It still goes
山小屋へ戻る途中、これから為されることを思ってか、ジェイレンドの顔色はどんどん悪くなっていた。コーダックスもそれほどではないが、しかめ面で奇妙な沈黙を保っている。サンサルタスは無口というより無反応だが、ここ最近の様子としては珍しくはない。
儀式はすこし降りたところの洞窟の中で、夜に行う。準備に時間がかかるのですぐに出発して、事の次第によるが朝には帰ってくる。その間他の仲間たちは山小屋で待っているといいと魔術師は言った。
「俺は一緒に行く」
出し抜けにダグコールが発言し、魔術師とひたと見つめ合った。圧迫するような強い視線にさらされても、ひげ面の男は引かなかった。
「それは、参加するという意味ではないな?」
「俺はカーリについてきただけだ。あんたの神様に仕える気はない。でもカーリが決めたことは見届ける」
お互いにこりともしない応酬にコーダックスとジェイレンドは身を固くしている。ソアフェイムは気難しい性質ではないし、本音だけをぶつけるやり取りでも問題ないとわかっているのだが、まだ慣れないのだ。
カーリデュルアは説得を試みた。最近回数だけは多くなったが、残念なことにあまり成功したためしがない。
「ここで準備して待っててくれると、助かるんだが………ほら、きっと疲れて帰って来るし」
「その位はこいつらだけでもできるだろ」
ダグコールは固くなっている仲間たちを親指で示した。珍しく迂遠な物言いだと奇異の目を向けられて、カーリデュルアは頬を掻いた。
魔術師は彼の葛藤を知ってか知らずか、相変わらずだった。
「たしかにもう一人いるのは助かる。贄を見張らねばならぬし、準備作業も手伝えないことばかりではない。ただ、その場で喰われるかもしれんぞ」
誰が何に、は抜けていても直截な言い方である。ダグコールは目を逸らさずを得なかった。大まかな内容をこの数週間でつかんでいたからである。瞼を伏せてじょりじょりと顎を撫で回し、再び魔術師と差し向った。
「結局のところ、あんたはどのくらいに思ってるんだ? ………カーリが、理性を失わずに済むのが………いや、いい。そんなことは聞かなくていい」
答えを拒絶した男に、魔術師は興味をひかれたような表情をかすかに浮かべた。
「昏き竜そのものを召喚するのは滅多にあることではない。いつの世にもそれに足る者がいるとは限らないのだ……。それだけの条件は持ち合わせている、と言っておこう。だがその者の素質によらず危ない時には側にいるとよくない。この先も共にあり続けるというのなら、よく覚えておけ」