愛すべきは、「火燵」
我が家は三階建て。
一階は作業部分。つまり、大部分を工場に、十畳ほどの部屋を習字教室に、そして玄関から上の階に上がるための階段とエレベータ。当然、廊下もある。
二階は居間と仏間、風呂と食堂。つまり、共用部分として使っている。三階は、寝室で占められている。
そんな我が家には火燵が三つある。
一つは母親の部屋にあるミニ火燵。一つは仏間の掘り火燵。そして一つは、居間のテーブルを利用した簡易火燵。臨時に食堂のテーブルが火燵に早変わりする。
母親の火燵と仏間の掘り火燵は、元々火燵として設備したもので、特に掘り火燵は移動させることができない。
その点、機能的なのは簡易火燵。これは皆さん、ぜひとも覚えておいていただきたい。
特に災害避難所で応用すれば、多くの人が寒さをしのげることは間違いない。
どうしてそんな自信があるのかって? それは実績があるからである。ただし、災害避難所での実績ではなく、選挙の投票所での実績なのである。
選挙の投票所は、季節に関係なく出入り口を開放されている。その出入り口が風上に向いていることも構造上の問題でどうしようもない場合がある。温暖な時期に集中して選挙がおこなわれれば良いのだが、そうは問屋が卸さないもので、えてして真夏や真冬の選挙が多いというのが、約二十年の体験でいえることである。なあ、夏の暑さは直射日光を防いで、極力風通しを図る、つまり、すべての出入り口を開けて、扇風機を働かせれば凌ぐことができる。
一方、晩秋から晩春にかけては防寒対策を欠かすことができない。というのは、早朝から夜にかけての丸半日以上を、身動きすらできずにじっと座っていなければならないからである。現実は、午前六時半には集合し、投票事務の終了が午後八時。それから撤収作業をして、午後九時頃までいなけりゃいけない。そして、会場は小学校の体育館が多い。たしかにガスの配管はあるし、ガスストーブも借りられる。しかし、体育館は広く、しかも天井が高い。屋根は鉄板で壁も薄い。つまり、会場全体を暖めるほどのストーブなんてありはしないのだ。だから使い捨てカイロを支給されるし、毛布も支給される。そうするとどうなるか。熱い飲み物を多く摂ることで便所へ頻繁に通うようになり、よけいに寒く感じるのである。
投票立会人になって十年ほどたち、ある程度古株になった時の選挙で、とうとう我慢しきれなくなった私は、完全暖房工事に着手した。
といっても、大それたことをしたわけではない。床に敷くシートで机を覆ってしまっただけである。立会人と管理者の席は、会議用長机が三つ。投票用紙交付と審査は一つ。受け付けと照合は三つ。事務局が一つ。これだけの机を配置しなおして三つのグループとし、グループごとに包んでしまったのである。そこに小さな穴を明け、人の座る位置にはスダレのように切り込みを入れた。初めに明けた穴の前に温風暖房機を置けば、これがなんと、即席の火燵なのである。これまでの実績として、長机五つなら家庭用暖房機で十分温めることができた。十分とはどのくらいかだが、風がピューピュー吹き込む状態で、防寒着を羽織らず、額にうっすら汗をうかべるほどの効果という意味である。
手伝いをしている女性会が言い寄るほどの効果であった。
ところで、子供の頃には、ちょっと変った火燵を使っていた。それは、櫓火燵を逆立ちさせたようなもので、一番下が四角い枠になっていた。四隅に柱が立ち、天辺には何もない。では熱源はどうなっているかというと、下枠の真ん中に豆炭アンカが置いてある。その中に豆炭を二つほど入れるとアンカの熱で全体を暖めるというもの。いずれにせよ、布団の上に天板を置くのだからそれで良かった。なにより、アンカに足を押し当てると丁度良い温かさであった。
豆炭火燵で暖をとり、火鉢で餅を焼いてもらったことを懐かしく思い出した。
お酒のいける人なら、カタクチイワシの干物でも炙りながら、熱いのをチビチビやるのも風情があって良いのではないだろうか。
そろそろ居間のテーブルに毛布をかけてやろう。温風火燵は今年も活躍しそうである。