第4話:鉄壁の守護者(※脳内は号泣中)
魔導具の暴走から数日。
あの「大音量告白事件」のショックと、連日の解読作業による魔力消費が重なり、ついにリアナは執務室で倒れてしまった。
「リアナ殿!? リアナ殿――ッ!!」
薄れゆく意識の中で、リアナが最後に聞いたのは、この世の終わりを告げられたような、シグルドの悲痛な叫び(地声)だった。
リアナが目を覚ますと、そこは自室のベッドだった。
傍らには、椅子に腰掛け、微動だにせず自分を見つめるシグルドの姿がある。その顔は、戦場に向かう前の騎士のように峻厳で、近寄りがたいオーラを放っていた。
(……あ、私、倒れちゃったんだ。閣下、すごく怖い顔してる。怒らせちゃったかな……)
だが、リアナの耳に流れ込んできた「声」は、その表情からは想像もつかないほど、ボロボロに泣きじゃくっていた。
(うあああああああああん! リアナさぁぁぁん!! ごめんなさい、俺のせいで、俺の呪われた心の声のせいで君に過度なストレスを与えてしまった! このか細い手首を見ろ! 白鳥の羽のように儚い……! 俺が代わってやりたい、俺の強靭すぎる無駄な生命力を全部君に流し込んでやりたい……!!)
(……閣下、脳内で泣きすぎです。あと生命力の譲渡は物理的に無理です……!)
リアナは目を開け、かすれた声を出した。
「……かっ、か……?」
「! ……気がついたか」
シグルドは瞬時に「氷の表情」を完璧に作り直し、冷徹な声で告げた。
「無理に動くな。医者は極度の疲労と魔力欠乏だと言っていた。……貴殿を酷使した私の責任だ。万死に値する」
(万死どころじゃない! 億死だ! ギロチンだ! こんなに小さくなって……。今すぐ最高級の栄養剤と、ふかふかの羊毛毛布と、国宝級の癒やしの魔石を買い占めてくるからな! ああ、でも離れたくない! 一秒でも離れたら君が消えてしまいそうで怖いんだ!!)
「あの……閣下、そんなに責任を感じないでください。私が夢中になりすぎただけですから……」
リアナが苦笑いして、布団から少し手を出す。
するとシグルドは、まるで壊れ物を扱うような手つきで、その手をそっと布団の中に戻した。その指先が、わずかに震えている。
「大人しくしていろ。……何か欲しいものはあるか。水か? 粥か? それとも……この部屋の温度が不快か? 言ってくれれば、今すぐ王宮の魔導技師を総動員して空調を改造させる」
(本当は今すぐその手を握りしめて、「行かないでくれ」と縋り付きたい! だが今の俺の手は緊張で冷え切っている! そんな冷たい手で触れたら、君の体温を奪ってしまうかもしれない……! 俺はなんて無力なんだ! 自分の体温すら制御できないなんて、騎士団長失格だ、今すぐ滝に打たれて修行し直したい!!)
(滝に行かないでください! 風邪引きますから!)
リアナの脳内は、彼の重すぎる愛と、支離滅裂な反省文でパンパンだ。休養どころか、情報過多で脳がちりちりする。
「閣下……。少し、眠りたいので……。閣下も、お休みになってください」
「……。私がここにいては、邪魔か」
(ああああああああ!! そうだよな! 俺みたいな熊みたいな男が部屋に居座ってたら、具合が悪くてもリラックスできるはずがない! 消えよう、今すぐ塵となって消えよう! でも、もし眠っている間に君に何かあったら……! 部屋の外の廊下で一晩中直立不動で待機していよう。そうしよう。)
「あ、いえ! 邪魔じゃないです! むしろ、閣下がいてくださると……安心します」
リアナが精一杯の勇気を出してそう言うと、シグルドの瞳がわずかに見開かれた。
「……そうか。ならば、君が眠るまでここにいよう」
(安心……? 安心と言ったか!? 今、リアナさんが俺に「いてほしい」と!? おお神よ、これは夢か? いや、夢なら覚めないでくれ! 嬉しい、嬉しすぎて心臓の鼓動がうるさい! 物理的に心音が漏れてリアナさんの睡眠を妨害したらどうしよう! 止まれ俺の心臓! 喜びを噛み締めつつ、静かに、かつ情熱的に鼓動しろ!!)
(心臓に無理な注文しないでください……!)
結局、リアナはシグルドの「喜びの爆音」を子守唄(?)にして、深い眠りに落ちるのだった。
翌朝、目が覚めたリアナが見たのは、一睡もせずにベッドの横で直立不動のまま、**「リアナさんの寝顔、あまりにも天使。……いや、大天使。……聖母。……宇宙の真理……」**という語彙力の崩壊した賛美を脳内で唱え続けている、クマのひどい騎士団長の姿だった。




