第12話:閣下、石になる。〜全財産譲渡と、庭の隅の「無」〜
1. 絶望の「深読み」
それは、食後のティータイム。
「あーん」の衝撃から奇跡的に生還したシグルドが、リアナの隣で**「直立不動(関節が悲鳴を上げるレベルの緊張)」**を維持していた時のことです。
リアナがふと、微笑んで言いました。
「シグルド様、そんなに固くならずに、**少しはリラックスして(もっと私に心を開いて)**くださいね?」
その瞬間、シグルドの脳内に**「破滅の鐘」が鳴り響きます。
(リラックス……? すなわち、今の俺は『居るだけで空気を凍らせる無粋な男』だと言っているのか? 『貴様のような鉄の塊が隣にいると、私の休息が妨げられる』……。つまり、『視界から消え失せろ』**という婉曲表現かッ!?)
2. 迅速すぎる「引退」手続き
「……承知いたしました、リアナ殿。貴女の安寧こそが世界の法。この粗大ゴミ、速やかに処分させていただきます」
シグルドは光の速さで書斎へ。
血走った目で執事たちを招集し、震える手で**「全財産譲渡誓約書」および「婚姻継続(ただし夫は存在しないものとする)に関する特約」**を作成します。
【シグルドの遺言(勘違い)】
領地、城、動産、およびシグルド個人の全預金をリアナに譲渡。
シグルドは今後、「人間」としての権利を放棄。
「夫」から「庭の装飾品(石ころ)」へとクラスチェンジする。
3. 庭園の隅:極限の「無」
数分後。
心配して庭に探しに来たリアナが目にしたのは、庭園の隅、最も日当たりの悪い場所で、**ボロ布一枚(※一応の最低限の礼儀)**を纏い、膝を抱えて丸まっているシグルドの姿でした。
「シグルド様!? なにを……その、格好は……!?」
シグルドは瞬き一つせず、虚空を見つめて答えます。
「……いえ、リアナ殿。私はシグルドではありません。ただの**『苔むした少し大きめの石』**です。石はリラックスも緊張もしません。ただそこにあり、貴女の視界の端で風景の一部となる……。これこそが、貴女が望んだ『リラックスできる空間』の完成形です」
4. カイル(幻影)の嘲笑
ここで、脳内の「爽やかカイル」が追い打ちをかけます。
『やれやれ。シグルド、君はついに人であることを辞めたのかい? リアナ様は「石」と結婚した覚えはないと思うけれど。僕なら、彼女をエスコートして極上のスパへ連れて行き、本当の意味でリラックスさせてあげるけどね。』
「カイル……貴様……ッ!! 貴様のように『存在そのものがアロマテラピー』な男とは違うんだ! 俺は……俺は、**『存在が公害』**なんだよ! 石になることさえ、俺には分不相応な贅沢かもしれない……!!」
シグルドはさらに体を小さく丸め、**自らの気配を殺す魔法(軍事用・暗殺レベル)**を発動。物理的に輪郭がぼやけ始めます。
5. 結末:女神の「物理的」な愛
「もう! いい加減にしてください!」
痺れを切らしたリアナが、丸まっているシグルドの背中に**ダイブ(抱きつき)**を敢行しました。
「冷たい石じゃなくて、温かいシグルド様がいいんです! 起きてください!」
「あ……が……あたたかい……女神の体温が……汚れた石の表面に浸透していく……。これは、**『洗霊』**か? 俺は今、石から新種の生命体に進化しようとしているのか……?」
リアナの温もりと「置いていかないで」という涙声のコンボにより、シグルドの脳内回路はショートして爆発。
「リアナ殿……! ああ、なんという慈悲! 石ころに人権を与えてくださるとは! わかりました、俺は……俺は石であることを辞め、**『貴女の足元を照らすためだけに燃え尽きる、使い捨ての松明』**として生き直します!!」
結局、情緒が「石」から「松明(極端)」へと振り切れたシグルドは、そのまま知恵熱で40度の熱を出し、リアナに看病されながら「このまま死んで墓になりたい」と呟き続けるのでした。




