空隙①
梅雨の雨が降りしきる中、赤星は開通したばかりの北陸新幹線に乗っていた。新幹線は雨を押しのけて進む。窓の外を見ると、ガラスに張り付いた雨粒は、自分たちのいた所へ帰ろうとでもするかのように、上向きに伝っている。学生時代、赤星は一人旅で一度石川に来たことがある。その時は北陸新幹線など無く、電車を乗り継いで移動した。その頃と比べると便利になったものだと思う。
今日は、大学時代からの友人である鹿嶋優人に会うために、石川県まで行く予定だ。鹿嶋は、赤星と同じ教育学部の出身で、例に漏れず地元で先生をしている。先生というのはずいぶんと忙しいようで、平日はもちろん、土日祝日も中々予定が合わなかった。今日はようやく会えるわけだ。
『夜間飛行』を読みながら、久し振りの友人との再会に喜びを感じる。しかし、その喜びは、旧友との再会のみによるものではなかった。つまりそれは、これまで抱えてきたある罪と自責からの解放を意味していた。
9年前、卒業論文の執筆中、赤星、鹿嶋、そして畑は男3人での卒業旅行を計画した。誰が言い始めたのかは覚えていない。しかし、全員が漠然と、卒業旅行なるものは当然あるのだろうとは考えていた。またそれは、彼ら3人に限った話では無い。同じ学部にいた者は、皆それぞれのグループで旅行に行くことを計画していた。
研究室か図書館に籠る毎日で、近くのテーマパークに行くこと、1泊2日にすることは決まったが、他のことは直前まで全く決められなかった。
年明けから雪の日が続き、2月に入っても10cmほど積もる大雪の日があった。卒業論文の提出期限の日、誤字脱字や参考引用文献の確認を終え、無事提出を済ませた赤星たちは、ようやく全てから解放された。
後日、研究室で論文の製本作業をしながら、そろそろ具体的なことを話し合おうということになった。
「どうやって行く?車なら僕か誠のどっちかやけど。」
「車がいいんじゃない?新幹線は高いし。どっちのにするかは、2人で決めてもらうしかないけど。」
当時、車は鹿嶋と畑しか持っていなかった。赤星としては、既に交通費が安くなるという目的が叶っている以上、2人のどちらが運転手だろうと問題は無かった。
「いや実はさ、先々月のクレカの上限引き上げたんやけど、その月だけやったっぽくて。それ知らんかったせいで先月上限オーバーして、今月どうなるか分からんのよね。だから僕の車で行く場合、ETCは誠のやつ借りることになりそう。」
「そっか。ETCくらい貸すよ。優人の新しい車乗ってみたいし。」
「ごめん助かる。」
製本作業片手に、あまり真剣に聞いていなかったが、こんなふうな話し合いがあり、結局、移動手段は鹿嶋の車で、2日目は鎌倉に行くことに決まった。
しかし、当日は畑の車で、鹿嶋のETCを使って行くことになった。行きがけに話を聞くと、畑のクレジットカードが不正利用されて、利用を止められ、逆に鹿嶋のカードは使えることが判明し急遽そうなったのだそうだ。
現実は小説よりも奇なりとはよく言うが、まさかそんな事件が起こっていようとは思わなかったと驚いた。
しかし、この日はそれ以上の事件があった。そしてそれは、鹿嶋ではなく畑の車で行くことになった理由でもある。




