第16話:愛の軍事会議(コンサルティング)〜既婚者の常識v.s.狂犬の信心〜
1. 結界越しの「緊急招集」
結界の外壁を「鏡面仕上げ」に磨き上げたシグルドでしたが、リアナ様がカーテンを閉めたことで視覚的な供物(自分)が届かなくなったことに悶絶。
ついに彼は、部下の中で唯一「温かな家庭」を持つ副団長・ハンスを、結界の最前線へと呼び出しました。
「ハンス……教えてくれ。私はリアナ殿の『影』を志したが、彼女は私に『光(結界)』を授けた。これは、私に光輝けという啓示か? それとも、私が発光体になって彼女を照らせという命令か?」
地面に埋まりながら問う上司に、ハンスは死んだ魚のような目で答えました。
「閣下。それは単に**『お前の顔を見たくない』**という明確な拒絶です」
2. 「結婚」という名の異界の儀式
ハンスは意を決して、閣下に「真っ当な人間」の道を説くことにしました。
「閣下、いいですか。貴女がやっているのは奉仕ではなく『包囲』です。結婚とは、互いの領域を尊重し、手を取り合って歩むもの。そして初夜とは、愛する二人が肌を寄せ合い、魂を分かち合う……」
「待てッ!!!」
シグルドが結界にヒビが入るほどの衝撃で叫びました。
「肌を寄せ合うだと!? 畏れ多い!! リアナ殿の神聖な表皮に、私のような不浄な肉体が接触するなど、もはや大逆罪! 物理的接触など、彼女の原子を汚す行為に等しい!!」
「いや、夫婦なら普通のことなんですよ閣下……」
3. 「畏れるにも程がある!」
ハンスの正論という名の鉄拳が、シグルドの狂信に食い込みます。
「閣下が『畏れ多い』と引きこもるたびに、リアナ様は『不気味な置物が家の前に転がっている』という恐怖を味わっているんです! 畏れるなら、彼女の気持ちを畏れなさい! 『畏れるにも程がある!』」
この一喝に、シグルドは雷に打たれたような衝撃を受けました。
「私の……自己満足な『畏れ』が、リアナ殿を苦しめていたというのか……。私は彼女を敬うあまり、彼女を『不在』にしていたというのか!?」
シグルドの瞳に、新たな(そして間違った)光が宿ります。
4. 仲介という名の「宣戦布告」
「ハンス! 貴殿の言う通りだ。私は独りよがりだった! 私はリアナ殿と、正式なプロセスを経て『魂の融合』を果たすべきだったのだ!」
シグルドは、震える手でハンスの肩を掴みました(ハンスの肩の骨が軋みました)。
「ハンス、貴殿に頼む。私の代わりに結界の内側へ入り、リアナ殿に伝えてくれ。**『シグルド、ついに“畏れ”を克服し、貴女という真実と向き合う覚悟ができました』**と! そして、我々の将来設計――具体的には墓石の材質から、来世での再会場所までの契約――を詰める仲介役を引き受けてほしい!」
ハンスは確信しました。自分は今、人生最大のミスを犯したと。
5. リアナの沈黙、ふたたび
数時間後、結界を通過できる(リアナに許可された)ハンスが、死装束のような顔でリアナの元を訪れました。
「リアナ様……閣下より『畏れを克服した』との伝言と……あと、これ。**『婚姻届(血判状)』と『初夜のスケジュール表(1分刻み、ただし阁下は床で寝る前提)』**です……」
リアナは、受け取った書類をそっとティーカップの熱い紅茶に浸しました。
「ハンス。あなた、いい奥さんがいるのよね? ……悪いことは言わないから、あんな有害な概念に染まる前に、退職届を出しなさい」




