5話
短いですが、投稿しました。よろしくお願いします
赤々と燃える炎の中で、少女が黒く立ちはだかる者を強く睨んでいたが、ふと、自分を振り向いた。
「ごめんね、玻璃」
儚く笑う少女はそう一言自分に声をかけるともう背を向けていた。
また、またなのか?
少女の手を掴もうと手を伸ばした時には遅く、彼女は黒き者に飛び込んで行った。周りの止める声すら聞こえていなかった。
「行くな、瑠璃!」
自分の声があまりにもはっきり聞こえたところで夢を見ていたのだと気づく。
その後は夢を見るまでもなく、彼女は自分よりも先に命を落とし、それに逆上した自分が黒き者をあちら側に封印する。
気怠げに体を起こし、窓の方を見ると、昇り始めた太陽の光がカーテンの隙間から差し込んでいた。
「…瑠璃!」
前世の儚い笑顔を思い出す。最期の時の笑顔が頭を離れない。何度夢に見たことだろう。最近は回数も減ってきたところだったのに、彼女は記憶を失って帰ってきた。
知らず、両手を強く握っていたようで、掌に爪の跡がつき、ジワリと血が滲んだ。
「なんで今回は記憶を消したんだ」
彼女に問いかけてもわからない問いを呟く。
「…行くか…」
今はどうすることもできないことを思い直し、ため息とともに疑問を封じた。
キッチンに向かうと、良い匂いが鼻をつく。
「あ、おはよう。高梛君には負けると思うけど、朝食作ってみたよ」
美羅依はそう言うと手に持っていた皿をテーブルに置いた。
「あ、ああ…ありがとう」
柚耶は驚きながらも礼を言って席に着いた。
「嫌いなものがあったら言ってね。私は結構嫌いなものがあるから、遠慮なく言うわね」
昨日までの彼女の悲壮な感じはなく、明るい元来の性格に戻っているようだった。
「あ、驚くよね。昨日はわけが分からなくて混乱していたんだ。でもね、思い直すことにしたんだ。あの厳しい母がここに来るように仕向けたのにはわけがあるんじゃないかって」
美羅依も席につきながら言った。
「…そう」
柚耶はどう返していいかわからずただ頷くしかできなかった。
「これからよろしくね、高梛君」
美羅依は笑顔で言った。
その顔を見て柚耶は前世での瑠璃の笑顔をダブらせた。
「玻璃、どんなことがあっても私は貴方を信じているわ」
いつかの言葉が甦る。
「…柚耶…俺の事は柚耶で良い。呼び捨てで構わない。俺も美羅依と呼ぶから」
柚耶はまっすぐに美羅依を見て言った。
「え…う、うん」
美羅依は虚を突かれて柚耶を見つめてから頷いた。
「…美味いな」
テーブルに用意された食事を口に運んでゆっくり味わう。どこか懐かしい味がする。魂が覚えているのだろう。やはり、彼女が瑠璃であることを物語っていた。
「…あ、ありがとう」
美羅依は恥ずかしそうに言って自分の分をたいらげに掛かった
ありがとうございました