第23話:パパの心の声、スピーカー放送中!
シグルドが心血を注いだ「魔導育児」の結果、愛娘・レオナは順調に育っていた。
しかし、誤算が一つ。
彼女はシグルドの強大すぎる魔力だけでなく、**「思考の指向性」**まで受け継いでしまったのである。
1. 聖なる代弁者、爆誕
ある日の午後。リアナが穏やかに刺繍を楽しんでいると、シグルドが「お茶を淹れました」と、非の打ち所がない執事のような所作で現れた。
「リアナ殿、今日の日差しは貴女の瞳をより美しく輝かせますね」
表情一つ変えない、氷の貴公子の如き完璧な微笑。
だがその傍らで、積み木で遊んでいた3歳のレオナが、たどたどしい口調で「翻訳」を始めた。
「……パパ、いま、『ママが ぬいもの する ゆび、すきすぎて たべたい。ぼくは ママの ゆびを さす ぬいばり に なって、えいえんに つきささって いたい』って、いってるよ?」
「…………レオナ?」
リアナの手が止まる。
シグルドの顔面は、AEDの過負荷によるものとは違う、鮮やかな「緋色」に染まった。
2. 尊厳、マッハで崩壊
シグルドは必死にポーカーフェイスを維持しようとするが、レオナの「心音放送」は止まらない。
彼女にとって、父の心の声は**「近所のお祭りのスピーカー」**並みの大音量で響いているのだ。
リアナが少し立ち上がろうとした、その瞬間。
「パパ、『ママが うごいた! こしつきが えろい! ぼくは いま、ママが すわってる イスの クッションになりたい。ママの おしりの あつりょくを いっちょうぶんの いち の せいみつさで かんじとりたい』って、おっきい こえで さけんでるよ?」
「レオナ!! それ以上は……! それ以上はパパの精神が死滅するッ!!」
「シグルド様……。とりあえず、そのクッションから離れていただけますか?」
リアナの視線が、かつてないほど冷たい。
シグルドは膝から崩れ落ちた。もはや「真実の読解」でスルーできるレベルを超えている。
3. 禁断の暴露
極めつけは、家族での食事中だった。
リアナが少し残したパンの耳を、シグルドがさりげなく回収しようとした時。
「パパ、『ママの たべのこしは せいすいより とうとい。この パンの みみ を じゅしで かためて、ネックレスにして いしょう はなさず もっていたい』って……あ、いま『パンになりたい』って おねがいしてる!」
「…………」
無言で立ち上がったリアナの手には、ハンスが緊急時用に置いていった**「物理封印用・魔導拘束衣」**が握られていた。
「シグルド様。少し、地下の霊廟で頭を冷やしてきましょうか」
「ま、待てリアナ殿! それは深層心理の……いわば、文学的表現であって!」
「『文学じゃないよ、本能だよ』ってパパがいってるー!」
レオナの無邪気な追撃により、シグルドは「パパの尊厳」という名の灰になり、ハンスに引きずられていった。




