第32話:【絶望】魔王、加齢という名の「非効率」に散る
1. 効率的自分磨きの果てに
リアナから授かった「選択と集中」を極めたシグルドは、もはや魔王城の執務室にはいません。
彼は今、レオナの通学路から半径500メートルの全事象を「効率的」に管理する人間空気清浄機と化していました。
「フフフ……リアナよ。見ていろ。無駄を削ぎ落とした今の私は、レオナの視界に入ることなく、彼女の周辺から一切の病原菌、害虫、そしてポポちゃん(の概念)を排除する完璧な存在だ……!」
シグルドは自らに「超高性能・消臭浄化魔法」を重ね掛けし、もはや存在自体がクリスタルより清らかな状態。しかし、その時、学校から帰宅したレオナが、ポポちゃんを抱き締めながらリビングに放った一撃が、シグルドの脳内CPUを焼き切りました。
「ねえママ、パパの部屋……なんか、古い本と焼けた鉄みたいな、おじさん臭いにおいがする」
2. シグルドの脳内(と心)の悲鳴
その瞬間、シグルドの鉄の自制心が決壊し、隠蔽していた**「心の声(全出力)」**が、家族全員の脳内にスピーカー最大音量で直接流れ込み始めました。
(((なっ……!? お、おじ、おじさん臭……!? バカな、私は今、全魔力の80%を『清廉なる空気』の維持に割いているのだぞ!? 加齢臭だと? この私が!? 1000年生きる魔王にとって、わずか数十年の加齢など誤差……いや、待て、効率的観点から言えば、肉体の経年劣化はメンテナンス不足の証左……。私はレオナにとって、もはや排除されるべき『異臭を放つ廃棄物』という優先順位なのかぁぁぁ!!)))
「シグルド、声が、声がダダ漏れよ! うるさいし重苦しいわ!」とリアナが叫びますが、止まりません。
3. 透明化の危機
「おじさん」という評価を「致命的なエラー」と認識したシグルドの効率化エンジンが暴走します。
「レオナに不快感を与える肉体など、効率化の妨げでしかない。……ならば、消えるしかない」
シグルドの姿が、物理的に透け始めました。絶望が深すぎて、存在確率が0%に向かって加速しています。
(((さらばだレオナ……。パパは今から『無』になる。無ならば臭わない。無ならばお前を不快にさせない。私はお前を愛するだけの、ただの概念へと昇華するのだ……。リアナ、あとは頼む。ポポちゃんの首に、時限式の爆破魔法を仕掛けておいたから……)))
「待ちなさい! 遺言のついでに物騒なもの残すんじゃないわよ!!」
リアナのツッコミも虚しく、シグルドの体は「効率的な透明化」を通り越し、もはや「背景の壁紙」と同化し始めました。
4. 結末:ママの再教育(物理)
結局、透けかけたシグルドの首根っこをリアナが掴み、強引に「加齢臭対策(という名の全身消臭石鹸地獄)」の洗い場へと引きずっていきました。
「いい、シグルド。あなたの優先順位1位は『透明化』じゃない。**『娘に嫌われない程度の清潔感を保ちつつ、生存すること』**よ! 立て、このポンコツ魔王!」
泡まみれで「私は……私はまだおじさんではない……」と虚空を見つめるシグルド。
その背中には、レオナが貼った**「おじいちゃん、お風呂入ってね」**というトドメのシールが輝いていました。




