第1話 転生ヒロイン、魂は体育会系男子
目が覚めた瞬間、違和感しかなかった。
まず天井が高い。次にカーテンがふわっふわ。
そして何より――
「……声、高っ」
喉から出たのは、間違いなく女の子の声だった。
鏡を覗き込んで、俺は絶句した。
銀色がかった金髪、でかい青い目、細い首。どう見ても美少女。
しかも見覚えがある。
「……これ、乙女ゲーのヒロインじゃねえか……」
昨日まで俺は、部活命の男子高校生だった。
サッカー部で、根性論大好き、恋愛?なにそれ走り込み?な人間だ。
それがどうして、
攻略対象に囲まれる運命のヒロインになってるんだよ。
しかもこのヒロイン、設定的に――
・貴族令嬢
・お人好し
・男に好かれやすい
・自分からは断れない
最悪の組み合わせである。
「詰んでね?」
そう思った矢先、ノックの音。
「お嬢様、朝のお支度を」
使用人の声に、俺は反射的に背筋を伸ばした。
体育会系の悲しい習性だ。
(いや、ここで敬礼してどうする俺)
朝食の席には、すでに第一の男がいた。
完璧な微笑み、完璧な立ち居振る舞い。
いわゆる――スパダリ系イケメン。
「おはよう、今日も可愛いね」
(うわ出た。距離感バグってるやつ)
表情はにこやかに、内心では全力で悪態をつく。
(朝イチで口説くな!
あと“可愛い”って言葉で全て解決すると思うな!)
だが身体はヒロイン。
勝手に頬が赤くなり、声が上ずる。
「お、おはようございます……」
(ちがーう!!俺はそんな反応しねえ!!)
その後も、
・過保護な幼なじみ
・知的クール系貴公子
・笑顔が胡散臭い王子様
次々現れるイケメンども。
全員に共通しているのは一つ。
やたら俺を気に入っている。
(勘弁してくれ……俺、男だぞ中身……)
だがその日の帰り道。
馬車の外で、聞こえてきた声が空気を変えた。
「……やめてください……」
細い声。
路地裏。男に囲まれて怯える、見知らぬ女の子。
瞬間、身体が動いた。
「おい」
気づいたら、馬車を飛び降りていた。
「嫌がってんの、見えねえのか?」
足は震えてる。腕も細い。
正直、怖い。
でも――
(女の子が泣いてるのに、
見て見ぬふりとか出来るかよ)
男たちが舌打ちして去っていくと、
女の子は泣きながら何度も頭を下げた。
その姿を見て、俺は思った。
(あー……この世界、
俺がヒロインでいるには向いてねえな)
イケメンに囲まれる未来より、
自分の足で立てる場所が欲しい。
――冒険者になって、ここを出よう。
隣国にでも逃げればいい。
そう決めた瞬間、
ヒロインとしての物語は、もう俺の中で終わっていた。




