10.ボス戦開始。ところで逃げるコマンドはどこにあるの?
やってきましたヴァルガン洞の第四層。
今日も元気にシャチ乱舞。向かってくるゴーレムちゃんを千切っては投げ、千切っては投げ。
「スイマセン・テンインサン・ゴスロリドレス・シャチサイズアリマスカ・キャノン!」
適当な技名を叫びつつ、ただの体当たりをゴーレムにドーン!
シャチっ娘三千キロの衝突に耐えられず、また一体のゴーレムがバラバラになっちゃった。
ふ、これぞステータスの差による圧倒的蹂躙、レベル15の勇者がスライミーをブロンズブレイドで殺戮するがごとし! ボタン連打の間に戦闘が終わる恐怖を味わうがいいわ!
私の突進で隊列が乱れたところに、後方からエルザの電撃ぶっぱ。
あっという間に魔物の群れ、ゴーレム四体は消し炭に変わってしまった。
うーんこのオーバーキル、魔抵が低いゴーレムにとってエルザの魔法は貫通力があり過ぎでしょう。
「お疲れ、オル子。ストーン・ゴーレム程度じゃ、なかなかレベルが上がらなくなっちゃったわね。進化レベルが目前なだけに、少し焦れちゃうわ」
「進化かあ……どんな風になるんだろ、楽しみ過ぎる! てけてけーん! オル子はスカイ・オルカからビショウジョ・レイジョウに進化した、とかなったりして!」
「オル子の進化は微塵も予測がつかないけれど、私の進化先は分かっているわよ? ウィッチのステージ2はハイ・ウィッチよ。里に何人かいたもの」
「ほむほむほむ、そうなのね」
ウィッチの進化形はウィッチ→ハイ・ウィッチ→アーク・ウィッチと続くらしい。
ウィッチの里の長老さんが第3ステージのアーク・ウィッチだそうで、それ以上は不明とのこと。ウィッチであるエルザもその道を辿るのは間違いないらしい。
「私の目指すところはアーク・ウィッチの先にある未知の領域よ。第4ステージまで上り詰めたウィッチは誰もいないからね、私がその初めてになってみせるわ」
「そのためにもまずは第2ステージに進化しなくちゃね。進化って見た目も変わったりするの?」
「変わる種族と変わらない種族が存在するわね。人型のウィッチはステータスが上がるだけで見た目は変化しないわ。逆に獣系は変化するタイプが多いかしら。オル子もそっちに分類されるかもしれないわね、肥大化したりとか」
ちょ、おま、年頃の女の子に肥大化とか言うんじゃないわよ! 軽く傷つくじゃない!
でも、体がこれ以上大きくなっても仕方ないのよね。すくすく大きくなってクジラみたいなサイズになったらどうしよう。
むしろシャチからクジラに進化したらどうしよう。やだ、ちょっと進化するのが怖くなってきたじゃない。助けてダーウィン先生。
「うら若き乙女としては、肥大化よりも収縮の方向で進化したいところだわ。スラッとしてて、それでいて出るところは出て、引っ込むところは引っ込み、いつも殿方にチヤホヤされて笑っている……そういうものに私はなりたい!」
「さ、バカなこと言ってないで進むわよ。進化の瞬間が本当に楽しみだわ」
乙女の夢を語ったらスルーされたでござる。
オル子は激怒した、エルザには少女の心が分からぬ。
道中を進み、敵に会っては雷魔法とオル子突貫をぶっ放してはまた進み。
段々と行動が作業染みてきてる気がするのは、戦闘を重ねることで、戦いのコツみたいなのがなんとなく分かってきたからかしらね。
こう、『あ、こうすればいいんだな』ってのが戦っているうちに少しずつ分かるようになってきたのよ。
シャチボディの使い方っていうのかな。前世で戦いのたの字も知らない、スーパー・ジャパニーズピーポーだった私の心が、どんどん戦いに研磨されているっていうか。
「魔物を殺すことに慣れてきているのね……怖いわ、私の手は返り血で染まっているもの」
「オル子、あなたのそれは手じゃなくてヒレじゃない」
「お? 今、私のこと魚類って馬鹿にしたよね? ね? この美少女が! ふしゃー!」
「はいはい、ごめんなさいね。魔物を何匹殺したところで罪悪感なんてないでしょうに。強ければ生きるし、弱ければ死ぬ、それだけだわ。そこに価値観も何もない、私たちは『そういう』生き物なんだから」
実際、エルザの言う通りなんですけども! 罪悪感ゼロなんですけども!
センチメンタル・ヒロインごっこを止め、エルザと並んで洞窟の奥へと進む。
むーん、この感じだと次のレベルはゴーレム単位で百ゴーレムくらいかしら。いや、ゴーレムの数え方なんて知らないけどね。
いい加減太陽の光も恋しいし、洞窟は土埃っぽいし、さっさと終わらせてしまいましょう。リンゴや干し肉も飽きたし、もっと美味しいものが食べたいわ。
「エルザ、進化が終わったら次は美味しいものが食べられるところにいきましょう。この辺に魔物の街みたいな場所はないの? モンスヴィレッジというか、モンスタウンみたいな」
「種族ごとの集落はいくつかあるでしょうけれど、私たちみたいな異種族が入ってくると迎撃されちゃうわよ。全部返り討ちにして、食べ物を強奪する?」
「そんな世紀末過ぎる冒険は嫌よ! 私は穏健派なの、非暴力非服従、汝の隣人を溺愛する精神なのよ。暴力はいけないわ、エルザ。死ねや殺せなどの発言はもってのほか。淑女たるもの、常に心穏やかに……あ! ゴーレム発見! 死ねえ! シャッチ・ポッチ・バズーカどーん!」
前方に二体ゴーレムがいたので、加速した体当たりで撃破。
ふ、パワーAは伊達ではないのよ。私は開幕に大技をぶっ放し、そのアドバンテージを死守する戦法をこよなく愛する女。
ぐるんとブーメランのように宙返りしてエルザの横に戻る。
「お待たせ、お待たせ。ええと、何の話をしてたっけ?」
「暴力と屈服と制圧についてじゃない?」
「あれ、そんな物騒な話だったかしら……?」
エルザと雑談に興じながら、通路を進んでいると、先に広間を発見。
む、ちょっと今までと雰囲気が違うわね。この辺の通路はむき出しの土や岩なのに、広間は床壁が綺麗に造られたものになってるじゃない。
それに気づいたのか、エルザも足を止め、目を細めて凝視。
私も習って動きを止め、エルザの横でふよふよ風船の如く浮いて待つことに。オル子バルーン、本日も営業中よ!
「おそらく、この先からゴーレムの生産場になっているのだと思うわ」
「そういえば、この洞窟は前魔王所有のゴーレム生産拠点だとか言ってたわね。あれ、もしかしなくてもこれ、無断侵入になるの? 前魔王の関係者に捕まって罪に問われたりしない? そもそもシャチにも前科ってつくの? 嫁入り前の乙女として、犯罪だけは困るんですけど!」
「進みましょうか。前魔王が死んで三年経っているけれど、拠点に残された技術や情報に少し興味があるわ。これからの私たちに役立つものが得られるかもしれないわよ」
「え、空き巣やる気満々なの? ちょっとエルザ、何その笑顔……あ、読めた! あなた、最初からこのつもりで私をここに連れてきたでしょ!? レベルアップを名目に、これを狙ってたんでしょ!」
「ウィッチは新しい知識を得ることが生きがいなのよね。これも大事なライフワークだわ」
鼻歌交じりで歩き出すエルザ。
いけないわ、このままでは私も空き巣の仲間入りになっちゃう! 友人として、犯罪を止めなくては!
いくら前魔王とやらが死んで破棄された施設だからって、空き巣はいかんのですよ!
将来美少女になり、素敵な旦那さんと夢の結婚ライフを送る予定の私にとって、こんな汚点を残すわけにはいかんのです! ふぬうう!
「エルザ! 目を覚まして! 私たちは清廉潔白な女の子なのよ! 窃盗なんて絶対にダメ、大切な友達が悪の道を進もうとしているなんて許さな……」
「魔王の幹部クラスが使っていた施設だもの。もしかしたら、オル子の求めている人化に関する情報とかあるかもしれないわね」
「エルザ、ぐずぐずしちゃ駄目よ! 急いで盗みましょう! 価値あるものは一つ残らず掻っ攫うわよ! 略奪・強奪・簒奪って感じでいきましょう!」
エルザの手を引いて、私は早く行こう行こうと彼女を急かす。
犯罪? 空き巣? 異世界に現実の常識を持ち込むんじゃあない!
こんなシャチボディにされた時点で私は人間を辞めてるのよ! そんなものでこのオル子が縛れるかぁ!
早速とばかりに部屋の作りが変わった広間に飛び出すと、そこには更に奥に向かう扉と、その前に立つ青色ゴーレムが。
ぬ、これまでに会った奴とは毛色というか、雰囲気が違うわね。
四メートルくらいなのは門番ゴーレムと同じなんだけど……こっちに気づいているのかしら。動きがないから全然分かんないわね。
「オル子、ステータスを見て。もしかしたらこいつ、このダンジョンの『支配者』かもしれないわ」
「え、マジで? 最初に戦った門番と同じくらいだし、大きさ的にそれはないと思うんだけど……それじゃ、ステータス見てみ……」
識眼ホッピングでステータスをチェックしようとした刹那、青色ゴーレムが動き出した。
あ、やばい、これ。このままだとエルザまで巻き込んだ乱戦になっちゃう。
私は大慌てで前に出る。無論、エルザを後方へ下げるまでのタゲ取りの為よ。
そんな私の動きに呼応するように、エルザは通路まで下がってくれた。流石エルザ、連携ばっちり、大好き。
ゴーレムが私を目指して一直線に襲い掛かってくる。ふふん、どんなゴーレムかは知らないけれど、私の守備力はBよ! 門番のゴーレムですら貫けなかった乙女の柔肌、貫けるものなら貫いてみなさい!
完全に足を止め、受け止めてカウンター狙い。その後にエルザの電撃でぎったんぎたんにしてくれる! さあ、来なさ……あれえ、なんか青ゴーレム、意外と動きよくない? というか、思ったより速……
「――オル子、避けて!」
「え、え、え?」
私はどこぞの国民的ネズミじゃないんだから、急にそんなこと言われても! オル子は急に、避けれない!
青ゴーレムは、一気に加速し、私との距離を詰めておりました。げげー! ウッソでしょ!?
青……というか、これ、クリスタル? クリスタルゴーレムっぽいのが、大きな拳を私に振り上げ、これが私の全力全開アッパーカット。
「ぬわあああああああああああああああ! へぶちんっ!」
「オル子っ!」
真っ白なお腹に拳が突き刺さり、私は見事に宙を舞い、天井までぶっ飛ばされる。
これ以上ないほどに間抜けな声と共に、私は床へと落下した。
うう、痛い……まさか私のシャチ装甲を貫くなんて、間違いない。こいつ、『支配者』だわ! あの巨大樹と同じボスモンスターに違いないわ! って、ぬわああ! 踏みつぶされるううう!
「サンダー・ブラスター!」
追撃のストンピングを必死で転がって避けると、エルザが雷魔法で援護してくれた。
ナイス援護! 私は距離を取り、素早く識眼ホッピングを発動させて相手の能力を調べる。敵を知り、己を知れば百戦危うからずっ!
名前:アディム・ゴーレム
レベル:12
種族:クリスタル・ゴーレム(進化条件 レベル20)
ステージ:4
体量値:B 魔量値:F 力:A 速度:E
魔力:F 守備:A 魔抵:E 技量:F 運:E
総合ランク:C
やば、ステータス極振りってレベルじゃないわよ!
何がやばいって、ステータスの伸ばす方向が良い方向に偏って噛み合い過ぎ!
HP、攻撃力、守備力がこれだけ突き抜けて総合ランクがCって、ランク詐欺にも程があるわ!
進化も目前、もうちょっとだっていうのに、最後の最後でこんなとんでもボスが出てくるなんて……お約束なんて、嫌いだあああ!




