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第一章 覇道を歩みたくない彼とメイドさん

「エー」



「なんでいきなりそういう嫌そうな言葉から入るかな!?」


不満満載。むしろそれ以外が感じられない声色で、キッチンに立つメイドさんはぶーたれていた。むくれていても可愛いだけで迫力はないけれど、それでも一応言っておかないと後がとても怖い。


やたらめったら広いその部屋はざっと50畳程度。端から端まで歩くだけである意味いい運動になりそうなのだが、彼自身の生来の貧乏性なのか、ベッドはシングルサイズの小さいものが中心に一つ。その近くに二人で座れるテーブルと椅子。その更に近くにキッチン。後は何もない空間がざーっと広がっているという素敵な無駄が彼の寝室である。


「せっかク覇道朝食メイドスペシャルを作り上げたト言うのに……」


「何その朝食!? 覇道朝食ってなに!? そんなの聞いたこともないよ!!」


「これを食べるとたちまち覇道をあゆみタクなるという、ステキけみかる調味料も愛情と共に入れたというのニ……」


「それ洗脳!? 洗脳だよね!! なんで俺はメイドさんに洗脳されなきゃいけないの!?」


「それはさておキ。朝食です」


「さておくな!! 食べるけど!! お腹すいてるからね!! いただきます!!」


ツッコミに疲れて更にお腹が減ったので、机に並べられた朝食を食べ始める。

パンとハムと卵のサラダと。目玉焼きと。並んでいる朝食そのものは至って普通の洋食だ。

先の発言に若干ではない不安が漂うが、背に腹は代えられない。お腹がすくのは仕方のないことなのだ。


「……くそう、味がいいから文句が言えない」


「当然でス」


ぽん、と胸を叩くと、メイドさんのとてつもなく豊満すぎてエプロンドレスが悲鳴を上げるその豊かなチョモランマが大地震。思わず魅入ってしまうのを誰が責められようか。


「ぐっ……くそ……卑怯だ」


呻くように呟きながら、彼はしかめっ面で食事を進めていく。


「では我が主様マイ・アディスタ。早速覇道の為ノその第一歩を――」


「だから覇道はあゆまねえっていってんだろ!?」


「チっ」


派手な舌打ちである。こうしたやりとりも既に一か月を経過しているが、最初は――いや、最初から、このメイドさんはそう言ったことを隠すということをしてこない。


「――ゴホん。それは後々せんの――話し合うとしまシて」


「おい、今洗脳といいかけやがったな?」


「10日程まえから度々訪れル冒険者共をいい加減殲滅したくてたまりまセン」


「更に物騒な事を言いやがった!!」


もう何度目かになるかわからないツッコミが空間に響き渡る。


彼――一応、目の前にいるメイドさんのご主人さまは、ここの人間――更に正確に言えば、この世界の人間ではない。


異世界から来たと確信を持って言えるわけでもない。何せ、幼馴染の少女(若干中二病、異世界や転生モノの小説を読むのが趣味)と高校へ登校している途中、その設定の矛盾点――そもそも、異世界に送り込まれた人間がその世界で生きていこうなんて、そう簡単に割り切れるのか? という点について大激論をしていた次の日、この部屋のベッドで眼が覚めたのだ。


理由も不明、周囲に人はいない。なぜかやたらに科学しているこの部屋になんでいるのか、どうしてこうなったのか、現実逃避に始まり、夢と思って眠り、眼が覚めても同じで、ならばと痛みを自分自身に与えてみたり、叫んでみたり、前転したり、倒立したり、うろ覚えのアニソンを熱唱してみたり――ベッドにルパンダイブしたり―――と、かなりの度合いでぶっ飛んだ行動を起こし――今考えてみれば間違いなく錯乱していたのだと確信でき――。


「そんな素敵ナ我が主様マイ・アディスタの映像は監視されていまシタ」


「消せ!! 今すぐにそれを全て消せ!!」


「嘘でス」


「嘘じゃねえだろてめえ!? 眼を逸らすな!! こっち見ろや!!」


それが何日も続き、幸いにもなぜか常備してあった缶詰と水を食べながら――次は、寂しさと戦うことになった。何しろ、誰もいないのである。

人間が一人でいられる時間は72時間程度だとどっかの漫画で見たことがあるが、他に本当に誰もいないのである。孤独、という言葉では生ぬるい恐怖。それが彼を襲った。


暫くはどうにか耐えたが、とにかく話し相手がほしかった。寂しさから逃れたかった。会話がしたい。人のぬくもりがほしい――とどんどんと後ろ向きなった思考から逃れるかのように部屋を飛び出し、わけもわからぬままに散策し――色々あって、目の前のメイドさんがカプセルに入って眠っている部屋にたどり着いた。


それが人であるかどうかなど考えもせず。ようやく見つけた人間らしき存在に歓喜した彼は狂ったようにそれを外に出す方法を探し――その部屋にあったマニュアルから、彼女を起動することに成功した。


結果的に、寂しさからはなんとか逃れられた。根本的な寂しさの解決にはなっていないが、こうして会話をしている分にはまぁ、いい。ただ一つ、このメイドさんが“なぜか自分に万物を支配させようと覇道を歩ませるように仕向けてくる”という問題点が残ったが。


「あんときの俺に言ってやりたい。そいつを起動させるなと。メイドさんの皮をかぶったとてつもなく厄介な別の何かだと」


「いやァ」


「照れるなよ!! 褒めてねえよ!!」


「それはトモカく。どうしまスか」


「……この遺跡って、罠とか沢山あるんじゃなかったっけ? それはどうしたんだよ」


このメイドさんが目覚めてから色々と聞いたが、この世界はなんか魔法とかあるらしい。原理はメイドさんが魔法を使えないのでよくわからないらしい。そして、いま生活しているここは遥か太古の昔に誰かが作った研究所とのことだ。その辺りを調べてみようと色々と探ったが、風化がひどくて必要な資料の大半は無くなってしまっていた。辛うじてメイドさんの取扱説明書――いや、あれをそう呼んでいいのかは別として、そういったものがあったのだけは行幸だったが。


モンスターもいるらしく、それを討伐したりする人間を冒険者と呼ぶらしい。で、この場所はそういった冒険者がお宝を求めて入り込んでくる“遺跡”と呼ばれるものに該当する。

端的に言えば、エジプトのピラミッドに群がる研究者や墓荒らしと同じ類だ。厳密には違うかもしれないが――似たようなものだろう。


「……」


「…………」


「………………」


無言の会話が続く。途中から、何となくわかりたくないけどわかってしまった。


「……罠に回すエネルギーっテ、美味しいですよネ」


「お前のせいじゃねえかあああああああああ!!!!」


響く絶叫は、何処かにいる冒険者たちに届いたとか届かなかったとか。


なんか筆が進んだので連続投稿な茨陸號です。


説明が多すぎる……もうちょっと簡単に説明したいけど、省きすぎてもわからなくなるし……。難しいなぁ……。


主人公の“彼”と“メイドさん”のやりとりは毎日こんな感じです。名前も考えてはいますが、うーん……このまま“彼”と“メイドさん”で通してもいい気がしてきたこのごろ。


さて、次はいつごろになるのか……出来るだけ早くに投稿できるように頑張ります。では。

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