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3話

よろしくお願いします。

ベッドに入ってもすぐには寝付けなかった。

「これは一体どんな意味があるのだろうと思っていたけど、目印みたいな意味もあったんだね」

ため息をついて手にした珠を見つめた。この珠は自分が願えば掌に現れ、もう一度願えば消える。ずっと不思議に思っていた。自分に従う精霊たちの事もいつの間にか風の精霊が自分の周りにはいて、助けてくれていた。

「もう、私はお母さまには必要ないのかな」

そう思うと涙が込み上げてきた。父が亡くなった頃から母はとても厳しい人となっていった。礼儀作法も勉強もできなければ容赦なく冷たい言葉が飛んできた。そのたびに自分はいらない子なのではないのか、自分のせいで父が死んでしまったから自分を恨んでいるのではないかと思ってきた。

「お父さま」

瞳から一粒の雫が静かに流れ落ち、枕を濡らした。

疲れが出ていたのかそのうち美羅依は眠りについていた。


しばらくすると美羅依の部屋のドアが音もなく開いた。

「やっと眠れたようだな」

様子を見に柚耶が入ってきたが、当の美羅依は寝入っていて気づかなかった。

「泣いて、いたのか?」

突然家を出されて、それも理由もよくわかっていない状態でこんなところに放り出されたようなものだ。前世の記憶もなく、自分がなぜ命まで狙われなければならないのかもわからない。心細くならないはずはなかった。

「泣くな。これからは俺が傍にいる。前のように離れたりは絶対にしない。今回は長老を黙らせる。だから待っていてくれ」

柚耶はそういうと寝ている美羅依の頬に微かに触れるだけのキスをした。

「お休み、良い夢を」

そう言い残して、ドアを静かに閉めた。



翌日の朝、美羅依は眠れないと思っていたが、いつの間にか眠っていたことに驚いた。

「いつの間にか寝てたんだね」

すっきりとした表情をして、目覚め、大きく伸びをしてふとそんなことを口にしていた。

「…起きたか?」

ドア越しに柚耶が声を掛けてきた。

「あっ、はい。…起きたよ」

美羅依はそう返事をするとベッドから起き上がり、自室のドアを開けた。

「おはよう、高梛君」

少し恥ずかしそうにしながら美羅依は言うと柚耶を見上げた。

「朝ごはん、食べるだろう?用意してあるから、着替えてダイニングまでおいで」

柚耶はそういうとさっさと行ってしまった。美羅依はすぐにドアを閉め、着替えに奥に行ったようだった。

「…びっくりした。まさか、あんな無防備な格好で出てくるなんて…」

美羅依のパジャマ姿がまだ目の奥にちらついていた。それに恥じらいながら見上げる仕草が可愛らしくて、思わず赤面してしまいそうだった。平気な顔をするのにどれだけの労力が必要なんだと思わずにはいられなかった。


高梛のマンションはとても広く、使っていないゲストルームもいくつかあり、応接室、キッチン、バス、トイレも一つではなかった。

昨日美羅依が通された応接室とってみても綺麗に調度が置かれ、ほとんどモデルルーム並みだった。そう、生活臭が全くない。

「一人で住んでるって言ってたっけ」

普段着を着て、美羅依は一人呟いた。ほとんどの部屋を彼は使っていないということなのだろう。


部屋の中にレストルームがついているなんて普通あり得ないでしょう?


顔を洗い、髪をとかしながら美羅依は思っていた。

「まあ、ここですべて支度ができるから良いとするか」

美羅依はそう結論づけて部屋を後にし、柚耶が待っているであろうキッチンの方へ向かった。

「…やっと来たか」

柚耶はそういうとテーブルにハムエッグを乗せた皿を置いた。

「あ、ありがとう」

美羅依は礼を言うと柚耶の向かい側に座った。

キッチンの傍は居間よりは生活感があって、少し落ち着く。だが、思っていた以上に綺麗にされていて、やはり落ち着かない。

「とりあえず、食べようか。冷めてもおいしくないし」

柚耶はそういうと美羅依にも食べるように勧めた。

「じゃあ、頂きます」

美羅依は両手を合わせ、一口スープを啜った。

「美味しい」

コンソメスープなのに何だかいろいろな味が口の中に広がってそれが喧嘩をしていない。

「それは良かった。作った甲斐があったな」

柚耶は特に表情にも出さず、次々と口に運ぶ。

「知らなかったよ、高梛君は料理も得意だったんだね」

美羅依はパンを口に運びながら言った。

「得意ってほどじゃない。前のお前の方が上手かった」

柚耶は言ってからしまったとばかりに手を止める。

「…大丈夫。私は覚えていないけど、高梛君は覚えてるんだよね。ごめんね、覚えてなくて」

美羅依は泣き出しそうな表情で言った。


やっぱりここでも私は一人なんだな。


宮家本家でも、今この家でも自分は部外者。そう思わずにはいられなかった。

「ごめん。そんな顔をさせたかったわけじゃないんだ」

柚耶は手にしていた食器を置いて、美羅依の頬を壊れ物を扱うようにそっと撫でた。

あまりにも優しく撫でられ、美羅依は硬直するしかなかった。家族以外の人にそんなに優しくしてもらった覚えはない。どうしたら良いかわからなかった。

「どうした?顔を赤くして?」

不思議そうに柚耶は美羅依を見つめた。美羅依ははっと我に返り、柚耶から瞳を逸らした。

「なっ、何でもない」

美羅依はそういうとそれ以上何も言わず、食事を片付けるだけだった。

柚耶は不思議そうな表情をしているだけだった。


ありがとうございました。

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