第18話:シグルド、衝撃のあまり全神経が「一時停止」する〜リアナのデレ〜
1. 献身という名の「過剰摂取」
「普通の旦那」を目指すシグルドの暴走は、もはやリアナの想像を超えていました。
早朝3時から玄関のタイルを歯ブラシ(魔力付与済み)で磨き上げ、リアナが起きる頃には、彼女の好みの温度に正確に調整された紅茶が、**「リアナ殿の吐息の角度」**を計算して配置されている始末。
「シグルド……あのね。頑張ってくれるのは嬉しいけど、毎朝、私の寝顔を『無呼吸で』1時間見守るの、やめてくれない?」
「……! 申し訳ございません。あまりの尊さに、私の汚れた二酸化炭素をリアナ殿の純粋な空間に混入させるわけにはいかず……ッ!」
リアナは深く溜息をつきました。しかし、彼のシャツの袖が掃除の洗剤で荒れ、指先にいくつも切り傷があることに気づいてしまったのです。
2. 「不器用な優しさ」という名の最終兵器
その日の夕方。キッチンで「リアナ殿の胃壁を愛撫する究極のポタージュ」を作ろうと、玉ねぎをミクロン単位で刻んでいたシグルドに、リアナが背後から近づきます。
「シグルド。ちょっと、手を出して」
シグルドの脳内に警報が鳴り響きます。
(なんだ……!? 『手を出せ』だと!? もしや、私のあまりの無能さに、ついにハンスの言っていた『お仕置き(物理)』が執行されるのか!? ありがたい……骨の一本や二本、リアナ殿の手首に負担をかけぬよう自ら折ってみせよう!!)
しかし、差し出された大きな手に触れたのは、衝撃(暴力)ではなく、**「ひんやりとした軟膏」と、「リアナの細い指先」**でした。
3. シグルド、全機能停止
リアナはぶつぶつと文句を言いながら、彼の傷口に丁寧に薬を塗っていきます。
「もう……。そんなに必死にやらなくていいって言ってるでしょ。これ、ハンスさんの奥さんから貰った薬よ。よく効くから。……いつも、ありがとうね」
その瞬間、シグルドの宇宙が止まりました。
「ありがとう」:リアナの喉から発せられた空気の振動が、鼓膜を通過し、シグルドの魂を直撃。
「指の接触」:薬を伸ばすリアナの指の体温が、皮膚の神経を伝わり、脳の中枢にある「狂信回路」をショートさせる。
「デレ」という名の特異点:彼女の少し照れくさそうな、柔らかい微笑み。
「シグルド? 聞いてる? ……ちょっと、シグルド!?」
シグルドは、目を見開いたまま、立った状態で**「仮死状態」**に陥りました。彼の魂は今、あまりの幸福の重圧に耐えきれず、成層圏を突き抜けて銀河の果てまで飛ばされていたのです。
4. ハンス、死を覚悟した蘇生作業
「閣下! 戻ってきてください閣下!! それは『死』ではありません! 『夫婦の情愛』です!!」
駆けつけた副団長ハンスが、シグルドの心臓マッサージ(という名の打撃)を開始します。
ようやく意識を取り戻したシグルドは、焦点の合わない目でリアナを見上げ、掠れた声で呟きました。
「リアナ殿……。今、私の視神経が……貴女の優しさを『神の奇跡』と誤認して、脳を焼却処分しようとしました……。もはや、この命、不要……。この『触れられた感覚』を保存したまま、剥製にして玄関に飾っていただきたい……」
「気持ち悪いこと言わないで!!」
リアナの鋭いツッコミが飛ぶと、シグルドは「あああ……これだ、これが現実だ……!」と頬を染めて震え、ようやく現世へと帰還したのでした。
5. ハンスの観察日記:新たなステージへ
「閣下。おめでとうございます。リアナ様は、閣下の『異常性』を受け流し、ついに『共存』を選ばれたようです」
ハンスは確信しました。シグルドは今や、最強の騎士団長ではなく、**「世界一扱いが面倒で、世界一妻の機嫌に一喜一憂する、ただの重すぎる愛妻家」**になったのだと。
しかし、シグルドの瞳は新たな野望に燃えていました。
「ハンス……。リアナ殿が私を労わってくれたということは、私が『もっと弱れば』、さらに彼女の慈悲を賜れるということか……? よし、明日から三日三晩、リアナ殿の靴音の残響を解析して断食修行に入る」
「逆効果ですから、本当にやめてください(真顔)」




