読書感想文
作中に出てくる関係者及び出来事は全てフィクションです。また、本文も全て冗談ですので、あまり深刻にならずにお読みいただければ幸いです。
俺は本が嫌いだ。
嫌いになったのは、多分、中学ん時のトラウマから来ている。
その日、数学がたまたま自習になって、
担任で俺の天敵だった化原(読み方:バケハラ。いつも厚化粧のため、全校生徒の間では親しみを込めてそう呼んでいた)が国語の教師だったせいか、
「いい?これから班に分かれて図書館へ行って本を借りてきなさい。
この時間は静かに読書してもらいます。
授業が終わったら、ちゃんと感想文も提出してもらいますからね。
それと、他のクラスの邪魔にならないよう静かに出て行ってね」と指示した。
で、クラスの何人かが手を上げて、
「先生、何の本を借りてきたらいいんですか?」と質問すると、
化原は、「どの本でもいいから、“図書館の”本を借りてきなさい」と答えた。
俺たちは早速、図書館へ行ってそれぞれ本を借りてきたが、
俺はあの化原に命令されただけでもかったるかったので、
とりあえず、本棚の隅に運良く(?)置いてあった
『ぐりとぐら』なる絵本を借りてきた。
何でこの時、この本を選んだか、今だもって謎である。
とにかく、その時、給食時間が近くて腹が減ってたので
「目の保養に」と、その本を選んだのかも知れない。
実は、小さい時からその絵本に出てくるパンケーキの絵が
やたらと食欲をそそってくれるので結構、気に入ってもいた。
だから、一応、それを借りて
後は図書館の裏で先生たちに見つからないよう他の奴らと遊んでいた。
授業が終り近くになったので、教室に戻って
先に手渡されていた原稿用紙のマスをどうにか埋めようとしたが、
最初から感想なんてものがあるわけなかった。
それでも、何とか原稿用紙の半分くらいまで埋め、
それを日直に伏せて渡した。
ところが、その後が悪かった。
俺の読書感想文を読んだ化原は、まず、職員室に俺を呼び出した。
「何なの、これ?」と化原が怖い顔をして聞くので、俺は渋々、
「・・・感想文」と言った。
「感想文って、これがあなたの感想文なの?」と
化原はまるで鬼の首を取ったようにして職員室中に響くぐらいの大声で言った。
「全然、感想文になってないじゃない。
それにわたしは“本”を借りてきなさいって言ったのよ。
絵本を借りてきなさいなんて言ってないでしょう。
この本、何分で読めると思ってるの?1分もかからないでしょう。
一体、授業中、何してたの?」
― だって、図書館の本なら何でもいいってお前、言ったじゃねぇか。
と俺はそう言いたかったが、ぐっと我慢した。
「それになぁに、この感想。ただ、書けばいいってもんじゃないでしょ。
何のために読書感想文、書かせたか、あなた、全然、分かってないじゃない。
ちゃんと本を読んで、しっかり考える力をつけさせるために書かせているのよ。
なのに、何にも考えないで字だけ書いてても仕方ないでしょう」と
馬鹿にしたように言われて、俺はちょっとムッときた。
「それでも一応、考えて書いたつもりです」とつい口答えしてしまった。
すると、化原も怒ったのか
「これで?
― パンケーキは、でかくてうまそうだが、
材料になった卵の親は
自分が道に落とした卵とも気づかず、
最後には皆と一緒になってあれを食べたのだろうか?
ってあなた、結びにそう書いてるけど、これがあなたの考えて書いたものなの?
へぇ、だったら、皆にもこれが本当に考えて書いたものなのかどうか、
はっきり聞いてみることにするわ」と言い出した。
確かに、今なら、
― 『ぐりとぐら』に表現されているパンケーキは、その後、
日本人の食生活が大きく西洋化する兆しを予感させたと同時に、
幼かったわたしの食への嗜好においても和食から洋食へと転換していく、
革命的なきっかけをもたらしてくれた。
しかし、現代における衛生面から考えると、
原産地不詳の卵を材料にして調理するのはあまりにも不衛生で危険だと
批判する人もいることだろう。
そのため、食の安全を子供達に教育する上では
『ぐりとぐら』は不適当な絵本と言わざるを得ない。
なぁんて冗談でも書いてやっただろうが、ボキャブラリーの少ない中学生に
そんな芸当はまだ無理だった。
とにかく、化原は前々から俺に目をつけていて
事あるごとにいろいろと難癖もつけられてきたから、
こんな嫌味などいつもの事だったが、
さすがに俺の読書感想文をクラスの皆の前で発表された時には
本当に頭に来た。
だから、それ以来、俺は本が嫌いになった。
もちろん、大学を卒業するまで漫画や雑誌以外に読書するなんてことは
ほとんどなかった。
ところが、その後、俺は新聞社に就職し、
なぜか文芸部に飛ばされて、
今では日々、出版される本の感想文を書くのを仕事にしている。
もし、化原がこの事を知ったら、きっとどの本も買う気がしなくなるだろうな。




