10話
よろしくお願いします。
「…今回はかなりひどいですね。共通点って?」
生徒会役員の一人が会長に聞いた。
「見て気付いた人がいるようだけど?」
そう言いながら美羅依と柚耶を交互に見ていた。それに小さくため息を吐いて柚耶が手を上げた。
「体の一部がなくなっているようですね」
写真からはわかりづらかったが、確かに一部がなかったように見える。だが、バラバラにされた遺体ではどこがなくなっているのかもわからない。
「それに血液の飛び散り方が不自然なくらい一致している気がします」
追加する様に美羅依も手を上げて答えた。
「本当に優秀だね。うちの生徒会役員達は」
嬉しそうに会長は言うとだからわかるだろう?とでも言いたいように室内を見渡した。
「…」
美羅依達は無言で会長の次の言葉を待った。
余計なことを口にして時間がかかるのは極力避けたかった。
「まあ、これから現場班と調査班に分けるから、宮梛君と高梛君はいつものように現場班ね。それと…」
次々と生徒会長は振り分けを行い、生徒会の集まりは解散となった。
「…いつも現場班って」
美羅依は頭を抱えた。
「仕方ないだろう。お前は優秀すぎるんだから」
柚耶が諦めろと言わんばかりに肩を叩いた。
「優秀って、それは柚耶の事を言うんだよ。私は上手に精霊たちを使えないし、柚耶のように傷を癒す力はないんだよ」
苦笑して柚耶を見上げた。
「あれだけ扱えれば上々だって。お前は精霊と会話ができているだろう?記憶のない今の状態でもそれだけできていれば優秀なんだって。それにお前には俺以上の能力があるんだ。自分を卑下した言い方はやめろ。以前の事を言うつもりはないけど、すべてを否定することはしないでくれ」
柚耶はそういうと美羅依を伴って事件のあったというアパートを目指した。
辿り着いた部屋は中に入ると鉄の錆びた臭いが充満していた。
「ああ、やっぱり」
美羅依は入った瞬間に何かを察した様で小さく呟いた。
「…やっぱりって?」
美羅依の呟きに柚耶が不思議そうに聞いた。
「ああ、ちょっと待っててね」
美羅依はそう言うと両手を前に差し出すようにして伸ばすと両手の指で円を作り、瞼を下した。
暫くすると柚耶の耳に小さな声が微かに届いてきた。
「声に応えちゃだめだよ」
美羅依の言葉を気にしながらその小さく聞こえてくる声に耳を澄ませると、声は突然大きくなり、悲鳴のようなものまで聞こえてきた。
『痛い、イタイ!やめて!』
『私が何をしたっていうの?』
声はこの場に残された残留思念。亡くなったという少女のものだった。
「風の精霊が教えてくれるの。ここで亡くなった少女の声を私に聞かせてくれる。そしてね、少し屈んで?」
美羅依の言葉に素直に従うと瞼を閉じるように言われた。それも素直に聞き、瞼を下したところで、突然柔らかく温かい何かが掠れるように触れた。
「目を開けて良いよ」
美羅依は何事もなかったかのように言い、疑問に思いながらも柚耶は瞼を上げ、目の前の光景に唖然とした。
「触ろうとしたり、声に応えなければ何もないから。私の今見ているものを見せているだけ。私に光の精霊が見せてくれるの。彼女の最期の姿だよ」
美羅依の言葉に呆然とした。ここまであの一瞬で見せられたこの少女の心中はいかほどのものなのだろうと、柚耶は考えずにはいられなかった。
柚耶も精霊とは契約している。その中には光の精霊も含まれているが、美羅依の契約している精霊とは位階も違うのだろう。ここまでのものは見せられたことはない。
「わかったでしょう?彼女はここで殺された。相手は少しわかりづらいけど、あれかな」
美羅依の指さす方向に彼女が見ていたであろう相手の姿が黒く浮き出ているのがわかった。ただ、その姿ははっきりとはせず、暗闇に浮いた存在としての認識しかわからない。
「彼女ははっきりとその姿を見ていないってことしかわからないね」
溜息を吐いて美羅依は言った。
「…まあ、しいて言うなら性別、男で、体格ががっしりとしている。と、いうことくらいか」
今まさに彼女はその黒い影に首を千切られたところだった。猟奇的な犯行。
手で千切れるような作りもしていない人の首をたやすく引き千切る様は異様としか言えない。刃物は一切使用していない。
「…ごめっ」
美羅依がさすがに顔を背けた。
「女にはさすがに刺激強すぎだよな」
柚耶は淡々と言い放ち、美羅依の目を手で覆ってやった。
「見なくていい。これ以上は酷だろ」
同じ女性として美羅依は怒りと悲しみに涙した。感受性は高く、ゆえに精霊との相性も良すぎるのは長所と共に短所でもあった。
「どんなに見ても、慣れないな」
美羅依はクスリと鼻を啜って自嘲気味に言った。
「慣れる必要はないよ、こんなもの」
柚耶はそう言うと、美羅依の瞼に手を当てた。
「もう、出よう。ここでのことは俺が報告する」
ありがとうございました。




