい。相手が私たちに干渉できない以上、放置しても害はないでしょう。人間の魂が悠久の時を彷徨おうと、私たちには関係ないもの」


 いや、実にその通りなんだけど……あかん、エルザが無関係な人に対してすこぶるドライなの忘れてた。

 エルザにとって、アルエドルナは敵だった奴に利用された道具でしかない訳で、救ってやる理由も何もないわけで。いや、それは私も同じなんだけど……


「でもほら、このまま放置するってことは、館にずっとアルエドルナの亡霊が漂い続けるってことですよ? この子、『トランジェント・ゴースト』を使った私としかお話できないから、どう考えてもオル子さんにとりつく流れ確定ですよ?」

「別に害がある訳でもなし。暇なときに話し相手にでもなってあげたら? あなた、基本的に暇人じゃない」


 ぐぬう、言い返す言葉もありませぬ。

 でもなー、死ねない誰とも話せないなんて無間地獄に閉じ込められた人間の女の子の魂……なんて考えたら、かなり可哀想過ぎて寝覚めが悪いじゃない?

 試しに『トランジェント・ゴースト』で魂化してみると……うわあ、声に出して大号泣していらっしゃる。わんわん泣いていらっしゃる。

 そりゃそうよ。自分は既に死んでいて、この先、生まれ変わることも消えることもできない、なんて聞かされたら私だってこうなる自信あるもの。

 仕方ない……ここはオル子さんが力になってあげるとしましょう。


「何とかしてあげられませんか! アルエドルナが号泣してます! 泣いてる子もいるんですよ!」

「何とかしろと言われてもね……」

「種族やレベル、ランクなどのバグはあるものの、アルエドルナのステータスは『森王』だった頃と同じですよ! もし、何とかしてあげて味方につけられたら、貴重な力となるかもしれません! 『森王』が仲間になると考えたら、かなり美味しい話では!?」


 私の話に、エルザが少し反応した。

 うむ、やはりこうやって利を話すとエルザは動くわね。なんとかエルザのやる気に火をつけなきゃ!

 エルザの小さなやる気の炎、これをいかに激しく燃え上がらせられるか! あおげあおげ、あおぐぞあおぐぞう! オル子・ザ・ファイヤー! 私の心は本能寺!

 必死にエルザにアルエドルナを助けるメリットを並べ立てていると、エルザは少し考え込む仕草をみせた後、私に問いかける。


「……アルエドルナの種族とランクは表記されていないのね?」

「ほむ、棒線になっていて未表記だったよ? なんかバグってる感じ」

「そう」


 私の返答に、エルザは視線を私からクレアへと向けた。

 エルザに視線を投げられたクレアは、膝の上でぐうぐう眠っているミリィを撫でる手をとめてキョトンとしてる。どうやら自分に話題がくるとは思ってなかったみたい。


「いちかばちかよ。クレア、『創造『剣』』をアルエドルナに使って頂戴」

「『創造『剣』』を?」

「あなたの能力は剣化する対象を剣霊へと変える力があるわ。もし成功すれば、アルエドルナをポチ丸のように剣霊へと変化させ、姿が見えるようになるかもしれないわ。剣霊は会話こそできるけれど、私たちに触れたりスキルを使ったりはできないから、害を与えることもできないでしょうし」

「だが、相手は『森王』だぞ? 私の剣化できるランクは六段階下から……つまり、D+を上回る相手には効果がないんだ」

「その総合ランクが未表記になっているのでしょう? 理由は分からないけれど、表記がないならば効果がないとは断言できない、つまり試す価値はあるわよ。それに相手は人間の魂であって、『森王』アスラエールではないでしょ」

「それに、私のスキルは『命ある相手』が対象なんだ。試してみたが、リナのゴーレムには効果がなかった。アルエドルナは死を迎え、魂だけの存在だというのなら、やはり駄目なんじゃないのか?」

「何を持って命と捉えるか、よね。あなたの剣化は個の強さではなく魂の強度によって性能が変わる……つまり、重要視しているのは魂であり、それを判定基準の『命』とみなしているとも推測できる。ま、仮に駄目ならそれで終わる話よ。素直に観念して諦めるしかないわね」


 なるほどなるほど。確かにエルザの言う通り、可能性があるとすればそこしかないかにゃ。

 『森王』だった頃のアルエドルナなら総合ランクの問題で対象外だったでしょうけれど、今の彼女はバグランク状態だからワンチャンあるのかな。

 ただ、剣化スキルの説明文にある『命』をどう判断するか。私たちの考える命の概念通りならアウトだと思うし、エルザの言う通り魂の有無を『命』とみなすならばいけるんだけど……さあ、どうなるか。


「主殿、彼女を私が翳した掌の前に。私はアルエドルナを肉眼で視認できませんので」

「大丈夫、私たちの会話はちゃんと聞こえてるから。アルエドルナ、移動よろぴこ!」


 伝えること十秒。うむ、ちゃんと移動できたよね、多分。

 コクコクと頷いて、クレアにゴーサインを出す。何もない宙に手を翳したまま、クレアは意識を集中。


「それではいきます……汝の強き魂、その銘を我が身に刻め! 創造『剣』――魔剣ヘラヴィーサ!」

「へ、ヘラヴィーサとな!?」


 オルトロスに続いて、なんか響きが格好いいんですけど! 縦ロール剣とかじゃないの!?

 黒き光がクレアの右手に集い、そして現れたのは禍々しく曲がりくねった漆黒の魔剣。ぬぬう! オルトロスは真っ直ぐな剣だけど、こっちは歪ね! あの変態の影響かしら!

 そして、クレアの後方にぽふんと音を立てて現れた、空飛ぶ涙目令嬢アルエドルナ。おお、成功した! 見える、見えますぞ!

 私たちの視線が自分に集まっているのに気づき、声を震わせて私たちに確認をとってくる。


『み、見えてるの!? 私の姿、ちゃんとあなたたちに見えているの!? 声も聞こえているの!?』

「見えてますぞ! 聞こえてますぞ! ばっちり成功よー!」

「なるほど、確かにアルエドルナね。魂だけの存在であるアルエドルナの剣化に成功したということは、世界の定義する命とは『魂』である証明? オル子がそうであったように、体が死に瀕しても魂さえ確保できていれば、或いは……いや、今はそれよりも。クレア、その剣のランクは?」

「信じられない……ランクS-、オルトロスを上回る武器ランクだ。武器の強さは魂の強さ、恩恵の効果が異なるとはいえ、ただの人間の魂であるはずのアルエドルナが元『海王』であるポチ丸の魂を上回るなど……」

「そうおかしい話でもないのではないですか? アルエドルナとて、利用されていたとはいえ元『森王』の魂なのでしょう? それに、オル子様も前世は人間だったとのこと。『森王』の力に適合し、本体が消滅してもなお残るほど彼女の魂に潜在的な力があったのではないでしょうか」

「ちょっとみんなー! そういう議論は後にして、今はこっちを何とかしてえ! アルエドルナさんの涙が全然止まらないんですけど! なんで私に抱き付いてがん泣きしてるのこの子!?」


 孤独地獄から脱出できたことが余程嬉しかったのか、アルエドルナさん大号泣モードに突入です。ぬおおお! 気が強そうなのに泣き虫ですぞ!

 結局、アルエドルナが落ち着くまでの30分、私は抱き枕と化しておりました。この混沌とした状況でも未だ目を覚まさないササラとミュラ、恐るべし。















・ステータス更新(クレア武器補正・武器スキル)


名前:クレア・グーランド(ヘラヴィーサ補正)

レベル:8

種族:ブレード・オルカナイツ(進化条件 レベル20)

ステージ:4

体量値:C 魔量値:C 力:B*(C→B) 速度:S+*(S→S+)

魔力:D*(F→D) 守備:C 魔抵:D*(E→D) 技量:A 運:B


総合ランク:A(B+→A)



 

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