not to be continued
これで終わりです。
車輪を地面の窪みに落とした荷馬車を持ち上げたり、野営のため薪を集めたりなど、若手行商人であるファイアングルは人手が十分にいることの有難みを噛みしめていた。今回みたいに安い値では雇えないだろうけど、と言い、
「普通に働く分にはもんだいなさそうだね。まあ、大体は」
「こいつは食器職人の子だったからな。あんま屋外活動に慣れてないのは仕方ない」
むっつりしているコーダックスの背中を、カーリデュルアはバンと乱暴に叩く。膝に立てていた肘がずれてしまったが、コーダックスはしらんぷりして元に戻した。
「サンサだって職人なのにな」
「靴職人は、靴履いて歩き回るくらいのことはする」
「おれだって歩くくらいできるわ。どういう意味だそれ」
「さっきすっ転んでたじゃねえかよ。ひひひひ」
日が暮れて暗くなり始めた頃、馬車を止めてたき火を囲んでいた。腹を抱えるジェイレンドと、精一杯恐い顔で睨むコーダックス。いつもの風景だった。
「職人界は、新たに参入するのが難しいんだよね。どうせなら持った技能を活かしてもらいたいけど」
ファイアングルは思案げに首をひねっている。生真面目というか、お人好しな男である。その者の得意分野で活躍して欲しいというのは、友人としてカーリデュルアの願いでもあった。だが復讐に身を投げようとしている己が、そしてそれについてきた彼らに言えることではなかった。
離れた場所でなにやらしていた魔術師が、ダグコールを伴って戻ってきた。カーリデュルアの隣に腰かけ、普段通りの声音、しかし周りに届かないくらいの声量で言う。
「近くにレッドフットの集団がいる。襲ってくるとは言い切れないが、こちらに気付く可能性は高い」
魔術師はたき火を眺めていた。ちらつく赤い火に照らされて、石像のようだった。
「前の時も思ったが、どうやって調べてるんだ?」
「昏き竜の権能は、多少ならば儂にも許されている。今はおまえのほうが上手く使えるはずだ」
カーリデュルアはとりあえず頷いた。これまでのところ、何が変わったと自覚する部分はなかったからだ。暗闇で出会ったそれのこと、受けた衝撃はひどく鮮明な記憶だったが。
皆に伝えなくてよいのか、と問う前に護衛役が現れた。人型の死体の足首を掴んで引きずっている。細長くて柔らかそうな骨格、毛のない生白い肌に、毛皮を巻いた姿。この気色悪い生物は人類の遠い親戚であるらしいが、完全に魔物として扱われていた。レッドフッドと呼ばれるのは、襲撃現場に赤い足跡を、おそらく彼ら独自の文化に従ってわざと残していくからだ。
「どうも、近くに群れがいるみたいだよ。どうする?」
告げられた商人は眉をしかめた。
「もう移動するには遅い………。場所もいいし、人数を恃んで迎え撃つことにしよう。灯りを増やして」
あまりそういったものに出くわしたことがなく、コーダックスとジェイレンドは気味悪そうにしていた。灯りを用意するのにも、率先して動きだす。
ここまで読んでくれた方・・・ ありがとう! よっぽど暇だったんだね!
さて、この話はこれ以上続かないのですが、そもそもこういうのを書きたい! と思った気持ちは持っているので、そのうち後継作を出すかもしれません。
ご縁があったら、またそのときに。ありがとう、そしてさよならー。