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アキちゃんシリーズ

日曜、朝。布団から出る出ないの攻防

作者: さとちぃ

 チャンチャカチャカチャカ〜チャンチャン♪


 軽快な電子音が鳴り響き、私はぱかっと目を開けた。体勢はそのままでベッド脇から腕だけ伸ばし、床の上に置かれているであろう、スマホを手で探る。


 一月の朝は寒い。

 布団の中はあまりにもぬくぬくと居心地が良く……体の、腕以外の部分はなるべく外に出したくない状況だ。

 指先に触れた固い感触を拾い上げる。画面をタップしてアラームを解除しつつ、目をすがめて時間を確認する。


 五時……。


 平日なら起きる時間だが、今日は日曜日で、大学もバイトも休みなので、必ずしも起きねばならない時間では、ない。布団から出るのは寒いし、正直このまま布団の中でぬくぬくを満喫したいところだ。


 どうするか……


 半分ぼーっとした頭で若干悩んだが。

 しかし、ここで二度寝してしまった場合、次に目を覚ますのはお昼頃とかになってしまう気がする……。うーん、午前中全部消えてしまうとか、もったいないなぁ……。

 ここは、ここは起きるところ……。

 がんばれ、私。


 よし。


 私は意を決して、むくり、と上半身を起こした。背中の中ほどまであるロングストレートの髪が、さらりと肩からこぼれ落ちる。掛け布団をまくり、体を右にひねって床に足を着地させた時だった。



「…………どこ、いくの?」



 左下からニョキっと男性の腕が伸びて、私のお腹に絡みついた。

 わあ! と思う間もなくグイっと布団の中に引き戻される。私の顔はポスン、と男性の胸の上に着地した。ううう、人肌のぬくぬくが、やはり心地いい……けれども!

 私は初志貫徹、とばかりに再び身を起こそうとしたが、男性に両腕でぎゅう、っと閉じこめられてしまい、彼の胸の上から動けない。


「ちょ……、マサルさ……」


 私はモガモガとくぐもった声で抵抗の意を示すが。


「今日、日曜で二人とも休みじゃん。まだ、いいじゃん、このままで」


 マサルさんは私の髪に顔をうずめながら、そのように私をそそのかす。


 くっ……。

 ただでさえ布団の外は極寒で、布団の中のこの、ぬくぬくの中にまだいたい、という欲求と戦っていたところだったというのにっ。その欲求に、やっとこさ打ち勝って起き上がった私を、再びあっさりとぬくぬくの中に引きずりこみやがって!


 ちょっくら頭にきた私は、昨日、お泊まりした、この1DKの部屋の持ち主の。

 私のバイト先であるカフェ店の店長で、付き合い始めて、はや九ヶ月の。

 二十歳の私より、八つ年上で、笑顔の可愛いイケメンだが、時間には少々ルーズなところのある。

 この、チャラめ軽めキャラな恋人に。


 今、絶対、流されない! 隙を見て布団から脱出してやる!!


 ……と、頭の中でゴングを鳴らした。


 とりあえず、あれだ。

 このがっちりホールドされている状況を、なんとかせねばなるまい。女子の私は力ではかなわないので、マサルさんが自主的に腕を外してくれる方向に、持っていかなければ……!

 私は、なんかもっともらしい台詞をひねり出し、口に出してみた。


「ちょっと、小腹がいたので。なんか食べよーかなー、とか思ったのです。てなわけで、とりあえず一回、離して下さい」

「却下。小腹なら、俺だって、空いてるもーん」


 そう言ってマサルさんは、くるりと体勢を入れ替え、私をあお向けにベッドに縫いつけ、私の顔の両側に手をつき。


「だからアキちゃんのこと……食べちゃって、いいかな?」


 上から私の顔を覗き込み、ヘラリ、と清々しい笑みを浮かべた。


 ぬああっ!!

 な、な、な、なんという恥ずかしい台詞を臆面もなくぶちかますんじゃこの男はーーっっ。元々顔は無駄にイケメンだけに性質たちが悪いっ。


 私は内心真っ赤になってワナワナしていたが、ここで動揺を見せたら負けだ! と思い、ニコリと笑って平静を装う。


「だから、ちょっと一回、落ち着きましょう。朝の五時ですよ? そーいうの、今、よくないと思います」

「え? そーいうの、って、どーいうの?」


 ちっ。

 出やがったな。

 男子の、女子に言いにくいこと言わせて、恥じらってるところが見たい的な、そーいうの。

 私はひき続き、ニコリと微笑みながら、つとめて冷静に言い返した。


「嫌がる彼女を、無理矢理、ベッドに縫いつけている、この状況。のことです」

「ああ、なるほどなるほど」


 マサルさんは、言質は取ったとばかりにテヘ! と嬉しそうに破顔し。


「ではでは、合意なら、問題な〜し、ということだ?」


 そう言って、おもむろに、私の左耳をはむっと甘噛みした。


「っ!……ちょ、やめっ……」

「聞こえな〜〜い」


 確実に聞こえてるだろうがーっ!

 つまりマサルさんは私を陥落して合意に持ち込むため、うししな攻略を開始したわけだ。

 楽しそうだなオイッ! と叫びたい気持ちでいっぱいだが、耳が、とてつもなくウィークポイントである私は、それを熟知しているマサルさんに攻められては、ひとたまりもないっ。声を押し殺すのに精一杯である。


 この男は昔から! 情欲我慢耐性が弱すぎる!


 まだ付き合う前の話であるが、初めて二人がカフェ店で出会った頃。

 営業中の店内でお互い勤務中、という状態で。

 マサルさんときたら、店長という責任ある立場にありながら、同じ店で働くバイトちゃんの私にロックオンし、あれやこれやとセクハラ行為をかましまくったという、笑えない前科があるのだ!


 その時はマサルさんの上司にあたる人から厳重注意を受け、その後さすがに店内でのセクハラ行為はおさまったが。基本的に手を出したい時に出す。ヤりたい時にヤる。今をエンジョイするタイプ……という性根に変わりは、ない。


 もう少し節度を身につけたらどうなんだよ八つも年上の大人なんだからさぁっ!


 いかんいかんいかーん!

 流されない流されない流されなーい!

 がんばれっ。 私がんばれっっ。

 こ、攻撃は最大の防御とか、なんとかかんとか、どっかで聞いたような……

 よし、なんかっ、なんらかの攻撃をこころみるのだっ。


 私はえい! っとマサルさんの首元に両腕をまわして抱きつき、彼の頭を固定した。あえて密着したことで、マサルさんの動きを封じたのだ!

 と、とりあえず、耳への攻撃を回避。

 やれやれ……


 ちょっと気を抜いたのも束の間。


 今度はマサルさんの右手が、するするするっと、すそから私のシャツの中に進入してきたではないかっ。


 こ、こらこら、コルァ!


 今私の両腕はマサルさんの首元に巻きついているため、マサルさんの手を止めるすべがない。なんてこった!

 マサルさんの手が、自分でいうのもなんだが、私の控えめなサイズのお胸に、到達してしまう。

 あわわわわっ。どうするっ。どうすればいいのだ私!


 もはやプチパニック状態の私のお胸を、マサルさんが遠慮なく、攻略し始める。


「っ……」


 くうっ。声が出そうになったのはこらえきった! 偉いぞ私! だけどっ。

 現在進行形で攻略されているので基本的にずっとエマージェンシーなんだよーう!

 やばいやばいやばーい!

 もう、もう持ちこたえられませんっっ。

 誰か、誰か助けてください!!


 もはや、私の脳は冷静な判断を下せなくなっていたのであろう。

 私は何をとち狂ったのか、そもそもこの状況の元凶であるマサルさん本人の耳元に向かって。


「やだっ……もう、マサルさん、助けてっ……」


 泣きそうな声で切なげにそう囁いた。



 ピタリ。



 マサルさんの動きが、一瞬止まった。


 あれ……? 助かったのかしら……?


 緊張のゆるんだ私が、マサルさんの首元にまわしていた両腕から力を抜いて、顔の両側にパタリと落とし。乱れていた呼吸を整えようと、息をついた時だった。


 むくり、とマサルさんが身を起こして再び上から私を覗きこんだので、私も涙目のまま「?」、と伺うように彼の顔を下から見上げた。


「!!」


 見上げた先でマサルさんがふっ、と微笑みながら瞳にキラリ、と危険な光を浮かべているのを。

 私は見た。


 こ、これはっ。

 マサルさんがハンターモードになって、獲物にロックオンした時の眼!

 いつもはチャラ男モードでヘラリと笑っているマサルさんが、やる気を出した時の顔なのだ。こうなってしまったマサルさんはもう、止められない。

 そしてそして。

 普段おおむねヘラヘラしている彼が、時々不意打ちで垣間かいま見せるこの、正直めっちゃかっこいい、真剣な顔を見てしまうと……


 カアアァァ〜〜。

 私の顔はみるみる赤く染まってしまった。

 ……つまり私の方もさくっと、オチてしまうわけである! オーマイガーッ!



「ちょっと今からもう、止まらないし加減できないけど……ごめんね? アキちゃん」



 お、終わった……


 顔を真っ赤に染めた私は、観念して、一切の抵抗をやめ、そのまま静かに目を閉じた……。



 ***



 私が再びぱかっと目を開けて、スマホを覗きこむと、時刻は昼の十二時をまわっていた。


 せっかくの休日の午前中が、まるまる消えた……


 私はがっくりとうなだれ、隣ですやすやと満足そうな寝息をたてている、無駄にイケメンな恋人の胸倉を掴んで奥歯ガタガタいわしたい衝動と、必死に、戦った。


 落ち着け、私。

 ここで同じてつを踏むような愚行は絶っっ対にさけねばならないわけで。

 まずは奴が目を、覚まさぬうちに。

 早急に、布団から、抜け出すとしよう。

 話は、それからだ。


 私は掛け布団をそっとまくりあげ、そろりそろりと細心の注意を払って、ベッド内からの脱出をはかった。

 なんで私は今、気配を消す、とか忍者みたいな真似をせねばならんのだっ。プンプン!



 日曜日、冬の朝。


 私を惑わす、布団の中のぬくぬく、の誘惑。

 そしてそれよりさらに抗いがたい、彼の甘い、誘惑。


 私とマサルさんの、そんな、布団から出る出ないの攻防は、おそらくこれからも続いていくんだろうなぁ……

 遠い目をする私であった。



お手にとって頂き感謝です。<(_ _)>


なにげに「店長、仕事してください!」のその後なお話でした。こちらはまだアキちゃんとマサルさんが付き合う前の、勤務中のカフェ店内での二人の攻防のお話です。全六話です。もしよかったらそちらもよろしくです。


お読み頂きありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] めっちゃ甘い作品を読ませていただき、誠にありがとうございます! アキちゃん、しっかりしているように見えて流されている~とニヤニヤしました♪ 一月の朝って寒いですよね。愛しい人とはくっついて…
[一言] さとちぃさん~~~!  あきちゃん! あきちゃんキタ!! うれしい! いや~、いちゃいちゃのラブラブで口から五キロくらい砂糖ざ~っと吐けそうですわ。あきちゃんが幸せそうで何よりです。 そし…
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