序章 覇道への朝とメイドさん
覇道。全てを支配し、全ての上に立つ者が歩むべき道。
その甘美なる響きに魅入られ、あるいは己が信念のため、その道を歩む者達がいる。
だがしかし。進んでその道に行く者ばかりではない。歩まざるを得ない者、そこに偶然にも片足を踏み込んでしまった者。巻き込まれてしまった者――たとえその先が不幸・破滅しか待っていないとしても、進み続けるしかない者もいる。
はたして彼は――どの覇道を歩むのだろうか。
そして、その傍らには、常に一人のメイドがいた―――。
とんとんとん、と耳に心地よい包丁が躍る音。
まどろみに身をゆだねようとしていた身体が、無意識に反応して意識が引き起こされる。
いつもの――といっても、一か月ほど前からの、いつもの光景。
三週間ほど経過したころから、もう見間違えることもなくなり、落胆もなくなり、諦観によって受け入れる心が出来てしまった。
それを適応というのか、諦めというのかはわからないが――そうしなければならない事情があったのだ。
そんな内心の想いを思いっきり込めた溜息をつきながら上半身を起こし、音の元へと視線を巡らせる。
視線を向けた先にあるのは、無骨な灰色の床と壁、そして、そこに無理やり備え付けられたキッチン――といっても、むき出しの配管に加え、やや火力の強いコンロのみが置かれた、簡易というのもおかしいぐらいに簡易なキッチンだ。
そこに、一人の女性が立っている。その背中だけでわかる程の美人、と言えばいいのだろうか。透き通るような空の色の髪をポニーテールにまとめ、そのうなじはため息しか出ない程に美しい。170を超える長身に、触れただけで壊してしまいそうなほどにくびれた腰、そしてそれと相反するかのように女性らしいラインを描く臀部。濃紺のロングスカートに隠されてはいるが、間違いなくその脚だけで男の大半を虜に出来るであろうことは想像に難くない。
難くないどころか、よく知っている。
もう毎日、それこそ飽きるほどに。何度も何度も。見たくなくても見てしまうのだから。
空の色に、白のホワイトプリム。背後からでもわかる、濃紺のドレススカートとエプロンドレス。腰には蝶結びのリボン。ここまで言えば分かるだろうか。
ありていにいえば、背後からでもわかる、凄まじいまでのメイド服。
頭の先からつま先まで――つま先は編み上げのブーツであるのが個人的にとてもよろし――ではなく。とにかく、徹頭徹尾、彼女は、メイドであった。
美人なのは、まぁ、否定はしない。
けれども、彼女には一つ――いや、性格面と身体面で一つずつ、致命的とも言える欠点が存在していた。
それを考えるだけでも幽鬱になる。こうなってしまったことには――まあ、100兆歩くらい譲ってしかたないといえたとしても。
こういったおまけは、正直、いらなかった。
だって――。
「あラ。起きてしまわれたのですね我がご主人様≪マイ・アディスタ≫。さァ、今日も元気漲る食物共を平らげ、その腕を持って」
振り返った拍子に凄まじく大地震を起こす胸元と、あまりにも整いすぎたその美人顔に一瞬見惚れつつ――最後まで言わせないのが最後の防波堤。
「全テを支配する覇道への一歩を踏み出――」
「だから、俺は覇道なんぞ歩まないってーの!!」
事あるごとに、こんなことを言うんだもの。
どうも、お久しぶりです。茨陸號です。
今回はオリジナル物――メイドさんが出てくる異世界系ファンタジーです。
オリジナル系を投稿するのは初めてで、手さぐり満載でお送りしますが、あまりにも手さぐりすぎるので、ここ矛盾してんじゃね? ここおかしくね? などと言った文句はできるだけオブラートに包んで下さると私のメンタルが安静に保たれます。
いい意味での感想を下さるととてもメンタルが嬉しさのあまりに飛びだします。やる気がでます。
……私のメンタルは豆腐よりもかなりもろいので、お手柔らかに……。
行き当たりばったりなので更新は不定期になると思いますが、がんばっていきたいと思います。
注:アディスタというのはadministratorというコンピューター用語を短縮した造語です。意味もまんまです。これが伏線だったりそうじゃなかったりするかもしれない。かもしれない。